テンプレとギルドマスター
そもそもの話をしよう。
魔石は魔物の魔力が結晶化したものだ。結晶のサイズは魔物と魔力の大きさに比例し、魔物がでかければでかいほど、魔力が多ければ多いほど魔石は大きくなる。魔物は自らの体内にある魔石の魔力を使い身体能力を高めたり魔法を行使したりする。
ただ魔石が持つ魔力量には限界がある。魔物は人類と違い限界を超えて魔力を行使することができない。所詮は結晶化した魔力の塊でしかないために、全ての魔力を放出した魔物は魔力切れを起こしそのまま死を待つしかない。
そんな魔物の生命源というべき魔石にはある性質がある。それは魔力を蓄え放出できるということ。つまり魔力を充填することが可能ということだ。もちろん魔石とて物だ。徐々に劣化はしていく。交換が必要になってくるのだ。しかしそこはご都合主義。魔石のサイズが大きい程交換するのに必要な年数は長いのだ。……まあ、普通に考えたら魔石内に蓄えた魔力を使い切る回数の違いだとは思うけどね。小さい魔石は消費が早いし、大きい魔石はそもそも魔力を使い切るのに時間がかかるということでしょう。
さて、そんな性質のある魔石は一体何に使われるか。答えは街の入口にあった結界の発生源。
――魔道具だ。
魔道具とは魔力を用いて魔術と同等の効果を発揮する道具のこと。街を張っていた結界。あれも発生源は魔道具だろう。常時発動型の魔道具というやつだ。魔道具を常に発動し続けるなんて所業は人間には不可能。エルフならいけるかもしれないけどそれは無視。人間には難しいことを道具でこなすために魔道具は存在している。そんな魔道具の動力源が魔石ということだ。魔力を充填し魔石が壊れるか魔力切れが起きる頻度が高くなれば交換という、まあ簡単に言えば充電できる電池みたいな感じ。
じゃあ今何で騒いでいるのかが問題。まあ答えは予想できている。
「多分変異種の魔石の実物を見たことある人っていないんじゃない?」
「おう、今はアレザイールとアルス神聖国の国宝として残ってる程度で変異種の魔石なんてもんは伝説レベルだ。それなのにお嬢さん達が変異種の魔石を持ってるってんだからそら騒ぎにもなるわな」
「だよね。変だと思った。大抵の魔道具の魔石はそこまで大きくなくていい。消耗品として使うには安価な魔石で交換できるのが一番いいからね。しかも街を覆う程の結界を張る魔道具の魔石も王種の魔石で事足りるんでしょ。だったら変異種の魔石なんてものはいずれ使われなくなるのも必然ってわけね」
道理で周りが騒ぐ訳だ。だってないんだから。魔道具として変異種の魔石が使われていないんだから。あまりにも希少な魔石は情報すらないのだから。
「……じゃあこれは換金なんかしないで持ってた方がいいね」
「その方がいいだろうな。嬢ちゃんのためにもそいつは持っておいた方がいい」
「……へぇ」
「どうした?」
「なんでもないよ。ただ意外だなって思っただけ」
「そうでもない。これは嬢ちゃんのためでもあるがギルドのためでもあるからな」
「ギルドの?」
「おう。まあ普通に考えたら分かるだろうがギルドでは変異種の魔石なんてもんは扱いきれん。荷が重いのさ。ギルドで管理できるかと言えば不明だ。国宝級のものをたかが一ギルドが持ってて良い訳がない」
「ギルド本部は?」
「……ギルド本部にも扱いきれねえだろうな。可能性も無くはねえがあそこはトップが常に多忙で不在だ」
「多忙で不在って……今はどこに本部があるんだっけ?」
「アレザイールだ。あの国は自分達の国宝の守護で手一杯なのさ」
「ふーん。昔に比べてレベルが落ちたのかな……」
それにしても……アレザイール王国なんてあったかな? 聞き覚えが一切ないような……でもアレザイールだけは聞き覚えがあるんだけどなんでだろう。もう少し詳しく聞こうとした瞬間突然けたたましい叫び声が解体場に響いた。
「そこまでだ! 変異種の死骸を拾ったなどと宣う輩がいると聞いたぞ! この僕が成敗してくれる!」
正直なんだコイツとしか思わなかった。だってそうでしょう。何も知らない奴が私達を運が良いだけの人扱いしてきたのだから。ていうかコイツの髪型……なんだあれ。金髪で肩まで伸ばしたロン毛? 典型的なバカ貴族かな。
「待ってください副ギルドマスター! 彼女達の実力は本物です!」
「ええいうるさい! どうせその実力も偶々倒せたものを評価されたものだろう! 何が指名依頼だ! 馬鹿馬鹿しいにも程がある!」
なんだろう。このテンプレの次にまたテンプレが来たみたいな感覚。正直私は面白い。ただ私達を盗っ人扱いするのは……大変面白くないね。
「あぁん? サブマスだぁ? おいミリー。俺はギルマスに報告しろって言ったんだぞ。誰がそんな騒ぐだけの木偶の坊を呼んでこいって言ったよ」
「木偶の坊だと!? 貴様、ただの解体屋風情が副ギルドマスターである僕に歯向かうっていうのか!?」
「歯向かうに決まってんだろ。俺はお前に雇われてんじゃねえ。ギルマスに雇われてるんだよ。つーかそもそもお前に人事の仕事なんか与えられてねぇだろが」
「き、ききききき貴様〜!!!」
う〜ん……ここって普通私があいつと言い合う所じゃないのか。なのにえっと、スライ、だっけ? が言い合いを始めちゃったもんだから私のほんの少しの怒りはどっかに行っちゃったよ。ん? 誰か来たね。
「ふむ。私は確かその目でしっかりと物や持ってきた者の実力を確かめた上で報告をしろと君に頼んだのではなかったかな?」
「!!!」
「なんだいるじゃねえかギルマス。なんだってこんな奴寄越したんだ?」
「私は歴史に残る存在を間近で見せることで経験と世界の広さを知って欲しかったのだがね。どうやら君達には不快な思いをさせてしまったようだ。すまない」
これがこの街のギルドマスターか。さっきの奴と違ってかなりのやり手っぽい印象だね。白髪のオールバック……イケおじってこういう人のことを言うのだろう。結構歳いってるように見えるけど今まで鍛えたであろう肉体と膨大な魔力がその身に納められてるのを感じる。強い人だ。そういえばさっきから真緒がやたら静かだけどどうしたんだろうと思って横を見る。……修行の続きみたいなことしてた。いくら興味無いからって少しは反応してあげなよ。リル達どうすればいいのか迷ってんじゃん。
「ここにこれほど人がいるのは初めて見るよ。原因は一目瞭然だがね」
「ギルドマスター! やはりありえません! あれを見てあんな奴らが倒せるとは到底思えません!」
「副ギルドマスター」
あんな奴らとは失礼な。見た目と実力は関係ないでしょうが。そんなことも知らないのに副ギルドマスターなんてやってんのかこいつ。
「確かに変異種であると認めましょう! この死骸のサイズは伝聞されている変異種の特徴と一致します! しかしそれでもこれほどの魔物を倒すなどという偉業をそこらの小娘が成し遂げられるとは到底思えないのです!」
「副ギルドマスター」
「ですが! こやつらは武器すら持っていない! 一体どのようにしてこのような災害を真っ二つにしたというのです!」
段々とヒートアップしてきた。他の冒険者も聞いてるし受付嬢なんかギルマスの近くでハラハラしたような表情をしている。真緒にいたってはそもそも話すら聞いてんのか怪しいところだ。私はとりあえずこの後に備えておくかな。
「それに――」
「もうよい、副ギルドマスター」
「「「!!!」」」
来た。飛んでくるのは『魔圧』……魔力を飛ばして触れた者を威圧する魔術。しかも範囲を指定しないタイプか。これなら魔力で自分の体を覆うだけで対処ができる。これは純粋な魔力だけが飛んできてるからね。ただの魔力なら自分の魔力で相殺することができるんだよね。ただそれには自分の体を瞬時に魔力で覆う精密な魔力操作が求められる。
「こうすれば話が早いだろう」
やっぱりこれが狙いだったか。今この場で立っているのは備えていた私とスライと受付嬢、それと普段から身体を魔力で覆っている真緒だけだった。リル達も魔力を纏ってはいたけどあれに対抗する程の実力はなかったようで倒れている。ただ意識自体はあるみたい。これは炙り出しと実力の確認が目的かな。めんどくさいギルマスだこと。
「ふむ。聞いた通りの見た目と底知れない実力。君達が新人冒険者のサクラ君とマオ君だね?」
「……はぁ。まぁそうだけど」
「君達に指名依頼が来ているんだが新人に指名依頼が来るのは異例でね。というより前例が無い。だからこそ手っ取り早く実力を確認したかったんだ。手荒になってしまってすまない。重ねて謝罪しよう。だからそこのお嬢さん? 殺気を抑えてくれないか?」
「……」
建物のあちこちからひび割れたような音が響き微かに揺れているように感じる程の圧。発生源は私の隣。当然ながら真緒だ。受付嬢とスライは冷や汗を垂らし後退る。それは果たして無意識にかそれとも圧されてか。
真緒が殺気を放っているのは恐らく先程の『魔圧』を受けての癖だろう。濃密な死の気配とでも呼ぶべき程の殺気を撒き散らしている。冒険者が倒れている理由の半分は真緒のせいだろう。それほどまでに冷たく昏い殺気がただ一人に向けられている。これが意味するのはただ一つ。
「これが……この手の震えが……余波だと?」
「そうだよ」
「なんて奴だ……。つか嬢ちゃんは平気なのか?」
「まあね。余波の殺気なんて大したもんじゃない。ていうか心配するなら私より他にする人いるんじゃない?」
「ギルマスは心配要らねえよ。それよりどうすんだ?」
「どうもしないよ。直ぐに終わる」
「……む? なんじゃ敵じゃないのか。警戒して損したじゃないか」
「ね?」
「あ、ああ。嬢ちゃんの言った通りだったな」
そう。あれは真緒の癖。自らの纏っている魔力に触れた魔術の使い手に殺気を飛ばす超攻撃的な、ただの警戒。もう警戒の一言で片付けていいレベルじゃない気がするけどね。
「これで落ち着いて話ができる。私がこの街のギルドマスターを務めているオルベルクだ。以後お見知り置きを」
「うん。それはいいんだけどさ。場所移動しない?」
「それもそうだね。では私の部屋に行こう。ミリー君、飲み物を出して貰っていいかい?」
「承知しました」
私と真緒、ギルマスとミリーの4人は解体場を後にすることになった。
「これ片付けんの俺か!?」
なんて叫び声が後ろから聞こえてきたけどとりあえず無視することにした。原因であるふたりは少しだけ早足気味だったということだけは印象に残った。
お久しぶりです高澤です。
毎回言ってる気がしますが恐らく気の所為でしょう。
半年空いてしまいまして本当にすみません。なるべく書こう書こうとは思っているんですが思うように筆は動かず……仕事も忙しいために時間も取れず……もう投稿しなくてもいいんじゃないだろうかなんて思ったりもしたんですけどね。やっぱり他の方の小説とか読んでると書きたくなってくるんですよね。不思議なことに。
何年も前に楽しみにしてるというコメントをくれた方もいたので途中で放り出すのもどうかと思いゆっくりとですがまた書くことにしました。
ここまで読んでくださった方がいれば感謝です。
また次回お楽しみに。