7月26日-1
「拓真プール行こうよー」
「なんで?お家で冷房かけて快適ライフ送る方が良くないか?」
「それもそうだねー。………」
「……いや行かねえのかよ。行くよ、むしろ行きたいですお願いします」
今日は夏休みの3日目。
夏休み期間中の課外授業は2週間後にあるので、それまでは晴れて学校という施設から俺たちは解放されるのだ。
それにしても今年の夏休みは気分が良い。
テストで良い成績を取ったので堂々と一日中ゲームが出来ているからだろうか。
当然まだ夏休みになってから一度も家を出たことはない。
夏休みになった瞬間にガチでニートみたいな生活を送っているが、
俺は甘い蜜は甘いうちに吸わないとダメだという考えの持ち主なのであまり気にしてない。
むしろそんなことを考えるくらいならこのキャラクターをどう育成するか考えてる方がよっぽど楽しいからな。
考えても無意味なことは考える方が馬鹿らしい。あれ、この思考すごく楓っぽくてヤダ。
「お?私の水着姿思い出してうっかり興奮しちゃった?」
「安心しろ。楓相手の性欲コントロールなんて今じゃもう晩飯前だ」
「ダメだよね、それ。朝飯も昼飯も食わないとコントロール出来ないってそれなかなか難易度高そうだよね」
「その点学校の水着って凄いよな。限りなくエッチ成分を削ぎ落とす水着のデザインをしてるもん」
「そりゃあ性欲煽ったら大問題だからねぇ。まあそもそもこの学校にエロい身体つきの女子なんてあんまいないし」
「ひでえ」
「私がチラチラ視線浴びてる時点で、、、ねぇ?」
「いや、『ねぇ?』言われましても。むしろ身体つきで言えば楓はかなり上位ランクだろ。個人的には最上級クラス」
「なんかど直球で口説かれてるんだけど。え、なに?もしかして私、無自覚のうちに拓真√選んじゃった?」
「いや、この間言うてたやろ。女の子が可愛くなる努力は最大限に褒めろって」
ファッションに聡い訳ではないから服に関してはよく分からないが、
少なくとも楓がこの美脚や美肌を維持するために毎日キチンと肌のお手入れをしていることくらいは知っている。
まあ楓本人の話で初めて知ったくらいには無知だったけどな。
その上で俺よりもずっと早くから学校に向かっていると考えると、それだけでもその努力に頭が下がる。俺の中では全米大絶賛。
今度楓から化粧水でも借りてみようかな。
そんなことしたら楓よりも俺自身の方がドン引きするけど。
「なんか素の表情のまんまで言われると素直に喜んでいいのかどうか分からなくて困るんだけど……
これって素直に受け止めてやったーーって言って良いやつだよね?」
「おう、どんどんはしゃげ」
「やったー、私エライ!!!カワイイ!!」
一人でぴょんぴょん騒いでいらっしゃる。ホコリがたつからやめて欲しいけどこの流れでそれはちょっと言いづらい。
「個人的には昔からずっと思ってたから、なんか今更感あるんだよな。楓凄いなぁって」
「ん?凄いなぁって、具体的には?」
「自他共に堂々と楓は可愛いって言えるように、日頃から真剣に美しくなる努力を続けてることだよ」
驚くほどすんなりと言えた。普段からそんなこと思ってたのか俺は。
「ど、努力というか、好きでやってることだからね。それでもほめられるとやっぱり嬉しいけど」
「面倒になったりする時だってあるんじゃないのか?」
「まあね。そういう時にはお手入れをサボっても許されるように、普段からケアはキチンとやっております。
だからほら、どっから見ても私綺麗でしょ?」
くるり、と俺の目の前で楓が回り、結んでない髪がひらりと舞う。
一瞬だけドヤ顔を見せたかと思えば、恥ずかしくなったのか直に照れ笑いに変わる。
コロコロ変わっていく楓の表情に、俺はこの時本気で見惚れていた。
もっと言うなら、幼馴染だとか家族だとか何もかも忘れて、無性に楓のことを抱きしめたい衝動に駆られていたような気さえしていた。
こんな子が幼馴染にいるって、流石に役得が過ぎるだろ。
「ああ。楓が幼馴染でいてくれて、本当に良かったと思うよ」
「ど、どうしたの急に。別人格?それとも私を上げて落とすオチでも用意してるの?」
まるで興奮を冷まそうとしているかのように、顔をクーラーに必死に近づけて頭を冷やそうとしている。
こんなに慌てている楓を見たのは久しぶりかもしれない。
「上げて落とすオチならオムツでいくらでも作れるだろ」
あ、楓が背伸びをやめた。
「……なんか今ので謎の昂りが一気に覚めたわ。ありがとう、オムツ」
「……?おう、良かったな、オムツ。よーしよしよしゃ、こら、そんなに顔を舐めるなって」
「いやオムツってペットの名前なのかよ。にしてもひでえ名前だよ」
やべ、今何か物凄くかけるべき言葉を間違えてしまった気がする。
気がするではなく、やっちまったな、これ。
咄嗟にボケに切り替えたから、さっきまで俺が見惚れていたことはバレてないと思うけど、
もしこれがゲームの世界だったら今のでフラグを折っちゃったに違いない。
だとしてもオムツに折られるフラグってどうなんだ。
「まあいいや。間違っても学校の水着とか着てきたらぶん殴るからな」
「うわぉ、DV男じゃん」
「殴れないから言ってんだよ……ほら、金なら出してやるから」
正直に言ってみな?先生怒らないから?って言っておきながら怒らない先生がいないのと一緒だ。
たまに本当に怒らない先生にも出くわすが、口に出さないだけで内心はキレてるに決まってるというオチ。
「え?それって、夏服とかも新調していいの?」
「あ……いや、まあ、うん」
「やったー、今年色々と新調しようと思ってたんだよね、去年のだと胸がキツくて、、、」
「いっそのこと、理想のサイズの服を買ってしまえば解決じゃないのか?」
「身の丈に合わない服を着て、惨めな気持ちになっている私を見たいと思う?」
「たまには」
「正直にクズいなおい。金出してもらう身だからあんまり強く言えないけどさ」
「はぁ……諸々含めて1万円までな」
本当は冗談話にして断っても良かったのだが、さっきの俺のやらかしが頭にこびりついていたせいで断り切れなかった。
グッバイ、今月号と新作の単行本……
「え、どうしたの急に。もしかして、金の力で私をオトそうとしてる?」
「金の力だけでオトせるなら何人かと付き合ってただろお前」
「私は私と同等かそれ以上に魅力の溢れている人しか認めないからね」
「言ってて嫌味にならないくらいに面白い魅力が溢れてるのがなんとも悔しいわ」
「え、マジでどうしたの急に。今日の拓真、素直すぎてちょっと心配なんだけど。
様子おかしくない?もしかして進化した?」
「楓の胸は去年から進化しましたか?」
「誰だよ私の胸にBボタン連打した人は。
というか、拓真だって私の新しい水着姿見たいんじゃないの?」
「うん。超。別に去年のままでも全然構わないけど」
「うわお。いや全然。みたいなノリで全力肯定されても」
「去年の見た時うっかり興奮しないように結構気を付けてたもん」
「拓真のそういう欲望に正直なところ、個人的に超良いと思うよ。間違いなくマイノリティだけど」
「冗談だからな」
「そこは嘘でも本当だよって言ってよ!」
「ホントウダヨ」
「信憑性激薄!!!」
「本当はね?私ももっと胸を膨らまそうとすれば出来るんだけどね」
「ほう」
「ほら、風船みたいに空気をプシューって入れれば」
「命がけだなおい。うっかり針が刺さったらパァンだもんな」
「即死だね」
(せめてシリコン入れろよとか、空気入れて膨らませるとかダッチワイフかよとか色々なツッコミが頭に思い浮かんだが、それを押しとどめた俺を誰か評価してほしいよな」
「あの、口に出てますから。その時点でガチクズ評価免れないから」
「楓と喋ると思わずガチクズになる時あるよな。それはマジでゴメン」
「いやまあ私も思わず笑っちゃうから悪いんだけど」
「話戻すけど、一万円で足りるのか?」
「うーん、というか水着変えなくていいんだったらそもそも私が金をせびる大義名分なくない?」
「そりゃそうか。じゃあこの話はなしということで」
「いや退くなや。そこは「……まあ、いっか。楓だし」って言うところでしょうが」
「だって自分で言うたやん、金をせびる大義名分ないって」
まあ最終的に金は出すがな。ただ金を出すのはこっちなのだからその分楓をネタにしても罰は当たるまい。マージでクズいな俺。
「いいのか拓真さんよ?そんな事すれば拓真に襲われた~~って涙ながらに拡散して社会的に〇〇するけど」
「ちょっと待てそれはガチの恐喝じゃねーか」
「現場証拠がないから推定無罪だね」
「現場証拠あっても顔のおかげで減刑されそうだけどな。
むしろ一部界隈から(ご褒美じゃねーか!)って俺の方に危害加わるまであるよな」
「ああ、なんて可哀そうな拓真……」
「犯人お前だろうが。ほら、金なら出してやるから行こうぜ」
「え、いいの?」
「良いか悪いかは俺が決みぇることだ」
カッコつけようとして思いっきり噛んだ。恥ずかしい上に普通に舌が痛い。
はい、本日のやらかし二度目。こんなに早い2ndシーズンある?
「折角カッコつけたのにそこで噛むかーー……」
「言わないでくれ、俺も思ったより凹んでるから」
「しゃあない、その分ご飯は奢ったげるからさ、元気だしなよ」
「うん……」
どこが悪いとか具体的には言えないのだけれど、
どうして俺が未だにモテないのか、その理由は今朝の一件で大体理解してしまった。
24時間投稿をサボると3000pv行かないらしいので出来るだけ24時間以内に投稿するようにします……
感想やブクマや評価、お待ちしております。