1話
「こうもマフィアのボスが簡単に……目も当てられねぇなぁ?」
何処か暗い室内、嘲笑う銃を持った男。血生臭い一室は緊迫した空気が流れていた。突きつけている銃口の先には、両手足を縄で縛られ地べたに転がされている青年。
「何か反応したらどうだ?」
気を失っているのか反応がない。無意味な事をしていても仕方ないと思ったのか舌打ちをし銃口を下げる。その時建物全体にけたたましいサイレンの
「隊長、どうやら侵入者のようです!!」
「あ?そんなモンさっさっと潰せ!」
侵入者、その報告をしに部屋に入ってきた部下らしき人物は顔が青ざめている。
「そ、それが何処にいるかわからなくて…」
「はぁ!?じゃあなんで侵入者ってわかるんだよ!!」
「建物の柱全てに爆弾が設置されています!只今二手に分かれて捜索と解体をしていますがキリがありません!」
建物全体に設置された爆弾に流石に危機を感じたのか部屋を慌てて出て行く2人。
1人の青年を忘れて。
「おいおい、それでもマフィアかよ」
静けさが残った部屋にポツリ。先程まで床に倒れていた青年は縛られたまま起き上がった。
「侵入者かぁ~、爆弾かぁ~」
その声は怯えた様子もなく、どこか余裕を感じられる。暗くてわからなかった容姿は、完全に閉められていない扉から漏れる光で窺えた。
水色の髪にライトグリーンの眼、両耳にイヤーカフとピアスというシルバーアクセをつけた美青年はマフィアには見えない。二十代前半だろうか。
ふと、表情に影を落とす。少しの沈黙があり肩が震えると
「またぁ~~!? 俺は囮、首領じゃないの!ランタンさん早く来てーーッ!」
大声で叫んだ。
「あーもう本当何回目ぇ~?!確かに俺は囮だけどさぁ~疑わないのか?」
「それがお前の仕事だ、諦めろ」
いつからそこにいたのか、呆れたように扉に寄り掛かる血塗れの男。
「ランタンさん!!!!待ちくたびれましたよ!!!」
ランタンと呼ばれた二十代半ばの男は、茶髪の向かって右を掻き上げた髪型に、山吹色の眼、黒縁の細いスクエア眼鏡。全体的にキッチリとした印象を受ける。……血塗れという状態でなかったらの話だが。
「……エンヴィーに手を回して貰ったんだが少し楽しんでしまったようだ」
サイレンの音が無ければ延々と遊んでいたと零すランタンに、青年は顔が引きつったのがわかった。
「お前を救出したらここを潰せとの命だ」
そう言いながら青年の縄をピアノ線で切っていく。ランタンの右腕にはピアノ線が巻き付いているのか、よく見れば痕がある。目を凝らしても気づくか気づかないかだが。
「ありがとうございまーす!ランタンさんはこのまま行きます?」
緊張感の全くない声が響く中、ランタンは至って冷静だった。
「そのつもりだ。では行ってくる。……この建物がいつ倒壊するか知らないからな、ロード」
ロード、青年の名であろうそれは、微かな信頼が含まれていた。
ロードに背を向けて敵を捜索しに行ったランタン、その背中をロードが見ることは無かったが、言わなくてもわかっているとでも言いたげにわらっていた。
「さてとっ……ランタンさんからの許可も出たし、丁度敵さんも戻ってきたようで」
ランタンが出て行った扉の向こうから複数の足音が聞こえる。
あーあ、運がよかったんじゃないの?
ランタンさんに会わなくて。
「お前っ!?何で動けている!?」
「お前ちゃんと捕縛したって言ってただろ!」
「したに決まってるだろ!?爆弾騒ぎの方に行ってたらこれだよ!」
「はぁ!?お前部屋に誰も残さなかったのかよ!信じらんねぇ……」
部屋に着いた途端、最初にいた男と其奴と同じくらいの地位の男達が喚く。総勢6人。
「ねぇ、そろそろいい?いいよね?さぁ、お片づけの時間だ!!!!!」
ロードの顔は至極楽しそうだった。ただ、
無邪気な表情の中で唯一ライトグリーンの双眸が冷え切っていた。
その頃1人の男が動いていた。誰もいない暗い路地裏にひっそりと。
「……何個仕掛けたっけ、爆破のタイミングはいつだっけ」
黄色の左目が隠れた髪に、赤い眼。気怠げな雰囲気を纏うそれは、何かを企んでいるようだった。
「面倒くせぇ…もう爆破しちまおうか」
なにやら物騒な単語を先程から連呼しているが、右耳にはイヤホン、左手には端末を持っている。端末にはよくわからない数式や文字が羅列しており、手慣れたように操作している。
「折角人がランタンさんを上手く潜入させたのに、アイツ……まぁいい、どうせ爆破する。無傷…なんてのはあの人くらいだろ」
嘲笑を浮かべる男の口から出てきたのは、どこかのマフィアの拠点にいる男の名前だった。