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場所はいつものショッピングセンター。
人の多さは相変わらずで、お前らもっと他に行く場所ないの? と毒づきたくなるほど多い。
駅から段々と増える人に顔をひきつらせてた戸堀先輩だったが、斗季の腕に抱きついて歩いていれば自然と笑みが溢れる。俺だって奏がいれば……。
まぁ今日はその奏の誕生日プレゼント選びを、前を歩く二人が手伝ってくれるらしい。そうならそうと早く言ってほしかった。危うく公衆の面前で土下座するとこだったし、彼氏の前で愛の告白をするとこだったぜ……。
だから今日は我慢だ。誕生日当日、奏の笑顔を見るために。
施設内には、所狭しと店が並んでいる。何度来ても店の名前や場所は覚えられず、いつ来ても新鮮な気持ちになれちゃう。もうね、全部同じ店に見えるのよ。
そんな俺とは違い前の二人は人波に上手く乗りずんずん前に進んで行く。人混みは苦手だからついて行くのがやっとだ。奏といるときはもっと楽なのになぁ。
もしかしたら、奏が俺に色々配慮してくれてるのかもしれない。人の少ない道を選んでくれたり、歩幅を合わせてくれたり、小休憩を挟んでくれたり……。
あれ、これってデート?
「後輩君! 何やってんの!」
「い、今行きます」
なんてことを考えてたら、二人が遠くなっていた。
人に当たらないよう気をつけながら駆け寄ると、戸堀先輩が目の前の店を指さす。
「とりあえずここで探してみようか」
そのお店は雑貨屋さんだった。絶対俺一人じゃ入らないようなおしゃれ空間。聞いたことのない音楽と嗅いだことのない匂いと普段から感じまくってる場違い感。つまり……入りたくねぇ。
「よくそんな嫌そうな顔できるね? 後ずさらないでくれる? 恥ずかしいから」
「これは体が勝手にですね……」
「社さんと付き合ってるからてっきり克服したと思ってたわー」
「苦手なものはそう簡単に克服できない」
「堂々と言うことじゃないよ後輩君……。奏ちゃんと一緒のときはどうしてるのさ」
「奏がお店に入りたいってことほとんどないですからね」
ダル猫が絡まない限り。
「それって奏ちゃんが我慢してるんじゃないの? 本当は一緒にお店に入ってあれこれ見たいと思うよ」
「そうなんですかね……」
これも奏の配慮だろうか。
俺がこんな感じの場所苦手だと知って入らないようにしてる……とか。
「一つ質問だけどさ、奏ちゃんの好きな物ってなに?」
唐突な質問。こんなの簡単だ。
「ダル猫ですかね?」
「他には?」
「他、ですか……他」
「好きなものが一つだけだと?」
ダル猫以外に奏が好きなもの……。
二人でいるときはいつもニコニコしていて、横山ほどじゃないけどおしゃべりな一面もあって、ちょっと甘えん坊なところもあって。
でも、そんな奏の好きなものを俺は、ダル猫以外知らない。
悩んだところで出るわけがない。知ろうとすらしてなかったんだから。
「あのね後輩君。デートっていうのはただ一緒に居ればいいってものじゃないの」
「……はい」
「奏ちゃんはきっと後輩君の好きなものも嫌いなものも知ろうとしてたんじゃないかな? それなのに君ときたら……。奏ちゃんわざわざメッセージで──」
「まぁまぁ藍先輩その辺で。今日は社さんの誕プレ選びにきたんですから。楽しくいきましょう」
「あ……そ、そうだね。じゃあ後輩君着いてきて」
先にお店に入って行く戸堀先輩に続き、俺と斗季もそれについて入る。
ちょっと怒られた……。
奏との付き合い方に問題があるのは重々承知してる。というか問題なのは俺だけだ。
いつも、何をするにも、二人のことで率先してくれるのは奏の方だ。告白も、手を繋ぐのも、キスもそうだった。
だから奏の誕生日だけは、彼氏らしいところを見せなければ! そう意気込んでいたのに……始まる前から色々躓いてるよなぁ。
「はぁ……」
「まぁ気にすんなよ」
そう言って優しく俺の肩を叩く斗季。視線は戸堀先輩に向いている。
「さっき何て言いかけてたんだ? 先輩」
「……あんまり言うのもあれだけど社さん、俺とか藍先輩によく拓人のこと相談してくるんだよ」
「え……?」
「好きなものとか嫌いなものとか、何したら喜ぶとか嫌うとか。もうどんだけ拓人のこと好きなんだよ! ってくらいにな」
「そう、なのか……」
「俺も藍先輩も嬉しいんだよ。こんだけ拓人のこと想ってくれる子がいてさ。だから社さんを応援するつもりで拓人のあれやこれやを包み隠さず教えてあげてる」
「……おい」
斗季はそう笑い飛ばしてから、視線を先輩から外さないで続ける。
「でも拓人は性格上そういうことしないだろ? 人に頼るとか、相談するとか」
「まぁ……そうだな」
「多分だけど社さんもそうだったと思うんだよ。藍先輩の話聞いてると」
最近の奏を見てると忘れそうになるけど、たしかに奏もそうだった。
人を寄せ付けずいつも一人でいた。それには理由があって、その理由を俺に教えてくれた。
あの日から奏は変わり続けている。
「拓人と付き合い始めてから社さん変わったよな。藍先輩は詳しく知らないからさ、社さんばっか頑張ってて拓人が楽してるように見えてるんだよ」
「だからちょっと怒られたのか……」
「俺は知ってるぞ? 拓人が色々悩んでるって。でも拓人はそれを表に出さないからな。それは拓人のすごいところで……怖いところでもある」
「怖いは言いすぎだろ」
「そうか? 俺はいつも思ってるぞ。いつか拓人がふらっとどこか行くんじゃないかって」
「杞憂だな」
「そうだといいな」
最後に斗季は俺を見て笑った。
それが本気だったのか、それとも冗談だったのか知るすべはない。
「ほら二人とも何やってるの! 後輩君だけじゃなくて斗季君も選ばないとなんだからね!」
「はーい。まぁ今日は俺の彼女に頼るといい。センス抜群のプレゼント選んで社さん喜ばせてやれよ」
俺は友人に恵まれている。
そう呼べる人は少ないけれど、これ以上ほしいなんて思わない。この二人がいればそれでいい。
「そうさせてもらう」
まぁこの後、幼い女の子にボロカス言われ涙目になりながら商品を選んでる男子高校生くらいの男がいたらしいが、もちろん俺ではない。
だって戸堀先輩は見た目が幼いだけだもんね!
読んでいただきありがとうございます!
ほんと投稿遅くてごめんなさい! 今回のような間話を書くのが苦手っぽいです……。
ブクマ、いいねありがとうございます!




