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占い

「なんだ……よかった」


 先輩の反応に戸惑いながらも、遊園地でのことを簡単に話し終えると、先輩はホッと胸をなでおろした。

 じっとその顔を見つめれば、わずかに頬を染め、ジト目で睨んでくる。

 高一の頃から気づいていたのだが、戸堀先輩は、俺と斗季の扱いが明らかに違う。

 例えば名前。俺のことを後輩や君と呼ぶのに対して、斗季のことは、斗季君と親しげに呼んでいる。

 それに斗季の足を踏んだりはしないし、斗季の前で今みたいに大げさなリアクションもとらない。 やけに女の子らしいというか、意識しながら振舞っているように思う。

 ……これから導き出される答えは一つしかないな。


「もしかして先輩って……」

「っ……。な、何」


 ジト目のまま目を泳がせる戸堀先輩に、思い切って聞いてみる。


「俺のこと嫌いなんですか?」

「ちち、ちが、私は斗季君のことはなんとも……へ?」


 手を前に突き出して目を瞑った先輩は、素っ頓狂な声をもらしてこっちを向く。そして、目を瞬かせると、真顔になって姿勢を正した。

 なんで斗季が出てきたのか謎だな。


「はぁー……」

「ずいぶん大きなため息ですね……」


 こめかみを抑えて、ため息を吐きながら首を小さく横に振った先輩は、呆れたような視線を俺に向けてくる。


「君のその性格は、誰のせいなのかな?」

「え、性格ですか?」

「まぁ私が気にするような問題じゃないからいいや。君の質問に答えるとしたら、嫌いじゃない。嫌いだったら勉強なんて見てあげないでしょ」

「それもそうですね」

「それより、ほんとにその横山って子と斗季君は付き合ってないんだよね?」

「本人たちが言ってるんで間違いないです。気になるなら本人に聞いてみたらいいじゃないですか」

「そんなことしたら……、も、もういい! この話おしまい!」


 顔を赤くして手元に置いてあるノートをパラパラとめくり始める先輩を不思議に思いながら、俺もカバンから教科書とノートを取り出す。


 今日、俺がここに足を運んだ理由は、戸堀先輩に勉強を見てもらうためだ。

 高一のときから、定期テスト前は、斗季と二人で先輩に勉強を見てもらっている。パッとしない成績だった俺と斗季の成績が上がったのは、戸堀先輩のおかげなのだ。

 俺はバイトを続けるために家族から課せられた条件をクリアすることができ、斗季は成績と比例してお小遣いがアップしたとのこと。

 俺たちにとって戸堀藍は、先輩であり、先生であり、恩人なのだ。まぁ見た目は幼いけど。


「それにしても斗季遅いですね」

「どうしたんだろうね」

「ちょっと連絡を……」


 と、俺がスマホを取り出そうとしたと同時、三回ノックされたドアの向こうから、斗季の声が聞こえてきた。

 一度咳払いした先輩が「はーい」と返事をすれば、ドアを開けて斗季が保健室入ってくる。


「失礼します」

「斗季君、遅かったね」

「ごめんなさい先輩、ちょっとそこで話してて」

「そうだったの」


 軽く頭を下げた斗季を見て、戸堀先輩は嬉しそうに笑みを浮かべる。

 いつのまにか自分に寄せていた丸椅子をぽんぽんと二回叩いて、先輩は斗季に小さく手招きをしている。

 俺のときと全然対応が違うのは気にしたらいけないんだろうな……。あとその椅子俺が運んだやつだし。

 戸堀先輩に半目を向けるも、先輩はまるで気にしていない。


「実は今日お客さんがいるんですけど」

「お客さん?」


 斗季が言いながら振り向くと、先輩は手招きの手を止めて首を傾げる。


「し、失礼します」


 斗季の後ろから現れたのは、綺麗な瑠璃色の髪が特徴的で、整った顔立ちに完璧なスタイルを持った学校でも有名な美少女だった。

 なんで社がここに……?


「君は……?」

「や、社奏と言います」

「あぁ君が社さんか。後輩君から聞いてた通りすごく可愛い子だね。でもどうして斗季君と?」

「……なんで俺に聞くんですか」


 固まった笑顔を向けてくる戸堀先輩に、知らないですよと首を振る。

 斗季に視線を送って説明を求めると、経緯を簡単に説明してくれた。

 どうやらここに向かっている途中の廊下で、青倉先生と話している社を見つけたらしい。

 軽く挨拶をすると、青倉先生がこの勉強会のことを社に教えてしまったらしく、ここに連れてきたようだ。


「なるほど。でも後輩君から話を聞く限り、とても私の教えが必要だとは思わないんだけど」

「あ、いえ、私は教えにきてもらったんじゃなくて、教えにきたんです。その、青倉先生に言われて……」

「清ちゃんに……。と言うことは、後輩君か」

「その、後輩君と言うのは……」


 先輩と社のやり取りをぼーっと聞いていたら、二人の視線が急に俺に向けられる。そこで初めて社と目が合った。

 すると社は、「後輩君は、香西君……?」と呟いて目を瞬かせると、頬を染めて、口をつぐみさっと目をそらす。

 まぁさっきまで同じ教室にいたし、どう挨拶すればいいのかわからないよな。俺も何も言えなかったし。


「……ははん、なるほど」

「どうしたんですか?」

「ううんなんでもないよ。斗季君、自分で椅子取って。社さんは、私の隣に」

「はい。今日からお願いします藍先輩」

「は、はい」


 この場所では保健室の先生を抜くと、戸堀先輩は一番偉い。つまり、先輩の言うことは絶対なんだぜ……。


 各々席につき、いよいよ勉強が始まるのかと思いきや、先輩はノートを開こうとしない。俺と斗季以外の来客が珍しいのか、社に興味津々だ。さっきまで社の名前を聞いても、あんまりいい顔はしてなかったんだけどな……。


「先輩そろそろ始めましょうよ」

「待って。社さん、占いは好き?」


 先輩が社のことを舐め回すように見るもんだから、社は居心地悪そうに身をよじらせ困っている。

 そんな社を見て助け舟を出したのだが、一言で水底に沈み、うんともすんとも言ってない社を置いて、先輩は机の上にカードを取り出す。


「後輩君ノート邪魔だよ」

「えぇ……」

「まぁ拓人、先輩の気がすむまで待とうぜ」

「……お前勉強したくないだけだろ」

「さぁ?」


 わざとらしく口笛を吹く斗季と、嬉々とカードを切る先輩に、俺は仕方なくノートを膝の上に置く。

 俺もね、勉強が好きか嫌いかで聞かれたら、もちろん好きじゃないけど……、おろそかにできない理由もあるわけで。

 そんなことを思いながら、小さく息を吐いた俺を、社がじっと見て小さく微笑む。……可愛いな、おい。


「戸堀先輩は占いができるんですか?」

「趣味程度だけどね。何占ってほしい?」


 俺と斗季も、先輩と出会ったばかりの頃は、よく占いの相手をさせられたな……。

 先輩は主にカードを使って占いをする。手相もちょっと見れるようだが、あまり自信はないらしい。

 社を隣に座らせたのは最初からこれ目当てか。勉強する気あるのかしらん? まぁ俺は教えてもらう側だから強く出れないんだけどね……。


「そう、ですね」


 社も占いには興味があるようで、先輩の質問にうーんと悩んでいる。しかし先輩も意地悪だな。あんた恋愛運しか占わないだろ……。

 そんな社の様子を伺っていると、ちらっと俺を見た社は、前髪を触って少し俯いた。それを見逃さなかった先輩は、「よし」と、カードを並べ始める。


「あ、あの、私まだ何も」

「いいよいいよ、わかってるから」


 わかってるのではなく、決まっていたの方が正しい。

 それにしても社の恋愛運か……気になる。

 一年前、俺が占ってもらったときの結果はたしか、「運命の人は近くにいるけどお互いに背中を向けている」と、言われたような。要約すると、お互いに気づいていないとのことらしい。まぁ一年たっても気づかないんだから、もう気にしてないけどね。ほんとだよ?

 先輩は、上から並べたカードを順番にめくっていく。

 何を占っているのかを知っている俺と斗季は、その結果に耳を傾ける。

 社は、頭にはてなを浮かべたまま先輩とカードをちらちらと交互に見やっていた。

 お、どうやら結果が出たようだ。


「……社さん」

「は、はい」

「あんたは苦労する。主に相手のせいで」

「な、なんのことですか?」


 俺もよくわからんが、社は恋愛で苦労するらしい。主に相手のせいで。

 社の好きになった人はダメなやつなのかもな。まぁ好きになってもらえただけで運を使い果たしたんだろう。


「私は協力するからね。社ちゃん」

「は、はぁ……」


 まだ状況がつかめていない社に先輩は優しく微笑みかける。そしてなぜか俺を見ると、深いため息を吐いた。


「次俺お願いします」

「……斗季君はこの前占ったばっかりでしょ」


 こうして勉強会初日は、勉強しないまま時間がきてしまった。

 今回のテスト大丈夫かな……。


読んでいただきありがとうございます!


誤字報告ありがとうございます。恥ずかしい限りです……。

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