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なにもしないぞ

去年話題になった映画を見た。

(…ああ、こりゃバカ売れするわけさ)


感動的なストーリーなのに、なんてバカな感想を返したものか。


しかも、地上波でみただけレンタルしてきた訳じゃない。

なのに、録画してたから夜中になるまで何回も見返してバカだと思う。


感動的ではなくて、感動したし、悔しいのも悲しかったも、何より胸が震えた。


ハリウッド映画の派手なアクションよりも心が動かされた。


翌日も、翌々日もいつもと変わらない日常が続くだけで、物語はアニメの中だけで日常は何も影響はない。


結局、映画を見ただけで人生が変わるなんて面白い話にはならなかった。


なによりオレは40に届く立派なオジサンだ。


初恋は幼稚園でして、恋愛感情は今もまだ“ソコ”に取り残されたまま。



―新しい世界で、新たな人生を歩んで見ませんか?


サイト巡りでミスったのか、携帯に怪しげなメールが送られるようになった。


今時のMMOも出来ない型遅れのガラケーだから期待してないが…。


「これは、どうゆう事だろうな?」


メールを読んで数瞬の後、鏡の向こう、15才くらいの時の自分が美化されて立っていた。

髪の長さはロン毛の域では留まらず腰まである見事な赤色。


藍染の羽織り袴姿。


「もしかして、昔ネカマで使ってた柚っち…ユウノかね?」


十年は昔の話しだし、新しい人生と何の関わりがあるのか。


閉ざされた部屋には鏡以外に寝具も何もない。


開け放たれた扉の向こうに何があるのか気には成るが…。


腰に差しているのは、漆黒の刀身に白銀を散らした“闇の鶴翼”


「オイ、もしかしなくてもファンタジー世界で、1からやり直せってのか?」


寝耳に水。


40の男には辛い現実がこれから始まる予感がした。


「廃墟ばかりで何もないのな…」


インベントリも、食料もない完全な自給自足の旅が始まった。

高台に上がれば、森に埋もれたビル群に、古代遺跡のような建築物が混じってなかなかに見応えのある風景。


食料は里芋やハヤやコイなどの川魚が簡単に手に入る。


よくある崩壊後の世界のようでそうではない世界。


あのメールを信じるのであれば、本当に出来立てホヤホヤの新しい世界。


「…よけいなお世話だっつーの」


だいたい、ユウノとして新しい人生を歩むには角が立ちすぎている。


若返った所で、今さら素直に生きていけるものか。


退屈はヒトを殺し、一人である事も苦痛であるが、殊更何かやるつもりもなく誰かを頼るつもりもない。


人気のありそうな街を避け、森以外に何もない場所を選んで進む。


全てが他人であるならば、今さら他人に期待はしない。


新しい人生、新しい世界。


望みもしない人生に、後腐れなく一人で生きていけるならば、骨すら残さず生きてゆこうと、ユウノはそうして、朽ちたキャラだ。


「ヤベ、懐かしくて顔が弛むわ」


一人くつくつと笑いながら森を歩く。


相変わらず人は居らず、豊かな自然が広がる匂いがする。


魔物も何もない。


通り過ぎたビル群の中には、煙が上がってたりした。


数日隠れ過ごした結果、何者かは解らないが人がいる。

あるいは、火を扱う何者かもわからない生き物が複数存在している事は確かだが、可愛くなって男の娘みたいになってるけど、中身そこらにいたオッサンです。


誰が人前に出られるものか?


せめて、オッサンのまま来てれば人前に出るくらいは出来たのだ。


新たな人生をプレゼントされたにしては、ハードルが高過ぎた。


とにかく、ユウノに慣れるまで人前には立たない。


優先順位の一番がそれだった。

「そう言やあ、ナリキリスレとかあったな…」


アニメのキャラクターになりきって、スレッドにキャラクター同士でレスしたりしたアレだ。

「…まあ、ネカマにならなかっただけマシなのかね」


ユウノは女キャラだった。

下手したら死ぬまで人気を避けなければならなかっただろう。

人里を離れ歩きたどり着いた。

「…んん、神社でもあるのか?」

朽ちた鳥居と石の階段。


まあ、ありがちならば上に登るのだろうが…。


「…触らぬ神に祟りなし」


両手を合わせ通り過ぎる。


薄情だの言わないで欲しい。


夕暮れ時の廃神社。オッサンが一人で足を踏み入れるのは勇気が必要なのだ。


廃ビルに入るのは完全にキャパオーバー。


手を合わせられただけましである。


「…いやもうこんな分かり易い隠れ里とか望んでないしよ」


石段の遙か下の里山?には、広大な湖に平野。


ユウノが望むのは、目印もなく冬でも食料が得られる温暖な土地。


泳げないので、海や湖は却下である。


とりあえず、河口付近だが海沿いは不自然な位ビル群が支配している。


そして、人が住めそうな場所は多いが人がこなさそうな場所は意外に少ない。


「山か人かなら、二択で山だったんだがな…」


海は遠く、山も意外と人工物が多い。


アスファルトの道は草に埋もれているが…。


誰かしら居たような形跡があるのだ。


スタート地点も、人気のない街だった事から、一人に対して街が一つ与えられていたのかもしれない。


「ゲーム進行を、大幅に間違えた様な気がするぜ…」


もしくは、二度と行けないダンジョンに大事なアイテムを忘れてきたかのような?

自害用に取っといた弾まで損美に打ったときの喪失感?


もしかして、仲間を集めて冒険せにゃならんのだろうか?


ボッチに慣れすぎた上に、不便が無さ過ぎるこの世界が悪いとしか言いようがない。


「リアル崩壊後の現代みたいな無敵加減だしな」


敵がいないのが最大の不具合だ。


「…やっぱり遺跡いかないとならないか?」


数十キロ先から見えるタワーマンションと遺跡。


意味ありげに、崩された近代文明の名残。


異物となるのは遺跡だけである。


「ありがちなのは隕石落下による文明崩壊だけど、遺跡の意味が解らない。そもそも、なんのための新しい人生だ?」


現代社会で生きていくのも、不自由はあったが今よりハードルは低かったぞ。


「過去に戻るならまだしも、前世として捨てるにはちょっと惜しいぞ」


代償として、奪われたあの人生を忘れてやり直すには遅過ぎだ。


何より、誰が好んで40まで独身で居たと言うのか。


周りの環境なんかより、重く苦しくのしかかってきた覚えてめいないオレの初恋が全ての始まり。


一人でいても何も変わらない。


「なるほど、一人じゃ恋も始まりゃしないわ」


結局、オレは周りに期待するだけでアニメをみた後も何一つ変えていなかった。


「街で人か…」


腰を下ろし、今更ながらやるべき事を理解する。


「…新しい人間関係とかやだなぁ」


結局、オレにとっての本音はコレに尽きる。


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