~6~
「とにかく、だ。今の美弥子の状態は幽体で、身体のある場所も不明だ。一度、実家に戻って父さんに話をしよう。幽体は妖魔に狙われやすいから守護神から離れるなよ」
私や晴人の実家がある町は大学から車で一時間程山に登ったところにある。その町の有名な神社が晴人の実家の小一路神社。そこの神主をしているのが晴人のお父さんだ。
本は好きで、いろんな情報が頭の中にあるけど、現実味がない。
妖魔って何?って問いかけに、元々は人だったものが、悪霊となり、尋常ではない力を得てしまったものだと説明してくれた。それでも今一つピンと来ないなぁなんて思っていると、
「百聞は一見に如かず、だよ」
と、指された方を見ると何やら黒く蠢くものが見えた。
よくよく見るとそれは幾つもの触手のようなもので、それがいきなりこちらに向かって伸びてきた。
「きゃあああ!!」
悲鳴を上げると、タッちゃんが私を守るように引き寄せ、私はタッちゃんにしがみついた。するとタッちゃんは手を翳し光を発した。
すると、その触手のようなものはサァァ……と消えていった。
「何アレ!?」
ビックリして震えていると、タッちゃんが頭を撫でてくれた。
「大丈夫?あれが妖魔だよ。でも、今のはほんの雑魚だから勾玉は持ってなかったみたいだね。あれくらいの雑魚ならちゃちゃっと祓えるんだけどね。うちの神社に祀られている宝剣があった方が良さそうだね」
腰が抜けて動けないでいると、タッちゃんがお姫様抱っこしてくれた。
「お、重たいでしょ?」
と、遠慮がちに言うと、
「そんなことない。大丈夫だよ」
と、キラキラスマイルで答えてくれた。
タッちゃん、イケメンのくせに行動もイケメンじゃないか。
私が見えていない晴人は、タッちゃんの動きで私の状況を予測するしかない。
「おい、守護神。ちょっとだけ美弥子から離れろ」
さっきは離れるなよっていいながら、今度は離れろとは。矛盾してますが?
「男の焼きもちはみっともないですよ」
しれっとタッちゃんが答える。
何はともあれ、晴人の実家に一度行かなきゃ話は始まらなさそうだわ。
「美弥子、今は幽体だから重さを感じないだけだからな」
と、釘を刺された。
いや、どうせそんなことだろうと思っていたけどね。
晴人を睨んでおく。どうせ晴人には見えないからね。ついでにあっかんべーもしておこう。
「何かしてるだろ、美弥子」
雰囲気を感じ取ったのか、晴人はの方に向けて手を伸ばした。相変わらず、触ることはできないのだけど、頭の辺りで手を動かす。
何してるんだ?これ。
「晴人は美弥子の頭を撫でてあげたいみたいですよ」
と、代弁してくれた。それを聞いた晴人は
「ち、違うわ!」
と言ったけど、どうやら図星らしい。耳の辺りまで真っ赤になっている。晴人のそんな珍しい顔を目の当たりにした私も、何だか恥ずかしくなってタッちゃんの腕の中でちいさくなった。
「とにかく、先を急ごう」
とタッちゃんが促してくれたおかげで、気まずい思いをする時間は短くて済んだ。
妖魔についてですが、この小説オリジナルのモノだと思って頂ければ幸いです。
読者また一名つきました。ありがとうございます。