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魔王と女神

「そういえばさ、転移だの変異種だの修行だのですっかり忘れてたんだけど真緒の夢にロリ女神が出たって言ってなかったっけ?」


 馬車を走らせて数時間。辺りが暗くなりかけてきた時間帯に今更思い出したことを聞く。確か転移する直前に教室でそんな話をしてた。ただ忙しかったり早く寝て夜明けと同時に出発したりリル達に聞かせられる話じゃなかったから全然する暇がなかったんだよね。


「そういえばそんな話をしていたんじゃったか。見事に若葉に邪魔されてしまった訳じゃが。まあその後に召喚されてしまったから気にはしておらんが……今思い出したがあのときドロップキックくらったんじゃったのぉ。今度会ったときは彼奴だけ厳しくしてやろう」


 いらない記憶まで思い出させてしまったみたい。それは当人同士で解決してもらうとして。


「それで、なんて言ってたの?」


「なんと言えば良いか……そんなに長い話ではなかったんじゃがお主に伝えても良いものか」


「どういうこと?」


「実はな――」




 ある夜の夢の中。というより召喚される日の前日の夜に見た夢の話じゃ。気付けば真っ白い空間。見渡す限り終わりは見えず地平線の果てまで真っ白い空間が広がっておった。まあ上も横も白いから地平線なんぞ見えんかったが。そんな見覚えがあるような空間に奴はおった。

 

「む。どこじゃここは」


「久しぶりですね魔王」


 驚いたぞ。見渡す限り真っ白な空間。誰もいないと思っとったからな。振り返ると見覚えのあるロリがおった。


「誰がロリですか誰が」


 どうやらこちらの考えていることが分かるらしくてな。遊んでみたかったのじゃが今回は時間がないよう言われてしもうた。仕方がないから大人しく素直に話を聞くことにしたんじゃ。


「良く聞いてください魔王。貴女達が生まれ変わり16年が経ちました。お陰で貴女達の力のリソースはかなり回収でき世界に還元することができました」


「そうか……思ったよりも早かったの」


「厳密にはまだもう少しだけ戻してもらわなければならないのですが、その目処が立ったのでこうして貴女の夢に出てきたという訳です」


「もう少しとな。というかわしだけなのか?」


「はい。全盛期の貴女達を10とするならば回収した力はおよそ5割程です。想定では6割程回収するとあの世界のリソースは元に戻る予定です。そして貴女達の身体能力も加減する必要も無い程度にまで落ち着きます。そして勇者なのですが……」


(桜のことになると途端に言い淀むなロリ女神。もしや彼奴に何かあったとでも言うのか?)


「何かあったというより何もできないと言うべきでしょうか。彼女の夢に入ることが一切できないのです。勇者の防衛かと最初は思いましたが……その様子ではやはり違うようですね」


(夢に入れないじゃと? だから今この場にいないのか。しかし何故じゃ? 彼奴はこの世界に生まれ変わってから一度も魔術など行使しておらぬし目立つような生き方もしておらん。強いて言えば双子の妹の方が目立っておるが……)


「原因を今探ってきました。勇者の仕業ではないというのならば簡単です。彼女は今何らかの干渉を受けています。恐らく私が接触するずっと前、最悪生まれ変わってから直ぐに勇者は魔術、もしくは違う方法で夢に干渉を受けたのでしょう」


(なんじゃと? 夢に干渉を受けているなど彼奴、一度もわしに言わなかったぞ。なんでもかんでも抱えるつもりか?)


「そう言わないでやってください。干渉する力がかなり弱いため彼女は恐らく気付いていないのです」


(力が弱い? どういうことじゃ)


「恐らく彼女が干渉を受けているのはカムラ、つまりは私の世界からだと思われます。というか貴女一切喋らなくなりましたね」


(む? まあ口に出しても考えても会話が成立するなら考えてることを直接ぶつけた方が早いじゃろ。噛み砕いて言葉にして伝えるという過程を挟まない分だけスムーズに会話が進むのでかなり楽じゃな。ちゅーかわしにそれを指摘したからお主の世界のことが今流れたぞ)


「あっ! コホン、勇者が干渉を受けているのはカムラ、つまりは私の世界からだと思われます」


(いや遅いわ。何をもう一回繰り返しとるんじゃ。女神(仮)は健在か。いや女神(笑)じゃったか? どちらにせよやらかすのは変わらんな)


「だ、誰が女神(笑)ですか!」


(威厳の欠片もない女神じゃな。それで、それだけじゃないんじゃろ? 目処が立った程度でわしらに伝えにくるなんておかしいじゃろ。お主は終わったら夢に出て伝えるという約束だったはずじゃ。答えよ女神。お主は今ここに何故来ている?)


「……相変わらず見た目は子供っぽいのに「誰が子供っぽいじゃ!」目敏い方ですね魔王。良いでしょう。いつかは貴女達の力を借りなければなりませんからね」


 やれやれといった感じであのロリ女神は首を振る。思い出したらなんだか腹が立ってきたのぉ。今度デコピンでも食らわしてやるか。それはさておきじゃな。やがてわしの方を見た女神は真剣な顔をして告げたんじゃ。


「率直に言います。魔王が出現しました」 


「……は?」


 思わず口をついて出てしまう程馬鹿げていると思った。だってそうじゃろう? 魔王なんて突然変異がそんな短期間で現れるものなのかとな。じゃが答えは少し違うようだった。


「もう一度言いましょうか? 魔王が出現しました」


「いや、一回で分かる。何故じゃ? 何故魔王がまた出てきたのじゃ? わしらが死んだのは無駄だったとでも言うのか?」


「落ち着きなさい魔王。突然変異ではありません。貴女のような存在が生まれないように私が世界を全て見ているのですから」


「ではなんじゃ? どうしてまた魔王が……いや、()()?」


「気付きましたか? 魔王という存在が生まれ落ちたのではありません。魔王という存在が突如別の世界からやってきたのです。言うなればそれは侵攻してきたということでしょう」


 驚いたじゃろう。そうじゃ。これこそ召喚される前日に見た夢の内容じゃ。最後にあのロリ女神はこう言っておった。


「最後に。勇者の夢に干渉している存在は恐らく害を為そうとしているわけではないでしょう。予想ですがあれは呼びかけだと思われます。ですがあまりにも微弱なため地球にいる限り勇者がその存在に気付くことはないでしょう」


 とのことじゃ。なんのことじゃろうな?


「勇者にも伝えておいてください。今度こそ会えるのを楽しみにしていると」




「という訳じゃ」


「なるほどね。真緒は魔王がいる理由を知ってたのね」


「理由なんてもんではない。ただこの世界にいる魔王がわしと同じような存在ではないということを知っておっただけじゃ。それより今気になっているのは……」


「私の夢だね」


「うむ。それに関してはロリ女神も微弱すぎて誰の呼びかけか分からないと言っておったぞ」


 正直どの夢のことか全く心当たりがない。呼びかけ? 私に呼びかけられるような人なんて一人もいないはず。ましてや異世界に転生している人間に何らかの方法で干渉するなんて芸当ができる知り合いなんて私には思いつかないな。できなくはないやつは思いつくけどね。


「そういえば魔王ってどういうやつなんだろうね」


「と言うと?」


「いやほら、わざわざ別の世界からこの世界に来てるわけでしょ。だったら何かしら目的があるはずだよね。侵略にしてはこの世界は大人し過ぎる。一体何を目的にどうやって攻め入ったのか。これが気になってるの」


「なるほどのぉ。しかしそれは本人に聞くしかあるまい」


「……そうだね。あまり気乗りはしなかったけどこっちにも目標ができたら行ってみるのも吝かではないかな」


 若葉の障害になりそうな魔物はある程度間引こうとは思っていたけど魔王を殺しに行くつもりはない。それは魔王を倒すのは召喚された勇者であるべきだと思っていたから。そのために今の若葉には早すぎる敵を減らそうと思って旅に出た。レベルアップには段階が必要だ。いくら勇者といえどこれは覆せない。たとえどんなに成長が早かろうと奇跡的な力でどんな敵でも倒せるなんてことはない。そんなのは夢物語だけの話だ。


「さて、暗くなってきたしそろそろ休まぬか?」


 もうそんな時間か。話を聞いたり考え事したりで時間を忘れてた。馬もゆっくりになってるしちょうど良いね。


「そうだね。幸いすぐそこは森だし、初日と同じ感じで結界張って小屋建てようか。あの辺に停まってくれる?」


 馬に声をかけて森のすぐ近くに誘導して完全に停まったことを確認して馬車を降りる。さて、ちゃちゃっと小屋を作りますかね。


「よし、この辺に建てよう。サイズは……こんなもんかな。『家屋創造(メイクハウス)』」


 適当に設定し明確なイメージを浮かべて魔術を発動する。途端にメキメキメキと大きな音を響かせて木が成長し、まるで家のような形を作っていく。私は見慣れてるけど初めて見るであろう馬はものすごく驚いていた。真緒は二回目だっていうのにすっかり慣れた様子。なんだつまんない。


「結界張れたぞ〜」


「ありがとう。じゃあもう今日は休もうか」


「うむ。して、今日の夕飯はなんじゃ?」


「う~ん材料がなぁ」


「材料なら馬車に積んであったぞ?」


「そうなの? オルベルクの奴、何も言わなかったのに……」


 変に気を使わせたのかこの馬車の特権かは分からないけど、とにかくあるならありがたく使わせてもらおう。次会えたら言うことが増えたなと考えつつ夕食を適当に済ませて寝ることにした。馬も満足そうだったな。ただの人参だけど……。


「美味かったぞ。ではもう寝るかの。おやすみじゃ」


「はいおやすみ」


 結界があるから要らないけど念の為に見張り代わりの魔術を仕掛けて私も寝ることにする。良い夢を、なんてね。

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