~4~
教授の部屋の前でノックする。
(コンコン)
「はい?」
「先程の講義を受けていた山野です。今お時間よろしいでしょうか?」
「あー、開いてるから入って」
「失礼します」
扉を開け部屋に入ると、教授はソファーに横になっていた。心なしか顔色も悪く見える。先程の講義の最中はそこまでなかったように思う。(ただ単に私が他のことに気をとられていたからなんて突っ込まないでね)
「大丈夫ですか?」
近くに寄ると、いつもはきっちり留められているボタンが、上から2つほど外され胸元が覗いて妙に艶っぽくて思わずドキッとする。
35歳という若さで教授の地位に登り詰めた教授。イケメンって訳ではないけど、落ち着いた大人の男性で。んー、誰かに似てる気がするんだけど、誰だっけ?
「ちょっとね……。すまないけど、そこにある水を取ってもらえるかな?」
机の上にペットボトルの水がおいてあり、渡そうとして教授の手が触れた。静電気のようなものがパチッとはじけ、思わずペットボトルを落としてしまった。
「す、すみません」
慌ててペットボトルを拾い上げると、それをスッと引き抜かれた。
「ありがとう。ところで、何の用かな?」
ペットボトルのキャップを開けながら、問われる。
「あ、あの……実は、先程出された課題のことなんですが……、内容を聞き漏らしたので教えて頂きたいのですが……」
だんだん声が小さくなる。講義を聞いてなかったって暴露してるようなものだし、内申に響くんじゃないかとヒヤヒヤしている。
水を飲み、人心地ついた教授が、ソファーに座り直して私に向き直る。
「君、山野さんだったね。さっきの男子は一緒に来なかったの?」
ん?さっきの男子って晴人のことかな?
「いえ、1人です」
「そうか……、それならいいんだ。で、課題の内容だったね。課題は……」
いきなり手を掴まれ抱き寄せられ、ソファーに押し倒された。否応なしに教授を見上げる格好になる。
「無用心にも程がある」
教授の声が耳のすぐそばで聞こえる。
教授の声はかなりのイケボで、私が教授のコマを選択したのはこの声が大きな理由だ。ぞくぞくするようなそのイケボで囁かれるわ、目の前に迫った教授が艶っぽいわで、プチパニックを起こしていると、首筋に唇を押し当てられた。
「このことは内緒だよ」
教授が囁いたあと急に体が離れ、開けられていた胸元のボタンを留めはじめる。教授の顔色は随分と良くなったようだけど……。
「さ、早く行かないと、次の講義が始まるよ?」
今の出来事に頭が追い付かない。なんだって今日はこんなに訳の分からないことばっかり起きるの?
課題の内容を記した紙を渡され、若干足元が覚束ないまま、教授の部屋を後にする。
フラフラと次の講義に向かっていると、ファンクラブの子たちからやっと解放されたであろう晴人と自称守護神とすれ違った。