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文化祭の準備期間が始まってから早一週間が経過した。
我がクラスの出し物は、和と洋どちらも楽しめるカフェだ。準備は文化委員である横山木葉指揮のもと順調に進んでるらしい。
一応副委員長である俺が自クラスの内情をよく知らないのは、決してハブられてるからではない(願望)。
どうやら生徒会長直々に、青倉先生に俺の融通が効きやすいよう頼んでくれたおかげで、クラス外の仕事に専念できる環境が出来上がってしまったようだ。
クラスのリーダー格の皆さんにはそのことが伝わっており、俺が手伝うと申し出れば委員会の仕事に専念すべきだと断られてしまう。
それに加えて奏の存在も大きい。
わかっていたつもりだが、やはり奏は、同学年とは思えないほど優秀な生徒だ。
タイムスケジュールの調整、必要な機材や材料、物品の整理、書類等の提出物の管理まで全て一人でやっている。
一人でやらせるのはどうかと言う意見もあったが、横山がこれを一蹴。
『分担するよりも一人に任せてしまった方がわかりやすい。それに、奏に任せれば私たちがやるよりずっと良い』
『私に任せてください』
指揮官である横山の言葉と奏のやる気に周りも頷くしかなかった。
結果、この采配は大正解だった。
事務関係を奏が担ってくれているおかげで誰に何を聞けばいいのかという混乱が起きない上に、優等生であり学級委員長である奏の信頼度は高く、各々自分の作業に集中することが出来る。
また実務の面でも横山の手腕が光り、我がクラスの準備はこれ以上ないくらい順調なのだ。
故に、俺はいてもいなくても変わらない。当日もほとんど手伝えそうにないからな……。
放課後になり部活に所属してないメンツが率先して準備に取り掛かる。
今日も俺は生徒会の方々と一緒だ。こっちでも特に何をするわけでもなく言われたことをこなすだけ。
社畜としてのポテンシャルがとどまることを知らないようだ……。
「たくたく〜待って〜」
邪魔にならないようさっさと廊下に出た俺の背中を呼び止めたのは、リュックからドラムスティックの顔をひょっこり覗かせている滝だ。
「……その呼び方どうにかならないか」
「まだ言ってる〜そろそろ観念しろ〜」
俺にとってはそんなことで済むような話じゃないんだけど……。横山と加古から馬鹿にされてるんですよ?
「今日も生徒会のお手伝いなの?」
「お、おう」
「練習ちゃんとしてるの〜?」
「心配しなくても大丈夫だ。そっちはどうだ?」
「うーん……まだまだ腕が疲れちゃうかな〜。筋肉痛は乗り越えたよ〜。ときときのやる気がすごいから頑張らないとね〜」
「だな」
先日の戸堀先輩との会話は、スマホ越しに斗季にも聞いてもらっていた。
あの話を斗季がどう受け止めたのかわからないが、あの日以降の練習量はすさまじいものだ。
朝は吹奏楽部に頼んで一緒に練習させてもらい、昼は中庭でジャガジャガ弦を鳴らし、夜は俺とテレビ電話しながら軽く合わせたりしている。
奏も滝も斗季のやる気に触発されてか練習を頑張ってるようで、カラオケに行ったり、滝の大豪邸で練習したり、俺たちと同じようにテレビ電話したりしてるようだ。
そろそろ四人でスタジオなんか借りてみてもいいかもな。
「それでね〜そろそろみんなで集まって演奏してみようかってかなかなとさっき話してて……たくたくいつ空いてる?」
「お、おう……」
「うん? どったの?」
「あ、いや……全く同じこと考えてたからちょっと驚いて」
「おぉ〜さっすがかなかなとたくたくだね〜。いぇ〜い」
ハイタッチを認められぎこちなくそれに応じると、満足げに胸を張る滝。
奏の怖い顔を思い出し視線を明後日の方に向ければ、ペンを顎に当てながら半目で俺を睨む奏がそこに。
ふるふると首を横に振って無罪をアピール。
不満そうに頬を小さく膨らませたが、最後には行ってらしゃいと口パクで見送ってくれる。
これは俺を信用してるのか、滝を信用してるのかどっちなんだ……。
「と、とりあえずいつ空いてるかは今日中にメッセージで送っとく」
「おけ〜。よしじゃあ行こう」
意気揚々と歩き出す滝。
気づけば他クラスの人も動き出している。ここから早く退散した方がよさそうだ。
滝について行くこと数分、目的地である生徒会室に到着。
自分とは無縁な場所だと思っていたところに毎日通うことになるなんて、ちょっと前の俺が聞いたらどんな反応をするだろうか。
きっと、最後の最後まで信じないだろうな。なんなら未来から来た俺すら信じないまである。
「到着〜」
「……なぜ滝もここにいる」
「う〜ん……内緒ですな〜」
含みのある笑みに思うところはあるが、集合時間もギリギリだ。
一応ノックしてドアを開けてみるもそこには誰もいない。続いて奥にあるドアをノックすれば、伊奈野さんの返事が聞こえてくる。
「香西君待ってたよ」
「遅くなってすみません」
「遅くないよ。千夜ちゃん達もまだ来てないし、出発ももうちょっと先だから。あ、お茶飲むでしょ?」
「あー……じゃあいただきます」
生徒会室第二の部屋……と俺は呼んでるが正式名称は知らない。
聞いた話によると先々代の生徒会長が使われていなかったこの部屋をリフォームして、生徒会の私物にしたとか。
元々は休憩時にしか使わない予定だったのが、いつの間にやら第一の部屋よりくつろぎやすいからと、第二の部屋で作業するようになったらしい。
畳だし、冷房もついてるし、私物もバンバン持ち込んでるし……。
一般生徒が見たら文句の一つや二つは出てきそうだが、激務をこなす生徒会にもゆるい部分はあっていいだろう。これがモチベーションになってるかもしれないしな。
「あれ、その子は? 香西君の友達?」
「え、いや……」
「はいそうです〜。友達でありバンド仲間です〜」
「あぁ、ってことは、滝鈴華さん? ようこそ生徒会室へ」
「おぉ私も有名になったな〜」
どやぁ〜って感じのキメ顔を俺に向ける滝。
ついつい癖で否定しそうになったが、滝は俺の友達らしい。少しばかり背中あたりがむず痒くなった。
それはさておき、この様子を見るに伊奈野さんは、滝の訪問を知らないようだ。
生徒会の窓口である伊奈野さんが知らないとなると他のメンバーが知ってるとは考えにくい。
どうして滝はここにいるんだ……。
「それで何か生徒会に用かな?」
「見張りに来ました〜」
「見張り? 誰の?」
「たくたくのです〜」
「はぁっ⁉︎」
「た、たくたく……? あぁ拓人だからたくたく」
あだ名の由来に納得した伊奈野さんがクスッと笑った。呼ばれる方の身にもなってね?
「な、なんで俺の見張り……?」
「だって今からサクジョ行くんでしょ? かなかなが心配しててね〜。『拓人君が他の女の子に取られるちゃうよっ!』って」
絶対緋奈のやつが一枚噛んでるな……。奏を心配させるようなことを唆したんだ。
和坂さん曰く、桜井女子学園での俺の評価は結構高いらしい。
知らないところで評価されてることに若干の恐怖を感じたが、見回り係の代表が俺ですんなり許可されたことは助かった。
しかし、緋奈の過大評価のせいで俺の人物像に尾ひれどころか付かなくていい肉まで付いている。
全国でも有名な学校の生徒会長を務める優秀な妹の兄。その妹が褒めちぎるわけだからそりゃ周りも期待を膨らませる。
まさか奏さん、俺が桜井女子学園でいい人見つけたら乗り換えると思ってるのかしら……。信用されてないことにショックなんだが……。
「心配症な彼女さんね。ちょっと待ってて千佳ちゃんに聞いてくるから」
「お願いします〜」
こうして桜井女子学園の訪問に、俺の見張りが付くことになった。
そして生徒会のあいだで俺の呼び方がたくたくに統一された。死にたい。
サクジョ──桜井女子学園の略。
読んでいただきありがとうございます!
投稿遅くて申し訳ない……。




