100
全然意識してませんでしたが、今回で100話目でした(.5エピのせいでズレあり)。
やっと半分くらいですかね……多分。
「──い君、香西君」
「っ! は、はいっ」
「ぼーっとしてしちゃダメだよ。会議中だからね」
「すみません……」
昼休み。
多目的ホールに呼び出されたのは、風紀委員会の皆さん及び、募集をかけ文化祭当日の見回り係をやってくれる男子諸君だ。
先日、大々的に発表された桜井女子学園との合同文化祭は、学校中を盛り上げることに成功した。
女子はあの学校に憧れる人が沢山いるらしく、桜井女子学園の校舎に入れるのが密かな夢でもあるようだ。
その一方で、やはり男子の盛り上がり方は尋常じゃない。
一年二年限定で募集した見回り係は、定員割れを起こし、結果抽選を行うはめになった。
あの学校に憧れているのは、女子だけではない。まぁ明らかに女子とのベクトルは違うが……。
おかげで会長が懸念していた人員の確保は、すんなりと解決したのだ。
ここ数日の学校はやけに活気付き、勢いそのままに今日から文化祭の準備期間が始まる。
我が校の文化祭は自由度が高く、クラスの出し物の別に部活での出し物、友人間での出し物、個人での出し物も申請して許可が下りれば出店していいことになっている。
自由と言っても、好き勝手していいわけではないので、その許可を取るのが一苦労だったりするわけだけど……。
その申請許可等々の書類に判を押すのが、今会議の司会を務めている生徒会長や隣の席にいる副会長を含めた生徒会役員の方々だ。
生徒主体の行事が故に、その責任は生徒の代表である生徒会の方々に重くのしかかる。
ただでさえ一年で最も忙しい行事だと言うのに、合同文化祭なんてよくやるな……なんて感想を抱いてしまうのは、内情を多少なり知ってしまったからだ。
「では、しっかりと桜井女子学園さんの校内地図を覚えておくようにしておいてくれ。今日は解散」
初めての集まりは、簡単な自己紹介と役割の確認、地図の配布と短時間で終わった。
ぞろぞろと部屋を出て行く生徒を見送って、俺は手近な椅子を重ねて行く。
「香西君ちゃんと話聞いてたかい?」
「……内容は大体覚えてます」
ここ最近、斗季と戸堀先輩のことを考えすぎて何をしてても集中できない自分がいる。
とっさに出た言葉は、自分でも自覚できるほど空っぽだった。
「嘘はよくないなぁー。心ここに在らずって感じで全然聞いてなかったじゃん。ほんとに覚えてる?」
伊奈野さんは耳ざとく俺の言い訳にメスを入れてくる。
校内トップ2の二人に言及され、俺は諦めて頭を下げた。
「青倉先生の心配してた通りだね。なぜ君が男子の見回り代表に推薦されたのか……」
元々見回り代表は、集められた男子の中から会長が推薦するはずだったのだが、この前行われた桜井女子学園との会議で俺が推薦されたらしい。
合同文化祭の情報が解禁された日の夜。意気揚々とそのことを教えてくれた緋奈に俺も見回り係をすることになったと伝えたら、次の日には代表になるよう仕向けられるのだから、緋奈の行動力には恐れ入る。
会長も緋奈には会っているはずだけど、あのパワフルで明るい性格の女の子が俺の妹だとは思うまい。
「自分から見回り係頼んでおいてその言い草はどうかと思うけど」
カメラを首にかけた結さんが、間に割って入ってくる。
新聞部の二人は、文化祭の広報係を担当している。
勝手な情報が外に出るより生徒会の目を通った情報を発信した方が安心だと、会長が結さんの手綱をしっかり握ってるようだ。今日も会議の様子をカメラに収めていた。
「千夜……。あんたもちゃんと話聞いてたの?」
「聞くわけないじゃん、面白くないんだから。それよりもう帰っていい? 新聞の編集しないといけないんだけど」
「……あんた全然反省してないみたいね?」
手綱を握られようがお構いなしの結妹に、結姉はピクピクと口角をひくつかせる。
そんな二人の痴話喧嘩も慣れてしまえば気に留めることはない。周りの人も黙々と片付けを進めて行く。
「あ、そうそう。香西君たちのステージ使用許可受諾したよ。一番乗りだなんてやる気満々だね。しかも代表者が社さんだったから驚いたよ」
バンドを組むと決めたからには本気でやると意気込んでいた奏は、早々に必要書類をまとめて青倉先生に提出していた。
去年も担任を務めていた青倉先生からしてみたら、奏の変化は一目瞭然。学校行事に積極的に参加する奏を驚いた様子で眺めていた。
それはきっと先生だけじゃない。奏を知ってるほとんどの人が、奏は変わったと感じてるはずだ。伊奈野さんもその一人。
「伊奈野さんは、かな……社にどんなイメージを持ってますか?」
「それは彼氏として気になるのかな?」
「あ、いや、そう言うわけじゃ……」
「ふふ、冗談冗談。二年生になってからは変わったよね。前までは、孤立してた。それも自分から望んで」
「……よく見てますね」
「これでも副会長ですから。特に社さんは、目立つからね」
優等生でありながら男子も女子も魅了する容姿を持ち合わせていたにも関わらず孤立を貫いていたのだ。
生徒会としては、そんな生徒を無視なんてできないだろう。
「実は一度、社さんを生徒会に誘ったことがあるんだよ」
「え、そうだったんですか?」
「まぁ見事に断られたけどね。私には向いてないって」
頬をかいてあははと肩を落とす伊奈野さん。どんな風に奏が断ったのか想像できてしまう。
嫌悪感丸出しの冷たく鋭い目つきで跳ね除けた、そんなところだろうか。
最後の椅子を重ねて視線をやや下に落とす。彼女が何を見ているのか、俺にはわからない。
でも、その横顔が帯びている憂いには、どこか見覚えがあった。
「社さんとは、わかり合えるって思ったんだけど違ったみたい」
「……違った?」
「ううんこっちの話。それより香西君は、戸堀さんとも仲良いんだっけ? この女ったらし〜」
「先輩とはそんなんじゃないですからね……。ちょっと縁があっただけですよ。伊奈野さんは、先輩のこと知ってるんですか?」
「一応同じクラスなんだよ。名前すら知らない子も少なくないけどね」
伊奈野さんの顔には、副会長ですからと書いてある。
保健室登校の戸堀先輩もクラス分けはされてるんだな。
「何回か香西君と戸堀さんが話してるところを見かけたことがあってね。羨ましいなぁ〜って思ってたんだ」
「う、羨ましい……ですか?」
「うん。三年生になってすぐ戸堀さんのとこに挨拶に行ったらさ、もう来なくていいですって言われちゃって。それ以降は行ってないんだ」
「あぁ……」
戸堀先輩、人を避ける傾向があるからな……。
俺はその気持ちがなんとなく理解できてしまったから先輩を尊重しようとしたが、斗季はお構いなしに先輩に会いに行ってた。
俺と斗季の差はそこなのだ。
壁を作られたら諦めるのか壊すのか、線引きされたら回れ右をするのか跨ぐのか。
斗季は、どちらが正解なのかを見極めるのが、とてつもなく上手なんだ。そしてそれは、誰しも簡単にできることじゃない。
だから、伊奈野さんも間違ってないはずだ。目の前の答えを拾い上げただけ。ずっと奥にある答えなんて、見えるはずがないのだから。
「香西君は、この気持ちわかる?」
「……わかりますよ。俺も同じだったんで」
だった……。いや、今もそうだ。
あの日の戸堀先輩の真意が全くわからない。
好きだと言ってたのに、どうして斗季の告白を受けようとしないのか。
先輩にとって斗季と恋人同士になることは、嬉しいことじゃないのか。
告白したい斗季と、告白されたくない戸堀先輩。
二人ともの願いを天秤にかけてみても、どちらを選べばいいのか俺にはわからない。
「そうなんだ。……香西君とは仲良くなれるかもね」
「え……?」
「副会長、香西君、片付けご苦労。時間ももうないし、香西君にはお迎えが来てるよ」
会長の視線の先には、弁当箱を抱いた奏がいる。
お昼は横山たちと食べていたはず。食堂から帰ってくるついでにここに寄ったのだろうか。
残ってる生徒が少しざわつく。同学年の間ではもうめっきりなくなってしまった反応だ。他学年の人は、奏に会う機会が少ないからな……。
「じゃあ俺はこれで。お疲れ様でした」
「お疲れ様、次回の会議もよろしく頼む」
「お疲れ香西君。また話そうね」
伊奈野さんの声がやけに耳に残る。
そうか、誰かに似ていると感じたのは気のせいじゃなかった。
あの日の……忘れられないあのときの、姉さんに似てるんだ。
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終わり方は決まってるので、どうか最後までお付き合いいただけると嬉しいです!
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