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壊れる日常

 私と魔王が女神に転生させてもらってから十六年が経過した。割と早く時間が過ぎていくような感覚だ。でも特筆すべきことはないんだよね。強いて言えば私と魔王は幼馴染として生まれ育ったことくらいかな。あと私に双子の妹がいるくらい? 可愛いのなんの、とか言うと双子だから同じ顔してる私も自画自賛してることになりそう。でもあの子が可愛いのは事実。小さい顔に短い黒髪。そしていかにも元気いっぱいといった感じの笑顔。うん。可愛い。


「お姉ちゃん行くよぉ!」


 その妹が私を呼んでいる。まあ学校に向かうだけなんだけど。同じ家に住んでるからって一緒に行く必要ないんだけど、それを言ったらあの子泣き出しちゃったもんだから今でも一緒に行ってる。まったく、私よりも友達が多いんだからその子達と一緒に行けばいいのに。


 ちなみに妹は頭脳明晰、スポーツ万能、超絶美人の三拍子揃えた完璧超人。流石私の妹ですよ。だから超モテるけど何故か彼氏はいない。理由は分からん。いやほんとに。それに比べて私は地味に目立たないようにしている。同じ顔だけどよく見えないように伊達メガネもかけて髪も長く伸ばしている。勇者の力がまだ残っているからまったく全力も出せないし別に出す必要もないと思ってるから髪が長くてもなんら問題はない。だから周りから見れば性格が真逆な双子と思われてるはず。


「桜〜。若葉〜。お弁当持った〜?」


 転生しても名前は桜だった。慣れてたから良かったけど名字は変わってて今の名前は篠浜(しのはま) (さくら)っていう。ちなみに妹は篠浜(しのはま) 若葉(わかば)だ。


「持ったよ。お母さん」


 お母さんの声を後ろに聞きながら先に玄関にいた妹と一緒に外に出る。


「いってきます」


「いってきまーす!」


「気をつけてね〜」


「遅いぞ」


 うわ。外に出たらいきなり声が。はて。誰の声だろう。


「出たな悪魔め! 今日こそ倒してやる!」


「ふははははは! お主にはまだ早い! 今日も桜はいただいていくぞ!」


 私は物か。折角無視したのに若葉が声をかけてしまったからもう無視することはできない。というか若葉、今ドロップキックをかましにいったな……。軽々避けたけど。


「朝からうるさいよ。何してんの真緒」


 桐花(きりはな) 真緒(まお)。それが幼馴染として生まれ変わった元魔王様である。高笑いしながら腰に手を当てる、前世の魔王時代から何も変わらない見た目の幼馴染を軽く叩く。この幼馴染は私よりも小さいからちょうどいい位置に頭があるんだよね。……うわ、相変わらず髪長い癖にサラッサラ! ちょっと気持ちいい……。


「叩くでない。それにうるさいとはなんじゃ。折角待っとったんじゃからそこはお待たせくらい言わんか」


「なんでよ……」


「話をしようと思ってな」


「あー! またお姉ちゃんと話して! お姉ちゃんは私のなんですー!」


「ふっ。小娘ひとり相手にしながら会話をするなぞ造作もないことよ」


 いや、相手にっていうか避けただけじゃん。こんなとこでモタモタしてたら遅れるし家の前でやってるからそろそろお母さんに怒られそうだ。……しょうがない。置いてこ。


 スタスタと足早にその場を離れる。後ろから二人が言い合ってる声がまだ聞こえてくるが静かになるのも時間の問題だろう。ちらりと後ろを見るとちょうど母が出てくるところだったので本当に危なかった。ここから先はちょっと思い出したくないから見えなくなるまで早歩きで行こう。世の中には絶対に勝てないと思えるものもあるんだと思い知ったからね……。






 結局二人が学校に来たのは一時間目が始まる直前だった。本気で走ったのか若葉は息切れしている。真緒は涼しい顔をしているけど、まあ魔王の力がまだ残っているからでしょう。


「それにしても珍しいね。真緒が家にくるのは」


「言ったであろう。話をしにきたと」


 時間は昼休み。席が前後の私達は、私が後ろを向いて真緒の机で一緒に昼食を食べてる。窓際の席なので入ってくる風が気持ちいい。若葉はいない。大量のお友達に拉致されていった。なんだかドナドナみたいだなと思ったのは秘密。


「話……ねぇ。どうせろくなことじゃないんでしょ。一応聞くけど……」


「まぁそう言うでない。お互いに力も勉強も目立たないために制限をかけるという窮屈な生活をしてるんじゃ。少しくらいよかろ?」


「言いたいことは分かるけどさ。しょうがないじゃん。それを承知であのとき承諾したんだから。っていうかそれ若葉には言わないでよ?」


「分かっておる。というかわしも同じなんじゃから言えるわけなかろ。大体信じて貰える訳もないしの」


「そうだけどさ……」


「心配するでない。静かに暮らしてる限り何もないのじゃ。今度こそわしはゆっくり生きてみせるでな」


「そう……だね。うん。いつもと変わらない日常を続けていけば、いずれあの女神様は夢に出てくるって言ってたもんね」


 そうだ。何も変わらない日常さえ続けていれば……。何も心配なんかいらない。うん。真緒の言う通りだ。何を悩んでいるんだか、私らしくないな。


「それでじゃが、話というのは実はその女神のことなんじゃ」


「ん?」


「お主のその様子じゃとどうやら来てないみたいじゃの」


「うん」


「昨日わしのところにきた」


「早くない?」


 結構な時間をかけて回収していくはずだったのに。


「わしもそう思った。だから聞いたんじゃよ。何が起きたとな」


 流石元魔王。異変察知が早いね。


「それで?」


「どうやら―――」


「いつまでお姉ちゃんと一緒にいるんだこらー!」


「どげふっ!」


 ……………は?


「いつまで私のお姉ちゃんと楽しそうに昼食を楽しんでるのさ! この悪魔め!」


「いったいのぉ。なんじゃなんじゃ。まったくこっちはまだ食事と大事な話の真っ最中なんじゃが」


 いや、痛いですむのか。あんた今脇腹にドロップキックくらって真横に吹っ飛んだぞ。しかもここは窓際だからすぐに窓の手すりっていうのか欄干っていうのか分からん場所にぶつかってるし。両方の脇腹に結構衝撃がかかったと思うんだけど。


 ……あ! 私の弁当が! ひっくり返ってる……。


「関係ない! お姉ちゃんと一緒に食べるのは私だ!」


「いやお主連れ去られてったじゃろ。毎日桜と食べてるのはむしろわしの方なんじゃが……」


「いや! 今日こそ食べる! お姉ちゃんの好きなタコさんウィンナーを食べる瞬間を見てやるんだから!」


「お主も大概じゃ……の………ひっ!」


 魔王がこっちを見て悲鳴をあげた。失礼な。人の顔を見て悲鳴をあげるんじゃない。あ、どんどん真緒の顔が青くなってく。初めて人の顔が青くなる瞬間を見たけど見事なもんだね。


「わ、わしはちょっと、この辺で……」


「ようやく怖気付いたか!」


「「「若葉さん! 若葉さん!」」」


「何?」


「「「逃げて!!」」」


「待ちなよ真緒」


「あ、おねえ……ひっ!」


「なんでわしが!?」


 ゆらりと立ち上がったからか長い髪がメガネにかかっちゃって前がよく見えないな。ああ鬱陶しい。


「ま、待ってくれ、桜、落ち着くのじゃ!」


「あ、ああ、あの、お、おねえ、ちゃん……?」


「なにかな二人とも」


「い、いやじゃ……わしはまだ、死にとうない……」


「あ、えと、その、お姉ちゃん、ごめんなさい……」


 さっきから割と失礼だな真緒。あんたから叱ろうか?


「ちょっと……逝こうか」


「待て! お主の今の絶対字が違う!」


「そうだよ! 誰がこんな悪魔と一緒にお姉ちゃんを行かせるか!」


「ええい! お主は黙っとけ!」


「私の……弁当……!」


 育ち盛りに食べないとどれだけ悪いか教えてやろう。身長が伸びないこの悩みが分かるかと問い詰めてやる。胸ばかり大きくなるのは辛いんだぞ。着痩せするタイプだから目立たないけど。ということを二人に教えてやろうとした。けど――


 キーンコーンカーンコーン


「おーっす。お前ら座れー」


「「た、助かった……!」」


 あらま、先生が入ってきちゃったよ。しょうがないか。また今度にしよう。


 ――そう思って席に座ろうとしたそのとき、教室の床が光りだした。しかもこれは……!


「真緒!」


「もう間に合わん! 手遅れじゃ!」


「お姉ちゃん!」


「何かに捕まって若葉!」


「う、うん!」


 まずい! どんどん魔術式の光が強くなってる……!


「行き先は!?」


(((いや、分かんねえだろ!)))


「……恐らくあそこじゃ」


(((なんで分かる!? 何者!?)))


「若葉!」


「なに!?」


「……ごめんね」


「え?」


 恐らくこれは私達のせいだと思う。だから若葉には謝っておかなければと思った。間に合ってよかった。


 そして私達は光に呑まれて消えた。

短いし急展開かなと思いますけど、サクサクいけば読みやすいかなと。

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