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決着後

久しぶりの投稿ですが読んでくださると嬉しいです。

 魔術を解除して若葉がその場で頽れるのを見届けてから隊長の元まで向かう。


「私はお眼鏡に叶ったかな」


「十分だろう。今この場で君の実力を疑う者は騎士として相応しくないまである。相手の力量も見抜けん奴などむしろ騎士団になんか要らないさ」


「それもそうだね」


「ふむ、明日から中々楽しいことになりそうだ。ぜひとも私含めて我々に指導願いたい」


「いや、あんたは要らないでしょ……」


 やだよ、こんな実力者に指導するなんて。冒険者に教わる騎士団とか面子的にも問題があるだろうに、そのうえそこそこの地位に就いてるやつとか手に余るっての。


「そうか。では暇なときにでもまた戦ってくれると嬉しいんだが。私も鍛え直してはいるのだが相手が居なくてな。団長は多忙でほとんど顔を出さんし副団長はそもそも相手ができん。他の隊長とも手合わせをするが同じ相手ばかりでは正直飽きが来ててな。他に私と互角に戦える人間はあまり騎士団におらぬのだ」


「もっと前から鍛え直しなさいよ。でも鍛え直すっていうならぴったりなのが一人いるよ」


「それは?」


「ふはははははは! それはつまりわしのことじゃろう!」


 私が一人紹介して押し付けてやろうとしていたら突然けたたましい笑い声が聞こえてきた。もちろん犯人は分かっている。さてどうしてくれようかと考えていると、当の本人が観戦してた場所から文字通り跳んできた。結構距離あるんだけどな……。


「お主、戦う相手に困ってるとな?」


「あ、ああ。そうだが君は?」


「わしは……なんじゃったか」


「なに?」


 忘れてるし……。このロリ魔王、戦いに頭が傾いて何も覚えてないときたよ。はぁ、しょうがない。


「キリハよ」


「キリハ?」


「おお、そうじゃそうじゃ。わしはキリハじゃ。お主の戦う相手はわしが努めよう。なに、心配はいらん。これでもわしは()()()が上手いんじゃ。よろしく頼むぞ」


「そ、そうか。よろしく」


 ……もうお前喋んな。なんて思わず口から溢れ出そうになった。いつか絶対にボロが出そうでハラハラするよ。


 そして当然ながら真緒も偽名だ。真緒は特徴が何より分かりやすい。140cm程の身長に加えてあの口調ではいつ真緒だと気付かれてもおかしくはない。せめて髪と名前だけでも変えておかないとね。


「さて、無事に指導役として合格したわけだし……キリハはどうする? 今から模擬戦する?」


 私の一言に訓練場内の全員がビクッと震える。もう体力も使い果たしたのだろうか。甘い甘い。甘すぎるよ。魔物も魔王も疲れたからといって待ってくれる訳がないだろうに。


「ふむ。そうしたいのはやまやまではあるのだが……生憎戦えるのが私一人だけではな……」


「情けないのぉ。疲れたから戦えませんではただ死ぬだけじゃろうに」


「いやはや、返す言葉もない。もし戦うというのであれば私一人で勘弁してくれないだろうか。戦わずとも君の実力はもう理解しているのだが」


「ほぉ……」


 その言葉に。面白そうに、興味深そうに、楽しそうに。真緒は笑う。嗤う。嘲笑(わら)う。


()()、か。まぁ良い。今日でなくともな。それではお主のことは明日からわしが鍛えてやろう」


「ああ。よろしく頼む」


 うんうん。やっぱりめんどくさいのは真緒に押し付けるに限る。さて、私はそろそろあの子のところへ向かうとしよう。




「いや〜負けちゃったか」


 服に付いた土を手で払いながら笑って若葉は言う。清々しい表情を浮かべているが目の奥には確かに悔しさと目標ができたことに対する熱が見えた。それでいい。私という明確な目指すべき先を目にしたことで今後の指標も見えてくるはずだ。


「約束通り明日から私が君達の指導役になるよ」


「うん。そうだね」


「君はまだ若いんだ。目標に追い付くという意思があれば、君はどんどん強くなれるよ」


「……本当に?」


「本当だよ。私が保証しよう。君は必ず魔王を倒せると」


 嘘ではない。これは実体験から来ているから分かる。勇者は誰よりも早く強くなる。それ程までに勇者だけのスキルは特別だ。胸を張って、自信を持って言える。若葉は必ず魔王を倒す。()()()()()()


「……ありがとう」


「あとはやっぱり自分だけの武器を見つけることも大切だよ。君だけのオリジナル、君だけの戦い方。どんなことでも良い。これだけは絶対に負けないという、そんな武器を」


「武器……。じゃあ貴女の武器って?」


「内緒」


「ええー!」


「まあまあ。いつか見せてあげるから」


「約束だよ!」


 ほんの少しだけ元気になったようだ。今はブーブーと文句を垂れているけど。たかが一週間程度しか離れていなかったはずなのに、こんなにも懐かしく感じる。


「いつかちゃんと教えてよ」


「そのときが来たらね」 


 私の武器を出すということは即ち、それ程の脅威と相対しているということを指すんだけど、それは言わなくていいことか。


 そこで手を叩く音が訓練場に響き渡った。


「さて、彼女の実力を身をもって体験したことだ! 指導役となることに異論は無いだろう! 今日はここまでにして、明日からの訓練に備えると良い! では解散だ!」


「「「「「はっ!!!」」」」」


 ボロボロでフラフラだけど騎士達の返事は立派だ。死屍累々の屍のようだった騎士とクラスメイト達は体を引き摺りながらも城の中へ戻っていく。やがて私達と隊長、宰相、レノイ、若葉だけが訓練場に残る。


「いや君も戻りなさいよ」


「いや〜なんかサラさん達がどんな会話するのか気になっちゃって」


「はぁ……君ねぇ」


「良いではないか! どうせ大した話ではない! 明日からの確認だけだからな!」


 なんか甘くない? 大丈夫?


「それでは明日からの予定ですが、明日は朝に座学。昼食後から訓練となっています。訓練の形式はお任せします」


 宰相から伝えられたことに知らない予定が入ってるな。


「座学?」


「ええ。そちらもお任せします。内容はなんでも良いです」


「なん……じゃと……!?」


 あ、真緒に言ってはいけない言葉を言ったな。前にも言ったが真緒は教えるのが上手い。まあ年の功というやつだろう。これなら座学に関しては真緒に全部押し付けて問題ないね。てことは私は実技の方だね。真緒にも実技はやらせるけど。


「座学かぁ」


「ん? 君は座学が苦手かい?」


 若葉のぼやきに思わず反応してしまう。地球では普通に若葉の成績は良かった。異世界であろうとその能力は遺憾無く発揮されるはずだけど……?


「苦手じゃないけどやっぱり体を動かす方が好きでさ。眠くなってきちゃうんだよね」


「ほぉ。それはいいことを聞いたな。ではわしが退屈しないで済むような授業をしてやろうではないか」


 あ、真緒のいたずら心に火が着いた。今の真緒はかなり人の悪そうな顔をしている。対する若葉は余計なことを言った、みたいな表情を隠しもせずに浮かべている。地球にいた頃とは違い先生と教え子という面白い関係ができそうだ。


「座学の範囲はお任せします。まだ一度も実施しておりませんのでどれから手をつけて頂いても構いません。後ほど教本をお渡しします」


「まあそこら辺は適当にやるわい」


「実技も魔術、剣術どちらもお任せします。一応軽く剣術の方は説明はしてあります」


「じゃあ私が剣術で」


「わしが魔術か。……わしの負担すごくない?」


「気のせいでしょ」


 気軽に決めた采配だったけど真緒の実力を知らない周りの人は皆驚いて私達を見る。特に隊長が。


「え? 魔術をサラさんが担当するんじゃないの?」


「しないよ。こう見えても私よりキリハの方が魔術に詳しくてね」


「こう見えてもは余計じゃ」


「まあ明日になれば分かるよ」


 あまり納得してなさそうな若葉に笑いかけて話を切る。今見せる必要も無いしどうせ明日以降は嫌という程見れるからね。


「予定は分かった。それで時間はどれくらい?」


「そうですね。9時の鐘が鳴ったら座学開始、12時の鐘が鳴って終わりです。実技は13時の鐘から15時の鐘までを予定しています。食事の時間は朝が7時の鐘から8時の鐘が鳴るまでの間に、昼は12時から13時、夜は17時の鐘から18時の鐘が鳴るまでに済ませてください。風呂は訓練終了後から22時の鐘まで使用できるので時間を過ぎないように注意してください」


 分かりやすい時間だね。今更だけどこの世界では1時間おきに鐘が鳴るため、それを目安にこの世界の住人は活動している。私が前にこの世界に来たときには既にあった仕組みだ。ちなみに夜も鳴ると眠れないのではないかと思ったけど鐘の音だけを消す防音の魔道具があったりする。術式とか見た訳じゃないけど鐘の術式とリンクしてるとかなんとか。昔セレンから軽く聞いただけだから良く分からないけど。ちなみに時間の数え方は地球と一緒。


「なんとも分かりやすいことで結構じゃな。他に何かあるかの?」


「いえ、これで終わりです。後は部屋まで別の者が案内させます。夕食と風呂は用意してあります」


「わしらは同じ部屋で大丈夫なんじゃが出来るかの?」


「それでしたら大丈夫ですがよろしいのですか?」


「わしらはわしらで打ち合わせとかあるからの。夜にでも事前に話し合っておかんと実技のときに大変じゃろ?」


「なるほど。そういうことでしたらそのようにします。それではあちらの者に案内させます。」


 宰相が指した方を見ると一人のメイドが私達に頭を下げる。いつの間に来たんだろうか。熟練のメイドって感じの雰囲気が凄い伝わってくる。


「それでは質問等がなければこれで解散になります」


「特にないから大丈夫じゃ」


「では明日からふたりともよろしく頼む。特にキリハ殿の指導について楽しみにしている」


「任せておけ。お主のことはぜひ強くしてみせるとも」


 隊長と真緒が笑いながら見合っている。なんだかもうライバルになった雰囲気なんだけど、君達まだ戦ってないよね?


「私達は案内してもらうから君も早く戻りなよ勇者さん」


「うん。それと私の名前は若葉っていうの! よろしくねサラさん!」


「よろしくね。明日から楽しみだね。行くよキリハ」


 若葉に別れを告げてメイドのところへ向かう。ああ、明日からが本当に楽しみだ。この目で若葉の成長が見られるのだから。

改めてお久しぶりです高澤です。

相変わらずの更新頻度でございます。早く書けよって話ですよね。

なるべく早く書こうと思ってるんですが納得のいく文章がなかなか書けず……こんなに空いてしまいました。

次回からまた頑張って更新していきますので、応援してくださると嬉しいです。


今更ながらあけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

高澤


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