~3~
次の講義がたまたま晴人と同じコマを選択していたため、仕方なく教室に入る。案の定、私を見つけた晴人が隣に陣取った。
反対の隣の席にイケメンがいる。晴人で見慣れてるけど、それとはまた違った雰囲気の……。
「朝ぶりだね、美弥子」
イケメンに挨拶されてしまった。
朝?……何かあったっけ?……あー、思い出した。大学の通りにいた消えた人だ。
あれ?でも、そのときは白金の長い髪にペリドットグリーンの瞳だったよね。今は茶髪のショートヘアにヘーゼルアイっていうの?色素の薄い人みたいだ。
「俺、晴人の守護神で、健磐龍命。タッちゃんって呼んでね」
私にだけ聞こえるボリュームの声で、愛想よく手を振る。
反対を見ると、晴人は釈然としない表情だ。
そのイケメンは、どうやら晴人も知ってる人のようだった。しかし、私にしてみれば初対面で、しかも変な人に認定している。朝見たときは、中世ヨーロッパの貴族の服を着ていて、人がすり抜けていたんだから。守護神とか言ってたし、全くもって意味不明。
「~であるからして、次の課題は祭と神社の関係性だ。夏休み明けまでにまとめてレポートを提出するように。個人でレポートを書いてもよし、グループワークでもよし。そこは自由で構わない。以上」
晴人が左にピッタリとくっついて、反対側に先程のイケメンが座ったままで講義がやっと終わった。これ何の罰?
「美弥子、一緒にレポートやろうね」
え?今何て言いました?レポート?色々と考えていて教授の話聞いてなかった!
いや、でも。これ以上晴人と一緒にいる機会が増えたら私の命が……(主にファンクラブの子たちに視線で殺されるという意味で)。でも、レポート出さないと単位とれないし……。
「課題、なんだったか教えて?」
ボソボソと小さい声で晴人に訊ねる。
「大丈夫。美弥子が俺と結婚すれば課題なんてすぐ終わるから」
爽やかな笑顔で切り返され、頭をポンポンと撫でられる。
そして先程のイケメンが声を殺して笑っている。
何で課題が結婚に繋がるの?自称守護神にも笑われてるじゃない。頭の中カビ生えた?
したかない。教授に聞きに行こう。
席を立つと一緒になって晴人がついてくる。
「ついて来ないで。ほら、ファンクラブの子たちが待ってるよ?」
「いや、ファンクラブなんか放っておけばいいだろ?美弥子、どこにいくの?もしかして教授のところ?ダメだよ、美弥子はもっと危機感持って!教授と二人きりなんて危ないから俺もついていく」
もーやだ。課題聞きに行くだけで、なんなの?危機感とか……。最近は構い方が特に尋常じゃない。しかも、自称守護神のイケメンもいるから目立つことこの上ない。晴人と一緒のほうがよっぽど危険だよ。私の命が(主にファンクラブの……以下略)。
「課題、聞くだけだから、大丈夫よ。それにトイレにもいきたいからついて来ないで。ついてきたら絶交する」
それだけいうと、晴人は一瞬捨てられた仔犬のように悲しそうな顔をする。その隙をついて晴人からはなれた。
晴人は結構隙がある。その隙を見逃す私ではないわ。
私が離れたことを幸いにファンクラブの子たちが晴人を取り囲む。さらに今日はもう一人イケメンが加わっていることでいつも以上に人が多い。しばらく晴人を解放しないでおいてくれ……。
「ちょっ、美弥子!!待てって」
晴人が止める言葉を、はるか後方に聞きながら私は教授の元へと急いだ。
「晴人、バカだねー」
と、笑っている自称守護神の最後の言葉は聞くことなく。