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「見え透いた嘘はつかなくていい。かーくんの彼女は社奏」

「さすがに知ってるよね」

「氷上同じクラスですからね……」


 本気で言ってないとわかっていても、心臓に悪い冗談はやめて欲しい……。


「二人はラブラブ。何人たりとも二人の間に割って入ることはできない。ぽっと出の人なんて話になるわけがない」


 そう言って、氷上の口角が微かに綻ぶ。

 ん? ちょっと待てよ? 氷上って俺と奏が付き合うの賛成派だっけ……。

 氷上と奏は、犬猿の仲まではいかなくてもライバル関係だったはず(奏は思ってない)。

 なのに今のセリフはまるで奏を尊重するような発言だ。

 もしかして俺の知らないところで、二人の関係に変化があったのだろうか。

 なんて思っていると、結さんに向けられていた無気力な視線がスッと俺の方に移動する。


「なのに、どうしてかーくんは夏休みに社奏ではない女の人と二人でいるの? やましいことがあるなら、私は友人として社奏に報告しなければならない」

「や、やましいことなんて何もない。ちょっとした用事で呼ばれただけで」

「ちょっとした用事?」


 人形みたいに変わらない表情のまま、こてんと小さく首を傾げる氷上。

 どう説明したものか……。簡潔にまとめるには難しい内容だしな。

 そう頭を悩ませる俺の隣で、怪しく目を光らせた結さんがちょんちょんと俺の肩を突いて「私に任せて」と耳打ちしてくる。

 この人に任せて大丈夫かしら……。


「実は、夏休み前に私から香西君に頼み事をしてて、今日はその進捗状況を確認しようと思って電話したんだ。そしたら香西君忘れてたって言うんだよ」


 またとんでもないことを口走るのではないかと心配したが、さすがに何回も悪ふざけする人ではないようだ。

 内心ヒヤヒヤしながらも、結さんのせいで乾いた口を潤すためコップに手を伸ばす。


「だからこれから二人きりで、誰にも邪魔されない場所で、その用事を済ませようかなって。……恥ずかしいけど、ね」

「……勘違いされるような言い方しないでくれませんか?」


 おかげで水こぼしたんですが。服濡れちゃったんですが?


「かーくん、この女は危険今すぐ離れて」

「ダメダメダメ! 私は今日香西君を家に帰さないんだ!」

「結さんマジで黙ってくれませんか⁉︎」

「…………ポッ」


 ポッじゃねーよ。

 喋るたびに株が大暴落してますよ? わかってやってんな?

 それと氷上よ、そのスマホで誰に連絡するつもりですか? お願いだからやめてください。


「お待たせしました、牛丼特盛汁だくのサラダ味噌汁セットお二つです。よかったらこれお使いください」


 わちゃわちゃやっている間に、俺と結さんの料理が運ばれてきた。こぼした水を拭く用の布巾(ふきん)も一緒に持ってきてくれたのはありがたい。


「では、ごゆっくり」


 忙しそうなのに一切笑顔を崩さない店員さんのプロ根性を目の当たりにし、ふと周りを見やれば、俺たち三人はお客さんの注目の的になっていた。

 内容が内容だけに、迷惑そうというよりは面白がっているような視線。

 どうやらそれに気づいたのは俺だけじゃないようだ。


「あら……ちょっとふざけすぎたね。早く食べちゃおっか」

「そ、そうですね」

「かーくん、早く離れて」


 氷上に監視されながら食べた牛丼は、それはもう量が多かった。



「くっくっくっ……計画通りっ!」


 吐きそうな俺の隣には氷上、前には暗黒微笑を湛えているであろう結さんがゆっくりと歩いている。

 なんであの量を食べてけろっとしてるんだあの人……。


「かーくん大丈夫?」

「お、おう、ちょっと食べすぎただけだ。氷上はあの店よく行くのか?」

「家の近くに同じ店がある。メニューは一緒。それより今からどこに行くの?」

「俺にもわからん」


 店を出てから結さんに「ついてきて」と言われた俺は黙ってそれに従ってついていってるのだが、目的地もわからないし、なぜか氷上まで俺たちについてきている。

 外は炎天下、食べすぎたせいで気分も悪いし足もほのかに痛い。早めに休みたいんですけど……。


「着いたよ二人とも」


 歩くこと十分ちょっと。

 そこは見覚えのある喫茶店だった。

 木製のドアを開けると、聞き心地のいいベルの音が鳴り、外とは別世界のような冷気がその空間には漂っている。

 少し暗めの照明、普段は耳にしないジャズ、微かに香る苦いコーヒーの匂い。

 あの時は見落としていたが、このお店の名前は純喫茶「北極」というらしい。

 学校よりも近い場所。略してよりもい。

 いや待てあれは南極の話だった気がする。


「ここは私が奢るから二人とも好きなの注文していいよ」


 なんの因果なのか、結さんが座ったのは初めてこの店に来たときと同じ席。

 メニューを開く結さんは向いに、俺と氷上は並んで座る。

 三人ともアイスコーヒーを注文したところで、結さんはカバンの中からノートパソコンを取り出した。


「さて、そろそろ今日の本題に移ろうか」

「かーくん、本題ってなに?」

「えーとだな」

「私が説明しよう!」

「いい。信用できない」

「おぅ……」


 気の毒だけどあんたが悪い。


「二学期は文化祭があるだろ? その後夜祭で使えるジンクスを考えようって夏休み前に約束してたんだ」

「アニメや漫画とかでよくある?」

「そうそう。氷上はアニメとか漫画好きだったっけ?」

「うん、好き」

「それに出てくるような、いわゆる噂みたいなのを作って、流して、文化祭を盛り上げようって感じだな。あってますよね?」

「あってるよぉ〜」


 いじけた様子でパソコンをカタカタ鳴らす結さん。

 この人が一つ年上なのを忘れそうになる。今朝まではそんなことなかったんだけどな……。


「巻き込む形だけど……協力してくれるか?」

「かーくんの頼みなら任せて」


 小さく胸を叩いて氷上は即答してくれた。

 ここで氷上の参戦は大きい。

 正直時間もやばいし、いい案を思いついてるわけでもない。

 三人よればなんとやら。今日一日で終わらせてしまおう。

 そう意気込んだのも束の間、パソコンから目を離した結さんがなんてことないようにポロッとこぼす。


「さすが壁ドンした仲だね。社さんといい氷上ちゃんといい、香西君も隅におけないねぇ」

「知ってたんですか⁉︎」

「その日はたまたま学校を散歩してて、体育館裏で青春してるなーって思って見てた。ネタなんてどこに転がってるかわからないからね」


 結さんから俺のスマホに届くメッセージ。

 それは、頬を赤らめた氷上に迫る俺の画像。

 一生に一度の壁ドンをまさか撮られていたなんて……。


「これを使う前に話がついてよかったよ。私はもう消したから、それ自由にしていいよ」


 怖っ! この人怖っ!


「どうしたの? 何か変な……あ、それ」


 横から画像を覗いた氷上が恥ずかしそうに肩をすくめる。


「……消すけどいいよな?」

「えーと、その、それ、私に頂戴。音声は残ってるけど写真は撮ってなかったから」

「音声残してるのかよ……」

「…………ポッ」


 ポッじゃねーよ。

更新遅くてすいません……。

ブクマ、評価感謝です!

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