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第四話 殺と性と迷

 それから進んでいくと、扉が右側にあったため、私は躊躇ちゅうちょ無くそこに入室した。

 すると、そこにはスキンヘッドをした男や、ガムを咀嚼そしゃくしながらサバイバルナイフを手入れしている男など、ヤグザのような連中が三十人強くらいいたのであった。

 普通の人だと、この光景を見たらビビッて逃げ出すかもしれないが、人間を辞めても尚のこと命を大切にしていない私には恐怖心がまるでなかった。

 「お前か? 俺等をわけわからねーところに閉じ込めたのはよー」

 スキンヘッドの男が睨みながら近寄って来た。

 私は彼等が何で怒っているのかが分からないため、何も答えずに彼等の発言を聞こうと思う。

 「何か言えよー。じゃねえと――――」

 その時、部屋の奥のほうに居たピンク髪の男が天井に向かって拳銃を放った。

 「分かったか」

 スキンヘッドは私の胸倉を掴んで、私を持ち上げる。

 しかし、妙だ。私はワーウルフの姿のままだ。それなのに、彼等は驚かずに私を脅している。というより、私の肉眼だと全身毛だらけなのに、スキンヘッドの男は私の服を掴んでいるかのような仕草を取っていて、私はそれに順応している。私はまだワーウルフになっていないのか。それとも、彼等が私を化物だと認識していないから、そうなるのだろうか?

 とりあえず、私は右手の爪を使って、私を掴んでいるスキンヘッドの腕を縦方向に引っ搔くと、その箇所は切断したのであった。

 「うあああああああ」

 近くにいた男はそれを見て叫ぶと、私に向けて拳銃を放った。

 私に迫ってくる弾丸は、昼休みにいじめっ子らの拳のようにゆっくりと移動していた。ワーウルフになったことで、私の動体視力が向上しているのは確実だ。

 私はその弾丸を軽やかに回避して、その男の首を握り締めると、一瞬のうちに息をしなくなった。

 「お前、ただのガキじゃあねぇな」

 ピンク色の髪の男は散乱銃を突きつける。

 「その通り、私はただのガキではない。化物だ」

 私は軽く地面を蹴ると、散乱銃を持った男に激突したのであった。跳躍力も向上しているらしいが、正直に言って、慣れていないため調整が難しく感じた。

 「クソガアア」

 不意に後方から放たれた弾丸が私の背中に命中するものの、それに対して痛みは全く無かった。ということは、ただの拳銃ですらわざわざ回避しなくても良いってことになる。

 私が後ろを振り向くと、そこにいた男は私に恐怖して後退りしていく。

 人間という生き物は粋がっているわりには軟弱な生物だと思いながら、その男の頭部を蹴り飛ばすと、首が吹き飛んだのであった。

 初めて人を殺してみたが、とても快感であった。

 「よくも、俺の仲間をりやがったな」

 ナイフを手入れしていた男が私に襲い掛かってきた。

 彼が振るうナイフは、弾丸と同じようにゆっくりとした動きであったため、私は全て回避する。

 「ガキのくせに生意気な」

 ナイフの男がそう言ってナイフを持っていない手をポケットに突っ込むと、そこからスタンガンを取り出したのであった。

 私は彼の動作をコマ送りで見えてしまうため、その行為は不意打ちにはならない。そのため、彼の鳩尾みぞおちに向けて軽く殴ると、その男の腹部が貫通し、そのまま後ろにある壁に身体ごと衝突したのであった。

 彼等に何の興味を持たなくなった私は、この部屋を出るために後ろを振り向くが、そこにドアはなかった。

 ここの人達を全員殺さないと出現しないと判断した私は、無情かつ無表情で彼等を殺そうと思ったが、一つだけ頭によぎった。

 「アナタ達は私のことを人間の子どもにしか見えないの?」

 私は彼等に思ったことを質問をした。

 「ああそうだ。もしかして、自分が強いからって化物にでも変化したとでも思っているのかよおおおおおおおおお?」

 近くにあったビール瓶を手にした男は、それを壁に向けて叩き割るとそれを凶器として、私に振りかざす。

 「やっぱりそうか」

 私は彼の凶器による攻撃をかわし、足を引っ掛けて、男をうつ伏せの状態でこけさせたあと、私はその背中に乗り、背後から男の首を噛み千切った。

 そのまま噛み砕こうと思ったが、人の頭蓋骨は想像以上に硬かったため、すぐに放棄した。

 「ヒィィィ。人間が人間を食いちぎった……」

 目が細く、顔に無数の傷を負ったイカツイ顔の男は、瞳から涙を流す。

 私がワーウルフであることは、先程の目玉の話で認知した。しかし、彼等は私のことを人間の子どもだと認識している。私は先程ワーウルフだと念じながら男の頭部を食らったが、イカツイ顔の男の発言によると私は人間に見えたらしい。

 私は“化招水けしょうすい”を飲む前、リナさんがただの人間にしか見えなかったが、今の私の状態でリナさんを見たら多分人間には見えないだろう。そうだと言える確実な理由がないため、ただの推測に過ぎないのだが、私達化物は人間の視覚に対して、無意識に擬態をしていている可能性があり、それは時が経過するごとに強くなっている。近年、化物の目撃情報が全くといってない理由もそう考えれば辻褄が合うと私は勝手に思う。

 「うわあああああ」

 独りでに思考していた間に、巨漢の男は叫びながらテーブルを私に向かって投げつけてきた。私は両手でテーブルを引っ搔くと、それはバラバラに切り裂かれた。

 この場所で思考することは何もないと判断した私は、無感情で、この部屋の人間共を殺していこうと決意したのであった。


 それから二分くらい経つと、この部屋に生きている人間は誰一人としていなかった。

 途中。人間の肉を生の状態で食べてはみたが、とてもではないが食べられるものではなかった。美味しい部分とそうではない部分があるのだろうか?

 そんなことを考えていると、この場所に来る時に使ったであろう扉が出現していたのであった。

 私はそれを開けて、この部屋を後にしたのであった。


 扉に入った部屋は、室内がピンク一色に染められており、そこに下着姿の女性や全裸の女性がいたのであった。

 免疫がない私はすぐに興奮してしまったのと同時に、本当にこの部屋で合っているのかと思った。

 後ろを振り向くと、既に扉はそこに無かった。

 ワーウルフになって嗅覚が発達したためか、部屋中に籠もっている女性の匂いがとても良い香りでドキドキが収まらなかった。

 「あらあら。どんな男が来ると思ったら、日本の子どもじゃない」

 そう言ってやってきたのは、白い肌で金髪をした綺麗な女性であった。近付いてくるにつれて強くなる甘い香りがたまらない。

 「アナタとイイコトをしたら、私達の借金や刑罰をチャラにしてくれるって本当?」

 金髪の女性は私の耳元で色っぽく囁いた。

 私にはそのような取引を応じた覚えはないが、興奮が収まらずに私は首を縦に振った。


 それから二時間後。

 私は性の快楽を知ってしまった。

 途中。興奮しすぎて女性を殺めてしまったのは血の気が引いたが、私の虜になってしまった女性に慰めてもらったため、落胆することは無かった。

 「ねぇ。何をしているの?」

 私の背後から誰かが問いかけてきたので後ろを振り向くと、自身の左肩に市松人形のような少女が貼りついていた。

 「ねぇねぇ。鼻伸ばして何をしていたのか~な~」

 少女が悪魔のような笑みで言い放つと、私は彼女を右手で掴もうとするが、それはすり抜けたのであった。

 「なっ…………。だったら、マルガ。この子を掴み取ってくれ」

 先程慰めてもらった日本語が流暢りゅうちょうなドイツ人の女性に助けを請うが、その部屋に私と身体を交わした人物は誰一人もおらず、部屋も何も無い真っ白なところに移動していたのであった。

 「ふふふふふ。焦ってる焦ってる」

 少女は私の肩から離れて、私の目の前に移動したのであった。

 「君は何者だ?」

 「私は裏狸りり。エマの友達だ~よ~」

 裏狸は無表情で答える。

 「ここはどこだ?」

 「正確にいえば部屋は移動していないから、地下十三階の一室。自分から入っていったでしょ? その部屋だよ。私達は貴方の欲を読み取ってそれを都合の良い様に利用して、部屋を転送しているの。だから、君が仲良くなったマルガちゃんやリンナちゃんもちゃんと実在しているから安心してね。ふふふふ」

 私の欲を読んで利用しているだと。

 確かに、悪を懲らしめる正義の味方や、各国美人が集った状態でエッチなことをしたかった。

 「…………っ」

 私は気付いてしまった。人間の欲で満たされてはいけなかったのではないのかと。

 「ふふふふ。どうだろうね」

 裏狸は悪魔のような笑みをしながら私の思考に答える。

 多分、彼女もエマ様と同じように私の思考を読めるのだろう。

 仮に、私の欲が満たされてはいけなのなら、リナさんは化物になっているのに、食欲に負けて生きた男性の睾丸を調理しようとしていたし、人間ダーツで娯楽をしていた。全ての欲が満たされてはいけないという決まりではないのかもしれない。

 「裏狸。ここで何をやっている」

 野太い声を放つのは、上からお尻から出した糸によって吊るされている蜘蛛であった。よく見るとその蜘蛛は足の数が十六本生えており、体長は私の身長とほぼ同じくらいだった。

 「暇潰し~」

 笑顔で答えると、蜘蛛は口から糸を吐き出し裏狸を巻きつく。

 「受験者によけいな手出しをしたくせに、そんな理由で許せるとでも思っているのか?」

 糸が強く締められているのか、裏狸は苦痛な表情を浮かべている。

 「辞めろーーーーー」

 私は叫びながら走り出し、裏狸を締めている糸を爪で引き裂こうとするが、突然身体が動かなくなった。

 「我はここの首領。お前が人間を辞めて我等の同類になるのは構わん。我はお前なんぞ興味は無い。ただ、我に逆らおうとするなら容赦はしない」

 威圧感を醸しながら言い放つ。

 「首領だからって、何をしてもいいのかよ」

 私は睨みつけながら彼を見る。

 「お前さんはちと思い込みが激しいようだ。彼女は裏工作が大好きな化け狸でな。たまに取り返しのつかないことをしでかす。彼女のせいで私の娘分が一度死にかけたからのう。お前にもそのような災難が降りかかったら嫌であろう? それでも良いのなら、彼女を放そう。そうではないのなら、私達はここで去る。さあどうする?」

 「…………」

 私は黙って、蜘蛛を見る。

 これも試験の一種だろうか?

 いや、考えすぎだ。悪戯娘の躾をするのは必要だ。彼の言動からは彼女を殺す気はなさそうだ。

 「うわーん。助けろーー」

 裏狸は泣き叫ぶがそれはきっと、彼に叱られたくないからであろう。

 「彼女を……叱ってやってください」

 それを聞いた裏狸はふくれっ面で私を見る。

 「ふん。つま~んないのー」

 裏狸がそう言うと、蜘蛛は裏狸を捕まえたままお尻の糸を縮ませ、天井をすり抜けていった。

 それと同時に蜘蛛が去ったからなのか、身体が動けるようになった。

 裏狸。彼女はなぜ私の前に現れたのだろうか。そこまでして、私にこの部屋仕組みを伝えたかったのだろうか?

 彼女はエマ様の友達と言った。

 もし、裏狸はエマ様の命で来ていたとしたら、エマ様はそこまでしてでも、私を化物に仕立て上げたいということなのだろうか?

 目玉の男は銀色の体毛をしたワーウルフは珍しいと聞いた。それと何か関係があるのだろうか?

 そもそも、裏狸が言ったこと全てがデタラメという可能性だってあるし、真と嘘を織り交ぜて言っている可能性だってある。更に言えば、先程の出来事自体が試験の内容の一部かもしれない。

 思考すればまだ様々な推測が出るだろうが、ココで一人思案しても答えは出ない。

 私はいつの間にか現れていた扉を開けて、この部屋を出たのであった。


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