口もひらくな
ぶっちゃけ、ビルや廃屋に住み着く手もあったが、まるで寛げなくて、さっきみたいにしてた方が、まだ休めるのだわ。
自分ちの布団とは比べるべくもない話だが、転生とは百害あって一利無しの有害物質だ。
店員のいないコンビニも同じで、人が居ない場所より、有り得ない場所のがまだ落ち着ける。
本当にだらけてみるには、色々便利で、便所あるし食いもんあるわでなぁ。
ポテチを抱え、青空天井を見上げて食べれば、知性と常識は遙か彼方よ。
ジガリコも行ける。
カトケは、プシュッ!と景気よく缶ビールを開けているしな。オレが元々飲まないから、酒を開けるのを見てちょっとショック受けたわ。
寧ろ、酒なんざキライな部類に入るから、今の見た目とか日本の常識に合わせる事なく、
酒は選択肢にはいってなかったな。
近代的な廃虚で、ビニ弁並べて、片手でビールを開ける金髪ファンタジーキャラと、ポテチ片手に炭酸飲む、和装ファンタジーキャラ。
すげぇ絵面だ。
そう思いながら、しばらく無言で食べていると、チラチラとこちらを気にし始める。
「ユウノさん」
「なんですかね?」
「もしかして、見た目あれだから、お酒飲まないようにしてたりします?」
なんだかばつが悪そうな顔して聞いてきたけど、オレが酒飲まないの気にしてたのか?
「ああ、オレはもともと酒苦手なんだよ」
「あ、そうなんですか。よかった。」
安心して三本目の黒いラベルのビールに手をかけた。
まぁ、酒が苦手じゃなくて酒飲みが好きじゃないんだけどな。
アルコール混じりの酒臭い吐息とか最悪だけど、周りの気分悪くするだけだから口に出して言わないけどよ。
「ユウノさん…」
「なんですか?」
「…言いたい事あるなら言ってくれませんか?」
「いや、なんで泣きそうな顔してるんだキミは」
「だって、私が酒飲もうとする度に、あからさまに余所を向いたりしてません!?」
「え?」
「正直、どうしたいのかわかんなくて飲みにくいんですよ」
「あらららら…」
―ら。
「…飲みたいんだったら飲んでくださいよ」
ラベルを此方に寄せてきたのでポテチの袋を被せ蓋をする。
「あのな。オレは、金積まれてものみたかないだけだから寄越すな?」
「っ?!」
なに驚いてんだキミは。
「酒飲みたくない奴なんていくらでもいるだろうに…」
あえて近寄りたくもないレベルの奴なんかザラにいると思うが…。
「飲まないのじゃなくて、もしかしてユウノさんって、お酒が嫌いな人なんですか?」
「もしかしなくても嫌い…かな?」
正直、隣で酒飲まれるのは精神的にキツが、別に耐えられない訳じゃないからな?
「すみません。まわりがみんな飲む人ばかりだったから気がつかなくて…」
ガサガサとビール入りのポテチ袋を横移動させてるが、寧ろそのまま封印してくれないかね。
「別に、他人が飲むぶんには何かする訳じゃないから、オレの事は気にしないでくれていい」
寧ろ、話しかけたりとかもしないで飲んでくれていいからね?
「いまの言葉、他のニュアンスも含んでませんでしたっ!?」
「臭いとか今更手遅れだから、口を開かず鼻呼吸だけにしてくださりませんかね?」
「はい…」
なんか涙目で、呟いてるけど、もう“気にしてない”からほっといて?
暗くなるから寝るかな…。
―ゴロリゴロゴロ。
酒嫌いな人って少なくないと思います