7月3日(月)-2
「いや、あの?楓さん?」
「………」
話しかけても反応してくれない。
気まず……役目を終えた通行人Aじゃん。
「えーっと、あなたのお名前は佐藤楓さんですよね?」
「はい、私の名前は佐藤楓です。」
まるでsiriのような起伏のない喋り方をされると、全力で反応に困る。
「悪かった。俺が逆サバを読まずにバストサイズを素直に申告したのが悪かったから」
「うわああああん!!!」
そう、これが全ての元凶である。
夕飯後、『俺は何をやっているのだろう』という葛藤と戦いながら洗面台で自分のスリーサイズを測った結果、バスト(男の場合はチェストと呼ぶらしい)とヒップの2部門において俺が楓に勝ってしまった。
まあヒップはともかくとして、母性の象徴ともいえるバストで男に敗北してしまったのが楓的には死活問題らしい。
ちなみに、平然としているが精神的ダメージでいうと俺もデカい。
何が悲しくて実家のメジャーを自らの手で汚さないといけないんだ。
「これから一生拓真に『こいつ俺より胸のサイズ小さいんだぜウケるww』って煽られる人生を送ることになるんだぁ~~」
「やらないから。紳士な男の人だったらどんな胸の女性でも愛せるハズだから」
「私の胸はまな板として扱われ、使う前と使った後には丁寧に洗われて水切りかごに放置されるんだ~~」
「扱いが雑なのか丁寧なのかどっちかに統一しろよ」
「私がこんな体型のせいで、日本全国にロリコンが大量発生しちゃうんだぁ~」
「影響力すごいな。その路線で天下取りに行った方がいいぞ」
「もう遅いよ!始めるにしても引退までたった4年しかないのに!」
「なんで引退の基準が山口百恵なんだよ」
これでも楓のプロポーションはかなりの脅威で、体育の授業があるときにはその美貌と忙しなさからよく男子からの視線を集めている。
流石に俺はもう慣れているので、最近だとボールを蹴ったり投げたりする時の脚のしなりと太ももに一瞬出来る隙間で楽しめるようになってきた。通だね。
「こうなったら絶対に他の人に胸をもんでもらって大きくしてやるもん!!!」
「まず自分では揉まないというプライドを捨てるところから始めた方がいいと思いますよ」
「拓真も手伝うんだもんね?だって原因は拓真にあるもんね?」
「え?俺が小さい時から揉まなかったのが悪いの?」
「流石は拓真。ついにロリコンの本性を現したね」
「俺はファン一号じゃないのかよ」
「付き合ってもない女の胸を揉んだら犯罪だよ?」
「まだやってねえしやる度胸もねえよ!!!」
まだ、という言葉は消すかどうか迷ったが残すことにした。
何故ならいつかは女の胸を揉んでみたいとは思っているので。おっぱいもみてぇ。
「いやー、それにほら、俺みたいな童貞が楓さんの胸なんて触っちゃったら、うっかり興奮しちゃってそれどころじゃなくなりそうなんで……ほかの人を当たってください」
「触らせねえよ。なんで拓真が読んでたエロ漫画を再現しなくちゃいけないのよ」
「え?……そんなの読んでたっけ?」
今までに買ったやつではなかったぞそんなシチュエーション。今度買うか。
「あら、違ったか。拓真の好きそうな展開かなと思ったのに」
「危ねえっ!カマかけやがったな今!?うっかり騙されかけたぞ!?」
やりやがったなコイツ。人を欺こうとするなんて最低な女だな。
「へえ、本当はどんな本を読んでたの?」
「だから、失敗をおっぱいで慰めてくれる年上のお姉さんだって!」
「いや、アレってエロ本で仕入れたネタだったのかよ。ちなみに本当は?」
「似たような展開の本は見かけたことあるけど多分楓を連想しちゃって罪悪感が募りそうだから読まないようにしてました」
「いや回答がガチすぎてどういうリアクションを取ればいいのこれ」
でも俺は正直に答えてやる。なぜなら正直者だから。
「揉んでもらうなら身内だろ身内。お母さんに頼んで豊胸メニューでも作ってもらえ」
「同性から揉まれても意味ないでしょうが」
「じゃあお父さんにでも――」
「この世の終わりかな?」
「うわあひでえ」
即答で拒絶されるお父さんガチ可哀そう。
でもこの世が終わるか父に胸を揉まれるかの2択だったら流石に後者を選べよ?頼むから。
「はぁ、じゃあ仕方ないから奥の手だ」
「え、なに?」
「両親に『私の胸をもんでくれる弟が欲しい!』って頼むしかないか」
「それはね、やめて。この年になって両親の情事なんて見なくていいから」
冗談のつもりで投げたら普通に帰ってきちゃったんだけど。マジかよこの一家。
俺も一度でいいからエッチな光景には遭遇してみたいが、流石に身内は勘弁してほしい。
せめていとこだな。そこでギリだな。
「マジか、流石に初耳だわ」
「言うわけないからね普通。両親のdoingをwatchingするなんて」
「わーお、激しいなご両親も。それで性に目覚めたのか」
「んなわけないよね。何なら性に気づいてからまた後悔したよね」
「一度で2度楽しめたんだね」
「三度目がこないことを祈るばかりだね」
「すまん、まさかそんなところに地雷があるとは思ってなかった」
「いや、いいよ別に。アブノーマルな娘の両親もアブノーマルなんやな!あっはっは!!って感じでしょ?」
「……まぁ、確かにあってもおかしくはないかなぁとは」
なんか俺まで想像しちゃったよ今。3度目の悲しみは俺が引き受けるのかよ。
「やかましいわ!!!」
お前はお前で情緒不安定かよ。大丈夫かこの一家。まあいっか。
「言ってないから。どうした今日は、いつにもまして乙女の妄想パワー全開じゃねえか」
「内容が乙女チックからかけ離れすぎてるけどね」
今日の楓は幼児退行したりまな板になったりしていて見てて面白い。
まるで生粋のエンターテイナーだ。
お願いだから毎日はやめてくれ。
「はーもう怒った!」
「今まで怒ってなかったのかよ」
「じゃあこうしよう!私が拓真にテストで勝ったら、私の育乳奮闘記に付き合いなさい!」
「え?うん、いやまあ別に勝ち負け関係なく手伝うけれども」
どうせ一緒に一週間ほど豆乳飲んだり運動したりする程度だろうけど。
そして何故か俺の方がバストサイズがアップするオチまで見えた。せめてサイズは上がるな。
「育乳奮闘記って字面ヤバいよな。オークションに出せばプレミア付きそうだもんな」
「売らないから。というかそもそも書かないから」
「あれ、でもダイエットの場合は日記を書いた方が成功しやすいって聞くぞ」
「未来の自分が読んでて悲しくなる未来しか思い浮かばないから書きたくないです」
「おう、そっか……」
あ、また地雷ふんじゃった。ネコぐらいの感覚で踏んじゃうな。
「じゃあ全ての育乳法を試していく過程で、ガチで俺が胸を揉む展開になるかもしれないな」
「いやそんな展開にはならないから。需要がないから」
「供給ならあるぞ」
「需要がねえっつってんだよ」
まるで変質者のように、露骨に手をわしゃわしゃさせて冗談アピールをする。
やり過ぎてないか俺。コイツ本当に童貞か?それは本当だな。
「いや待て。もし俺が楓の胸を揉む展開になるとするなら、俺はそのテスト勝負にちゃんと勝ってから揉むべきではないだろうか?」
「だからその展開はないって。人の話を聞いて?」
それがプロの童貞というものだ。
負けたのに揉ませてもらおうなんて、あまりに都合が良すぎる。
「そうか。俺は、、童貞部の部長として、この勝負で負ける訳にはいかない!!!」
「いや童貞部ってなんだよ。女子禁制じゃん」
「うおおおお!!どうせ揉むなら勝って揉め!!」
「だから揉ませねぇっつってんでしょ」
「何だと!?そんな事、この俺が天地天命に誓って許さねえ!」
「何で決定権が拓真にあるんだよ。そんなことに使われる神さまが可哀そうだよ」
「はっ!?いかんいかん。」
「お?ようやく目覚めてくれた」
首をぶんぶん振って目を覚ます。
「こんなことしてる場合じゃねえ!!さっさと帰って問題集の続き解かなきゃ!!
じゃあね楓!ノートありがとう!!」
「おう、じゃーねー。
……あれ?もしかして私、貞操の危機迎えてる?
流石にこんな形では失いたくないよ?」
翌日から、母親同士の会話にて
「どうしよう、今日もウチの子が凄い剣幕で勉強してて嬉しいけど怖いんだけど。
何かに取りつかれているような感じで」
「あら奇遇ね、ウチもなのよ。二人してどうしちゃったのかしらね?」
という会話が一週間ほど繰り広げられたという。
ちゃんと有言実行できてよかったです。
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