~5~
すれ違った(大事な事なので二回言いました)のだ。さっきまで私を追いかけ回していた晴人が、私に気づかないのだ。
これはもしや晴人が私のことを諦めてくれた?そうだとしたらラッキーだわ。寿命が伸びる!ファンクラブの子たちに襲われなくて済む。
自称守護神の方はというと、私の方をみて不思議そうな顔をしている。
「おい、晴人。美弥子、ここにいるよ?」
うわ、自称守護神余計なこと言わないでくれ……。
「え?美弥子?そこにいるのか?」
はい、いますとも。見えないフリしてスルーしようとしてるだろ?スルーしてくれて全然構わない。
「ウソだろ?……やられた」
晴人の表情がみるみる怒りに満ちてくる。
いや、どうした?
「美弥子、俺は今、お前の姿が見えない」
は?何を言い出すんだ?とうとうイカれたか?
「晴人、私のことなんか嫌いになってくれて全然構わないけど?」
「美弥子、よく聞いてくれ。美弥子の姿も声も分からない。守護神がいなければ会話もできない。教授に何かされなかったか?」
「何かって、耳元でイケボ囁かれたけど。え?それがどうした?」
「それだけじゃないだろ?」
怒気を孕んだ自称守護神の声。思わず身を竦める。
「徴付けられただろう?」
「徴?何のこと?」
私の姿が見えている自称守護神が私を上から下まで眺める。
「あ、あった。首元に」
自称守護神が私の首元を指差すと、私の姿が見えないと言っていた晴人の手が伸ばされる。しかし、その手は私に触れることなくすり抜ける。
「いやああぁ、気持ち悪いいぃぃ」
「おい、どうにかできないのか?守護神」
「んー、この術は厄介だよ。解くとなると、妖魔の持つ勾玉を神様に奉納して、御札を集めなければならない」
ちょっと待て。なんだそれ。妖魔?勾玉?自称守護神の言ってることが現実からかけ離れすぎて、ワケわかんない。フィクションは本の中だけにしといてくれ。
「私は別に、晴人から見えなくてもなんともないからこのままでいいわ」
その方が安全に過ごせそうだし。めんどくさいことはしたくないし。
「とにかく、だ。美弥子、驚かないで聞いて」
自称守護神が続ける。
これ以上、驚くことあんの?
「美弥子は、今幽体なんだよ。体は多分、教授のところにある」
はあ?幽体?なにそれ、美味しいの?
「今の美弥子は、幽体離脱と同じ状況にあるんだ。だから、美弥子の姿は人間には見えない。そして美弥子の体がそばにないということは、離れている時間が長引けば長引くほど本体が弱る。1ヶ月後の美弥子の誕生日までに体に戻さないといけない」
ちょっと待て。本当にちょっと待て。それって私が死んじゃうってこと-!?
「私が……死ぬ……?」
「そういうことだよ。あの教授、なんてものを美弥子にかけたんだ!?」
晴人も自称守護神も怒ってる。
「じゃ、じゃあ、早く教授のところに戻って……」
「無理だよ。大体あの教授、ここの奴じゃない。だから危機感持てって言ったのに」
なんだよ、それ。そんなこと言ったって……。
思わず涙が溢れてきた。
「美弥子、泣かないで。きっと助けるから。僕と晴人で」
自称守護神がそっと肩を抱いてくれ、頬に伝った涙を拭いてくれた。晴人は私の姿が見えなくてイライラしているみたいだけど。
「優しいんだね。ありがとう、自称守護神」
「自称じゃなくて、ホントに守護神なんだけど。晴人のだけどね。それからタッちゃんって呼んでね」
「ありがとう、タッちゃん」
「美弥子……。必ず助けるからな」
「あ、ありがと。晴人」
今は、晴人の言葉さえ嬉しかった。