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模擬戦開始

 強大な……魔力? もしかしてさっきレノイにぶつけようとしたやつのことかな。おかしいな。真緒はすぐに魔力をコントロールして一切身体から魔力が漏れ出ないようにまとわりつかせてるはずだけど。二人揃って首を傾げる。


「とぼけるな! 貴様らの魔力で第三王女が気絶したと報告が入ったぞ!」


「「…………」」


 う、ううん。これはなんとも……。下手すれば国家反逆罪に問われるやつだ。すごい。真緒の顔がみるみる青くなってく。あ、冷や汗も出てきた。


「おふたりさん! 依頼書をもらえるかい!」


 うるさいしお前は空気を読めレノイ。まあ渡すけど。無言で差し出した依頼書を受け取りレノイは囲みの中から消えた。


 さてどうしよう。流石にそこまでする気はなかったが王族に被害がいってしまったのであれば国から追われることになっても文句はない。むしろ甘んじて受け入れよう。ただ気軽に若葉に会うことが難しくなるからやっぱり少し抵抗するかな。ちょっとだけなら何しても大丈夫でしょ。


「確かに正式な依頼書のようですね。ふむ……丁度いい機会ですので彼女らの実力を確認しましょう」


「はい。では今この状態から抜け出してもらってから正式に伝えましょうか」


 囲みの奥から宰相とレノイの話し声が聞こえる。……いや君普通に喋れるんかい。今度から黙らせるか。


「聞こえたかい二人とも! では頑張りたまえ!」


 お許しが出たようだしとりあえず今は出よう。


「真緒!」


「な、なんじゃ!?」


 間違いなく聞いてなかったな。でも今は気にしてる余裕はない。先に謝っておくか。


「ごめん!」


「は? ――どげふっ!?」


「よっ、と」


「「「「なっ!!!」」」」


 真緒を回し蹴りで蹴り飛ばしてから自分の脚を魔力で強化し囲みを跳んで抜ける。おーおー。こりゃ絶景だね。人を跳び超えるなんて初めてやったけど意外と面白いかもしれない。魔物相手には何回もあるんだけどね。


「何をするんじゃ!」


「回し蹴りだけど。どうせあんた王女のことを気にして囲みを抜けていいってこと聞いてなかったでしょ」


「そりゃ気にするじゃろ!」


「気にしないでも大丈夫かと思ったからさ」


「なぬ?」


「そうでしょレノイ」


 確認するようにレノイに問う。


「ああそうだ! 君達は何も心配はいらない! 王女が倒れたのは体質の問題だ!」


「それ、騎士団の人は知ってんの?」


「知らないと思う! だから今この場で君達にも含めて説明した! というわけで心配はいらないぞ!」


「「「「「はっ!!!」」」」」


「だってさ」


「物分り良すぎじゃろ……それでどうするんじゃ」


「それは私から説明するとしましょう」


「む。誰じゃお主」


「失礼。ワタクシはこの国の宰相を務めているエルバーと申します。以後お見知りおきを」


 ああそうだそうだ。そういえばそんな名前だった。召喚されたときに名前を聞いただけだから普通に忘れてたよ。……いや顔ぐらい覚えときなさいよ真緒。


「今この場にはアスレクト王国第一騎士団の騎士が20人と勇者達が28人の計48人います。貴女方にはこの48人に実力を示していただきたい」


「どうやって?」


「それは任せます。何かしらの方法で分かりやすく示してもらいたい。まあ勇者の指導役ともなればその方法は……言わなくてもよろしいかと」


「それは良いけど騎士団の人達は納得してんの?」


「当然していないさ! もちろん勇者達もね! だからこそ君達の手で納得させてみたまえ! 指名依頼された冒険者の実力を我々に示すがいいさ!」


「そういうことであれば良かろう! かかって来るが良い!」


 パキン! と音がして訓練場全体に結界が張られる。これが開始の合図となった。にしても真緒も人のこと言えないくらい順応性高いよね。すぐに対応できるの見習いたいね。さてさて、どんなもんかなと。


「訓練通りに囲め! 決して油断はするな!」


「「「「「はい!!」」」」」


 うん。まだまだ粗削りだけど動きは悪くない。ほんの一週間足らずでよくここまで形にしたもんだと感心する。そして肝心の若葉はさっき見た場所から既に消えている。紛れたのかな。そうだとしたらなかなか行動が早くて結構。やっぱり若葉は勇者の素質が十分あるよ。


「さて、どうする?」


「今回は私がやるよ」


「ほぅ。珍しいではないか。よもや触発されたか?」


「そんなんじゃないよ。ただ少し確かめたいなって。果たして今の若葉はどれほど強く、そして今の仲間達は若葉を守ることができるのかってね」


 素質があるのは見れば分かる。あれほど才能に溢れた人間もそうそういないだろう。これから時間が過ぎていく度にあの子は成長して周りと隔絶した実力を身に付けていく。それは素晴らしいことだ。誇らしいことだ。




 だからこそここで()を知っていて欲しいんだ。




「ではわしは訓練場の端にいることに……いや、レノイのところにいるとしよう。ああ、わしに飛ばしてくるでないぞ?」


「分かってるよ。まあでもそのときはちゃんと防いでね」


「やれやれじゃまったく……よっ、と」


 今度は蹴り飛ばされたりせずに自力で囲みを飛び越えて真緒はレノイのところに辿り着く。囲みの中には私一人。レノイと宰相は興味深そうにこちらを眺めているのが見える。


「一人で十分なのかい?」


「十分どころかお釣りが来るわ。あやつはこれまで一人で戦ってきた。仲間といようと軍勢を引き連れていようと、その中であやつは一人で戦ってきたのじゃ。多対一はあやつにとって苦でもなんでもないのじゃよ。むしろやりすぎないように注意する方が大変じゃろうて」


「それは……」


「別に嘘じゃと思うならそれで良い。嘘か真かなどすぐに分かるのじゃからな」


「それはとても楽しみだね!」




 何を話してるのやら。こっちは二人が一人になったから若干名の騎士の顔が歪んでいるっていうのに。


「我々は舐められているのか?」


「ふざけている……!!」


「やってしまえ!」


「っ!? 待て!」


 あーあー。せっかくの多人数の有利性を捨てて数人の騎士が飛び出してきた。隊長らしき人が静止の声をかけるも無視。彼等は手にした剣で直接叩き伏せるつもりだろう。隊長の顔は焦っているように見える。あ、違うね。よく見たら隊長だけじゃなくてクラスメイトも焦っている表情だ。結構結構。飛び出してきたやつ以外はちゃんと理解しているみたい。このバカ共は理解してないしこれで勝てると思ってるんだろう。ただ生憎と相手が悪かった。この程度の人数は既に経験済みだ。


「『水弾(ウォーターバレット)』」


 敢えて詠唱して魔術を発動する。私の水弾は襲いかかってきた騎士の顔にクリーンヒットした。うわ、痛そう。すごい悶えてるや。でもこれで目は覚めたでしょ。舐めてかかるからそうなるのだと。冒険者は見た目通りの実力じゃないのが普通なんだから。


「魔術師だと?」


「しかも魔術の詠唱破棄に三つ同時展開か。これだけで魔術師としては数段上ということがわかるな」


 今の牽制混じりの魔術で私を見る目が変わったのが分かる。


 魔術は計算のようだと私は思っている。魔力量、投影場所、向き、形、発動時間等々。ただ魔術を構成するそれらの要素を一つの術式に掛け合わせることで魔術を自分の思い通りに発動する。それが詠唱であり魔術師としての基本だ。


 私がやったのはそれらの要素全てを同時に決め術式に刻み込み発動する詠唱破棄というもの。本来なら詠唱によって決める範囲や威力を想像で決めることで大きな時間短縮になり相手より遥かに早く魔術を発動することができる技術だ。


 そして魔術の複数同時展開。詠唱破棄で発動するのも難しい魔術を更に複数発動するというものだ。原理は単純でどこに発動するかを最初に決めるだけ。ただ展開する場所によって魔術の要素が違うので単純ながらもかなり難しい。これは敵の意表をつけたりするので結構便利な技術なんだけどね。


「このバカ共が! 相手を見くびっているからそうなるのだ!」


「で、ですが……」


「なぜこの場に呼ばれているかを考えたら分かるだろう! 彼女らは強いから呼ばれているのだ! それを考えず冒険者だから、女だからと甘く見おってバカ共が!」


「「「……」」」


 うーん。目の前ですごい怒られてるんだけどどうしよう。私ものすごい場違い感がすごい。私どうしようかな。……お。どうやら終わったみたい。


「すまない。急に説教してしまった。仕切り直しても良いだろうか」


「あ、うん。それは良いけど大丈夫なの?」


「心配はいらない。仮にも騎士だ。この程度でへこたれては騎士など名折れ。何も守れやしないさ」


「それなら良いけど。じゃあ、やろっか」


「かたじけない」


 私達に非がないことが分かったからか普通の態度で接してくる隊長。いやきっかけは私達だから全く非がないわけではないのだけどそれでも今だけは普通に話している。切り替えができているようで素晴らしい。じゃあ私も真剣にやろう。空気になりかけてる勇者達クラスメイトを一瞥してからさっきのように囲みを跳び超えて抜ける。


 真緒達とは反対の位置に着地して騎士団を見渡す。この人数の人間を相手にするのは久しぶりだ。鈍った身体の動かし方を鍛える良い訓練になるでしょう。


「準備はできたな!? では行くぞ!」


 模擬戦開始だ。

今年最後の投稿になります。不定期投稿な拙作ですが読んでいただけて本当に感謝しかありません。今後も不定期ではありますがなるべく投稿していきたいと思っていますので来年もよろしくお願いします。


皆様良いお年を。

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