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変装

 真緒から夢の話を聞いてからも何も起こることなく数日かけてアスレクト王国に辿り着いた。夢の話をされたから何かしらの接触があるかなって思ってたけど一切そんな素振りもなくただ馬の旅を楽しんだだけだった。お陰で馬とは仲良くなれたかもしれないけど未だにあの馬の名前知らない。オルベルクも教えてくれたら良かったのに。


「ようやく着いたね。ここから出てきたのにもう戻ってきちゃったよ」


「うむ。まあ依頼を受けてしまったものはしょうがあるまい。早速行こうではないか。して……どこへ向かえば良いのじゃ?」


「大体こういうときはギルドに向かえば大丈夫でしょ」


 そういえばどこで依頼を受けたことを伝えれば良いのか教えられてないなと思いつつ馬車をそのままギルドに向かわせる。オルベルク何も教えてくれてないじゃないか。


「見えてきた。あそこに停めて」


 バフン! と返事のような鳴き声を響かせて馬は馬車をギルド前に停める。馬車から降りてギルドに入るといつか見た光景のようにぴたりと喧騒が止み入ってきた者の素性を確認しようと一斉にこちらを向く。特に興味もないので依頼票をだしながら受付へと歩みを進めていく。


「依頼を受けに来たんだけど」


「あ、は、ははは、はい! 少々お待ちください!」


 特に絡まれることなく受付に依頼票を提出できて少しほっとした。やっぱり何も起こらないのが一番だね。でも依頼票を渡した受付嬢どっかに走ってっちゃったんだけどどこに行った?


 なんて確認してると奥から前回登録した際に担当した受付嬢が歩いてくるのが見えた。受付嬢は私と真緒の顔を見ると相当驚いたような顔をした。美人が台無しでは?


「数日振りですね。本日はどうされました?」


「そうだね。この前ライントの……なんて言ったっけ、ラグウェント? でこの国から指名依頼を受けたんだけどさ。どこに行ったらいいか分からなくてとりあえずギルドに来たの」


「そうでしたか。目覚ましいご活躍とランクの駆け上がりで何よりです。それで国から依頼を受けたとなればこの街の王城。『黒の王城』が良いでしょう」


「『黒の王城』?」


「はい。勇者召喚されたと噂される城ですね。おふたりに指名依頼がされたということは噂は本当だったのかもしれませんね」


「買いかぶり過ぎだよ。たまたま近くにDランク冒険者と渡り合えるのが私達だけだったって話だよ。勇者とか関わりたくないもん」


 この受付嬢、私達に対する視線というか目付きがキラキラしてる気がする。何かしたっけ……? ちょっと怖いんだけど。……いや真緒がやらかしてるじゃん。明らかにそれでしょ。


「ま、まあいいや。ありがとう。今からそっちに行ってくるよ」


「はい。活躍をお祈りしています」


「う、うん。ありがとう」


 若干の急ぎ足でギルドの外に飛び出す。正直あんな感情を向けられたことがないから居心地が悪くてついつい飛び出しちゃった。でも急がなきゃいけないし言い訳としては十分だと思う。


「じゃあ早速その『黒の王城』に向かおうか」


「お主……」


「やめて……聞かないで……」


「いや手で隠さんでも……お主のそんな顔初めて見たぞ」


 見られないよう急いで馬車に乗りこみ馬に王城を目指すように指示する。どうにも調子が良くない。やっぱり私は憧れの対象には向いていないようだ。


「まあ良い。それより変装するんじゃろう? 準備せねばなるまい」


「うん。とりあえず服装はこのままでローブだけ身に付けようか。あとは真緒。これに『隠蔽(ハイド)』の魔術を付与してもらえる?」


「ほぉ。伊達眼鏡にか」


「うん。これなら普段からかけてるから特に邪魔にならないし違和感もないでしょ」


「確かにの。むしろ眼鏡を外せば誰だか分からないのではないか?」


「そんなことしても若葉には気付かれるでしょうが。それに私この眼鏡割と気に入ってるの」


 目立たないように前髪を目にかかるくらい伸ばした上で伊達眼鏡をかけることで若葉と似ても似つかない雰囲気を醸し出すことに慣れちゃったからか、この伊達眼鏡が無いと落ち着かないようになってしまった。光の反射とか汚れが気になるからレンズは入れてないけどね。


「そうじゃったか。それなら眼鏡にかけるとしよう。術式付与――『隠蔽』」


 真緒の手に小さく浮かび上がった術式が眼鏡に刻み込まれていく。極限まで効率を重視したそれはまるで小さな芸術のようだった。


「こんなもんじゃろ。これをかければわし以外には誰にも桜じゃと認識されぬし、たとえ顔を見たとしても雰囲気が似てる程度にしか思われることはないじゃろう。たとえ若葉であろうと今のお主と相対してもお主であるとは断定できぬ。眼鏡をしている限りお主の顔を認識できぬし違和感を持たれることもない。わしのブレスレットも同じじゃ。お主以外にわしを真緒であると認識することはできないようになっておる。これでバッチリじゃろう」


「すごい効果だね。あの魔術って付与するとそんなことになるんだ」


「まあ身に付けているときに限りというものじゃからここまでの効果を発揮できるんじゃ。仮に身に付けないタイプじゃと認識しづらくなる程度じゃろう。違和感は持たれたりするし気付かれることもあるというものができるじゃろうな。それはそれで使えそうじゃがな」


 私達のことがバレないようにする道具は準備できた。あとは変装、というよりかは念の為の保険といった感じかな。私は眼鏡をかけながら魔力を練り上げる。


「じゃあ変装するけど真緒って髪の色とか拘りある?」


「いや無いが……何故髪の色を?」


「念の為だよ。じゃあ勝手に決めちゃおうか。やっぱりのじゃロリといえば銀髪赤眼とかじゃない?」


「待て待て待て待て! 誰がのじゃロリじゃ! じゃなくて髪の色も変えるのか!?」


「もしこの魔道具が壊れたらどうすんのさ。魔道具を外している状態で誰かに見られても良いように保険をかけておこうって話だよ」


 変装するならやっぱり髪色も変えないとね。何色に真緒を染め……じゃなかった。何色に真緒の髪を染めようかな。実は結構弄ってみたかったんだよね。


「じゃあ遊ぼ(変えよ)うか」


「待て! 今の絶対意味が違う!」


「なんの事やら」


「く、来るな……来るでない……!」


「よいではないか、よいではないか」


「い、いやあああああああああ!!!!」






「うう、汚された気分じゃ」


「うんすっきり。真緒って案外可愛い悲鳴あげるんだね」


 十六年一緒に遊んできて初めて知った事実。にわかののじゃロリか? ……いやなんだよにわかののじゃロリって。今私の目の前にはサラサラの黒髪を銀に染め、伸ばしっぱなしの髪はツインテールに結ばれ赤眼青眼のオッドアイという属性を盛りに盛った超絶美少女が項垂れている。


「やっぱりツインテールはないかなぁ」


「まだ弄るのかお主……もう好きにせい」


「一度弄ってみたかったからさ。若葉は短いし弄らせてくれないからね。そもそもあの子髪の毛を私に弄られるの嫌がるし。自分のを弄るほど私は自分の髪に興味はないからちょうど弄りやすいのが真緒なんだよね」

 

「そうじゃったか。いやちょうど弄りやすいとはなんじゃ。まったく……」


 真緒の髪を梳きながら色んな形に整えていく。こうしてるとまるでもう一人妹ができたような気分になる。名残り惜しいがそろそろ王城に着きそうだしこれで最後にしよう。


「うん。これでどうかな」


「む? なんじゃこれは? そこまで変わっておらんな」


「まあ髪色変えるくらいで十分かなって。あと髪の先端を結んだくらいかな。これでかなり印象変わるでしょ」


 結局真緒の髪色はのじゃロリといえば定番中の定番である銀色にした。いや白髪でもいいかなって思ったんだけどさ。銀髪がしっくり来すぎて他の色が考えられなかったんだよね。髪型は先端だけを結ぶシンプルなやつにした。ポニーテールでも良かったと思うけど……それは今度やってもらおうと思ってるからいいか。


 ちなみに真緒の髪を結んでいるゴムは私の私物。私自身は髪なんか結んでないけど一応乙女の嗜みとして制服のポケットに忍ばせてたものだ。


「むぅ。髪を結んだことがほとんどないから落ち着かんのじゃが……」


「似合ってるよ。可愛い可愛い」


「ふ、ふん! そんな言葉では騙されんのじゃ! それより次はお主じゃ! 今度はわしが弄る番であろう?」


「それもいいけどそろそろ時間みたいだよ?」


「なぬっ!?」


 バッと音がするほど勢い良く前を見た真緒の表情が段々と絶望に満ちた表情になっていく……いやあんたどれだけ私の髪弄りたかったのさ。それに残念なことに私の髪はもう決めてある。


「私はこれかな。んで結んで……っと」


「ぬあっ! ずるいぞ桜!」


「いやずるくないでしょ……」


「ぬぬぬ! 次は必ずわしがお主の髪で遊んでやるからな!」


「はいはい」


「ぐぬぬ! はぁ。……まぁ良い。懐かしいものを見れたから良しとしよう。ピンク色は初めて見たが……そのポニーテールはあのとき以来か」


 そう。今回私が変えた髪の色は淡いピンク。即ち桜色。自身の名や色にも名付けられたこの漢字が私は好きなのだ。これで確実に誰にも私が若葉の姉であると気付かないでしょ。


 少しだけ髪を揺らして懐かしむ。勇者として旅をしていたときの髪型だ。完全に無意識だったがまだ何か未練があるのだろうか。捨てきったはずなのに。割り切ったはずなのに。


「お、おい桜や?」


「ううん。なんでもない。じゃあ行こうか」


 若干しんみりした空気を振り払って前を向く。既に王城の入口へと辿り着いており衛兵が馬車に向かってきているところだった。


「どういったご要件で?」


「依頼を受けたの。これ依頼書とギルドカード」


「……確かに。ふむ、Dランク冒険者か。見かけによらずかなりの実力があるようだ」


「なんじゃ。喧嘩を売っておるのなら遠慮せず買うぞ?」


「遠慮しておこう。君達の場合では洒落にならんだろう。私がここにいて良かったよ。他の者では確実に喧嘩に発展していただろうからな」


「ほほぅ。お主、なかなか見る目があるではないか」


「そいつはどうも」


「……はぁ。すぐこうなる」


 真緒の喧嘩腰に思わず溜め息を吐く。こうしている場合ではないのだが。


「……通っていい?」


「ああ。今確認できたところだ。依頼を受けたことがライント王国の冒険者ギルドから連絡が来ている。では開門だ」


 大きな音を響かせて王城の門が開いていく。そういえばついこの前通ったときは開いてたのに今日は閉まってたな。何かしらの理由があるのかな。それともたまたま開いてたのかな。


「ここから先は徒歩だ。馬車はここに置いていってくれ」


 名残り惜しいが馬車から降りる。馬の面倒を騎士が見てくれるということだろう。まあしょうがない。依頼が終わったときにでも引き取りに来ればいいか。


「とりあえず何事もなくて良かったよ」


「まったくだ。今後はもう少しそのお嬢さんを落ち着かせておいてくれると助かるな」


「ふふん! それは無理じゃな!」


「そのうちね。じゃあね」


「ああ。ではまた」


 一悶着起こしそうな雰囲気だったがなんとか王城に入ることに成功した。こうして私達は一週間振りくらいの召喚場所へ帰ってきたのだった。




 いややっぱり戻ってくるの早すぎるでしょ。

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