3 冒険者ギルド
やっとのことで冒険者ギルドに向かいます。
だんだん異世界っぽくなってきました。あと数話で料理の場面も出てくると思います。
作者も書いててたのしくなってきました。
王都の中心部はシンの住んでいたフランケット村と比べるとかなりにぎわっている。フランケット村も王都に属しているのだが、町はずれに位置しているため、田舎だ。シンもセラフィと買い出しに何度か町に来たことはあるものの、これから旅の拠点になる場所と考えると新鮮なようだ。
「おお~やっぱ町のほうはにぎわってるなあ。まずは冒険者登録だ、えっとー冒険者ギルドは確かこのあたりだったはず」
冒険者ギルドを探して街中を進んでいくとなにやらひと際騒がしい、というよりも人が集まっている場所を見つけた。
「あのー、ここって冒険者ギルドで合ってますよね?いつもこんな感じなんですか?」
シンは近くに居た明らかに冒険者らしい男に尋ねた。
「あ、ああ、あんちゃん新人か?いや、実は今な……」
すると突然観衆の視線がシンのいる方向に集められた。それと同時に天使、いや女神がシンの横を通り過ぎる。もちろんただの比喩だが、女神と称するに値するほど美しい女性だ。
「きれい……」
シンは思わずつぶやいてしまった。すべてを吸い込むかのような腰あたりまで伸びた黒髪は毛先まで整っていてつやがある。胸は大きくはないものの決して小さくはない。腰には剣をぶら下げているものの、その重みで崩れてしまうのではないかと思われるほどに細い体、しかし鍛えられているのか、しっかりと引き締まった体つきをしている。女性特有のくびれを強調するドレスのような鎧に身を包み、すらっと伸びた細い脚もやはりただ細いだけではなく、美しい筋肉のラインを生み出している。ここまで完璧な人間がいるのかと目を疑うほどだが、醸し出される何者をも引き付けない覇気のようなオーラが観衆の動きを止めている。彼女はシンの声が聞こえたのか、サファイアのように透き通った碧い目を一瞬シンにむけて睨みつけた。まるで夢でも見ていたかのように瞬きをするとその女性はすでにいなくなっていた。
「あれって……」
「ああ、実は今な、剣姫が来ていたんだ。」
「剣姫?」
「剣姫アレシア、たった三か月でしかもソロでBランクまで上り詰めた実力者だ。もうすぐAランクになるんじゃないかって言われてる。あの容姿で剣を自在に操って魔物を狩る姿から剣姫って呼ばれてるんだ。まあ本人はそう呼ばれるのをよく思ってないみたいだが、ってお前そんなことも知らないのか?もしかして冒険者登録しに来たのか?それならそっちのカウンターだ。」
「へーそうだったんですか、もうすぐAランクか。ありがとうございます。」
Aランクという言葉が耳に残ったものの、とにかく本日の目的を達成するために言われたカウンターに向かった。いつの間にか観衆はどこかに行ってしまったみたいで、するりとカウンターまで向かうことができた。
「いらっしゃいませ、冒険者登録でよろしいですか?」
カウンターに出てきたのはグリーンのショートカットヘアーの女の子だ。年齢はシンより5個ほど上なのだろうが同じくらいの年齢といわれてもおかしくないくらい童顔だ。かの剣姫を見た後だとやや見劣りはするものの、かなりかわいい部類に入る。
「はい、お願します。」
「おいくつですか?」
「15歳です。」
そう言いながらシンは身分証のようなものを差し出した。
「はい、ありがとうございます。大丈夫そうですね。」
ちなみに冒険者登録は15歳からしかできない。危険が伴う職業だからだ。
「冒険者ギルドの仕組みについてはご存知ですか?」
「い、いえわからないです。」
シンはとにかく冒険者になることしか頭になかったので、ギルドについて全く考えてなかった。
「大丈夫ですよ、知らない方もよくいらっしゃるので、これから説明しますね。」
そう言いながら彼女は手際よく登録の手続きを進めながら説明を始めた。
話を要約すると、冒険者はランク制で一番下がGランク、一番上がSランクだそうだ。正確にはSランクの上にアダマンタイト級というクラスがあるらしいが、国に数人しかいない英雄的な存在らしい。依頼、いわゆるクエストをこなしていくとポイントが溜まりランクアップができる。ランクアップするとステータスも上がるらしい。クエストは採取系から討伐系まであるが、討伐系に関してはパーティーを組んで臨むのが一般的らしいが、最近は剣姫に影響されてソロで挑みケガをして帰ってくる冒険者が増えているらしい。ソロでBランクまで行くのはやはり相当すごいことらしい。クエストは自分のランクの一つ上のランクのクエストまで受けることが可能だ。一般的に、GランクからFランクになるには約1か月ほどかかるそうだ。ランクが上がるごとにランクアップは難しくなっていき、それに応じてステータスも大きく上がるらしい。
「こんなところですかね。何かわからないことがありましたらいつでも聞きに来てください。ちょうど手続きが終わりました、これがシンさんの冒険者カードになります。ランクアップ時などに必要になるのでなくさないでくださいね」
優しく微笑みながら彼女は冒険者カードをシンに手渡した。いかにもGランクといえる茶色のシンプルなカードだ。ランクが上がればデザインも変わるのだろうか。
「それとこれはギルドからの支度金です。装備やアイテムの資金に企ててください。」
そう言って彼女は銀貨10枚をシンに渡した。約1万円相当だ。
この国のお金は純金貨、金貨、銀貨、銅貨で、それぞれ純金貨1枚は金貨100枚分、金貨1枚は銀貨100枚分、銀貨一枚は銅貨100枚分となっていて、銀貨一枚が約1000円に当たる。
「ありがとうございます。依頼はどこで受ければいいんですか?」
「依頼のほうは奥にある掲示板に張り出してあるので、受けたいものがあったらその紙をカウンターまで持ってきてください。ちなみにCランクからの掲示板は二階にあります。」
彼女が指をさす方向には掲示板があり、何人かの冒険者たちが眺めている。
「わかりました、明日から依頼を受けてみることにします」
「はい、お気をつけてくださいね。よい冒険者ライフを」
おそらく決まり文句なのだろう。彼女はそういうと営業スマイルながらも、心の底から冒険者を応援する笑顔でシンを見送った。
「とりあえず装備をそろえようかな。適当に見つけた鍛冶屋に入ってみるか」
シンは冒険者ギルドを出ると町の中を歩き始めた。少し歩いていると武器や鎧を店の前に飾っている割と派手な鍛冶屋を見つけた。
「よし、少し緊張するな」
思い切って入ってみると、かわいらしい声が聞こえた。
「いらっしゃいませ~」
出てきたのはピンク色の長い髪をたなびかせた美少女だった。シンはてっきりこわもての頑固なドワーフのような人を想像していたため、あまりのギャップに一瞬固まってしまった。
「あ~いま女かよって顔しましたね~!皆さんそう言う顔するんですよ、これでもこの町で五本の指に入るくらいには腕が立つ鍛冶師なんですよ、私!」
そう言いながら彼女は筋肉を見せつけるようにか細いきれいな腕を上げた。白く美しい腕にはそんな説得力は全くなく、むしろシンは微笑ましいと思ってしまった。
「い、いえ、鍛冶だって魔力で行うんですから筋力とか見た目で判断はしませんよ。まさかこんな女の子がとか、そんな細い腕を見せつけられても説得力ないなんて思ってませんよ。」
「ほら~!まあいいですよ、文句は商品を見てから言ってくださいね~」
ほほを膨らまして少しすねたように言った。自信満々に案内する姿から、腕は確かなものなのだろう。
「えっと、今日冒険者登録してきたばかりで、装備を一通り揃えたいんですけど」
「そういうことなら任せてください!自分の戦闘スタイルとか、こんな風に戦いたいとかありますか?あと、使える魔法の属性とかも教えてください。」
「魔法を中心に戦います、でも近接攻撃もしたいですね。魔法は一通り使えますけど、火と風が得意ですかね」
「魔法中心ですか、それに近接も?ソロで戦うつもりですか?お勧めしませんよ、どちらかに決めて、苦手なことを仲間に負けせて戦うのが基本ですよ。ソロで戦うなんて剣姫かAランク以上の冒険者くらいです。あと嘘はつかないでくださいね~全属性使えるなんて魔女じゃないんですから、それに2属性使えるだけでもすごいですよ。まあ、それも本当かわからないので一応適性検査受けてみますか?」
「集団戦闘なんてしたことないんだけどなあ。あと僕はその魔女の息子なんですけど。信じてもらえないなら検査受けてみますよ」
「はいはい、魔女から男の子が生まれるわけないじゃないですか、こちらに来てくださいね~」
「はあ、」
彼女は店の奥にシンを連れていくときれいな水晶玉を取り出した。
「この水晶に魔力を込めてみてください、適性のある属性に応じた色で光ります。」
「こうですかね」
そう言いながらシンは水晶玉の上に手を置いて魔力を流し始めた。その瞬間、水晶玉は虹色に光る、正確には緑と赤の色が強い。、目を開けているのがやっとなくらいの光が漏れると何やら嫌な音がした。
「パリンッ!」
「「え?」」
シンが触っていた水晶が割れたのだ。
「あああああ~私の水晶玉が~!どうして思いっきり魔力を込めたんですか!少し込めればよかったものを!まあ、初めに言わなかった私も悪いですけど……」
そう言いながら彼女は涙を浮かべながら座り込んだ。
「あ、す、すみません。まさか壊れるとは思わなくて。」
「まさかじゃないですよ!あれだけ力を込めたら壊れるにきまってます!はあ、もういいですよ。買いに行かないとなあ。魔法具屋のおばさんにがてなのにー。ああ、やっぱりあなたの適正は火と風みたいですね。すぐに用意するので待っていてください。」
少しいじけたように呟いてから立ち上がって店の奥へと落ち込んだ背中を向けて歩いて行った。あまりに一瞬だったのと、強い光のせいで彼女には赤と緑の色しか見えなかったようだ。水晶玉を壊してしまったこともあってシンはこれ以上何も言うことはできなかった。
「は、はい、」
店の中に飾ってある装備を眺めて待っていると、店の奥からカートのようなものをひいて彼女が戻ってきた。
「お待たせしました。魔法中心ということでしたので杖ですね、火と風の魔法が強化されるのと、詠唱時間が短くなる付与がしてあります。近接もということだったのでこの部分を引っ張ると剣にもなります。いわゆるロッドソードというやつですね。」
多少は立ち直ったのか仕事モードに戻っているが目元はまだ少し赤い。杖の説明をしながら杖の持ち手部分をもって引き抜いた。すると、中から剣が出てきた。
「おお、便利な武器ですね」
「いやいや、こんな武器使うひとまずいませんよ。いても剣舞師くらいですかね、魔法を使うなら後ろからの攻撃になるので近接武器なんて必要ないですし。」
「こんな武器って、自分で作った武器でしょうに」
「冒険者用に作ったわけではなかったんですよ。まあ、私が作ったので性能は折り紙付きですけど。」
「そうなんですか、まあそれで大丈夫です」
「ならいいんですけど。あと万能ナイフですね、こちらは全属性に対応しているのでお好きなようにお使いください。基本的には風属性で切れ味を上げて魔物の解体時に使いますかね。」
そう言って差し出されたのはごく普通の小ナイフだ。
「防具のほうは遠距離攻撃になると思うので、魔法耐性と回避性能が付与されたローブになります。」
「失礼かもしれないですけど本当にすごいんですね、あの短時間でここまで付与できるなんて。最初はどこの鍛冶屋でもいいかななんて考えてたんですけどここにしてよかったみたいです」
「どこでもよかったって水晶壊しといてよくそんなこと言えますね、まあ私のところでよかったですね。ほかのところだったらドワーフのおじさんにメタメタにされて出禁になるところでしたよ。」
(やっぱり普通の鍛冶屋はドワーフがやってるんだ。)
シンは話を切り替えるように質問をした
「それで、お値段のほうはいくらくらいになりますか?」
「そうですね、本当はギルドから渡される支度金の銀貨10枚に収まるようにしたいんですけど、2属性なうえに珍しい武器なので銀貨13枚になりますね。」
そう言われてシンは銀貨20枚を手渡した。
「水晶壊してしまったので、このお金で新しいの買ってください。幸いにも実家を出るときに多少のお金はもらっているので大丈夫です。」
「あ、ありがとうございます。そういうことなら素直に受け取っておきます。」
「いえいえこちらこそありがとうございました。あ、この辺でおすすめの宿とかありませんか?しばらくはこの町に住もうと思って、あんまり高いと困ってしまうんですけど。」
「そうですねー、町中だとどこも高くなってしまいますけどそこの通りをまっすぐ行って少し左に行ったところにツジヤという宿があるのでそこを訪ねてみてください。この間冒険者の方がほかのところに移住したとかで部屋が一つ空いてるはずなので」
「わかりました、たびたびありがとうございます。」
「いえいえ、また装備に困ったらうちのお店に来てくださいね~」
お礼を言ってシンはその店をでた。辺りもなんだかんだだいぶ暗くなってきたので冒険は明日にすることにして宿に向かうことに決めた。言われた方向に歩いていくと、ツジヤと書かれた看板を見つけた。やや古くはあるもののきれいな宿だ。木造らしくシンは少し親近感がわいた。中に入るとやや強面の男が掃除をしているところだった。
「おお、いらっしゃい、客かい?」
「はい、しばらくこの町に住もうと思ってすぐそこの鍛冶屋の女の子に聞いたらここがいいということだったので……」
「ああ、ウェンディちゃんか、そりゃあよかった。ちょうど一部屋空いてるぜ。うちは基本的に寝床を提供する形で飯とかは自分で何とかしてくれ。風呂とトイレは共同のがあるから自由に使ってくれていい。その分安いし部屋も広めだから、日中外に出てる冒険者にはもってこいだろ。」
たしかに日中はクエストを受けたりしてるはずなので寝床さえあれば最悪大丈夫だ。トイレと風呂もあって安いというなら良物件だ。
「はい、満足です。」
「それじゃあ部屋はそこの空き部屋になるから好きに使ってくれ。毎月銀貨10枚だから、次の月から直接俺に支払いを頼むな。」
「はい、わかりました。今日はもう疲れたので寝ちゃいますね。これからしばらくの間よろしくお願いします。」
「まあそうかたくなんなって、よろしくな。」
シンはそのまま部屋に入った。思っていたより広く、ベッドとクローゼットがあるシンプルな部屋だ。
「腹減ったあ。そういや何も食ってないな、たしか母さんがサンドイッチ作ってくれてたな。」
そう思いだしてカバンからサンドイッチを取り出すと手紙のようなものが落ちた。シンがそれを拾うと、母、セラフィの映像が浮かび上がり話し始めた。
『シ~ン~!大丈夫?さみしくない?無理してない?お腹すいてない?あ、これ見てるってことはサンドイッチ食べてるのよね、てへっ。もう母さんは心配でしょうがないわ。でもシンなら大丈夫って信じてるわよ。いつでも寂しくなったら帰ってきていいからね、むしろ時々顔出してくれるといいんだけれど。とにかく、これからたくさん大変なことがあるかもしれないけど頑張ってね!母さんも父さんも応援してるわ。それじゃあまたね』
それはセラフィの伝達魔法による手紙だった。
「相変わらず母さんは無駄に才能あるんだから」
ここまで高度な伝達魔法を使える人はそう多くはいないうえにこんな目的のために使う人などまずほかにいないだろう。あきれたように言葉を漏らすシンの表情には安心と嬉しさが混じっている。
「よし、明日は朝から酒場に行って情報集めしてさっそくクエストだな!今日はもう寝よう」
サンドイッチを食べ終わると母からの声援でやる気が出たのかどこか満足した顔でベッドに横になった。
次の話で戦闘場面が出てきます。
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