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召喚と別れ

 光に呑まれた私達は気づけば広い部屋にいた。周りでは大勢の喜んでる人達が見える。ああまた定番な感じですね。これはあれだ。クラスごと召喚されたやつだ。ならやることは決まってる。


(真緒。真緒!)


 小さな声で隣にいた真緒に声をかける。


(なんじゃ)


(――ずらかるよ)


(なんじゃと!?)


 私の提案に相当驚いたのか危うく声を荒らげそうになる真緒だったがすんでのところで抑える。


(何故じゃ?)


(嫌な予感がする。巻き込まれないうちに若葉と三人で逃げるよ)


(……いや、どうやら向こうの方が早かったようじゃ)


(ちっ!)


「ようこそおいでくださいました皆様。ワタクシ、宰相のエルバーと申します。勇者として召喚された皆様には是非国王様と謁見して欲しい所存でございます」


 メガネをかけた痩せぎすの男が私達の方を見て話を進める。キツネみたいなツリ目をしていかにも何か企んでるみたいな顔だ。けど私は宰相とやらの発言に少し焦っていた。


 まずい! これは非常にまずい! 何がまずいって国王と謁見したらその時点で私達は公的に勇者だ! 国王に会うということは自らが勇者だと宣言するに等しい! 断れるならばまだいい! けどそれは()()()()()の話だ! 無関係な人間は間違いなく殺される! 口封じのために!


(真緒! 隠蔽!)


(様子見か。よしきた。『隠蔽(ハイド)』)


 これで私達はあの宰相からもクラスメイトからも見えなくなったはず。そして――若葉からも。若葉は目立つから周りの目から隠せない。隠したらそれこそ騒ぎになってしまう。それを真緒はよく分かってるね。


「それでは参りましょうか」


「え、ええ、はい」


 未だに状況が飲み込めてないのかクラスメイトたちは呆然としている。唯一返事をした先生だけは少しずつ理解しているみたいだけど……いや違う。先生のあの目は理解した上で逆らわないことを選んだのか。


「さあ皆、()()()ついてくるんだ」


 誰も何も言わない。今はそれでいい。うちのクラスに騒がしいやつがいなくて助かった。もし騒げば何をされるか分かったもんじゃないからね。知らない場所で騒ぐのは得策ではない。仮にも進学校だったからか、一度落ち着けば理解は早かったみたい。


 私達も後から追いかけていく。やたら長い廊下を歩かされてようやく辿り着いた。ここが謁見の間だということはすぐに分かった。まあ扉があまりにもでかいし兵士とか普通に横にいるし。でも、この雰囲気はなんだ……?


「勇者を連れて参りました」


「「はっ!」」


 扉の脇にいた兵士が敬礼をして巨大な扉を開ける。……それ人の力で開くんかい。


「それでは皆様。中へとお入りになられてください」


 言われるがままにぞろぞろと中へと入っていく。私達が中に入ったとき扉は完全に閉められた。


「ようこそ勇者の方々よ」


 私達、というかクラスメイトに向けて前から声がかけられる。……あれが国王か。強いね。見た目は完全にただの老人が玉座に座ってるだけ。でもその肉体はとても老人のそれとは言えない程鍛えられている。でも少し気になることがあるな……。


「ああ、礼儀作法などいい。私はそんなもの必要ないと思っているからな」


「国王様。早速本題の方へ」


「そうだな」


 なんだこの雰囲気は……? まるで焦っているのは向こう側のような……。でも前にもこんなことあったような気もする。


「ではまず君達を呼んだ理由からいこう。簡潔に言えば君達には魔王を倒してもらいたい」


「……発言、よろしいでしょうか?」


「許す」


「魔王とは一体なんでしょうか。そしてなぜ私達が倒さなければならないのでしょうか」


「その疑問はもっともだな。宰相」


「はっ! ではまず魔王についてです。魔王とは全ての魔物の長であり、それらを支配下に置いた統率者のことをいいます。簡単に言えば魔物の王です」


 まあそこら辺は真緒のときと変わらない。けどおかしいな。真緒は生まれながらにして魔王だった。突然変異だった真緒は莫大な魔力をもってして魔物を従えていたんだけど……。また突然変異が起きたってこと?


「魔王は強大な力をもっておる。そして魔王を倒せるのは勇者だけ。その勇者は異世界から呼び出された者しかなれぬ、という言い聞かせがある。だからこそお主らが召喚されたのだ。倒さなければならない理由が分かったか?」


「……よく分かりました」


「よろしい。それでは全員を鑑定していかなければな。宰相」


「ここにあります」


「うむ。宰相が持っているのはパーソナルカードといってな。己の名前、レベル、スキル、そして称号が見れるはずじゃ。登録した本人にしか使えぬようになっておるから貴重品として失くさぬように。あとは市民証としても使えるようになっておる」


 宰相のところへひとりの執事らしき格好をした人が向かいカードを受け取ってクラスメイトに渡し始めた。私達も受け取っておくべきだと思い、『隠蔽』をかけたままでカードと一緒に配ってた針をくすねてきた。いや、前にも持ってはいたんだけどね。死んでるし。懐かしいなこれ。


「その針で血を一滴カードに垂らすのだ。心配はいらん。その針には痛覚を麻痺させる魔術が付与されておる」


 その言葉に安心したのか続々と指に針を刺し血をカードに付ける人が増えた。私もやろう。さて、何が表示されるかなっと。







 ―――――――――――――――――――――――――

 篠浜 桜(高遠 桜)   Lv.372



 スキル 剣術(刀) 魔術(全) 夜桜召喚 召喚魔術



 称号 元勇者 女神の加護を受けし者



 ―――――――――――――――――――――――――






 うん。見事に勇者の力が引き継がれてる。でも勇者だけが使えるスキルはないみたい。勇者自体ではなくなったってことだね。ただこの称号は気になるところではあるけど今は気にしないことにしよう。うん。でも前の名前も表示されるんだね。記憶を持ってるからかな。それとも魂ってやつかな。まあどっちでもいいか。大して支障はないし。あとは実際に試さなきゃ分からないってところだけど……。さてこのあとどうしようかな。


(桜、のう桜)


(うん?)


(ほれわしのじゃ)


(なんで?)


(わしはそれよくわからん。魔王じゃぞ? 前に持ってた訳がなかろ?)


 そうだった。このカードは人類全ての種族に義務付けられたものだけど、魔物の王であった魔王が持ってるはずがない。すっかり忘れてた。


(じゃあ見せて)


(うむ)






 ―――――――――――――――――――――――――

 桐花 真緒 (アルセイン・ミストローズ)  Lv.392



 スキル 剣術(剣) 魔術(全) 紅花召喚



 称号 元魔王 女神の加護を受けし者



 ―――――――――――――――――――――――――






 まあ大して変わらないね。でもやっぱり真緒も魔王時代の魔物を操る王の力が消えてて前の名前も表示されてる。


 これを見る限り今はただのチートだね。この世界の平均レベルってやつは忘れたけど、そんなに高くなかったはず。だからレベルが今の時点で圧倒的に高い私達はもう既に世界最強の力を持ってることになる。



 ――――うん。決めたよ。



(ずらかろう。私達はここにいてはいけない)


(よいのか? お主の大事な妹が戦いに巻き込まれることになるのじゃぞ?)


(もちろん若葉にはちゃんと守りを付けるよ。でもあの子には仲間がいるから。私達にはないものをあの子は持ってる。だからこれから先どんな困難があってもあの子は負けないよ)


(そうか。お主がそう言うのであればそれでよい。わしも若葉に守りを付けておこう)


(それにね。私達が代わりに倒せばいいだけの話だから)


(……そうじゃな。旅をしながら障害になりそうなものを屠っていけばよいな。なに、わしらが勝手に当たるんじゃ。なにも問題はないの)


(だからあの子はここでしばらくお別れ。今なら転移時に別の場所に行ってしまったってことになるでしょ)


 いくつか気になることはあるけれどこの城の雰囲気は大したものじゃない。恐らくいつ魔王が攻めてくるのかという恐怖と早く勇者が来て欲しいという焦りからくるものだろう。段々思い出してきた。私のときもこんな感じだったっけ。


(つくづく嫌な予感は当たるもんだね。魔王なんてもんが復活したのなら戦わざるを得ない。まったく、少しは遠慮して欲しいもんだよね)


(まあ今まで窮屈な生活だったんじゃ。たまにはのびのびとするのも悪くなかろ? それにお主に女神の話を伝えておらぬからの)


(そうだったね。それも聞かなきゃね。じゃあそろそろ行こうか)


(待て。せめて手紙でも書いてやらんか。何を書くかは任せるが先に行くことぐらいは伝えておかんと、若葉は塞ぎ込むぞ?)


(……そうだね。分かった。ちょっと書いてあの子のポケットにでも入れとくよ)


 私達が元勇者と魔王だっていうことは今はいいでしょ。伝えておくべきなのは先に行くこと。若葉を陰から見守っているということ。命の危険が迫ったときには絶対に駆けつけること。これだけだね。


 急いで制服のポケットに入っていたメモ帳に書いた私はそっと若葉の制服のポケットに忍ばせて、その顔を盗み見る。そこにあったのは何が起きてるのか分からないということだけ。そして若葉が未だに見ているのはパーソナルカード。どれどれ……。






 ―――――――――――――――――――――――――

 篠浜 若葉  Lv.16



 スキル 魔術(全) 勇者スキル



 称号 勇者



 ―――――――――――――――――――――――――






 そっか。やっぱり若葉が勇者か。納得するし若葉になら皆ついていくでしょ。私には全然できなかった信頼できる仲間がね。私にとってはナハトとセレンだけが唯一信頼できる仲間だった。あの子達にとってはそうでもなかったのかもしれないけど。それでも私にとっては独りぼっちの異世界でできた唯一の仲間だったよ。最期に二人の泣き顔を見れるとは思わなかったけどね。


 まあそんなことはさておき。私はそっと若葉を抱きしめる。若葉には私のことは見えないけども、体温や空気は感じるはずだから。


「お姉ちゃん……?」


 若葉が今気づいたと言わんばかりに周りを見渡す。でも若葉に私達の姿は見えない。でも見えなくとも声は聞こえる。真緒の魔術は姿を見えなくするだけだからね。あんまり長いとバレちゃうから一言だけ。


「愛してるよ若葉」


「お姉ちゃん?」


 永遠の別れみたいになっちゃったけどこれ以外に言うことは手紙に書いたし、もうそろそろ行かないと。


「さよなら。また会おうね」


「待って! どこに行くの! 私を置いていかないで!」


「ごめんね」


 最後の言葉は聞こえないように呟いてから私はそっと若葉から離れて真緒のところへ向かう。


「行こっか」


「まったく、お主はもう少し考えぬか。あれだけ若葉が叫べば周りもおかしいと思うじゃろ」


「ああそっか。すっかり忘れてたよ」


「心配いらん。わしがお主らの周りに結界を張ったからの。音は一切漏れとらんし若葉がお主を追いかけてもこれぬ」


「ありがとう」


 最初の印象がちょっとあれだったけど、恐らくこの国はまだ平気な方だろう。


「それじゃあ出発だよ。世界一周の旅に」


「目的それじゃったか!?」


「うるさいよ。見つかっちゃうでしょ」


「む……すまぬ」


「行くよ」


「おうとも」


 そして私達は誰にも認知されないまま王宮から脱出し宛のない旅に出た。目的は前回できなかった冒険。とついでに強力な魔物を倒しに。でも大丈夫。若葉のことはどこからでも分かるから。いざとなったら駆けつけるよ。






「ところで今は何年で、ここはどこじゃ?」


「あ、忘れてた。まあいっか。いつでも」


「気楽じゃの」


「それくらいでいいんだよ旅なんて」


「そうか。ならいいかの」


「そうそう。気楽に行こう。またいつか若葉と会える日を楽しみにしてさ」



 私が立派な勇者になった若葉と会うのはまだ先の話。そして――



 ――これは私が勇者になった妹を陰からこっそり守りつつ冒険する話だ。

上手く伝わりますかね。タイトル詐欺みたいになっちゃいましたか。反省はしている。後悔はしていない。はいごめんなさい。


次は若葉視点の予定です。

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