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 奏との話し合いが終わった直後、パンとコーヒー牛乳持った横山が食堂にやって来た。俺と奏を見つけると、奏の隣に腰掛ける。


「ごめーん、遅くなったー」

「ううん、今から食べるところだったから」

「教室で食べるんじゃなかったのか」

「言ったでしょ、一旦戻るって。かなにたっくんのこと教えてあげるためにね」


 走って来たのか「暑いー」と言いながらシャツをパタパタさせる横山。額には薄っすら汗が滲んでいた。


「いただきます」

「いただきまーす」


 食事を始めた二人に合わせて食べるペースを緩めながら、カツカレーを胃の中に流し込んでいく。

 周りを見やれば、みんな食事をしながらも奏と横山という組み合わせに目を奪われていた。

 やはり横山も人の目を引くほどの魅力がどこかにあるのだろうか。外見を除けば、俺には全くこれっぽっちも検討はつかない。

 斗季ほどでないにしろ、横山も先輩や後輩に知り合いが多くいそうだな。全くこれっぽっちも興味ないけど。

 二人より早く食べ終えた俺は、食器を返すため一度席を離れる。こんな気の休まらない食事は、奏と初めて昼飯を食べたとき以来だ。


「ごちそうさまでした」

「ありがとうございましたーって、あらさっきの」

「あぁどうも、美味しかったです」

「何言ってるの、ただのレトルトカレーに薄いカツを乗せただけなんだから、どこにでもある普通の味よ」

「あはは……」


 作ってる人がそれ言っていいのか……。


「それよりもあんた、見かけによらず両手に花なんて、やるわね」

「あれは……偶然ですよ」

「やっぱり学生はそうじゃないとね〜。うちの娘なんて男っ気が全くなくて面白くないのよ」

「娘さんいるんですね。若いのでてっきり」

「あらやだもう、いくつに見える? なんて、めんどくさいおばちゃんでごめんね」


 笑いながら、水の溜まったシンクに食器を次々と沈めていく。

 自分でおばちゃんと言ってるが、娘がいるとは思えないほど若く見える。青倉先生に女性に年齢の話題はダメだと教育されてるので、明確な数字は口に出さなかった。青倉先生の言うことは絶対だからな!


「じゃあお仕事頑張ってください」

「はい、ありがとね」


 仕事の邪魔にならないよう話を切り上げて、奏たちのところへ戻る。どうやら二人もちょうどご飯を食べ終えたようだ。


「あ、かな土日暇だったら遊びに行かない? もしかしてたっくんとデートの約束とかしちゃった?」

「ううん、今のところなんの予定もないけど……」


 ゴミをかたしながら奏を遊びに誘う横山。

 誘いを受け、弁当の包みを結ぶ手を止めた奏は、ちらりと俺に視線を送ってくる。


「あー……すまん。土日はどっちともバイトだ」

「そ、そっか。うん、そうだよね」

「じゃ、今週はかなのこと借りますね〜」


 付き合い始めたら毎週遊びに行くものなんだろうか……。まだ奏のこと気軽に誘える気がしないんだけど。

 そんな俺を差し置いて、奏の腕を抱きついた横山は、必要以上に奏の体を(まさぐ)りはじめた。


「あ、あの、横山さんっ、く、くすぐったい……っ」

「横山さんー? まだそんな他人行儀な呼び方をする悪い子はこうだぞ〜」


 きっちりとボタンを閉めた奏のブレザーに横山の右手がにゅるりと入っていく。空いた左手は、奏の太ももをすりすりと上下に行ったり来たり。

 わずかな吐息を漏らしながら我慢する奏だが、その吐息がいやに艶かしい。


「かなって思ったよりむちむちしてて柔らかいのよね。太ってるわけじゃないのに……なんでだろ」

「い、やぁ……っ」


 今、ブレザーの中で何が行われているのか俺に知るよしもない。俺の頭にあるのは、奏はむちむちしてて柔らかいと言う情報だけだった。


「なにたっくん。たっくんも触りたいのぉ?」


 二人の絡みに傍観を決め込んでいた俺に、得意げな笑みを浮かべた横山から声がかけられる。その間も手を休めていないのか、奏の息遣いがどんどん荒くなっていく。


「触りたくねぇよ……。それより奏がもう限界そうだから離してやってくれ」


 少し遅れてしまったが奏に助け舟を出す。ほんとやむを得ない事情さえなければすぐに出したよね。ほんとだよ?


「よ、よこ……、こ、この、は、さん、や、やめてくだ、さい……」

「彼氏さんからもストップ出たし、今回はここまでにしとこっかな」


 横山がパッと手を離すと、奏は倒れるようにテーブルに突っ伏した。

 髪は乱れ、肩で息をするほどのダメージを受けてしまったようだ。


「やりすぎだろ……」

「かなが我慢するからついねー。私の調子もよかったし」


 感触を思い出すかのように、手を怪しく動かす横山。

 奏は変な友達を持ってしまったようだな……。


 奏の息が整い、本題だった休日の約束を二人が取り決めたところで、俺たちは席を立った。


「ゴミ捨ててくるねー」


 そう言って横山が席から離れると、奏が俺の袖を控えめに引っ張ってくる。


「……もっと早く助けてほしかったです」

「あぁ……すまん」


 つーんとそっぽを向いて文句をたれる横顔に軽く頭を下げる。しかし奏も本気で嫌がっているわけじゃなかったような。


「いつもやられてるわけじゃないのか? 抵抗はあまりしてないように見えたけど」

「いつもはあんなに長くなくて、すぐやめてくれるんだけど、よこ……木葉さんって呼ばなかったから」

「……仲良さそうでなによりだな」

「友達、だから」


 さっきのは友達だからで片付けられるほどのことじゃなかったと思うけど……。まぁ奏がいいなら俺はそれを見守るだけだ。


「それより拓人君」

「ん?」

「触りたくないは……傷つきます」

「聞いてたのか……。さっきのはあれだ、触りたくないわけじゃなくて、横山に言われて反射的に口に出たというかなんというか……」

「じゃあ……ほんとは、触りたいってこと?」


 上目遣いになり、髪を耳にかける奏。

 ここで嘘をついても話は進まない。それに、奏との関係を進展させるためには、横山まではいかなくても、多少のスキンシップは必要になる。

 なのでここは正直に……小さく首を縦に振っておく。


「お待たせーって、どったの?」

「「っ⁉︎」」


 横山が戻ってくると袖の違和感がなくなり、俺と奏はお互い逆方向に顔を背けた。


「ふっ。いちいち初ね、お二人さん」


 横山に笑われるのは癪だが、俺と奏の関係は、まだまだこれからのようだ。


読んでいただきありがとうございます!

感想、評価もありがとうございます!

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