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久しぶりの

 いよいよ社と約束した土曜日がやってきた。

 ここ数日は、どうも社を意識してしまって上手く話せていない。

 最近の社は、周りの目を気にすることなく、教室で俺に話しかけてくるようになった。その度に男子からは嫉妬の眼差しを向けられるし、女子からは変な勘ぐりをされるので、いつもより緊張してしまうのがその原因だ。

 この社の変化は、やはり俺に対する好意なのだろうか……。

 いや、今は深く考えないほうがいい。テストが終わったら、俺は社に告白すると決めたのだ。たとえ社が俺のことを好きでも、そうじゃなくても。

 今日は、そのための前哨戦と言っても過言ではない。まぁ冗談抜きでテストが危ういので、今日と明日は真面目に勉強するつもりだ。


「行ってきまーす」


 準備を整えて家を出る。

 時刻は昼の12時を少し過ぎた頃。集合時間は1時なので、結構余裕がある。

 こんな早くに出た理由は、お昼ご飯を外で済ますためなのと、前の遊園地のときみたく社が早い時間に来る可能性あるからだ。

 いつもお昼ご飯を作ってくれる緋奈も、今日は友達と勉強会らしい。

 見慣れた住宅街を歩くこと数分、駅が見えてきた。

 社とは昨日の夜、とりあえず駅に集合して、近くの店で勉強しようと話し合っている。

 そこそこ栄えている駅周辺は、休日の昼ということもあって人が多い。

 駅構内も、併設している施設から人が出たり入ったりしている。

 この施設のご飯屋さんで昼飯を済まそうと思っていたが、これは難しそうだな……。

 まだ時間に余裕はあるし、駅から少し離れて店を探そうなんて考えていると、俺が入ってきた南側ではなく、北側の方から構内に入ってくる社の姿を見つけてしまった。

 ほぼ同じタイミングで社も俺に気づいたようで、胸の前で小さく手を振っている。


「うっす、早いな」

「うっす。香西君もね」


 小走りで駆け寄ると、社は笑顔で迎えてくれた。

 今日の社は、体育のときに見るポニーテールに、白生地に薄いチェック柄が入ったブラウスと、腰あたりまで上げた紺色のスカートを合わせていて、ブラウスの上には白色のパーカーを羽織っている。肩にかけているカバンに教材が入っているのだろう。


「どう、かな?」


 社の服装をまじまじと見ていると、頬をわずかに染めた社が、上目遣いで聞いてくる。


「……似合ってるな」

「あ、ありがとう……」


 これで社の私服を見るのは三度目になるのか。

 毎回思っていたが、社の私服姿可愛すぎるだろ。今回可愛さが増して見えてしまうのは、多分好きになってしまったからだな……。

 教室では周りのことを気にしなくなった社だが、ここではそんなことないようだ。


「い、行くか」

「う、うん」


 周りの視線から逃げるように一度駅から出た俺と社は、遠回りして施設の中に入った。

 駅に併設されているこの施設の中には、いろいろな店が並んでいる。

 一階は、主にお持ち帰りメインの飲食店。パン、ケーキ、みんな知ってるドーナツ屋さん。常にいい匂いが漂っていて、ついつい買い食いすることがある。

 二階はファミレスやカフェ、定食屋さんといった店が多い。斗季と横山とこの前来たのが、ここのファミレスだ。

 三階は丸々本屋さんだったはず。四階はCDショップとおもちゃ屋さんだったような。あまり行かないのでこの辺は曖昧だ。


「いい匂いだね」

「だな。腹減った」

「もしかして、お昼ご飯食べてない?」

「すまん。早く来て食べようと思ってたんだけど」

「謝ることないよ。じゃあ……一緒に食べよっか。実は私も食べてなくて」

「そうなのか。集合する時間間違えたな」

「そうだね」


 二人で笑って、エスカレーターで二階に上がる。

 もしかして社もどこかで食べるつもりで早く来たのだろうか。だとしたら運命すぎませんかね……。

 しかしちょうどお昼どきで、どの店もお客さんが待っているようだ。

 フロアをぐるりと一周して社の希望を聞いた結果、ファミレスで食べることになった。

 レジ横に置かれた紙に俺の名前を書いて、空いた椅子に社と並んで座る。思ったよりも間隔がなく、少し動けば肩が触れてしまいそうな距離だ。

 揺れたポニーテールからシャンプーの匂いがする。横顔を盗み見れば、社も目を泳がせていて、距離の近さに戸惑っているようだ。


「なんでファミレスなんだ?」


 咳払いをして、気まずさを払うようにそう切り出すと、社はちらちらと目を見ながら答える。


「え、えーと、この前横山さんたちと来たときにね、パパッと注文してたから、他にどんなメニューがあるのか気になって。私の家外食とかあんまりしないから」

「あー、わかるぞそれ。俺もこの前、斗季と横山の二人と来たときに同じこと思った」

「香西君も外食しないの?」

「俺は多くないかな。バイトで家帰るの遅いし。家族はちょくちょくしてるっぽいけど」

「そうなんだ。じゃあ香西君と一緒にこれてよかった」

「お、おう……」


 不意に浮かべた笑顔に、胸が強く脈を打つ。

 ここまでなんとか平静を装っていたのに、その笑顔は反則だろ……。

 社を直視できず、頬をかきながら視線を明後日の方向に逃がす。その先には、カップルらしき男女が談笑しながら順番を待っていた。

 もしかして、はたから見れば俺と社もそう見えてしまうのでは……? いや、やめろ、意識するな。今日はただの勉強会。そこに(よこしま)な気持ちは持ち込むべきじゃない。


「二名でお待ちの香西様、お待たせしました」

「か、香西様……」


 なんて思っていると、紙にチェック入れた店員さんに名前を呼ばれた。

 窓際の二人席に案内され、社と向かい合うようにして椅子に座る。


「注文がお決まりになりましたら、そちらのベルでお呼びください」

「は、はい」


 礼儀正しく返事をした社に、店員さんは一礼して厨房に消えていく。


「……どうした?」


 メニューを手に取って、さそっく何を食べるか選ぼうとしたのだが、社がちらちらと見てくるので、気になって仕方がない。


「う、ううん、何でもないよ! ただちょっと、びっくりしただけ」

「そ、そうか」


 何もなかったようには見えないけど、社が言うのなら何もないのだろう。耳は赤いし、目も泳いでるし、「香西……奏……」と自分と俺の名前を交互に呟いてるけど、何もないと言うのだから、信じるしかあるまい。


 それから、長いことメニューとにらめっこしていた俺と社は、やっと何を頼むか決めて、注文を済ました。


「ドリンク取りに行くか」

「うん。一緒に行こう」


 料理とセットで頼んだドリンクバーを二人で取りに行く。俺も社も、ウーロン茶をコップに注いだ。


「飯終わったらどこ行く」

「そうだね……図書館とか?」

「そうするか」


 忘れてはいけない。今日の目的はあくまで勉強なのだ。ご飯を食べたらちゃんと勉強します。

 図書館は、駅からだと少し遠いが、歩いていけない距離じゃない。食後の運動にはちょうどいいかもな。


 しばらくして、テーブルに料理が運ばれてくる。

 俺はランチのハンバーグ定食、社はランチのパスタとサラダのセットだ。


「いただきます」

「いただきます」

「香西君とご飯食べるの久しぶりだね」

「あーそうだな」


 たしかに社とは、最近学校でお昼を食べていない。

 最近の社は、横山やクラスメイトの女子たちに囲まれていて、俺はもちろん、話しかけたい男子たちも近寄れない状態だ。

 たまに社の方から俺に話しかけてきても、意識して上手く話せないしな。


「はいお箸」

「あー、すまん」


 社から箸を受け取って、ハンバーグを一口食べる。うん、うまい。社もフォークとスプーンを使って、器用にパスタを食べている。


「美味しいね」

「だな」


 ふわふわと漂う心地よい雰囲気に、二人とも思わず笑みをこぼす。

 社のこの笑顔を独り占めしたい。ずっと見ていたい。

 今すぐ好きって伝えられる勇気を持っていたら、どれだけいいだろう。


読んでいただきありがとうございます!

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