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※52

※付きの物語は、視点が、主人公以外のキャラの物語となっています。


「うーん……っ、はぁー……」


 布団の上で伸びをすると、ぼんやりした視界が、徐々にはっきりとしていく。

 枕元の目覚まし時計に目をやると、朝の6時をさしていた。


「よく寝た……」


 今日はとっても寝覚めがいい。デートが楽しみで、いつもより早く寝たおかげかな。


「よしっ」


 畳んだ布団を押し入れにしまって居間に行くと、おばあちゃんが朝ご飯の準備をしていた。


「おはよう、おばあちゃん。私も手伝うね」

「かなちゃんおはよう。ありがとうねぇ。おじいさんは庭で体操しているよ」

「はーい」


 居間の窓から庭を覗くと、おばあちゃんの言う通り、ラジオ体操をしているおじいちゃんがいる。

 邪魔しちゃうと悪いから、終わるまでに歯を磨いてしまおう。


「かなちゃん、最近楽しそうだねぇ」

「え、そ、そうかな……?」

「よっぽどいいことがあったんだろうねぇ」


 洗面所から帰ってきた私におばあちゃんは、ニコニコ笑いながら聞いてきた。

 ご飯の準備を手伝うと言ったものの、おばあちゃんとおじいちゃんは起きるのが早くて、ほとんどご飯は出来上がっている。


「奏、起きたなら挨拶くらいしなさい」

「ごめんなさいおじいちゃん。おはようございます」


 体操を終えたおじいちゃんも居間にいて、温かいお茶を飲んでいた。

 私が挨拶をすると、「飯にするぞ」と小さく呟き、座るよう促してくる。


「いただきます」

「「いただきます」」


 おじいちゃんの後に続いて手を合わせ、お味噌汁に箸をつける。

 厳格なおじいちゃんと、いつも優しいおばあちゃん。この家には、私を加えて、この三人しかいない。


 私は、小さい頃から、おじいちゃんとおばあちゃんと三人で暮らしている。

 両親は、私が三歳のときに交通事故で亡くなった。昔からの友人と買い物に行く途中だったらしい。

 父と母がいないって理解し始めたのは、小学校に上がる少し前のことだった。

 幼稚園の卒園式。周りの子たちは、みんな両親が来てるのに、私には、おじいちゃんとおばあちゃんが来た。

 その帰り道に、私は聞いてしまった。


『お父さんとお母さんは、どこにいるの?』


 私は、このことをずっと覚えている。

 おじいちゃんの困った顔を、おばあちゃんの悲しそうな顔を。

 二人はすぐに父と母のお墓に連れて行ってくれた。

 実は、毎年お墓参りには来ていて、誰のお墓なのか私が知らないだけだったらしいけど。

 もちろん、初めて聞いたときは驚いて、泣いて、おじいちゃんとおばあちゃんに迷惑をかけてしまった。

 でも二人は変わらず接してくれた。まるで、本当の親みたいに。


 私にとって、おじいちゃんとおばあちゃんは、親であり、大切な家族であり、恩人だ。

 だから私は、あの日から、二人に迷惑をかけないよう心がけている。


「洗い物は私がするよ」

「ありがとうねぇ」

「ううんいいよこれくらい」

「かなちゃんはほんといい子だねぇ。ねぇ、おじいさん?」

「……ふん。毎日言わなくてもいい」


 そう言って、脇に置いてあった新聞に手を伸ばすおじいちゃん。

 それを合図に、私とおばあちゃんは食器を台所に運ぶ。


「かなちゃん、今日もどこか出かけるのかい?」

「えーと……うん。ごめんなさい」

「謝ることないよ。高校生なんだから、元気に出かけないと」


 私は昔から、あまり家を出ることがなかった。

 友達がいなかったのも理由の一つだけど、一番は、おばあちゃんにいろんなことを教わるのが好きだからだ。

 絵本を読んでくれたり、昔遊びを一緒にしたり、最近は、料理を教えてもらっている。

 物知りでなんでもできるおばあちゃんは、私の憧れなんだ。

 柔らかい笑顔を浮かべると、おばあちゃんは食器を洗い始めた。それに続いて、私も急いで取り掛かる。


「あのね……おばあちゃん」

「どうしたの?」

「私ね、その……友達ができたんだ、たくさん」


 ここ最近で、私の周りは、目まぐるしく変化した。

 一年前の私じゃ考えられないくらい、たくさんの友達ができた。

 横山さん、加古さん、滝さん、三野谷君、戸堀先輩にクラスのみんな。氷上さんは……友達、なのかな?


「だからね、とっても楽しいよ」

「そう、よかったねぇ」


 今は、心からそう言える。今までの私とは、違う。

 もう二人には、あのときみたいな顔はさせたくない。


「かなちゃんは可愛くていい子だから、お嫁さんになるのも早いかもねぇ」

「お、お嫁さん⁉︎」


 突然大きな声で何言ってるの⁉︎

 すると、後ろから紙の破れる音が聞こえてきた。

 振り返ってみれば、おじいちゃんが新聞を真っ二つに割いて固まっている。

 たしか今日は、家の隣の道場で近所の子供たちに柔道を教える日だからそれの練習かな?


「おばあちゃん気が早いよ!」

「ふふ」


 もしかしておばあちゃんは気付いてるのかな……。

 私に友達以外の大切な人ができたって。

 でも、二人にお付き合いしてる人がいるって伝えるのは、まだ恥ずかしいな……。


「私とおじいさんは嬉しいよ。かなちゃんがわがままを言ってくれて。今度、おばあちゃんにスマホの使い方教えてねぇ」

「うん……!」

「あと、おじいさんにも。あの人、素直じゃないからねぇ」

「ばあさん聞こえとるよ」


 破いてしまった新聞をテーブルに広げ、器用に読み進めるおじいちゃんは、こちらに目もくれず言った。

 私とおばあちゃんは目を合わせて笑って、洗い終わった食器を棚に立てて並べていく。

 私も、おじいちゃんとおばあちゃんみたいな夫婦になりたい。まだ全然先の話だけど……。

 まずは、今日のデートだよね!



 香西君との約束は、11時に駅で集合。何度もメッセージを確認したから大丈夫のはず。


「よしっ、完璧……だよね?」


 着ていく服は前日に何度も確認したし、髪型もバッチリ。

 普段からある程度格好には気を使ってるけど、香西君に見られると思うと、どこか不安が残っちゃうな……。


「かなちゃん、おばあちゃんそろそろ洗濯物をしたいんだけどねぇ」

「っ! ご、ごめんなさいおばあちゃん! 今終わったよ!」

「いつものかなちゃんも十分可愛いけど、おめかししたかなちゃんはもっと可愛いねぇ」


 おばあちゃんに洗面所を明け渡して自分の部屋に戻った私は、全身鏡で服を今一度確認し、最後に手鏡で前髪を整えて、充電しているスマホを手に取った。


「……あれ?」


 香西君からメッセージが届いているか確認しようとしたのに、スマホは画面が真っ暗のまま、うんともすんともいわない。


「こ、壊れちゃったのかな……?」


 充電器に刺してたから充電はできてるはず……。


「あ、コンセントに刺さってない……」


 社奏、何という失態。昨日早く寝たのが仇になっちゃた……。

 集合時間まであと一時間しかない。そろそろ家を出ないと、香西君を待たせちゃうよ。


「……置いて行こう」


 壊れてないことに安堵して、スマホを置いていくことを決意。

 横山さんに教えてもらったモバイルバッテリーってやつがあればいいんだけど、持ってないからなぁ。今日、買えたら買おう。


 服と髪型の最終確認して家を出た私は、道場の掃除をしていたおじいちゃんにも挨拶をして、集合場所の駅に向かった。

 香西君の家は私の家と近いはずだから、いつもばったり合わないか期待してるんだけど……、なかなかうまくいかない。

 歩くこと数分で、駅に到着。


「10時07分……、ちょっと早かったかな」


 周りを見渡しても、香西君の姿は見当たらない。

 遊園地のときも、勉強会のときも、すぐに香西君を見つけたときは驚いた。

 だって香西君、学校に来るのはいつも遅いから。


「今日は……いない、よね」


 何でガッカリしてるんだろ。まだ集合時間じゃないから、別におかしくはないのに。


 高校一年生のときからずっと気になっていた男の子。

 気がつくと彼ばかり目でおっている自分がいた。

 その男の子と、私は今日、初デート。


「……早く会いたいなぁ」


 でもその日は、これからたくさんするデートの中で、香西君が唯一遅刻をする日だったんだ。

読んでいただきありがとうございます!


ブクマありがとうございます。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 一時間前なのに充電せずに待とうとするなんていい子 普通なら三十分は充電しますよ
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