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あけましておめでとうございます!
新年一発目の投稿です!今年もよろしくお願いします!
観覧車を降りる頃には日は完全に沈んでいて、海沿いのレンガ道をイルミネーションが彩っていた。
風が吹けば身体に堪えるくらいには寒い。バイト帰りで薄着な俺も、学校の制服を着てる三日月さんも、周りと比べれば少々場違いな服装だ。
つかず離れずの距離感で建物の中へ向かっていると、三日月さんに近づく一つの影が。
とっさに動くも、するりと脇を抜けられ俺の存在意義を簡単に否定される。
「凪様こちらどうぞ」
「諏磨寺さんまだいたのですか」
どうやら不審者ではなく知り合いのようだ。駅で一人ついてくるって言ってた人だろうか。
はっきりと顔は見えないが声色からして女性だ。身長は奏と同じくらいで、これまた場違いな燕尾服を着ている。
腕にかけた暖かそうなコートを三日月さんに差し出すも華麗にスルーされ、なんかちょっと可哀想。
「行きましょう拓人さん」
「あ、え、いいんですか?」
「大丈夫です。邪魔をしないと約束しましたし。いないものとして扱ってください」
喧嘩でもしてるのか? それともこれが平常運転?
じゃあ俺が着ます〜とユーモア溢れるボケができるような空気ではない。そんな空気でもしないが。
構わず歩き出す三日月さん。俺にはどうすることもできずその後ろをついて行く……はずだった。
「お待ちくださいっ!」
「ぐえっ」
首根っこを引っ張られ情けない声がこだました。俺の声だ。……同情を返せ!
咳き込む俺に目もくれず、諏磨寺と呼ばれた女性は三日月さんに詰め寄る。
「凪様勝手しないでください! 友人と出かけてくるなんて珍しいこと言ったと思ったら……その相手がまさか男だなんて!」
「あなたには関係ないでしょう? 大丈夫ですか拓人さん」
「だ、大丈夫です……」
「やめてください! どこの馬の骨だかも知れない男に触れるなんて……! もう亜麻里は我慢の限界です!」
澄んだ空気のおかげで声がよく響く。そのせいで何事かと人が集まってきた。
しかし諏磨寺さんは止まらない。ビシッと俺に指をさして小学生みたいな悪口を浴びせてくる。
「この人はバカでアホでマヌケでチビでハゲでデブでバカでうんこです! 凪様に相応しくありません! わかったら早く帰るんですねっ!」
ここまで落ち込まない悪口も珍しい。バカって二回言わなかった?
光の加減で確認できなかった顔もしっかり確認できた。……せっかくの美人が台無しだな。
ちらりと三日月さんを見やる。やれやれと言った様子でこめかみを抑えながら俯いている。
「ここは目立つので場所を変えてもよろしいですか?」
「はい……」
「必ず謝罪はさせますので、どうかお許しください。……行きますよ諏磨寺さん」
「っ! はい凪様!」
三日月さんの一言で敵意丸出しの表情から一変、飼い主が家に帰ってきたときの犬のような、恍惚とした表情を浮かべる諏磨寺さん。
「離れて歩いてもらえますか? あなたがそばに居ると疲れるので」
「…………はい」
が、それもたった一瞬の出来事だった。もう同情はしねぇぞ?
あとは帰るだけだったはずが、諏磨寺さんの登場により俺はとある店へと案内された。
「ありがとうございます。突然でしたのに部屋を用意してもらって」
「いえ、三日月様にはいつもご贔屓にしてもらってますので。ではごゆっくり」
そこは俺が想像していた何倍も豪華な内装の中華料理のお店だった。ここに通されるまでにすれ違ったお客さんは全員スーツやらドレスやらを身につけていて、俺みたいな格好の人は誰一人としていない。そしてそんな俺を嘲笑するような人もこの店にはいない。接客してくれた店員さんも優しい笑顔で迎えてくれた。
それが逆にプレッシャーになってるわけだが……三日月さんの配慮なのかそれともこれが普通なのか、周りを気にしなくていい個室に通された。ターンテーブルなんて初めて見たぜ……。
これこそ場違いというものだ。いっそ笑われた方が楽なんだけどな……。焦りすぎて緋奈と奏にメッセージ送っちゃったよ。
「そんな格好でここにくるのなんてあなたくらいのものですよ。やはり凪様には相応しくないですね」
「諏磨寺さん慎みなさい。後悔するのはあなたですよ」
「……凪様が仰るなら」
「すみません拓人さん変なことに巻き込んでしまって」
「いえいえ……。それよりおかしくないですか?」
バイト終わりのお誘い、諏磨寺さんの登場、突然の高級料理店はまぁよしとしよう。
しかしそれ以上に、この広い空間で何故二人は俺のすぐ隣に座っているのか。俺を挟んで言い合いするのやめてくれません? いい匂いするから!
「私も思っていました。諏磨寺さん、拓人さんから離れてください」
「それはできません凪様。凪様の隣に座れない以上、ここが最も凪様に近い席なのです」
「私の言うことが聞けないと? これはあの方にご報告が必要みたいですね」
「っ! そ、それだけは……。師匠は怖いんです……」
ガタッと椅子ごと移動して諏磨寺さんは背中を丸くする。
「あの方って誰ですか?」
「諏磨寺さんを教育してる方です。あの子はあれでも一応メイド見習いなので」
「へ、へぇ……」
メイドなんて本当にいるんだな。文化祭のメイド喫茶も嫌いじゃないけど、本物はどんな感じなんだろう。今のところ思い描いてたメイド像とはかけ離れてるが……。
それにしてもあれだけ元気な諏磨寺さんが一気に静かになるって……相当怖いんだろうな。俺でいうとこの青倉先生か。多分違う。
「拓人さんはメイドに憧れがあるのですか?」
「憧れ……なんですかね。夢の中の話だと思ってたので、本物がいることに驚いてます」
「たしかに生業としてる方はごく少数ですし、なりたくてなれるものでもないらしいです。ですが」
と、言葉をそこで区切った三日月は、俺の耳元でそっと囁く。
「拓人さんのためなら、私は拓人さん専属のメイドになるのもやぶさかではありませんよ?」
「なっ……!」
変なタイミングで水が運ばれてきて、席の位置から店員さんに誤解されてしまった。満更でもない三日月さんの笑顔も原因の一つだ。何もしないって言ってたのに……。
「まぁ拓人さんには奏さんがいらっしゃいますから、もしメイドが欲しくなっても話はちゃんとつけてくださいね?」
「欲しくなりませんから!」
「あら、残念です」
この人はどこまでが本気なんだ……?
「さて。諏磨寺さん一旦メニュー表は置いてください。今日は食事をしにきたわけではありません」
「そうなんですか? 亜麻里朝から何も食べてないです」
「知りません。あなたはまず拓人さんに言うことがあるでしょう」
「…………バカ?」
この野郎。バカって言った方がバカって相場は決まってんだよ。
「やれやれ。今ので報告は確定しました。拓人さんのお時間をこれ以上取るわけにはいかないので特別に教えて差し上げます」
「あの……凪様怒ってます?」
今それ聞くの? ずっと怒ってたよ? だから俺は怒ってないんだよ?
三日月さんはその質問を無視して続けた。
「ごめんなさい。あなたが拓人さんに伝えるべきことです。私と話がしたければ、まずはそこからです。もう中学二年生なのですからそれくらいできますよね?」
「あ……う、うぅ……。ご、ごめんなさい。こ、これでいいですか?」
「あなたはいつまで……まぁ今はやめておきましょう。拓人さん許していただきますか? 私からも謝罪します」
「は、はい。僕は大丈夫です」
「ありがとうございます。諏磨寺さん」
「ありがとう、ございます」
三日月さんに促され同じように頭を下げる諏磨寺さん。
それより……謝罪が掠れるくらいの情報があったよな……。
この子が中学二年生ってマジ?
読んでいただきありがとうございます!
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