4月7日
2年生になって迎える初めての朝は、目覚ましより早く起きることが出来てしまった。
何故あと10分遅く起きれなかったのだろうか。
「おはよう、今日はずいぶん早いのね」
「何故か起きちゃった……」
「良いことじゃない。朝ご飯は出来てるから、先に食べて学校行っても良いわよ」
「ありがとう」
炊飯器からご飯を掬い、お母さんがお椀に移してくれた味噌汁を手に取ってテーブルに着く。
「いただきます」
ご飯と味噌汁から漂う暖かな香りが、寝起きの身体に何とも丁度いい。
おかずがなかったので冷蔵庫にあったパック納豆を手に取り、かき混ぜながら朝のニュース番組をぼーっと眺める。
時刻は7時前。テレビの星座占いは、11位から紹介されていた。
「続けて3位は、しし座のあなた!自分の長所を伸ばせば、更に幸せな一日に出来るチャンス!」
「自分の長所、ねぇ……」
「ん?」
「自分の長所、何かないかな~って」
テレビから視線を逸らし、卵焼きを焼いているお母さんへ問いかける。
他人から見た自分など、なかなか自分では分からないものだ。
「う~ん、そうねぇ……」
「え、悩んじゃうほど少ないの?」
考え込まれた。流石にショック。
「ないって訳じゃないけれど……お母さん目線で語るより、友達に聞いた方が良いんじゃない?」
「そうかなぁ……」
「お母さんから言えることっていえば、
素直なところ、他人のことを大事にしてあげられるところ、とか……かしら。
でも、拓真が聞きたいのはそういう類のことじゃないのよね」
「そうだね。もっとこう……自分で自覚できるようなものが良いな」
運動神経が良いとか、イケメンみたいに一目で分かるようなものがあれば有難い。
あったら苦労していないと言ってはいけない。
「だったら、お隣さんに聞いてみれば良いんじゃない?」
「え、楓に?」
「学校での拓真についてなら、お母さんよりもあの子の方が詳しいと思うよ」
あの子とは、お隣に住んでいる佐藤 楓のことである。
頭脳明晰、容姿端麗で陽気な女の子ということで、男女問わず圧倒的な人気を誇り[1]、「付き合いたい女子ランキング」では3連覇を達成して殿堂入りとなったこともあるそうだ[2]。
俺からすれば「手を叩いて笑う女風チンパンジー」[3]にしか見えないが。
脚注
[1].普段の学校生活による相生 拓真の考察であり、信頼性に乏しいため要検証。
[2].中学生の時に行われた校内新聞によるもの。
[3].楓が言われてギリギリ怒らなさそうな蔑称ランキング暫定1位(俺調べ)。
「う~ん……まあ、いいけど」
どうせ家にいたところで何も分からないしな。それなら楓と喋ってた方がまだマシか。
「ごちそうさまでした」
朝食を終えて身支度を済ませたら、窓を開けてお隣さんの様子を覗く。
部屋のカーテンが閉まっているかどうかを見れば、楓が既に家を出たかどうかが分かるという寸法なのだが、今日はまだ家を出てないらしい。
これなら一緒に登校できそうだ。
「じゃ、行ってきます」
家を出て、徒歩30秒。
「おはよう、拓真くん。どうしたの?楓に用事?」
お隣のインターホンを鳴らすと、出迎えたのは楓……ではなく、楓の母親だった。
「用事と言う程でもないですけど、早く起きちゃったので偶には一緒に登校しようかな、と」
「あら、ありがとう。ちょっと待っててね」
どうやら楓を呼びに行ってくれるようだ。
「楓――!!拓真くんがデレ期に入ったわよ――!」
「はーい、今行く―」
(あの、聞こえてますよ)
俺に聞こえる程大きい声でやり取りしているのに、何故わざわざ楓の下へ向かったのかはよく分からないが、ツッコむのも野暮なので気にしないことにした。
「お待たせ!拓真からお誘いなんて珍しいね。もしかして本当にラブコール?」
そうしてドタドタ足音を鳴らしながらやってきたのが、俺の幼なじみである佐藤楓だった。
久しぶりに見た制服姿も、ちゃんとオシャレに着こなしてるのは悔しいが認めざるを得ない。
染めた茶色の髪が僅かに残る、肌触りの良さそうな滑らかな黒髪。
春休みの余韻を今も引きずっていながら、キッチリとオシャレになっているのが実にやり手だ。
日本人らしく黒く澄んだ瞳の裏側には、どんな些細なことも見逃さない好奇心が今日も目を光らせている。
肩までかかる髪を止めているのは、リボンの形をした空色のヘアゴム。
地毛が真っ黒なお陰で浮きも沈みもしない、綺麗な淡色のアクセントになっていて落ち着いた雰囲気に一役買っている。
少しだけ日焼けしている肌と程よく筋肉のついた脚が、何とも健康美的なエロスを掻き立てて朝っぱらから思わず隣を2度見してしまいそうだ
体格は良く言えば華奢であり、悪く言えば貧相。
本人の性格とは対照的に体格は割と引っ込み思案であるが、そこに紫がかったブレザーと膝下の長いスカートを足せばあら不思議、良いとこ住まいのお嬢様の完成である。
流石に嘘か。若干とはいえ褐色がかった肌のお嬢様とは中々に無理があった。
健康的なお嬢様??なにそれエロ。帰ったら調べるか。
胸以外の部分には程よく肉付きの良い健康美的な肢体が佇んでいるらしいが、美顔のせいでそのスレンダーな身体にはフォーカスされなくて悲しいと本人は嘆いていた。黙れよ美顔パンチンジー。羨ましいぞ。いや羨ましいか?
「いや、早起きしちゃったから誘っただけ」
「だよね、安心した。じゃ行ってきます!」
改めて考察を行っていたせいか、うっかり楓に興味なしなのがバレてしまった。まあいいか。
「行ってきます」
「は~い、いってらっしゃい、二人とも」
2年生になっても、俺を取り巻く朝の日常に変化はなさそうだった。
去年くらいに小説書いてたんですけど、最近また暇になったので書くことにしました。
よろしくお願いします。