2話
ガンッと鈍い音が鳴り響いた。6人を相手にするロードは長らくの囮で腕が鈍ったか、床に蹲っていた。歯が立たない訳ではないようで敵も傷を負い、出血しているところもあった。それでもロードの傷の方が圧倒的に酷く、満身創痍。
「オイオイどうしたぁ!? さっきの勢いは虚勢か? ボスっていっても名ばかりじゃねぇか」
敵の中でもリーダー格の、最初からいた男が嗤う。まるで自分達の勝ちだとでも言うように。そこへ気の弱そうな男が恐る恐る声をかける。
「な、なぁ……こいつ本当にボスなのか?」
「何が言いたい」
「だっ、だってよぉ……こいつらのファミリーって結構強いんだろ?それなのに……」
ピッ、ピッ、ピーー__________
男の言葉は最後まで紡がれず、やけに耳に残る機械音とそのあとに轟いた爆発音に消された。
……タイミング早えよ、エンヴィー
突然の爆発に焦り、逃げ出そうとする敵とは対照に、ロードの口元は弧を描いていた。
「お前何笑っ……!! もしかしてこれ、お前らの仕業か!? 爆弾仕掛けたのも!!」
「だったらこいつ、本当に囮だぞ! ボスが捕まってんのに悠長に爆弾仕掛ける筈がねぇ!!」
「やぁっと気づいたの?遅いよ、遅過ぎる。早く逃げないと……どうなっても知らねぇよ!?」
こんな状況下でも笑っていられるロードに恐怖し、敵は悔しそうな顔をしながら蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
「やっと逃げたかぁ……本当遅いよ。……さっきあんな事言ったけど俺も結構ヤバイ状況だよねこれ!? え、どうしよう!? ランタンさん来てくれっかな!? くっそエビの奴嫌なタイミングで爆破しやがって! 俺としては助かったけど! 助かったけど、その後死にそうになってんだけど!?」
先程の余裕はどこ行ったのか、焦りを全面に出し助けを乞う。そこへ第二波が来る。1回目の爆発が悪戯に思える程の規模。崩れ始める建物、燃え盛る炎。柱がやられたのか崩壊は近い。
「は……、ちょ、何これ……聞いてない!」
逃げねば死ぬ。それが頭をよぎり必死に脱出を試みるが、意外にも身体は弱っており言うことをきかない。
「……くっそ!動けよ!」
腕を床に叩きつける、悲鳴をあげる身体に鞭を入れ無理矢理動かす。重かった身体が軽くなったのに気づいたのはその時だった。
「全く……死んでいいとは言っていないぞ」
「~っランタンさん!」
いつの間にこんな近くに居たのか、ランタンがロードに肩を貸していた。
「っランタンさん! あの、俺……!」
いつも助けに来てくれる幹部は、ロードにとって兄のような存在。だが、自分が足を引っ張っているのではと考えてから、どこか後ろめたさがあった。それでも、こうして助けに来てくれることが答えなのだとロードは思うのだ。
「本当……世話がやける」
自分の肩に回したロードの腕をしっかり固定し、負担がかからないように、しかし素早く部屋を出ていく。建物から脱出が完了した瞬間崩れ落ちた建物を見たロードは、顔を真っ青にした。
2回爆発し、轟々と燃え盛る建物を見てほくそ笑む左目の隠れた男。先程端末をいじり、ランタンの名を呼んでいたことから、爆発を起こしたのはこの男だろうか。
「ククッ……死ななくてよかったなぁ、ロード?まぁ、俺はランタンさんにちゃんと言ったし、それが仕事だしな」
そもそも死ぬなんてあり得ねぇんだけど、と呟きながら踵を返す。
「さぁ、一足先に帰るかぁ」
曲がり角を曲がった次の瞬間、そこに居たのはただの青年だった。
「はぁぁぁぁぁ……助かりましたぁぁぁぁぁ……ありがとうございますランタンさん!!!」
「お前は本当死にかけるな。今回もエンヴィーの機転があったからよかったものの」
ランタンの言葉を聞いてエンヴィーへの怒りがこみ上げてくる。
「そうだよエビのやつ!! あいつ2回目の爆発やけにデカかったっスよね!! 殺す気かよ!!!」
「いや、あそこで2回目の大爆発が起きなければこうも完璧に脱出出来なかっただろうしな。エンヴィーに礼を言っておけよ、俺が見つからず入れたのはあいつのおかげだ」
爆破した建物から少し離れた、瓦礫が落ちている場所でロード達は休んでいた。予告も何もない2回目の大爆発。あれを完璧エンヴィーの悪趣味な悪戯か、もしくはめんどくさくなって適当にやったかのどちらかだと思っていたロードは、ランタンからエンヴィーの機転だと聞き目を見張った。
……飲みにでも誘うか
そう思いながら腰を上げる。
「サァ帰りましょー、 もう俺クタクタですよ~。首領にも報告しなきゃなぁ……」
人目を避け並んで歩く2人は満身創痍。そんな姿は目立つだろう。けれども、いやに違和感無く溶け込んでいた。
彼らの拠点は何処か、国はわかれども詳細は当人達しか知らず。なかなかに力のあるマフィアである。