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1 合格発表

初投稿です。

誤字脱字、アドバイス、意見、コメントお待ちしています。

異世界料理を中心に魔法バトル、仲間との恋なども書いていきたいと思います。


 天宮真(まこと)は落ち着かない様子で家族とともにパソコンの前に座っていた。今日は高校三年生である真にとって最も重要な日―――合格発表日なのだ。

「ま、真!そのボタンを押すと結果が見れるのよね?」

 沈黙を破り問いかけたのは真の母である香だ。明らかに落ち着かない様子で真の顔とパソコンを交互に見ている。

「母さん、結果が見れるのは二時からよ。まだカップラーメンが作れるくらい時間があるわ。焦ってもカップラーメンは美味しくならないんだから落ち着いて!」

 そう声を発するのは妹の千歳だ。当の本人も自分がめちゃくちゃなことを言っていることに気が付かないくらいに動揺している。といってもこの場にいる誰一人として千歳の発言にツッコむほどの余裕はないのだが。

「そうだぞ。こういう時はどっしりと構えて待つしかないんだ。まあ。落ち着かない気持ちもわかる。なんといっても真があの有名な料理学校に行けるかもしれないんだからな。」

 深呼吸を繰り返し平静を保とうとしているのは真の父、駆(かける)だ。駆の言う通り、真が受験したのは一般の大学ではなく、国内最難関、そして料理の道を目指さない人でも知っているほど有名な調理学校なのだ。

「みんなやめてよ、一番緊張してるのは僕なんだから。やっと夢のスタートラインに立てるかもしれないんだ。でもやっぱりインターネットで合格発表って緊張するな。」

 真の言う通り、最近ではネットで合格発表を行う学校は少なくない。直接学校に出向いて張り出された合格者の番号の中から自分の番号を探したり、合否判定の入った手紙を受け取って中身を確認したりすることももちろん緊張するのだが、ボタン一つに合否判定の緊張が圧縮されているオンライン合否判定は、二時間も前からパソコンとにらめっこしている彼らにとっては効果抜群なのだ。

「でもびっくりしたわね。まさか真が料理の道に進みたいなんて言うと思わなかったわ。小さいころからモノ作りが好きで料理も好きだったけれど。」

 真の家族は特にレストランを経営しているわけではなく、香は主婦兼パートをしていて駆は一般企業の部長として働いているやや裕福なごく一般家庭なのだ。香りの言葉通り真は小さいころからモノ作りが好きでよくお手伝いで料理をしていた。料理は好きだったが、真は常に学年10位以内に入っているほど頭もよく、部活は陸上部で大抵の運動ならこなせてしまう万能タイプだったため、将来やりたいことが定まらずにいた。ルックスも整っていて校内一のイケメンとは言わずともそこそこモてるくらいではあった。小さいころの夢はお医者さん、そして保育士や消防隊、陸上選手など色々な夢を目指したがどれも真にしっくりこないものばかりだった。そんな時、ある出来事を境に、小さいころから好きで、しかし一度も将来の夢として考えたことのなかった料理という存在が真の中で芽吹いたのだ。

 昔話をしているうちにカップラーメンの準備はできたようだ。

「「「「ゴクッ。」」」」

 全員が息をのんだ。

「カチッ」

 ボタンを押した直後、真以外の三人から声が漏れた。

「「「え……」」」








「ま~こ~と~!!!」

 そう嬉しそうに涙を浮かべながら真を抱きしめたのは香だった。駆も千歳も安心と嬉しさからか力が抜けるものの、すぐに真に駆け寄って祝いの言葉を送った。当の誠はというと、実感が分からなかったのか固まっていたが、香に抱きしめられたせいか安堵のため息が漏れた。

「あの人に報告してくる!」

 そう言って真は家を飛び出していき、ある人のところに駆けていった。

「真君じゃないか、そんなに急いでどうしたんだい?」

 そう問いかけたのは真があの人と呼ぶ人、真の憧れであり目標でもある料理人だ。

「あ、あの、合格しました。調理の学校に合格しました!そ、それで、僕はあなたみたいな料理が作れる料理人になりたいんです。僕を弟子に……僕に料理を教えてくれませんか?」

「そうか、君があの調理学校に。頑張ったんだね、おめでとう。」

 心の底から祝福する優しい笑顔で真にそう言った。

「はい!あなたに少しでも近づきたくて頑張りました!これからもっと実力もつけていきます。だから僕に料理を教えてください!」

 真は力強く、まるで昔から好きだった女の子に告白するかのように気持ちを伝えた。

「そうだね。君なら行けるかもしれない、僕の届かなかったところに。」

 どこか遠くを見るようにその人は小さな声で呟いた。

「それってどういう意味―――」

「まあ、とりあえず今日はおうちに帰りなさい。合格祝いが待っているだろう? あ、少し待っててね。」

 そう言ってその人は家の中から小さくシンプルな紙袋を片手に戻ってきた。

「ささやかだけど私からの合格祝いだ。いつかこんな日が来ると思っていてね、一応準備していたんだ。まさか今日だとは思わなかったけど。」

 にっこりと微笑みながらその人は真にプレゼントを渡した。

「あ、ありがとうございます。これは?」

「家に帰ったら開けてごらん、いつか君が本当の意味で僕に近づくときに役に立つと思うよ。

「わかりました。」

 何のことかよくわからなかったが、憧れの人から言われたことなので真は素直に返事をした。

「それじゃあまたね、気をつけて帰るんだよ。」

「はい、ありがとうございました。」

 真は渡されたプレゼントを片手に握りしめて、鼻歌を歌いながら家に向かって走り出した。ただ一言だけ告げて家を飛び出してきてしまったため、やや急いで家に向かっていると

「危ない!」

 どこからかそんな声が聞こえたと思ったらトラックが目の前に迫っていた。真は合格したことに加えて憧れの人からプレゼントを受け取り、かなり浮かれていたため周りを見ていなかったのだ。

(嘘だ。せっかく合格してあの人に近づけるのに。父さんや母さん、香もあんなに喜んでくれたのに、こんなところで終わりたくない。僕は、僕はあの人みたいな料理人になるんだ。料理でみんなを笑顔でできるように―――)

 トラックがぶつかる瞬間、真は意識を失った。


 真が目を覚ますと見慣れない天井が目に映った。やけにいつもより遠くに見える。ふと真はトラックにひかれたことを思い出し、起き上がろうと試みる。しかし体が思うように動かない。きっと事故の影響だろうと声を出してみると自分の意図した言葉と全く異なる言葉が発せられた。

「ぎゃああぁぁぁ!(父さん、母さん!)」


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