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出発

 魔石をゴブリンエンペラーの死骸から取り出して『空間庫』にしまう。『空間庫』とは無属性魔術の一種で使える人がかなり限られている魔術だ。無属性魔術に適性がある人って滅多にいないから使い手が少ないという、まあ異世界テンプレ魔術みたいなものだね。


 この魔術を知ったときは必死に使えるように頑張ったなあ。武器以外は何も持たなくてもいいし盗まれることも無いからね。


 そういえば確認してなかったけど、前に使ってた空間庫の中身はどうなったんだろう。まだ私の空間庫のままなのかな? その確認はいつかするとしてそろそろ向こうも落ち着いたかな? とりあえず真緒達のところへと向かう。


 あ、ちなみに魔石はめちゃくちゃ綺麗に洗った。体の中から取り出したものだから血とかめっちゃ付いてたしそんなものそのまましまっておきたくはないしね。ついでにゴブリンエンペラーの死骸も一応しまっておいた。なにかに使えるかもしれないからね。


「さてと、そろそろ休憩は終わりでいいかな?」


「おお。しかしお主は休んでないのではないか?」


「魔石取るときに休めたよ。それで話はついたの?」


「ついたぞ。わしらに着いてくるようじゃ」


「そう。真緒がいいなら私はいいよ。ちゃんと面倒見てあげてよ」


「いやお主も話さんか……。ところでお主らはどこから来たのじゃ?」


 真緒が3人に尋ねる。


「私達はライント王国の冒険者です。ここへはゴブリン退治の依頼でやってきたのですが大量のゴブリンに襲われてしまって……」


 一番年長らしき冒険者が答えた。なるほど。ライント王国……。やばい。300年前に旅したときは魔王を倒すことしか頭になかったから、どこになんの国があったか覚えてない……! 昨日召喚されたのがアスレクト王国だっていうのは聞いたから……。


「ライント王国ってアスレクト王国の北にある国……だっけ?」


 あたかも場所を忘れたように装い尋ねる。まあゴブリンに運ばれたならそんなに遠くから来たわけではないだろうし、私達はアスレクト王国の北門から外に出た。その先にあった森で出会ったならアスレクト王国か、もしくはアスレクト王国の北にある国のどちらかから来たのは予想がつく。


「え、あ、はい! もしかして方角が分かるんですか!?」


「アスレクト王国の方角はね。ライント王国の方は大まかにしか分からないよ。それでもいいの?」


「はい! 助けていただいた上に図々しいとはお思いかもしれません! ですが、どうか私達をライント王国まで連れて行ってはくれませんか!?」


「「お願いします!」」


「うん? 真緒が良いって言ったんじゃないの?」


「「「え?」」」


「あれ? 着いてくるって話じゃなかった?」


「その通りじゃ。わしは旅を続けるから着いてくるか聞いただけじゃがな。まあわしらの目的地が決まっておったわけではなかったからの。とりあえず次の目的地がそのライント王国じゃったか? になったと思えば良いじゃろうて」


「なるほどね。まあ一番近いしここから何日かかるか分からないけどそのライント王国に向かおうか」


「「「ありがとうございます!!!」」」


 一悶着? あったけどこれで私達の目的地がひとまずライント王国に決まった。


「じゃあ行こうか」


「待たぬか」


「ん?」


「お主もこやつらに自己紹介せい」


「あ〜……必要?」


「必要に決まっとろうが!」


「真緒はしたの?」


「お主が魔石を取っとる間にな」


 そうか。全然聞いていなかった。う〜ん自己紹介か……。必要かな? いや、隣の国に送り届けるくらいなら必要ないと思うんだけど……。


「…………必要?」


「どんだけ自己紹介したくないのじゃお主は……」


 真緒に呆れられた。考えても見てほしい。助けたのは真緒で私じゃない。助けられた3人は真緒にとても懐いている。なら私とは関わることはないでしょう。その必要もないと思う。真緒という命の恩人と関わる機会を増やすことで私と関わる人間を減らす。


 別に悪いことではないだろう。彼女達にとって私は真緒の連れ。真緒とは幼馴染で親友であろうと所詮私達は他人なのだから。


「あ、あの! 私、リルっていいます!」


「私はエル……です」


「私はソラクレアといいます。一応Dランク冒険者です」


 なんて考えていたら向こうから名乗られてしまった。名乗られたら名乗るしかないけど真緒のニヤニヤした顔がちょっとムカつく。あとでお仕置きしてやる。


「はぁ。……私は桜。ただの新人冒険者だよ」


「「「よろしくお願いします!」」」


「う、うん。よろしく……ね」




 後に彼女らはこの出会いを運命だったと語る。あのとき出会っていたからこそ私達には今があり力があるのだ、と。ただ、新人冒険者は嘘だろうと思っていたとか。




「うむ。お互いに名前が知れたところでそのライント王国とやらに向かおうではないか。桜よ、ここからどの方角に向かえばいい?」


「ここはアスレクト王国の大体北東方向に位置してるから、そうだね……とりあえず北西方向に向かってみようか」


 地図買っておけば良かったかなと今更ながら後悔する。まあどこにどれくらい進んだかはなんとなく分かる。そこから逆算していけばいいだけなんだけど……あ〜勇者時代はナハトの能力に助けられてばっかりだっからなあ。どうやって方向を把握しているのかもっと詳しく聞いておけばよかった。まあないものねだりしてもしょうがない。言った通りに北西方向へと歩いていくしかない。


「じゃあ今度こそ行こうか。真緒は後で夜ご飯減らすから」


「ちょっと待たぬか! お主はなんてことをするのじゃ!」


「3人共なるべく離れないようにね」


「「「はい!」」」


「聞けい!」


「うるさいよ真緒」


「お主のせいじゃ!」


 真緒に背中を向けて森の中へ歩きだす。今は……だいたい昼を過ぎた辺りかな。今日だけでどこまで行けるか……まあそんなに急いでる旅じゃないからいいんだけど、若葉達勇者の行動も把握しておかないと。私の予想ではあと1ヶ月くらいは訓練で国から離れないはず。私は1週間で飛び出したけどね。


 後ろで泣きそうになってる真緒をなだめている3人を見る。どう見ても双子のふたりは新人冒険者……もうひとりもDランク冒険者だと言っていた。Dランクといえば真緒がボコボコにしたハゲだるまもDランクじゃなかったかな。あれと同じくらいの実力だと考えると少し心配になるかな。

 私には関係ないと切り捨てるのは簡単だけどどうにも後味が悪い。う~ん。悩むなあ。どうしようか……。


 ……うん。やっぱり鍛えようか。といってもやるのは私じゃないけど。


「真緒」


「ぐすっ……なんじゃ?」


「その子達、真緒が鍛えてあげなよ」


「なんじゃと?」


「真緒ならできるでしょ?」


「いや理由を聞いとるんじゃが……」


「鍛えればきっと強くなる。そう私が感じただけ。理由なんてないよ」


「そうか。お主が言うのであればそうなんじゃろう。分かった。鍛えようではないか。その代わり……その、ご飯は?」


「減らさないから」


「よし!」


「「「…………???」」」


 ……そんなにご飯食べたいのか。食いしん坊魔王だね。この見た目で強いのは反則なのではなかろうか? 何に対してかは知らないけど。


「というわけで今日はやらんが、わしがお主らを鍛えようと思う。まあよろしくのぉ」


「「「はい!」」」


「わしのことは……好きに呼ぶといい」


「ではその……マオさんで」


「堅いのぉ。まあお主らがそう呼びたいならなんでも良い。わしは厳しく……はないが優しくもせんからな。覚悟しておくと良い」


「「「はい!」」」


 後ろで先生と生徒みたいな関係ができあがったようだ。これでうまくいけばあの子達は強くなる。見た目が小さい故に侮られがちだが、真緒は意外と人にものを教えることがうまい。流石元魔王様だ。何千年生きただけのことはある。そう考えると真緒って結構ババ……いや、やめておこう。また泣くかもしれないし。それはそれでめんどくさいからね。


「まだ一日しか経ってないのになぁ……はぁ」


 なんて溜息を吐きながらひとり呟く。国から出たと思ったら翌日には変異種と戦う羽目になるとか、運が悪いとしか言いようがないのか。そういえば昔から私は運が悪かったな。運の悪さは健在というわけかな。


 今ふと思ったけど私達が召喚されたアスレクト王国。やけに国としての規模が小さかったな……。国王がいたということはあそこが王都なんだろうし、だいたい王都の中心辺りに王城があるはずだから、私達が出た門までの距離は他の門までの距離と同じはず。急いで国から出るために走ったときの速さとかかった時間を考えると王城から門まではおよそ20キロほど……。やはりそう考えるとあまりにも小さい。()()()()()


 そういう国の構造? 王都が国の北端に位置すると? そんなことはありえない。わざわざ国の端に王都をつくる意味が分からない。じゃあわざわざ国王が出張ってきたのか? それこそありえない。けどそれほどのリスクをおわなきゃいけないとしたら……となるとあそこは王都じゃないということになるな……。一体なんのために? それこそ小さく見せるため……か? そんなことができるなんてどれほどの力を持っているんだろう。そして一体()()()()()()()()()()()()()()()


「何か……前とは違う何かがいると考えた方がいいか」


 情報が必要だ。今回の魔王は少し違うのかもしれないね、なんてことを考える。


 ズキンと少しだけ胸が疼いた気がした。

高澤です。今回は前より早めに出せたので、このままのペースを維持できたらいいなと思います。というか頑張ります。


次の話も読んでいただけると嬉しいです。

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