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「拓人、ちょっといいか?」

「おう。……どうした?」


 放課後になり教室を出ると、友人である三野谷斗季が手招きをして俺を呼び止めた。が、斗季の様子は、いつもの明るくキラキラした感じではない。

 誰と接するときも常に明るい斗季がこんなに暗い雰囲気をまとっているのは珍しい。何かあった……なんて、聞かなくてもわかる。


「……場所変えてもいいか?」

「いいけどちょっと待ってくれ」


 一緒に帰る約束をした奏に斗季と話す旨を伝え、中庭に移動した俺と斗季。鯉が泳いでいる池の近くのベンチに座ると、斗季が口を開いた。


「土曜日のデートどうだったよ」

「あぁ……まぁ普通だったな。遅刻したことを除けば」

「拓人が遅刻とか珍しいな。緊張で寝れなかったとかだろ?」

「さすがだ。もうちょっと複雑な理由はあるけどな」


 親と姉さんにも責任は少しくらいあるはず……。過ぎたことなので気にしても仕方ないけど。


「社さん時間とか厳しそうだけど、許してくれたのか?」

「女神だからな。全く気にしてないどころか、心配までしてくれてた。自分が情けなくなったわ」

「さっきも仲良さそうだったもんな。デートで何かあったことは俺じゃなくてもわかる。あんな可愛い子絶対手放すなよ?」

「フラグっぽいこと言うなよ……」

「まぁ拓人なら大丈夫か。社さんも拓人を見つけるなんてなかなか見る目あるし」

「悪目立ちだったけどな……」


 授業中はぼーっとしてて、休み時間は寝てるから目立っていたと奏は言っていた。

 真面目な奏には、俺が不真面目な生徒に映っていただろう。文化祭がなければ、奏の印象は悪いままだったに違いない。


「って、俺の話は別にどうでもいいだろ。そっちの話だ、そっちの」


 デート終わりのことを思い出し、余計なことを口走る前に話の舵を切る。

 どいつもこいつも人の恋愛ばっかり聞きやがって。初めてだから全部話しちゃうだろうが。

 そんな浮かれ気分な俺と違い、斗季は重苦しいため息を吐くと肩を落としてうなだれる。


「……どうした」

「土曜日、俺も合コンあったんだけどさ」

「あぁ、そうだったな」


 俺と奏がデートをしている裏で、斗季は、桜井女子学園の子たちと合コンをしていたはずだ。

 俺よりもはるかに彼女を欲しがっている斗季は、持ち前のコミュニケーション能力を活かして、そういうイベントごとを開くことが多々ある。

 去年まで俺も誘われてたまに参加することはあったが……特出して話すようなことはない。女の子たちは俺に見向きもしなかったからな……。

 俺なんかよりイケメンで話も面白い斗季や、愛想のいい斗季の友人たちの方が話しやすいのはわかる。わかるけど……俺は雑用じゃないよ? 注文とかドリンクバーとか、いろいろ取りに行ってた記憶しかない。

 まぁ受け身の俺じゃ合コンは向いてなかったのかもな……。


「……どうだったんだ?」


 苦い思い出を胸にしまって、斗季に合コンのことを聞いてみる。


「みんないい子だったよ。年は一つ下だったけどしっかりしてたし、おしゃれで話しやすかった。何よりもみんな可愛いんだよな。仕草一つとっても女の子らしいし、それとお嬢様の気品が相まって、さすが桜井女子学園の生徒って感じだった」


 よくすらすらと人のことを褒めれるな。これが斗季のモテる所以だろう。

 しかし、俺が聞いたのはどんな子が来たかではなく、斗季の言葉を借りるなら、運命の出会いがあったかどうかだ。

 彼女ができたから言うわけではないが、斗季にも運命的な出会いが早く来てほしい。

 斗季の彼女なんて絶対幸せ者だ。俺が女なら斗季と付き合ってたまである。何それきもい。


「そう言う割には、暗いな」

「拓人にはバレてるか」

「それで隠してたつもりなら演技の才能はないぞ」

「拓人も朝から元気なかっただろ。隠してるぽかったからそっとしてやってたんだぞ」

「おま……、好きになってもいいか」

「やめろ。どうせ緋奈ちゃんと喧嘩したとかだろ? なら俺にできることとかないし」

「さ、さすがだな……」


 こいつ俺のことわかりすぎだろ……。前世で付き合ってただろこれ。何それきもい。

 そんな友人の愛に若干引いてしまったのが顔に出てたのか、斗季は苦笑いを浮かべもう一度ため息を吐く。


「まぁその、合コンは楽しかったんだけどさ……なんかいつもと違うと言うか。集中できなかったと言うか」

「もしかして夢前川のことか?」


 決して今思い出したわけじゃないが、今回の合コンには、バイトの後輩である夢前川ソフィアも参加していたはずだ。

 夢前川の目的は出会いではなく友人と遊ぶためで、知らない男の人がいるのは嫌だからと、俺に来てほしいなんて頼んできた。

 残念ながら俺は奏とのデートがあり断ったが、斗季がいれば大丈夫だと夢前川には伝えておいた。

 もしかしたら、夢前川の件で何か不都合があったのかもしれない。夢前川のことだ、ズバズバと斗季に文句を言って困らせた可能性もある。


「夢前川さん? あぁー。俺たちとはあまり話さなかったけど、友達とは楽しそうにしてたな。イギリスと日本のハーフってこともあって美人だったし、俺たちも無駄に緊張した」

「そうか。すまんな」

「いいって。それに原因は夢前川さんじゃなくて……藍先輩なんだよ」

「お、おぉ戸堀先輩か……」


 夢前川が原因じゃないことに安堵したのも束の間、斗季の口から出た予想だにしなかった名前に、思わず体が強張ってしまう。

 先日俺は、戸堀先輩が斗季のことを好きだということを見破ってしまった。

 その際協力するなんて言ったものの、俺は奏のことで手一杯で、何もできていないのだ。

 先輩にはいつもお世話になってるし何かしてやりたいが……正直、何をすればいいのかわからない。


「合コン中だけじゃなくて、最近、藍先輩のこと考えてることが多くてさ……。多分俺、藍先輩のこと好きなんだと思う」

「っ⁉︎ な、なるほど……」

「なんだよ、なるほどって」

「い、いやちょっと驚いただけだ」


 これはもしや……両想いってやつなのでは? 俺の協力とかいらないな、これ。

 戸堀先輩も斗季を振り向かせるため頑張ってたみたいだからな、本人に教えたら喜びそうだ。俺までドキドキしてきちゃった!

 しかし、斗季の表情は依然として変わらない。とても恋をしてるやつの顔じゃない。

 咳払いをして「どうするんだ?」と聞いてみる。


「俺さ、今の藍先輩との関係って結構好きなんだよ。昼休みにたまに飯食べたり、テスト前拓人と一緒に勉強教わったり、高一の文化祭とかすげー楽しかっただろ? だから……どうすればいいのか、わからないんだ」


 そうか、戸堀先輩と斗季が両想いなのを知っているのは俺だけだ。

 斗季はきっと、戸堀先輩は自分のことを恋愛対象として見てない、と思っている。だから、告白して振られれば、これまでの関係では間違いなくいられなくなると考えているのだろう。

 友情を取るか、上の関係を目指すか。斗季はそう悩んでいるに違いない。

 ……俺は、空を仰いで胸の中で叫んだ。


『それ悩む必要ないやつだから!』


 しかしここで「戸堀先輩も斗季のこと好きだぞ」なんて言ったら、こんなに悩んでる斗季にも申し訳ないし、戸堀先輩にも怒られそうな気がする……。

 なんて……なんてもどかしいんだ!

 まぁとりあえず、戸堀先輩の気持ちを俺から伝えるのは違う。そんでもって、真剣に悩んでる斗季の前でヘラヘラも出来ない。

 今まで助けてもらった分、斗季の助けにもなりたいしな。


「斗季の気持ちはわかった。俺はいいと思うけどな。まぁ決めるのは斗季だし、どっちにしろ俺は斗季の味方だ、出来ることは協力する」

「拓人……。好きになってもいいか」

「やめろ。気持ち悪い」

「お前もさっきやっただろ……。まぁ、さんきゅ」


 俺の友人三野谷斗季と、先輩の戸堀藍。

 この二人が結ばれたら、それはもう自分のことのように喜ぶ自信がある。

 それくらい二人は、俺にとって大切な人たちだ。

読んでいただきありがとうございます!


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