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あけましておめでとうございます!

今年初投稿! 遅くてすみません……。

『二年生香西拓人君、氷上雫さん、至急生徒会室に来てください。繰り返します──』


 午前だけの学校を終え、提出物を職員室に運んでいる途中で校内放送が流れた。

 聞いたことがある声だ。さっきの始業式で司会をしていた生徒の声だろうか。


「拓人君呼ばれてるよ」

「何したの香西君、生徒会室に呼ばれるなんて」

「全然心当たりないんですけど……」


 連休明けの提出物は大量にあるので、クラスの代表である奏と俺、一応担任の青倉先生の三人で運んでいる。

 俺が何かやったていで疑念の視線を向ける青倉先生。いや俺以外にも呼ばれてる奴いるからね?


「氷上さんも呼ばれてたわね。迷惑かけちゃダメよ」


 担任らしく氷上の心配はしてるけど俺を忘れてるよ? 一応俺も貴方のクラスの生徒ですよ?


「香西君の分も私が運んでおくから早く行って謝ってきなさい。社さんは最後まで手伝ってくれると助かるわ」

「もちろんです」


 やっぱり青倉先生はやさ……しくねぇな。まずは疑うのをやめようか。奏はなぜ何も言わない。

 言いたいことをグッと飲み込み途中で二人と別れ、急足で生徒会室に向かっていると、ちょうど図書室から出てきた氷上と鉢合わせた。目的地は一緒なので自然と肩を並べる。


「……かーくんは心当たりある?」


 いつもはわかりにくい表情の氷上だが、今はわかりやすく動揺が滲み出ている。

 隠れ優等生の氷上にも生徒会に呼ばれるような心当たりはないようで開口一番にそう聞いてきた。

 俺も氷上も目立つような生徒ではない。良いことも悪いこともせず、ただひっそりと学校での生活を謳歌している。

 そんな俺たちにとって放送で呼び出しをくらうなんてイベントは、想定外にもほどがあるのだ。


「そんな心配しなくてもいいだろ。悪いことで呼び出されてるって決まったわけじゃないしな」

「かーくんは慣れてるの?」

「慣れてねーよ……。え、俺ってそう言うイメージ?」

「品行方正ではない。青倉先生によく怒られてる」

「あの人にだけだから。氷上は怒られたことないのか? 先生に」

「ない。それが普通」

「おぅ……」


 安心させるためにちょっとカッコつけてみたら急に鋭いナイフを喉元に突きつけられたんですが……。

 奏にも目立ってるって言われたな。もしかして俺ひっそりできてないんじゃね?

 二人して気分の浮かないままたどり着いた生徒会室前。

 動こうとしない氷上の代わりにドアをノックすると、ショートカットの女子生徒が出迎えてくれた。


「香西君と氷上さん、突然呼び出してごめんね。私は伊奈野(いなの)(すみれ)っていいます。生徒会副会長を務めてるの、よろしくね」

「よ、よろしくお願いします」

「……します」


 伊奈野菫さんは、三年生の先輩だ。

 個人的に会うのは初めてだが、生徒会副会長という役職柄表舞台に出てくることが多いので、名前くらいは俺も知っている。午前中の始業式の司会も、さっきの放送も伊奈野さんの声だった。


「入って入って、冷房効いてるから」


 怯えきって俺の後ろに隠れている氷上をよそに、伊奈野さんはおいでおいでと、まるで近所のお姉さんのような振る舞いで手招きをする。

 資料の並んでいる棚、マグネットが引っ付いているホワイトボード、コの字に配置された長机。

 初めて足を踏み入れた場所だけど、想像通り堅苦しい場所のようだ。

 ここで今から何をされるのか……。


「二人ともーこっちー」


 しかし俺たちが案内されたのは内扉から入れる隣の教室。

 そこは畳が敷き詰められたそこそこ広い和室だった。


「会長ー、香西君と氷上さん来てくれましたよ」

「ご苦労伊奈野君。香西君と氷上さんも急な呼び出しですまない」


 部屋の真ん中にある長机のお誕生日席に座っている腕を組んだおさげ髪の女子生徒。

 この人とも面と向かって話すのは初めてだ。

 奏以外でこの学校の有名人は誰だと聞かれたら、俺はきっとこの(むすび)千佳(ちか)の名前を出す。

 我が校の生徒会長を務め、学力も学年一だと聞いた。

 圧倒的なカリスマ性と滲み出る威厳で、先生たちの間では過去最高の生徒会長の呼び声も高いらしい。

 神様は奏や生徒会長を作るときに材料使いすぎだ。

 残りかすで俺みたいなのが出来ちゃうからそこんとこ気をつけてよね!


「……ふふっ」


 斜め前にいる伊奈野さんが小さく笑った。

 何に笑ったのかは定かではないが……俺じゃないですよね?

 それよりも気になるのは、生徒会長から見て左列に座る二人の生徒。


「やぁ……香西君と、氷上さん」


 ぎこちない表情で手をあげる松江とその隣に座るふてくされた顔の結さん。新聞部の二人だ。

 うん……? 結? 生徒会長と名前が一緒だな。


「とりあえず座ってくれ。今、ようかんとお茶を準備する」


 これもなんかデジャヴだな……。

 和室の端の方でお茶とお菓子の準備を始める会長と副会長は、何やら楽しそうにしている。と言うよりは、副会長が会長をいじってるようだ。

 俺と氷上は結さんと松江の正面に座り、呼び出された理由を聞いてみた。


「実は……文化祭の件で僕たちがやろうとしたことがバレちゃって。まぁ仕方ないことなんだけど……。部長、先に二人には謝ってた方がいいんじゃないですか?」

「…………あーもう! 最悪だよほんと! 千佳にバレるなんて! ごめんね二人とも巻き込んじゃって!」


 駄々をこねる子供みたいに頭をかきむしり、不満のこもった視線を会長へ向ける。


「松江、会長と結さんの関係って」

「あぁ。お察しの通り二人は姉妹なんだ。一応双子なんだけど、二卵性双生児ってやつでそっくりってわけじゃないけどね」

「氷上は知ってたか?」

「知らなかった。言われてみれば似てなくもない」

「三年生の間では有名だよ。ちかちや姉妹って」


 背丈や体型、顔のパーツはほぼ同じ。でも、たしかに見分けはつく。

 メガネをしてるかしていないか。髪型も全然違うし、何より纏っている雰囲気が違う。

 一番はっきりしているのは、目元のほくろだ。

 会長のほくろは右目下にあるのに対して、結さんのほくろは左目下にある。鏡を反転させたみたいに綺麗に真逆なのがおもしろい。


「そんなじろじろ見ないでよ。香西君のえっち」

「っ……! すみません……」


 結さんの虫のいどころが悪い。

 それに今のは普通に俺が悪かった。じろじろ見られて不快に思わないわけがない。俺なら嫌だしな。


「巻き込んでおいてその態度はないんじゃないかな、千夜」


 盆に人数分の湯呑みを乗せた会長が戻ってきた。

 渋い湯呑みだ。魚偏や木偏の漢字が羅列している。


「いいんだよ。私と香西君はいつもこうだから。それくらい仲良しなんだよ。ね?」

「本当かい?」

「まぁ、はい、一応……」


 いいえ違いますとか言えないだろ。お願いだから二人して睨まないでください。


「よいしょ。はい、ようかんだよ」


 ようかんを配っていた伊奈野さんが最後の一つを俺の前に置くと、隣の座布団に腰を下ろした。


「ど、どうも……。あの、二人って仲悪いんですか?」

「そんなことないよ。まぁでも喧嘩は多いかな」


 呑気に笑っているが、結姉妹は今もぐちぐちと言い争いをしている。

 なんとも険悪で重い空気なのに、伊奈野さんはにこにことその様子を見つめるだけで止めようともしない。


「また勝手に人を振り回してるだけじゃないの?」

「またってなにさ。私には私の人間関係があるの、千佳には関係ないでしょ」

「関係ないことない。昔から千夜の尻拭いをしてるの私なんだけど?」

「それいつの話? ぐちぐちと昔のこと持ち出すから彼氏できないんでしょ」

「それを言うなら千夜も同じでしょ。いつもへらへらしてもっと女の子らしくしたらどうなの? 一人で牛丼屋行くのほんとやめた方がいいよ?」

「私は別に彼氏とかいらないし。一人で牛丼屋行くのとか珍しくないし。氷上ちゃんだって行くもんね?」

「っ! あ、いや、あの……。かーくん……」


 急に話を振られた氷上が怯えてしまって俺の後ろに隠れてしまった。

 うんうん、あれは怖いな。でも俺を盾にするのやめようか?


「氷上さんに怯えられてるようですけど?」

「千佳が怖い顔してるからでしょ?」


 二人の間にバチバチと火花が散っている……。人はこれを仲良しとは言わないのでは?


「はーい二人ともそこまで。みっともない姿を後輩に見せない。千佳ちゃんもキャラ忘れてるよ?」

「あ……やっちゃった……」

「反省はあとでね。とりあえず本題に入ろう」


 パチンと手を合わせた伊奈野さん。

 まだまだ重い空気が充満している中、俺は目の前にいる松江と一緒に苦笑いを浮かべるのが精一杯だった。


読んでいただきありがとうございます!


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