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プロローグ

初めまして。完全に趣味の作家です。本日は2話だけ更新します。

 壊れた屋根から土砂降りの雨が降り注ぎ、私の体を打ちつける。その雨で私の体が段々と冷えていくのを感じる。



 ――――痛い。



 ただその言葉だけが浮かぶ。いや、痛いよりかは熱いといった方が正しいのかな。冷えた体が熱いとはこれ如何に、なんて考えてついふふ、と口から零れる。こんなことを考える余裕があるなんて、私は意外と大物だったのか。


「―――! ―――――! ―――!」


「―――! ―――! ―――!」


 隣で誰かが叫んでるのが見える。というか私に向かって叫んでるらしいんだけど、ちょっと何を言ってるか分からない。おかしいな。人は死んだ後でも少しは耳が聞こえているらしいけど、どういう訳かまだ生きているはずの私には聞こえない。


「……え、な…よ」


 聞こえないよと伝えたいのだがまともに言葉にならない。私には言葉を発する体力も残されてないのか。どうやら私の運も尽きたらしい。


 そもそもなんでこんなことになったんだっけ……。


 少し考えて思い出した。



 ――ああそうだ。私は魔王と刺し違えたんだ……。



 じゃあここはまだ魔王城か。そういえば魔王の他に魔物とかいなかったっけ。どうしたんだろう。二人が殲滅したのかな。まあ、この二人にならできるか。魔王と戦うためにこの二人しか連れてこなかったからね。王宮の兵士とか来られてもむしろ邪魔だから。だからこの城に人間は私達三人だけ。あとは魔王と配下の魔物だけ。そういえばその魔王はどこに? 刺し違えたんだから近くにいるはず……。


 ……どうやら魔王は先に死んだらしい。死体が隣に転がっているのが見えた。まあ、本当に死んだのかって思うくらい清々しい顔をしているんだけど。でもこの手で間違いなく魔王の心臓を貫いた。まったく、最期の最期まで魔王だったよ。あんたは。やってることから目的、果てはその信念までが魔王として一番貫いていたんじゃなかろうか。()()()()()()が言ってもあれだけど、その在り方は嫌いじゃなかったね。



 まあ、すぐに私もあんたのところに逝くんだけどさ。少し待ってなよ魔王。



「―い! おき――! ――! 目を―――!」


「――ル! ―ール! ヒール!」


 お、どうやら少しだけ聞こえるようになってきた。この子がかけてくれてるヒールのおかげかね。でも……。


「もう、ゴホッ! いい、よ……。ゴホッ!」


 私はそっとその子の手を掴み告げる。無理に喋ってるからか咳も一緒に出てしまう。


「何言ってやがる!」


「そうですよ! あなたは私が回復させるんですから!」


 ……ああそうだね。君はそう言って私に付いてきたんだったね。いつも拗ねたような物言いで回復させてくれてたんだ。ちょっとの傷でも回復させようとするんだから。このツンデレめ。

 でも今回ばかりは無理だとそろそろ現実を見て欲しい。パーティのって言うのかな。まあ私達の壁役の代わりに魔王の魔術を直接くらったんだ。それに加えて魔王と剣で斬り合ったんだから体中ズタボロ。全身から血が流れ出してるし、一箇所だけ最後に刺し違えたとき胸の辺りを貫かれてるんだ。多分肺を貫通してるね。もう助からないよ。


 というかこれ、とっくに心臓止まってるよね。だから意識がなかったしここがどこか分からなかったんだ。なのに今生きてるのは多分勇者の生存スキルってやつだね。心臓が止まっても三分間はこの世に留まるっていう勇者だけが使える最後のスキル、『最期の時間(ラスト・ミニッツ)』だ。中二っぽい名前だけど割と大事なスキルだったみたい。誰が使うかって思ってたけど、こうして最期に二人の顔が見れたんだからさ。まあ、そんなことを言える体力もないから私はただ笑った。


「何笑ってやがる! 俺を庇わなければお前はまだ生きてたんだぞ! 俺なんかを庇って! だから絶対に助ける! 目の前で死なれてたまるか!」


 そんなこと言われてもねぇ。君が死んだらこの子が泣いちゃうでしょうが。って今まさに二人を泣かしてる私が言えたことじゃないか。まあでも許してよ。私の中で前から決めてたんだ。私の前でパーティのメンバーは誰も死なせやしないって。それで私が死にかけてちゃ話にならないんだけども。でも私はこの戦いで死ぬつもりだったってこと口が裂けても言えないんだよね。それにしてもこの子、こんなにヒールを連発できたっけ?


 ……そうか。君がこの子に魔力を提供してたからか。いつもは絶対に提供してこなかったくせに。まったく、あんたがこの子に惚れてんのはバレバレだっての。誰が見てもバレバレで、バレてないと思ってたのは君だけだからね。

 まあ提供しなかった理由はどうせ恥ずかしいからだろうけど。魔力を提供するにはどうしても提供する側が体のどこかに触れる必要があるからね。この恥ずかしがり屋め。お前は乙女か。まあこんなことも言えないけど。


 けどまずいね。このままじゃ二人に何も言わずに死んじゃうな。



 だから――せめてお別れぐらいは言わなきゃね。



「ゴホッ! ねぇ、ふた、りとも?」


「ああ!? なんだよ! 今集中してんだから話しかけんな!」


「まっ、たく……。最期、の、ゴホッ! 言葉、くらい聞き、なよ……」


「はぁ!? 何言ってやがる! 最期とか言うんじゃねえよ!」


「そうです! あなたは黙って回復されてればいいんです! 絶対、絶対に回復させるんですから……!」


 やれやれ。最期くらい静かに聞いてくれないもんかね。まあ無理か。これが二人って感じがするから。でもこれで見納めかと思うと、なんだか、なあ……。





 ―――――――寂しいなぁ………。






「おい。何泣いてやがる」


「……君は、さ。言葉は、乱暴だ、けど……本当は、優しいんだって、わ、私は、知ってるからね……」


「やめろよ、なぁ。なんだよそれ。本当にこれで最期みたいなこと言いやがって」


「ゴホッ! ゴホッ! これからは、この子を……大切に、ね。……頼んだよ」


「っざけんな! なんで、なんでお前がやらないんだ……!」


 それに私は返せない。もう時間がないからね。なによりもう分かってるはずだから。私ではこの子を幸せにすることができないから。

 そして私はもう1人に視線を向ける。といっても隣にいるから視界には入ってるんだけどね。


「……君も、ね。彼を、頼んだ、よ……ゴホッ! まったく、二人揃って、言葉が、ら、乱暴……なんだ、から……。でもやっぱり、優しいんだ、って……分かって、いるから。だから……ゴホッ! 元気で……ね」


「いや! いやです! どうしてそんなことを言うのですか! あなたの傷を治すために私がいるのに……! こんな……こんな傷、絶対に治して……!」


 涙を流しながら彼女はヒールをかけ続ける。けど一向に回復の兆しが見えない。当然だよね。あとほんの数分で私は死ぬのだ。この傷で生きれる方が難しいよ。それに意外と喋れることに驚きだ。このスキル意外とすごかったんだな。でも、それもここまでだ。


 二人にはお礼を言っておかなければ。――ああ、そういえば、私は二人の名前を呼んだことがなかったような。呼ばずともなんとかなってきたからかな。今更呼ぶのが恥ずかしい気がする。でも最期くらいは呼んであげようか。


「……ナハ、ト……セ、レン……。二人、とも、さ……。今まで、ありがとう……ね」


「おい! 待てよ! 待ってくれよ! 俺達に何もさせずに逝くのかよ! こんな、こんなときに名前を呼んでんじゃねえよ! 冗談じゃねえ! これからだ! これから先俺達はお前に恩返しをするつもりだったのに……!」


「なんで……! なんで今それを言うんですか! それを言うべきなのは私達の方だというのに……! これから二人であなたを支えていこうって決めていたのに、どうしていなくなってしまうのですか!」


 そんなことを決めてたのか。でもそれって二人が結婚した様を私が散々見せられるということでしょ? ………いや、やだな。なんかボッチという現実を叩きつけられるみたいだから勘弁して欲しい。


 というか魔王を倒した後に私が帰れる保証なんてどこにもなかったしね。魔王を倒したなら私は世界で一番強いってことになっちゃうじゃん。だったらせめて相討ちになって死んだ方がマシでしょ。勝手に私を()()()()()()()帰すことはできませんとか、絶対にこの世界に殺されるでしょ私。こういうときは絶対に帰り道がないっていうパターンが王道だから。


「二人とも、私の、ことなんか、忘れて、さ。幸せに……ゴホッ! なって……ね?」


「待てよ! おい! そんな、そんなこと言うなよ……!」


「ダメです! 逝かないでください! 私達を、置いてかないで……!」


 ダメだよ。もう私はさ、目も開けらんないんだから。なんだか少しずつ眠くなってきた。ああ、これが、死ぬって感覚……なんだ……ね………。でも、最期、くらいは二人にも……名前を………呼んで、欲し……かった……なぁ………。


「バイバイ……」


 二人に聞こえたかは分からないけれど確かに私は別れを口にした。こうして私のたった十七年という短い人生は幕を閉じた。






 セレンと呼ばれた少女の手を握っていた彼女の手はするりと地面に落ちていく。それを見た二人は酷く動揺した。


「おい。なぁ。目を開けてくれよ。まだ生きてんだろ? なぁ?」


「う、うう、ひっ、く、さ、サクラ、さん………。うう、うわああああああああ! ああああああああぁぁぁ!!!」


「サクラ……! サクラ! ちくしょう……! ちくしょおおおおおおぉぉぉぉ!」


 土砂降りの雨の中でも確かに聞こえた別れの言葉。二人の叫びは静かな魔王城に響き渡った。いつまでもいつまでも、二人の涙が枯れるまでその慟哭はこだましていった。暗い暗い雨の日にいつまでも。





 ――この日。魔王を倒すために異世界である地球から召喚された少女――高遠(たかとお) (さくら)は、その願い通りに魔王を倒した。自らの命と引き換えにひとつの世界を救うという偉業を成し遂げてみせた。世界中に希望と痛みを与えて彼女は消えたのだ。



 これは数年後に建てられるひとつの墓に刻まれる文言。


 ――カムラ暦三〇二七年五の月三の日

 ――魔王を討伐せし勇者サクラ、ここに眠る。

 ――享年十七


    勇者の永遠の友   ナハト・アレザイール

              セレン・クロスフィード



 これは勇者であった少女の別れから始まるその後の物語。

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