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戦闘開始

 ――ゴブリンキング。それは定番中の定番の魔物と呼ばれるゴブリンの長。ゴブリンの王だ。


 魔物には進化というものが存在する。ただのゴブリンが年月と経験を得てハイゴブリンになったり、ハイゴブリンが魔術や盾、剣の使い方を覚えることでゴブリンメイジやゴブリンソルジャーになったりする。このようにある特定の条件が揃ったことで魔物が成長することを進化と呼ぶ。そしてその進化の終着点が王であり、ゴブリンの行き着く最後の成れの果てがゴブリンキングなのだ。






 私達は森の中を北東の方向に向かって走っていく。私が生体反応を捉えたのは森の奥深く。数は軽く100体を超えるであろうというくらいだった。別にゴブリンだけなら急ぐ必要はないけど私の魔術は少し不完全だから人と魔物の区別がつかない。分かるのは生命力だけ。文字通り生体反応しか分からない。


 だけど今でも捉えている生体反応の中に弱っている反応がいくつか見られる。多分これが人間なんだろう。1箇所に集められているみたいだしね。保証はないし推測しかできない自分が嫌になる。こんなことなら探知系の魔術が新しく創られてないかギルドで聞いてくるんだった。


 別に人か魔物か判別する方法が無いわけじゃないけど、あれは勇者だけが持ちうるスキルの中の一つだから今の私には使えない。勇者時代はそのスキルにめちゃくちゃ助けられた覚えがあるなぁ。便利だったなと今になって思う。まあないものねだりしててもしょうがない。


 それにしても魔物は進化するといえどそれには結局長い年月がかかる。たくさんの敵を殺してきた結果得ることができた経験値がゴブリンキングを誕生させる。まるでこの世界の人間みたいだと勇者のときに思ったものだ。魔物も人も変わらないなんて皮肉がききすぎてるだろうと。


「しかし桜よ。ゴブリンキングを倒しに行くのは良いとしてもじゃな。今のわしらの実力が一体どの程度なのか未だに把握できておらん状態で行くのは少し危険ではないのか?」


 真緒が隣を走りながら懸念について話しかけてくる。真緒の言いたいことは分かる。それについては私も考えていたから。


「問題はそこなんだよね。私達の実力が今どの程度なのか。そして私達だけでゴブリンキングを倒すことができるのか」


 だからといって今更やめるなんてきかない。知ってしまったから。あの国に脅威が迫っていると知ってしまったから。


「でもね真緒。私はやる。もしゴブリンキングが侵攻したら真っ先に狙われるのはあの国だと思うから。そしたらまだ実力が伴わないあの子が危険にさらされる。それだけは嫌。まだキングはあの子には早すぎるから。だから私がやるの」


「ふぅむ。お主も中々に心配性じゃの」


 心配じゃない。若葉ならばゴブリンキングを倒すことはできるだろう。ただまだ早すぎると判断した。勇者の称号を持つ者は圧倒的な成長速度でその頭角を現す。これは私がそうだったから。でもそれでもまだ昨日の今日だ。今日恐らく訓練が始まるだろう。いくら勇者が早く成長するといっても一日ではたかが知れてる。だから私がやるの。


「それにね真緒」


「む?」


「キングが相手なら私達のアレが出せるかもしれないでしょ?」


「アレとな? ……ああ、アレかの。確かに良い機会ではあるが……」


「迷う必要なんてないでしょ。私はただあの子の、若葉の障害となるには危険すぎるものを排除するだけ。そのための準備運動をここですませる。あとついでに倒したゴブリンキングの素材とか魔石を換金すればお金も手に入るしいいことが割と揃ってるんだよね。だから真緒。心配なのは分かるけどまだここでは死なないよ」


「む……。そこまで言われては仕方ないのぉ。アレを試せる機会も他になし。良かろう。しかし危険じゃと判断したならば退くぞ。わしはお主が死ぬとこなぞ見とうないからのぉ」


「ありがとう親友」


「お、おぉ……な、なんじゃ突然。変なやつじゃの……」


 大丈夫だよ真緒。私はまだ死なない。こんなところでは死ねないよ。私はあの子を元の生活に戻さなきゃいけないからね。なんて口には出さないけど、真緒も分かってるでしょうに。()()()()()()()。約束を守るまでは絶対に死なない。そう決めているから。


 生体反応を見つけたところまで少し急ぎながら来て一時間が経ったと思う。そろそろ見えてくる頃なんだけど……。


「……のぉ桜よ。お主が言った大量の生体反応はあれか?」


「……何……あれ」


 一瞬言葉が出なかった。今私達の目の前に転がってるのは大量のゴブリンの死体。そして奥には未だに殴り合っているゴブリンがいる。そう、私達が見たのはゴブリン同士の殺し合いだった。



 ……違う。これは……違う! これは普通のゴブリンの群れじゃない!



「奥を見よ桜」


 言われて気づいた。ゴブリン同士が殺し合いをしている更に奥。正確にはその地面。そこから大量のハイゴブリンが這い出てきている。あれが恐らくゴブリンの巣なんだろう。しばらく様子を見ようと私と真緒が跳んで木の幹に着地した瞬間、そのハイゴブリン達も殺し合いを始めた。


「……まさか、厳選してる……?」


 本来長い年月を要して敵を殺して得られる進化するための経験値を、短期間で得るために同族の殺し合いを起こしているの? もしそうなら、このゴブリンの群れは……ゴブリンの王はキングじゃない……! もっと危険なやつだ!


 しばらく様子を伺っていると必要な経験値がたまったのか、殺し合いが終わり生き残った数体のハイゴブリンが変化していく。どうやら生き残ったハイゴブリンは全てゴブリンソルジャーに変化したらしく、ハイゴブリンよりも身体が一回り大きくなり持っていた血塗れの剣を軽々と振り回し血糊を落とした。


 私達は確信した。間違いなくやつらは厳選している。


「桜よ」


「分かってる。これは多分変異種だ」


「ならば」


「ごめんね。だったら尚更私がやらなきゃ」


「おい! 待たぬか桜!」


 私は真緒の静止の声を無視して木から飛び降りて巣に向かって走りながら魔術を発動する。ゴブリン達にはまだ気づかれていないならば使うのは風がいい。風なら気づかれるのに時間がかかるし範囲も広い。


「『風刃(ウィンドカッター)』」


 大きな風の刃が横向きに私の目の前にある術式から飛んでいく。ゴブリンとハイゴブリンは飛んでくる風の刃に気づいたみたいだけど、もう遅い。ゴブリン程度の魔物が風よりも早く動ける筈がないでしょう。為す術もないままゴブリンは斬られていく。とりあえず私の視界に映る限りのゴブリンは殺した。


 異変に気がついたのか巣穴からハイゴブリンが大量に這い出てくる。よく見たらゴブリンメイジやゴブリンソルジャーも混じってる。ゴブリンの群れが臨戦態勢に入ったみたいだ。でも遅いね。遅すぎる。


「『風刃(ウィンドカッター)』」


 巣穴から出ても私の前で並んじゃったら意味無いでしょ。すぐに襲いかかってこなきゃ。だからそうやって的になるんだよと心の中でダメだしをしながら巣穴から出てくるゴブリンの首や上半身を斬り飛ばしていく。


 魔術に込める魔力量は多めにして、今のうちにゴブリンを減らせるだけ減らしておかないと。幸い今の状態でも私の魔力は量だけならそれなりにある。ただ本命が出てくるまでにどれだけ魔力を節約できるかで変わってくるんだよね。全部魔術を使って殺してたら100%魔力が持たない。


 でも流石に進化を重ねたやつは違うね。ゴブリンメイジやゴブリンソルジャーは私の『風刃』を受けても生きている。もっと込める魔力量を増やすか、それとも……。


「はぁ……しょうがない。土属性は苦手なんだけどな……」


 いくら魔力量が多くても使い切って戦うのは下策も下策。なるべく取っておかないと本命で苦労すると思う。だから私は苦手な土属性で武器を作ることにした。


「おいで、私の相棒。『武器創造(メイクウェポン)』――『刀』」


 創るのは勿論私が勇者時代に使ってきた武器でかつての相棒。地面から大量の土と砂鉄を集めて創った模造品を握って懐かしい感覚を覚える。そうそうこれだ。本物ではないけどあれだけ握ってあれだけ振ってきたんだ。本物と同じ見た目の物なら余裕で創れる。本物はまだ取っておかないと。


「まったく……。まだ国を出てから一日しか経ってないってのにさ。魔物の巣窟なんて国の傍に放置しないでよ」


 私は握った相棒を地面から引き抜き土をふるい落とす。その見た目は完全に刀にしか見えないが柄や鍔の部分も超圧縮した土なので、触るとザラザラしている。そして刀身が僅かに黒いのは多分砂鉄で創ってるからだろう。まあ見た目の完成度は高いけど流石に斬れ味までは真似できない。


 私はこの刀、『夜桜』を幾度も振り、無数の敵を斬り、数多の修羅場をくぐり抜けそして――最期に魔王を貫いた。もう振ることはないと思ってたけどまさかまた振る機会が来るとは思ってなかった(偽物だけど)。私は少しだけ感傷に浸ってから頭を振って目の前に広がる敵を見据える。


「準備運動にはちょうどいいかな?」


 こんな修羅場は幾つもくぐり抜けてきた。こんなものはピンチでもなんでもない。故に私の体がどの程度動けるのかを試すための土台としよう。ゴブリンの変異種と戦うために消えてなくなれ。そして私は敵の群れへと駆け出した。

こんばんは高澤です。

今回からまた戦闘回です。大変だ。

そんなことはさておき文字数的にどうですかね?

なるべく読みやすくはしているつもりですが……。

少ないかもしれないですが、自分的にはこれが限界ですのでこのまま進めていこうとは思っています。

増やせとか言われても恐らく更新日時が遅くなると思いますのでこのままで(結局)。


それではまた次回も読んでいただけたら嬉しいです。

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