02 記憶
受験番号を上からゆっくりと確認していく、いくら自分を鼓舞しても番号が近づくにつれ不安と緊張が蓮を襲う。手が震え、汗は吹き出してきている
そんな緊張や不安の中、蓮はまるで走馬灯のように今までの事を思い出す
蓮が受験したこの高校は一言で言えば普通だ。特に変わった所も特徴もないただただ普通の学校。
偏差値に関しても平均的な値だった。
しかし、蓮からすれば難易度ははるかに高い
何故なら蓮は中学の1学年2学年共にほとんど勉強をしてこなかったために基礎学力はほぼなく、ましてや応用問題など出来るはずもない。担任からも3学年の始めに志望をしたときは酷く反対されていた
「月島、お前は工業高校の方がいいぞ。家からも近いだろ。正直な所、月島の成績だとその高校は無理だぞ」
「いえ、俺はそれでもあそこを受けます。俺にはあそこしかないんで」
「いやぁ、しかしだな。仮に受けたとしても落ちてしまうぞ?工業の方がお前にはあって……」
「進路を決めるのは他でもない俺です。変えるつもりはないです」
その後もかなり担任ともめたがなんとか黙らせ、無理矢理進路を決定させた
そこからは勉強漬けの毎日である。まず、基礎学力が無いため基礎から学んだ。頼る相手はいない。全て蓮の独学で勉強を進め、その結果学校での成績はうなぎ登りで上がり、最終的には元々評定平均が2.4だったのを4.0まで上昇させ、担任は次第と口出しをしなくなっていた
3学年の3学期になり、各高校の倍率が発表され蓮の志望校の倍率は約1.1倍、少し定員が増えた感じだ。定員数が280に対し応募人数は309つまり、少なくとも29名の人間が落ちる
このことが危機感をあおいだ。なぜなら、この高校が定員人数を越えたのは珍しいことだったからだ。それが、蓮にとっての薬になり勉強時間が増え万全の状態といっても過言ではない状況で試験当日を迎えた
試験当日、様々な制服の人間が試験会場である教室に向かっている。そんな人達を横目に見ながら指定された席に座る。10分程して試験用のテストを持った教員らしき人が教室に入ってきた。
そこから、試験の説明をされテストが配られたテストは国語、数学、英語の三教科がまとめられたもので問題文が書かれたプリントだけで3枚ある。時間を気にしながら蓮は出せる力をだしきりなんとかやりきったのだ
そして、今を迎えた
「この一年で一生分の勉強したかも知れないな」
今までの苦労を思い出し自然と独り言が口からでる。そして……
「あ、あった……」
自分の番号を見つけた瞬間、蓮にまとわりついていた緊張や不安は一気に吹き飛び、達成感と安心感に包まれる
「ほんとに……ほんとによかったぁ……」
今までの努力が報われた。その事実を受け止め心を落ち着かせる。そして、落ち着いた所で人をかき分け、人ごみから出て近くにあったベンチに腰をかける
心は落ち着かせたが、体は落ち着いてくれない。まだ心臓はバクバクいっている。気をまぎらわそうと人混みの方を見る。さっきとほとんど絵は変わらない。喜び会う人、泣いている人。強いて違うのは帰り始めている人がいるくらいだ
そんな光景を眺めていると違和感に気づく
「なんだ、あの人」
その人、少女は喜んでなければ、泣いてもない。番号探してるのかと思ったが、見た感じそんな感じはしない。只、無表情で立ち、ずっと一ヵ所を見つめている。
落ちて放心状態になっている?そう考えたが恐らく違う。その少女からは全く生気が感じられなかった