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投稿頻度遅くてすいません。
新聞部の活動は、主に月一の学校新聞の発行である。
学校行事、部活動紹介と言った学内のことはもちろん、校外でのボランティア活動など地域の小さなニュースも記事にすることがあるらしい。
去年まで五人で活動していた新聞の現在の部員は、三年生の結千夜さんと、二年生で俺と同じクラスの松江直矢の二人。
A4サイズの新聞とは言え、五人でこなしていた作業を二人でやるとなると、一人の負担は五人でやってたときの倍以上になる。
新聞を発行するのにどんな過程が必要なのか俺にはわからないが、三人の穴を埋めるのは簡単なことじゃないはずだ。
しかし二人は新体制になってからも月一発行は当たり前にこなし、放置気味だったSNSアカウントもしっかり活用ながら活動を続けている。
一年前の新聞と今年の新聞を見比べても遜色ないどころか、硬さが抜けてむしろ新しい方が読みやすいような気がする。
「……いや松江、俺が聞きたいのは新聞部の詳細じゃなくてだな」
あまりの熱弁に聞き入ってしまっていたが、俺が聞きたいのは新聞部の話じゃない。おまじないの話だ。
楽しそうに話していた松江だったが、話の舵を切るとあからさまな動揺を見せる。
頬をかきながら視線を泳がせ、だんだんと猫背になっていく。
そんな松江の背中に手を置いたのは、松江の隣にいた結さんだ。
「私が代わりに話そうか?」
「……いえ、僕が話します。僕が提案したので」
うなずきあった二人は姿勢を正すと、まっすぐ俺の目を見つめてくる。
「香西君、今回のおまじないの件。まずは謝罪します。ごめんなさい」
「お、おう。松江がやたら協力的だったのに納得できたわ。松江が考えたのか?」
「う、うん。香西君は……怒ってないの?」
「怒る? なんで」
「だって名前勝手に使って、迷惑かけて、その、社さんだってよく思ってなかったんじゃないかな?」
たしかに、おまじないが広まり始めてから休憩のたびに俺は誰かと五円玉の交換をしていた。
最初は戸惑ったけど、慣れればどうってことない内容だ。
五円玉の交換は多くても一回三枚程度で、財布の中に五円玉が最低三枚あればいい。
それが一日に数回あるとしても、交換した五円玉は使い回しができる。
条件は俺が持っている五円玉なので、交換した五円玉も俺が持っているということになるからだ。
交換しに来る人も目的は交換のみで、俺個人に興味を持ってる人なんて一人もいない。
たまに聞かれることといえば、ほとんどが奏のことについてだった。
彼氏ができたことで奏の注目度はさらに急上昇。
女子からの人気が凄いことになっている。
「俺も中途半端に乗っちゃったからな。全部松江と結さんのせいにするのも違うだろ。まぁ今日ここに来たのは奏の不満が原因なんだけど」
「どうして乗ってくれたの? 僕と部長はすぐ香西君が文句を言いに来るって思ってた」
「ちょっと前に悪いことがあってな。善を積んでおこうと思って。それに断ったら、おまじないを信じて来てくれる人に申し訳ないしな」
今日だって後輩の女の子が教室まで来た。
他学年の教室に来るのなんて結構な度胸が必要だろう。
そんな人たちを門前払いするなんて俺にはできない。
「……さすが香西君、かっこいいなぁ」
と、松江がうっとりした表情で呟いた。朱色に染まる頬がやけに色っぽい。
なんでだろう、松江は男のはずなのにめっちゃドキドキする。
白い肌が、艶々の髪が、少し高めの声が俺を惑わせる。
「お、おう……」
そのせいで否定することを忘れた上に声が裏返ってしまった。
仕切り直すため咳払いをして、俺は気になってたことを聞くことにした。
「それで、理由を聞いていいか? このおまじないを作った理由」
自分なりに憶測してみたけど多分正解ではない。タイミングも内容も俺だった理由も。
「それは私が説明させてもらおう」
胸の前で小さく手を上げた結さんは、脇にあったノートパソコンを開く。
松江は俺を見つめたまま小さく笑っている。
「おまじないを作った理由……それはずばり、社さんに彼氏が出来たから、だね」
「……?」
「まぁピンとこないのもわかるよ。香西君は男の子だし、社さんの彼氏だからね」
人に言われると体がムズムズするなぁ。
しかし、奏に彼氏が出来たのとおまじないにどんな関係があるのか。
「社さんって学年問わずモテるんだよ。うちのクラスの男子も社さん狙いの人多かったし」
「へ、へぇ……」
「心配しなくても大丈夫。所詮口だけの奴らだ」
奏がモテるのは知っているつもりだったのに、いざそう聞くと胸がざわつく。我ながら女々しいな……。
「そんで、モテる社さんは女子からしてみれば恋敵……まではいかなくても、意識せざるえない存在であることはわかるよね?」
「……自分の好きな人の好きな人が奏ってことか」
「そう。だから、女子にとって社さんに彼氏が出来たことは嬉しいことなんだよ。好きな人を振り向かせるチャンスが来たってことだからね」
「それを後押しするためにってことですか?」
「否定はしないけど……私たちはその気持ちを利用したって感じかな」
「利用?」
「このおまじないは新聞部アカウントの宣伝みたいなものなんだ。香西君もフォローしてくれたよね」
パソコンの画面には、ずらりと名前が並んでいた。
どうやら新聞部のアカウントをフォローしている生徒の名前のようだ。
「正直、内容は何でもよかったんだ。校内で話題になれば。そのときちょうど社さんに彼氏が出来たってみんな騒いでたから恋愛関係のことにしようってなって、副部長と二人でおまじないを考えたんだ。タイミングも夏休み前でちょうどよかったしね」
「何で俺だったんですか?」
「私も副部長も君に興味があったからかな。あの社さんを振り向かせるほどの子に。結果、君を選んで正解だった」
今の話で色々と疑問は解けた。
松江が協力的だったこと、奏の女子人気が上がったこと、おまじないのタイミングや俺が選ばれたこと。
でも、ここまでしておいて簡単にツイートを消したのはなぜなのだろう。
まさか、これ以上の何かをやるつもりなのだろうか。
そして俺は、もうそれに巻き込まれているのではないだろうか……。
「この件の説明は大体こんな感じだ」
にこりと笑ってそう締めくくった結さん。
「……さて、ここからが本題。副部長」
「はい。香西君、今から聞く話はとりあえず他言無用でお願いできるかな」
笑顔から一転、結さんは真面目な顔になると、胸ポケットに刺していた眼鏡をかけてパソコンの画面を慣れた手つきで切り替える。
俺に熱い視線を送っていた松江も、ドアの鍵とカーテンを閉めながらそう言った。
なんだ、何が始まるんだ……。
「香西君。来たる二学期は、イベントが目白押しなのは知っているね?」
「は、はぁ」
夏休みが明ければ、イベントづくしの二学期が始まる。
体育祭に文化祭、俺たち二年生の修学旅行も二学期にやるはずだ。
「私たち新聞部は、その中でも文化祭に注目している」
結さんがくるりと半回転させたパソコンの画面には、『外号!文化祭新聞』と大きな見出しが書かれていた。けど、それ以外は全くの白紙だ。
「実は僕たち、とあるルートから文化祭についての重大な秘密を聞いたんだ」
「秘密?」
松江は小さく息を吐くと、身を乗り出してちょいちょいと手招きする。
まつ毛長っ! なんて思っていると、「耳貸して」と小声で言われ顔が熱くなる。
「まだ確信があるわけじゃないんだけど……今年の文化祭は、あの桜井女子学園と合同で開催するって話が出てるんだ」
読んでいただきありがとうございます!
今回ちょっと長くなるので二話にわけます。すいません。
ブクマ、評価感謝です!




