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7月19日

「そういえば言い忘れてたんだけどさ」


「どうした?」


「前にさ、頭お花畑のハッピーセットが嫌いって話をしたじゃない?」


「そういやそんな話もやってたな」


「それに一つ付け加えたくて」


「また逆張りの話か?」


「確かに能無しハッピーエンドは嫌いだけど、それ以上に能無しのバットエンドの方が嫌いなの」


「どうした急に。テストの結果がバットエンドだったとでも言いたいのか?」


「ううん、それはハッピーエンドだったけど」


「そうだもんな、結局負けたから揉めなかったし」


「え?今のもしかして揉め事と胸の2つの意味でかけてる?死ぬほどつまんないけど」


「ああ、そう言われるとそうなってるな。後者の意味しか考えてなかったわ」


「そこは前者にしとこうよ。


最近アホな話しかしてなかったから、たまには真面目な話でもしようかなって」


「おお、お久しぶりのネガティブ楓パイセンモードじゃないっすか」


「聞いてくれる?」


「聞かないわけないだろ。これでも冗談と本音の使い分けくらい出来るさ」


話し相手が楓くらい信頼できる相手ならな。


「んで、何の話だっけ?胸糞エンドアンチ?


「そう。バットエンドのお話ってさ、基本主人公とかヒロインが無能だからつまらないの。


結に至るまでの起、承、転で、どうして主人公は何もしてないの?


ヒロインの女の子がちゃんと可愛くなる努力をしているなら、それをちゃんと褒めてあげるのが男ってもんじゃないの?


世界を破滅させる力を持つ魔王の前に、たった数人がかりで挑んで本当に勝つ気あるの?


自らが置かれた境遇に絶望して諦めるのは勝手だけどさ、それは全て自業自得だよ」



「言いたいことは分かるけどお前はブラック企業の社長かよ」


「ううん、私は無理難題だけは押し付けないようにするから」


「言っておくが、お前のスペック超高いからな?誰もが自分のように数多くの物事を全て並行作業でこなせると思ったらいつか痛い目見るぞ」


「それ以前の話だよ。当たり前のことを当たり前にしていれば、何も文句は言わないよ。


遅刻をしたら待たせてゴメンと謝るのが普通だし、気合の入ったコーデしてたら可愛いねと褒めるのが普通だし、自分が幼なじみと不釣り合いと感じたなら釣り合うように努力するのが普通だよ」



「それはそうなんだけどな。当たり前のことすぎて、言わなきゃいけないって意識が段々と忘れていっちゃうんだよ」


特に変な話ではない。『いただきます』や『ごちそうさま』を言い忘れることと同じ感覚なのだ。



「それは言い訳でしょ?別に可愛くなろうとしたけどダメでしたーって過程を褒めて欲しいわけじゃないの。


努力の結果、こんなにも可愛くなった私を見てほしい!!って成果に対して何も言わないのは、それは果たしてどうなのって思うよね」



「気遣いの上手い男なんて、二次元にはほとんどいないからなぁ。今度から俺もちゃんと褒めるようにするか」




「気遣い上手かったらある程度モテるからね。拓真はその辺ちゃんと褒めてくれる印象あるけど。服とか髪型とか」


「じゃあ俺がモテないのは何故?」


「私が普段から絡んでるからじゃない?もっと他の女の子との絡み増やせば普通に人気出そうなものだけどね」


「うえぇ……それがハードル高くて辛いよ」


「厳しい言い方だけど、そういう基本待ちの姿勢が女性から惹かれない理由じゃないの?


モテないって言ってる人はそういうところでモテる努力を怠ってるんだよ」


「それは言い過ぎだろ。努力がすぐに結果に結びつかないことなんてよくあることだ」


「どうなんだろう。私はその辺結構ドライだから、結果の出ない行動はあまり意味がないと思っちゃうんだよね」


「楓の言う結果って、目に見えるものじゃなきゃダメなのか?」


「そうだよ。結局他人から見た自分の評価なんて、周りからどう見られるかでしかないんだから」


「甘えないなぁ、そういうところ」


「それにさ、そこまで無理に自分を作ってモテたところで、待っているのは『あれ?相生くんってこんな人だったんだ……』っていう失望だよ」


「そんなこと言い出したら人間関係ほとんど作れないじゃねえか。将来どうすんだよ」


「うん。だからそんな無駄なこと、こんな学生のうちからする必要ないでしょ?」



楓の言うことは要するに、お互いに気を遣って持続する関係などクソだと言っているだけだ。



「それは勿論理想だけどさ、現実はそうもいかないだろ」



「まあね。でもさ、少なくとも自分と付き合う人くらいはちゃんとしていて欲しいじゃない?」



「それはなぁ……楓が人を選べる立場にいるから言えること過ぎて何とも言えないわ」



丁度なんとも言えない。はいといいえの中間の答えしか出せない俺もまた、楓が本当に求めているような人かどうかは分からない。



今のところは、一番楓のことを理解しているつもりだけども。



「そこまで行くと、楓にはそもそも彼氏とか必要なさそうに感じるけどな」



「あながち間違いでもないかもね。私と付き合うからには、自分の心の隙間を自分自身で埋められる意志の強い人じゃないと。


その点だけは拓真とか偉いよね、多分私よりもメンタル強いし」



「強いと言うか、寝れば元通りになるだけだからなぁ」


トゥモローイズアナザーデイ。


心の切り替えの上手さだけには自信があるけどな。それにだって良いとこも悪いとこもある。



「楓とは真逆で、きっと俺は関わることを避けてるから平常心を保てているんだと思うぞ」


俺が常にメンタルをキープ出来ている理由も、やっぱり後ろ向き。


いつか俺が言ったように、世界のほとんどは後ろ向きな行動だらけで出来ている。



「その割には、私とはかなり関わってる気がするけど?」


「バランサーだよ、バランサー。普段は俺が割とネガティブ思考にハマるから、そこを楓が補って。


たまーにこうして楓がネガティブになった時には、そこを俺が補って。そうやってこの関係を10年も続けてきたんだろうが」



「え?拓真が普段はネガティブ思考?


……もう一度言ってみな?」


「鏡を見せようとすんな鏡を」


鏡に写った自分の顔を見ているけれど、やっぱりイケメンとは言いづらい微妙な顔だ。



「楓はさ、『こんなに美人で男からモテそうな性格をしている私といて、拓真は劣等感感じたりしないのかな?』って考えたことはあるか?」



「え、拓真って私に対して劣等感感じてたの?」



「昔はな。


考えてもみろ、学校にいる人100人に俺と楓どっちの方が好きか聞いたら100人全員が楓を選ぶだろうが」



「ううん。それは違うよ」


「え?何でだよ」



「私も拓真より私自身の方が好きだから、101:0だよ」



「傷口に塩を塗るなよ。何なら俺も楓の方について102:0になりてえよ」


「そして誰もお前を愛してくれなくなったんだね……」



「違うから!俺の両親と楓の母親さんは多分俺の方を選ぶから!」



「え、ウチのお母さんが?……やりそうだね、確かに。面白そうな人の評価バカ高いからね、あの人」


「俺ってそんなに面白く見える人なのかなぁ?」



「私と10年間もつるんでいる時点で、面白いかはともかくとして普通の人間では無いと思うよ」


「は?」


「なんでキレ気味なの?」


「嫌だ嫌だ!俺は二次元の主人公みたいに平凡で常識的な人間を目指しているのに」


「平凡で常識的な人間は高校生にもなってオムツで盛り上がらねえんだよ!!!!」



そりゃそうだ。ごもっともである。



「すまん、オムツネタは流石にこの短期間で振りすぎたわ」


「別に長期間で定期的に振れば良いわけじゃないからね?オムツにも使用期限はあるからね?」


「そう思ってこの間調べてたんだけど、市販のだったら3年は持つらしいぞ」


「ねえ待って、ウチの幼馴染みの思考の先回り方がおかしい」


「前言っただろ。自分が考えていることくらい、既に相手も考えてるんだって」


「言葉の使い方絶対にそうじゃないよね?こんなしょうもないところで先回りしなくて良いから」


「ところでさ、なんか真面目な話をしてたはずなのになんでまた漫才みたいになってんの?」


「私から先にネタを振ったからね」


「胸張って言うな」


「うるせえ!張るほどないよ!」


ウチの幼馴染みが持ってる地雷の場所もおかしいよ。


「なあ、それ持ちネタ?持ちネタだよね?」


「しくしく、このご時世の女芸人ってのは、身を削って笑いをとるもんなんだよ……」



「そこに魂注がなくていいから。もうちょっとこう、青春っぽいことに全力を注げよ」



「何それ?メガネをかけて地味に過ごしていたら突然学園の王子様から求愛されて困ればいいの?」



「うん?性別を反転させたら案外今の俺たちになるんじゃないか、それ」



「ごめん、TS百合とかいう業が深そうなジャンルはちょっと……」



「そうじゃねえだろ。なんで一人しか性別変わってねえんだよ」


ついでにそのカップリングは絶対タチネコ変わらないやつだな。ふーん、エッチじゃん。



「あの辺ってどういう思考回路してたら思いつくんだろうね?私には一生かけても出来そうに無いけど」


「あれ、意外だな。楓のことだし一度くらい男に生まれて大はしゃぎしたいって思ったことありそうだけど」



「ないわ。このご時世だとセクハラで訴えられるからね」


「理由が現実的すぎる」



「それにさ、私と最も関わりの深い異性って、どなたかご存知ですか?


考えてみなよ、今の自分のこの綺麗な顔と性格を捨ててまでその人になりたいと思う?」




「ああそうか。そりゃお父さんにはなりたく無いわな」


「オメーだよ」



「え?俺ってそんなに過酷な人生送ってたっけ?」



「いいや、別に。ただ……」


「ただ?」



「もし私が拓真の立場だったら、今こうして私みたいに超可愛い幼馴染みの真横で喋ってるなんて恐れ多くて出来ないだろうなって」



「褒めながらけなすなや。無駄に器用かよ」



「貶してはないよ。煽ってるだけ」


「対して変わらないだろ」


「変わるよ。そこに好意があれば」



「まるで好意が有れば煽ってもいいような言い方だな?」



「勿論。だってそんな事したくらいで私のことを嫌いになるわけないでしょ?って信頼してるからね」



「ねえなんで?なんでそうやって素直に喜べない褒め方しかしてくれないの?」


嬉しくないといえば嘘になるが、こんなので喜んでしまう自分のちょろさ加減に悲しくなる。



「話を戻すけどさ。もし私が拓真になったとしたら、、100回同じ人生をやり直せるとしてもやっぱり私と仲良くなれる気がしないんだよね。


だから、その点だけは本当に感謝してる。ありがとう」


そう言って、楓は静かに笑った。



昔から変わらない優しさをギュッと詰め込んだような天使の微笑みに、俺は夕焼けの中へと顔を隠すことしか出来なかった。


「……今年初めてかもな、楓がこんな素直な理由で笑ってくれたの」


「ん?何か言った?」


「いんや。俺も、楓が幼馴染みでいてくれてありがとうって思っただけ」


「そっか。そりゃどうも」


大人ぶってるけど俺たちもまだ高校生なんだ。


たまにはこうやって甘酸っぱい気持ちも摂取しておかないとな。


誰に言いたいわけでもない言い訳を考えながら、その日はずっと楓の優しい笑顔に心を奪われたままでいた。


実は3日くらい前から書き溜めのストックが切れてるんですが、ちゃんと毎日投稿している自分偉いですね。



感想とか評価とかブクマ、永遠と募集してます。


その支援がある限りは毎日投稿します。

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