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14-5

 ここに至ってもまだ、ジューンは予想もしなかった成り行きが信じられないという気持ちでいた。次々に物事を決めていくエドマンドとアダムス牧師に、ジューンの気持ちはついて行けなかった。彼らには思いも寄らないような様々な考えが頭に溢れてきて、混乱していたからだ。

「なんだか……浮かない顔をしているね。何か心配事があるのかな?」

 通りを少し行ったところで、エドマンドが尋ねた。

「えっ? いえ、あの……なんでもありません」

 ジューンは、本来は嬉しそうな顔をしなければならない時だったと気付いて動揺した。何を考えていたのか、本当のことはとても口に出せない。

 ジューンはライト夫人を想っていたのだ。

 彼女がああなってしまったのは、彼女だけの責任ではないのに。彼女自身も苦しんでいるのに。わたしはメイを引き離し、彼女を一人ぼっちにしようとしている。ひどい娘! 今回の計画にわたしが関わっていることを知ったら、彼女はどれほどわたしを憎むだろうか。

 こんな想いを、打ち明ける相手はどこにもいない。ましてや、メイのために尽力してくれるエドマンドに言えるはずがなかった。

 冷たく湿り気のある風が、村の大通りを吹き抜けていった。

 ジューンを建物側に庇うようにして、すぐそばをエドマンドが歩いている。風からも、たまに通る馬車からも守られている気がした。

 二人は、異様にゆっくりと歩く。

 不意に、頭の隅に追いやっていた二つのことが、ジューンの脳裏に戻ってきた。昨日のプロポーズと、メイのことを妹と言ったエドマンドの言葉だ。

「あの、本当にありがとうございます。わたしと妹のためにここまでしていただいて、お礼の言葉もありません」

 沈黙のさなかで、エドマンドが急に何を話し出すか分からない心地がして、ジューンはたまらずに自分から口を切った。

「違うよ、きみとミス・メイのためじゃない。全部ぼく自身のためなんだ」

 ジューンが見上げると、彼は微笑んだ。

「点数を稼ぎたい。それと、外堀から埋めて本丸を落とそうという魂胆とかね」

「は、はい……」

 こういう場合の答え方というものは、ジューンにはまったく分からない。恥ずかしさのためか身体がこわばり、歩き方がぎこちなくなってきた。

 エドマンドは、まだ微笑んでいる。

「また普通に話せてよかった。一時はどうしようかと思ったから」

「そ、そうですね……」

 ジューンは昨日のひどい別れ方と、今日のかしこまった再会を思い出した。しかし、階級が違うと知った以上、馴れ馴れしくしないのは当然であるはずだ。つい気やすくしてしまうことこそ、責められるべきなのに。

「昨日は歩いて帰ったの?」

「はい、そうです」

「そうか……どうやって屋敷から出たのか全然分からなかったよ」

「使用人エリアを通って……もしかして、探しましたか?」

 ジューンは息を呑んだ。

「少しね」

 エドマンドは微苦笑する。

「すみません……、そんなこととは考えが及ばず……」

 あらためて、とんでもないことをしてしまったと思った。申し訳なさに泣きそうになると、彼は言った。

「いや、いいんだよ。昨日は…………本当にごめん。あんなプロポーズは史上最低、最悪、前代未聞だよ。……断られて当然。どうかしてたんだ。あの後も、ぼくはショックで混乱して、妙なことを考えたりしたよ。きみのこと、実はぜんぶ演技で、脈がありそうなふりをして、ぼくをからかっていたのかな……なんて」

 エドマンドは反応を待つように、そこで言葉を切った。ジューンは眼を見張り、からかうなんて滅相もないと、首をぶるぶる横に振った。彼は微笑み、話を続けた。

「でも、冷静になって分かったんだ。ぼくが悪いのだって。……今、説明をしてもいいかな?」

 エドマンドは立ち止まり、周囲を見回した。道沿いにコテージの低いレンガ塀が続いていた。少し先で建物がなくなり、代わりに塀の向こうから柳が一本顔を出している場所があった。二人はそこまで歩いて行き、横並びにレンガ塀にもたれかかった。エドマンドは眉間を寄せ、言葉を選びながら話し始めた。



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