表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/30

魔物

 私と真緒があの国を出てから一日が経過した。私達は今何をしているのかというと――


「のう桜よ。わしらはなぜこんなにも魔物に襲われておるのじゃろうな?」


 ――絶賛大量の魔物に襲われ中だった。


「しょうがないでしょ。街道をそのまま進むよりかはこっちの森の方が早いんだから。それに真緒からしたら魔物なんて余裕で倒せるでしょ」


「いや、お主も働かんかい……」


「こっちに向かってきたらね」


「なぜお主もいるのにわしだけ襲われてるのか納得がいかんのう」


 訂正。()()()()魔物に襲われ中だった。なぜ襲われてるのかというと街道をそのまま進むと何回か迂回する必要があるとギルドで地図を見せてもらったときに思ったから、近道するために街道を外れて森に入ったのだ。入ってからすぐの場所で野宿して、日の出と同時に出発してしばらくして魔物が襲ってきたというのが今の現状。


 ちなみに野宿は魔術で結界を張ってから小屋とか作って過ごした。もちろん使い終わったら壊した。ちょっと勿体ない気がしたけど、もし見つかったら面倒だからね。


 それよりも今の状況だ。見た限り魔物は小さく真緒の胸辺りまでの高さしかない。それぞれが棍棒を持ち、角のようなものが頭に生えている。そして魔物の色は緑一色。恐らく序盤に出てくる魔物で定番中の定番といえば一二を争う程有名な魔物、ゴブリンだ。


 ゴブリンは定番中の定番の魔物といえど、その強さはバカにはできない。なぜならゴブリンは集団で襲いかかってくる魔物だから。

 ゴブリン一体ならば今の勇者達でも倒せるとは思う。でも集団となると話は違う。ゴブリンは連携に長けた魔物だ。知能が低くとも経験から裏打ちされた連携で攻撃してくるのだ。そして仕留めた獲物を巣に持ち帰っていく習性がある。


 ちなみにこちらも定番通りだが、繁殖する際は異種族の雌をさらって苗床としてしまう習性もある。だから冒険者はゴブリンを見つけたら即座に殺すというのが、私が勇者だったときの常識だった。できれば巣も潰しておくことも大切だった。それがゴブリンという真緒が今まさに襲われている魔物の生体だ。


 私が襲われないのは大量のゴブリンが姿を見せた瞬間に無詠唱で行使した魔術のおかげ。真緒にも気付かれない程早く正確に操作したから無駄な魔力の放出も一切させなかったし、事実真緒は私が魔術を使って魔物を避けてることに気付いていない。まあ、気付くのも時間の問題だと思うけど。


 真緒は今必死になってゴブリンの攻撃を避けている。本当は真緒に攻撃が当たっても痛くも痒くもないはずなんだけど、真緒に襲いかかっているゴブリンは涎を撒き散らしながら手に持っている錆びた剣や木製の棍棒で殴りかかってくる。その涎に当たらないように真緒は必死に避けている。


「おわぁ! 汚っ! ええい! 鬱陶しい! 桜よ! どれ程までなら魔術を使っていいのじゃ!?」


 とうとうしびれを切らした真緒は魔術でゴブリンを一掃しようと私にどこまで使っていいかの確認を取ってきた。正直今の私達がどこまで衰えているのか分からないからなんとも言えない。だから代わりに私はこう答える。


「この森を消さない程度になら。環境破壊しない程度なら自由に使っていいよ。やりすぎたらなおしてね」


「よし! 流石桜じゃ! 森を消さなければ()()()()()()()()()()()()()()! ならば任せろ!」


 ……ん?


「いい加減に飽き飽きじゃ! 消えるが良い!」


「ちょ!?」


 今まで相当な鬱憤が溜まっていたのか、真緒は両手を前に突き出して構える。まるでバスケットボールを持っているかのようだと言えば分かりやすいと思う。


「貴様ら程度には勿体ない魔術じゃ。しかと味わうが良い」


 先程までとはうってかわり静かに真緒は死刑宣告をする。発動するのは当然ながら魔術。けどそれは先日試合場で放った初級魔術程度とは威力も格も難易度も、何もかもが遥かに違う。


「『闇穴(ブラックホール)』」


 そして段々と変化が訪れる。まずは重力。真緒を中心とした半径15メートル程の円形の範囲の重力が増加した。ミシリと何かが軋むような音がハッキリと辺りに響き渡る。体にのしかかる重力が増加し続けているために響いたゴブリンの骨が軋む音だ。


 当然ゴブリンは立っていられずにたちまち地面に押し潰される。同時に周りに生えていた木も押し潰された。ちなみに私は真緒が魔術を使うと言った時点で効果範囲外にちゃっかり逃げてたりする。ゴブリンと一緒に潰されるとかごめんだし。


 次に来るのは穴の出現。気づけば真緒の手の間に黒い穴のようなものがあった。


 ――それは黒い穴だ。何もかもを吸い込む超重力の穴だ。ただの黒よりも更に深い漆黒というにも足りない程濃く、まるでその空間にだけ何も存在していないような、そんな違和感を感じる程の黒い穴がそこにあった。


 やがてそれは吸い込みを始めた。周りに押し潰されていたゴブリンや木を吸い込む。私にはさっきの重力がのしかかって押し潰された時点でゴブリンは事切れてたように見えたけど穴は関係なしに周りを吸い込む。巻き込まれないのは発動した真緒だけ。どういう原理かは知らない。私はあの魔術使ったことないし。多分最初の設定で対象外にしてるんだろう。


 そしてとうとう周りに何もなくなったのを確認した真緒は魔術を解いた。すっきりしたのか鬱憤が晴らせたのか、どちらにせよいい気分になったであろう本人は笑顔で私の方を向く。


「これでよし!」


「いやいいわけないでしょ。何言ってんの」


「なぜじゃ。わしは森を消してはおらぬぞ?」


「潰れちゃってるじゃん。しかもあんた吸い込んだから消えたも同然でしょ。どうすんのよこれ」


「別にどうでもよいじゃろ。いつかまた生えてくるじゃろうて気にする事はない」


 全く反省する様子のない真緒。それどころか若干誇らしげな様子だ。別に私も自然を大切とか大々的に訴えてる訳じゃないけど、真緒の様子に少しだけ悪戯心に火がついたというかちょっといじめたくなった私はついついやってしまった。


「……あんた今日夜ご飯抜きで」


「待たぬか! それは困る! ご飯抜かれたらわしは夜をどう凌げばよいのじゃ!」


「いや自分で作りなさいよ……」


「ほ、ほんきなのか……? 本気で、そんなことをすると言うのか……?」


「うん」


「……ご」


「ご?」


「ご、ごめんなさいなのじゃ! ついついイラついてやってしまったのじゃ! だから……だからそれだけは許して欲しいのじゃああああ……!」


 結果真緒は見事な土下座を見せた。あ、よく見たら涙目だ。これもう少し放置したら泣くやつだね。まあ私としても真緒を泣かせたい訳じゃないしここらで許しておこう。


「全く……。ここを直したらいいよ」


「ぐすっ。ほ、ほんとか!? 言ったぞ!? 約束じゃからな!」


 ぱぁ、と目を輝かせて約束だと叫ぶ。うん。なんだこの可愛い生物は。いや元魔王だってことは分かってるんだけど、身長が魔王のときから変わらず小さくて今は高校生だっていうのに140cmくらいしかないから余計に可愛く見える。


 当の真緒は立ち上がり真剣に魔術を組み始める。……さっきの戦闘のときよりも真剣なのは少し気になるけど。どんだけご飯食べたいのだろうか。


「ううむ。直すにしてもな……。まずは地面からかの。ならば……『地ならし(アース・ウェイブ)』」


 まずは地面が揺れ元々木が生えていた場所に空いた穴を埋めていく。しばらく地面が揺れた後穴は完全に塞がり、綺麗に平らな地面となった。


「あとは木じゃが……生やすにしてもな……まあ適当でよいじゃろ。『成長促進(グローアップ)』」


 平らになった地面から周りと同じ種類(だと思う)の木が続々と生えてくる。……生えてくる。……生えて……くる。


「これでどうじゃ?」


「いややりすぎだから」


 目の前にはジャングルみたいになってしまった森ができあがっていた。真緒の姿が見えないくらいなんだけど。あの元魔王様は少しは加減というものを覚えたんじゃないのか。


「とにかく少し減らして」


「しょうがないのぉ。増やせと言ったり減らせと言ったり……。一体どっちなんじゃまったく」


「真緒?」


「なんでもないのじゃ」


 少し不満そうだったが真緒は素直に大量の木を減らしていく。減らしてるといっても魔術で集まってる木を数本ずつまとめて()()しているだけだけど。


 数分後には戦闘になる前と同じ程度に揃った森ができあがった。元通りになってよかったけど要らない時間を取ってしまった。急いでこの場を離れるべきだけど私達にはやるべきことがまだ残っている。


「さあ行こうか真緒」


「む? どこへじゃ? そっちは目指していた方向と違くないか?」


「ううん。合ってるよ。大量の生体反応を見つけたからね」


「生体反応? お主一体どこへ行くつもりじゃ?」


 さっきのあれはあまりにも数が多すぎる。いくら集団で行動するからと言っても限度というものが存在する。そもそもあれは大体5か、もしくは6体で行動するのが基本とされているのにさっきはどう見積っても20体はいた。これが意味するのは即ち――



「ちょっとゴブリンを殲滅しようかなって思ってさ」



 ――ゴブリンの王の誕生だ。

少し短いですかね?

これからはこのくらいの長さで投稿していこうと思います。お久しぶりです高澤です。


先日初めて感想を頂きまして、もうテンションバカ上がりましたね。

まだまだ話数が少ないですが、少しずつでも投稿していきたいと思います。


それではまた次回。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ