表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/30

真緒vsエルツ

お久しぶりです。

 試合場は私が思っていたよりも少し広かった。こんなに広い場所外から見えたかなと思ったけど、試合場はギルドのちょうど真裏にあるのでもしかしたら建物で見えなかったのかもしれない。


 試合場の中心には円形のリングがある。広さはだいたい30メートルといったところかな。試合場の広さはその倍くらいはあるけどこんなにいらなくない?


「では試合場で戦うのはエルツさんとサクラさん、マオさんのおふたりでよろしいですね?」


 リングの手前で受付嬢が振り向いて尋ねるけど答えはいいえだ。


「いや、戦うのはわしだけじゃ」


「な!? ばかにすんのもいい加減にしろよてめぇ!」


「何言ってるんですかマオさん! サクラさんも止めてください! せめて2対1でやるべきだと!」


「何を言っておる。わしからしたら2対1など余計じゃ。むしろ邪魔でしかなくなるわ。のぉ桜?」


「うん。そういうわけだからこのハゲだるまとやるのはマオだけだよ。私は見てるだけ。いざとなったら(真緒を)止めるから大丈夫」


「しかしですね……!」


「いいだろう……! そこまで言うならやってやるぜ! 後で後悔しても知らねえからな! おい! さっさと始めるぞ!」


「……分かりました。ですが危険だと判断したらすぐに止めますからね」


 ふぅ。これでようやく試合が始められるよ。三人はリングにつくられていた階段を登って中央に向かう。私はすぐに真緒を止められるようにここで準備しておく。リングはそんなに高くないからここからでも十分見れる。


「ではルールを説明させていただきます。どちらかが気絶あるいは戦闘不能に陥る、もしくはリングから落ちたら負けとなります。降参する場合は宣言してください。そして今回は試合場での決闘扱いとなりますので殺害は禁止です。もし相手を殺してしまった場合はギルドから除名の上、資格を剥奪、つまりはどこのギルドでも冒険者登録をすることができなくなります。説明は以上となりますがご質問は?」


「俺はねぇよ」


「わしもない」


「分かりました。それでは私がリングの外に出てから試合を開始します」


 と言った後に受付嬢は何故か私の隣に降りてきて宣言する。


「おふたりとも準備は完了していますね? それでは試合開始です!」


 受付嬢の言葉でハゲだるまは身の丈程もある大剣を背中から取り出して真緒に告げる。


「今この場で謝罪すればてめぇのことは許してやるよ。それが無理だってんなら叩き潰す。どうだ?」


 正直何を言ってるんだと私は思った。だってそんなことあのハゲだるまにはできないから。そもそも真緒に攻撃が通るとでも思っている時点でもうダメだ。というか何が『どうだ?』なのか分からない。あのハゲ、言葉もまともに話せなかったのか。


「サクラさん、本当にマオさんひとりで大丈夫なのですか? エルツさんもああ見えてDランクの冒険者ですので実力もそれなりにあります。今からでも助けた方がいいのでは……」


「なんで?」


「なんでって……心配じゃないんですか? 相手は曲がりなりにもDランクの冒険者ですよ?」


 まあそうだよね。真緒の実力を知ってる私からしたら心配することは何もないけど、そうじゃない人から見たらこれはまずありえないよね。だってハゲだるまは背丈がだいたい2メートルくらいで大剣も同じくらいの長さなのに対して真緒は140センチくらいだ。でもそれは証拠になり得ない。



 あのハゲだるまが真緒に勝てるという根拠にはならないのだ。



「ふん。何が『どうだ?』じゃこのアホが。さっさとその大剣でかかってくればいいものの……。そんなにぼさっとしているからとっくにわしの攻撃は終わってしまったぞ?」


「なに?」


 疑問符を浮かべたハゲだるまは突然後ろに吹っ飛んでいった。ハゲだるまは最初の位置からリングの端まで真緒の一回の攻撃で移動した。驚いたのは近くで見ていた受付嬢と二階から見ている他の冒険者だけ。飛んでいった当の本人はそもそも何が起きたか分かっていないようだった。何をしたのか分かっているのはやった本人と私だけ。正直今のを理解できない時点でもう実力差は十分についてると言ってもいいと思うんだけど。



 そして元魔王は告げる。世界の広さを。かつて王として君臨した力の一端をまるで見せしめのように、或いは自分の実力を見せびらかすように。私と相討ちした最強の王はその猛威を振るう。



「さあ見せてみよ。お主の言う『冒険者の力』というやつを! わしは逃げも隠れもせぬぞ? 全て受けきってみせようではないか。なに、案ずるでない。攻撃はするが当然手加減はしてやるとも。先程も手加減したのじゃからな。ほれ、はよう次の攻撃を見せんか。それとも貴様はわしの攻撃が見えなかったからといって戦意を喪失したのか? ならば謝罪しよう。こんなにも手加減した攻撃で戦意を喪失させてすまんかったとな」


 真緒は笑いながら、いや、嗤いながら両手をハゲだるまに見せつける。まるで何も持っていないことをアピールするかのように。


「な、舐めるな小娘がぁぁぁぁぁあ!!!」


 真緒のしていることは相手によっては挑発にしかならない。私はタネを知っているから通じないけど、私以外にはそうでは無い。事実ハゲだるまは大剣を振りかぶりながら真緒に突っ込んでいく。けれどそれは悪手だ。上から攻撃するぞと教えながら突っ込んでいるようなものだ。だから――。


「甘いのぉ」


 だから、こうなるのは必然だ。


「な、なんだこりゃ……!」


 ハゲだるまは振りかぶった姿勢のまま固まっていた。あれには苦労したなぁ。実際に受けると何が起きてるか一瞬分からなくなるんだよね。


「お主の周りの空気の層を厚くした。端的に言えばお主は空気の壁に挟まれているような状況じゃ」


「ぐ、クソ!」


「ほれ、どうした? はよう攻撃せんか。言った通りわしは全ての攻撃を受けるぞ? まあもっとも、ここまでたどり着けたらの話じゃが」


「う、ぐ、があぁぁぁぁぁあ!!」


「そうじゃ、その調子じゃ。お主の力の全てを振り絞って来るが良い。なんならスキルを使っても構わんのじゃぞ?」


 既に周りの観戦している冒険者と受付嬢は何も言わない。受付嬢に至ってはもう止めた方がいいのではないかと私と真緒を何度も見ている。けど私は止めるつもりはない。さっき試合開始前に言った条件は『戦意を喪失したら』では無い。『戦闘不能に陥ったら』だ。だから私は止めるつもりは一切ないし、受付嬢にも止めることは許されない。


 真緒とハゲだるまの距離はだいたい10メートル程しかないけどそれは外から見てる私達から見た距離。きっとあのハゲだるまには途方もないくらい遠く見えているんだろうね。


「調子に、のるなよ小娘が……!」


「ほぉ。身体強化のスキルか。それでどこまで届く?」


「てめぇの、余裕ぶっこいてる面までだぁ!」


 肉体強化の魔術で10メートルを一気に詰めたみたいだね。その勢いのまま真緒の頭に大剣を振り下ろす。うん、あの空気の層を抜けられた時点でそれなりに実力はあったんだろうけど、残念ながらまだ足りない。その程度じゃ真緒には届かない。


 その証拠にリングには有り得ないものを見たかのような表情のハゲだるまと、片手で大剣を受け止めている真緒の姿があった。


「どうした? 届いておらぬぞ?」


「ぐ、てめぇ…全部受けるんじゃなかったのかよ……!」


「だからこうして片手で受けておるのではないか」


「戯れ言を……!」


「なんじゃ。頭で受け止めて欲しかったのか? その場合はお主のそのなまくらが折れていたが……それでもよかったのであれば今すぐにでもへし折ってやるが?」


「俺の大剣がなまくらだと?」


「事実じゃろう。わしのような女子(おなご)の体を斬ることさえできぬ剣などなまくら以外のなんだというのじゃ。仮になまくらではないとすれば……お主の実力不足ということになるが?」


 大剣で怪我すらしないのはお前が体に魔力を纏っているからだと私はつっこみたかったけど、わざわざ手の内をばらす必要はないしなによりあの大剣は私から見てもなまくらにしか見えないからどっちもどっちだ。


「じゃあ……見せてやるよ……! 俺の実力も大剣もなまくらじゃねえっていうことをよぉ!」


 真緒の手から強引に大剣を振りほどいてハゲだるまは後ろに下がる。身体強化で突破した時点で空気の壁は消えていたようで簡単にハゲだるまは動けていた。


「『限界突破』!」


「ほぉ。身体強化の一段階上のスキルか。良い良い。見かけ倒しでないことを祈るぞ」


「後悔しやがれ!」


 ハゲだるまは一足で真緒との距離を詰める。その動きは身体強化の恩恵でさっきよりも遥かに早くなっていた。ハゲだるまがとった行動は純粋な振り下ろし。けれどその威力はさっきとは段違いに跳ね上がっている。ただ振り下ろすだけでもそのエネルギーは速度と重さが大きく関係してくる。故にその振り下ろしは大きな破壊力を秘めている、言わば必殺の一撃だ。


 その振り下ろしは真緒の体を斜めに袈裟斬りにする。真緒に大剣が当たった瞬間ハゲだるまは勝利を確信しただろう。その証拠にハゲだるまの顔には笑みが浮かんでいた。



 当たったと。殺ったと。確実に仕留めた、と。そう感じただろう。それは微かな希望のように感じただろう。今まで通らなかった攻撃が決まったという歓喜を浮かべてハゲだるまは大きく哄笑を上げる。


「く、くく、ククク、ハーッハッハッハッハッハ!! ざまぁねえな! 俺を馬鹿にしやがるからだ! 見ろ! てめぇの体は今にも、裂け、て……?」


 いつまでも倒れないことに気づいたのか、それとも大剣が振り抜けない事に気づいたのか、どちらでもいいけどどっちにしろハゲだるまは真緒が生きてることに気づいた。




 ――今までその大剣と『限界突破』のスキルでランクを上げてきたのだろう。




 ――ありとあらゆる障害を力でねじ伏せてきたのだろう。




 経験に裏打ちされたその渾身の一撃は――しかして今度こそハゲだるまを絶望へと叩き落とした。



「だから言うたろうに。お主の腕と大剣はなまくらじゃと」


「な……な……」



 そこには真緒の左肩で止まっている大剣があった。



 その光景が信じられないのかずっと口をパクパクさせながらハゲだるまは固まっていた。嘘だと、ありえないと否定したいという気持ちは私にもよく分かる。私も初めてされたときはそう口走ってしまったから。けれどこれは現実で真緒は実際にその体と魔力だけでその身を遥かに超える大剣の一撃を受け止めてみせた。


 カタカタと大剣が震えている。いや大剣だけでなくハゲだるまの体までもが震えているのが見える。受け止められると思っていなかったのだろう。ましてや無防備に立ち尽くしている(ように見える)相手に自分の最強とも呼べる一撃を与えたのだから。けど真緒は受け止めてみせた。受け止めてしまった。これで絶望するなと言う方がおかしいと私は思う。


 そしてそんなものを見せられた人はどんな感情を抱くのか? そんなものは決まりきっている。古来より人間が傲慢にも排除しようと徹してきたのだから。でも『それ』を消すことは叶わない。抑えることも克服することもできるだろう『それ』は、決して人の心からは消せはしないものだ。『それ』は誰もが逃れることができない感情だ。未知なるものへと誰もが抱くものだ。



 あいつが今まさに真緒に抱いている『それ』を、人はきっと『恐怖』と、そう呼ぶんだろう。



「ようやく理解したか?」


「はっ、はぁ……はぁ……!」


 真緒の告げる一言一言がそれを嫌でも理解させられる。じわじわと体の底から這い上がってくるかのような怖気。怒りでも憎しみでもここまで体が震えることはないだろうそれは誰もが抱き、誰もが排除しようとしてきたもの。


「お主の技量では到底わしには届かぬが……それがなまくらでなければわしの()()()()()斬れたじゃろうに」


 最早あのハゲだるまは何も言えないのだろう。そしてようやく理解したのだ。己が手を出してはいけないものに手を出してしまったのだと。目の前にいるのは到底言葉に表せないものなのだと。ため息混じりに呟く真緒が既に同じ人間には見えていないのだろう。皮肉なことにそれは正解だ。真緒のことを表現するのであれば人の形をした化け物だ。


 それでも化け物と表現するとは、あまりにも真緒のことを優しく言ったものだと私は思う。彼女はかつて悪魔や化け物といった魔物の群れの頂点に立っていたのだから。『魔王』とは伊達や酔狂ではない。力あるものが『魔王』になるんじゃない。突然変異で生まれた彼女が最初から持っていた力が人類の生存を脅かすまでに強かった。ただそれだけのことだった。『王』としてのカリスマと力を兼ね備え、魔物を引き連れ人類を滅ぼさんとした化け物が『魔王』と後に呼ばれたに過ぎない。


 そして小さな化け物はこの試合を終わらせようと動いた。


「ではわしからの反撃じゃ。受け取るがよい。もちろんお主が死なぬように手加減はするとも。避けられることができればお主の勝ちでよい。まあこの至近距離では無理だとは思うがの」


 そう言った真緒は右手の掌をおもむろにハゲだるまに向ける。掌に小さく展開される魔術式。攻撃すると分かっている。分かってはいるが体が動くことを拒否しているかのようにハゲだるまは佇んでいる。


「『(ウィンド)』」


 誰が見ても分かるように、敢えて詠唱した初級魔術でハゲだるまの体はリングの外まで飛んでいき壁まで叩きつけられた。真緒本来の力よりも大幅に弱体化しているけど人に向けるにはあまりに過剰な威力をもった『(ウィンド)』は容易くハゲだるまの意識を刈り取った。本来ならば有り得ない威力をもっていた『(ウィンド)』を撃った張本人は掲げていた手を下げて私の隣にいた受付嬢に声をかける。


「あいつ、場外じゃろ。わしの勝ちでよいよな?」


「え? え、あ、ああ、そうですね。勝者、マオさんです!」


 誰も何も言えずにリング上の小さな少女のことを目に焼き付けている。それは人によっては仲間に引き入れようとしたり利用しようとする考えをもっているだろう。そんな視線を無視して見られている本人は堂々とリングを降りてきた。


「終わったぞ。これでよいじゃろう?」


「うん。これでようやく出発できる。周りに見せるならこの程度で十分でしょ。じゃ、行こっか」


 私達が試合場を出ようとしたときにようやく気を取り直したのか、受付嬢が慌てて声をかけてくる。


「ま、待ってください!」


「なんじゃ」


「今の、見せつけるには十分って……どれくらいの力で戦ったんですか?」


「む? そうじゃのぉ……。一割ってところじゃな」


「はい?」


「質問には答えたぞ。それがどうしたというのじゃ」


「え? あ、ええ。では一言だけ。あなたは、いいえ、あなた達は強すぎます」


「それがどうしたんじゃ」


「いえ、あなた達に知っておいてもらいたかっただけです。今のあなた達はこの国で異端にすぎるくらい強すぎる。最後の魔術でさえ全冒険者の中でも随一の威力を持つでしょう」


 これは注意……かな? でもそれだけじゃない気がする。……そうだ思い出した。多分このことは国王に報告されるんだ。それで私は当時既に大陸一番の冒険者って呼ばれてたナハトとセレンに会ったんだ。なんでも凄腕の冒険者が集まる大会で優勝したパーティとかなんとか。でもそれをなんで私達に? ふたり揃って首を傾げていると察してくれたのか受付嬢は答える。


「既にこの国を出ようとしているようなので急いだ方がよろしいかと」


「ふむ。なるほどな。その忠告ありがたく受け取っておくぞ」


「じゃあ今度こそ行こうか」


 そして私達はギルドを後にした。その後ろで何か不安そうに考えている受付嬢が見送ってくれていた。






「これがこの国の門か」


「ふむ。存外でかいのぉ」


 ギルドを出た私達はそのまま国を出るために門まできていた。各国には外と出入りするための門が東西南北それぞれひとつずつ設置されている。今いるのは北門だ。真緒の言う通り意外と門はでかく4メートル程ある。人の力で動かせるのか心配になるくらいだ。


「私達の目的は若葉の手助けをすることと勇者一行が回るであろう国を先んじて回って不穏分子を除くこと」


「簡単に言えば?」


「観光」


「目的変わっておらぬか……?」


「最終目的は魔王城。それじゃ行くよ」


「おぉスルーかい……。しかしまあ楽しみじゃの。昔に比べてどれくらい変わったのかのぉ」


 それを確かめるためにこれから行くのだとふたりして笑いながら門を出る。しっかり人の力で空けられたことには驚いたけど、ここから私達の冒険が始まるんだと心を踊らせながら私達は足を踏み出した。

投稿が盛大に遅れてすみません。色々あったもので少し鬱になってました。

そんなことは置いといて、これからはなるべく早く投稿できるように頑張ります。


今回の内容について少しだけ。今作初めての戦闘っぽいシーンとなっておりますがほとんどまともに戦闘などしてません。ここ分かりづらいとかどういう意味?などの質問がもしあればコメントしてください。


感想等お待ちしております。


次は年内に投稿できればいいなと思っています。



2020/07/31 脱字訂正しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ