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第三十三話 暗闇

 ウズメが開けた異空間の穴の向こうは、文字通り暗闇である。

 周囲を見渡しても真っ暗であり、近くにウズメとリペの臭いがするので近くに二人がいるのは分かり、地についている箇所を触ると砂利や小石があるため、外であることは明白であろう。どこかの洞窟の中だろうか?

 「ウズメ様。ここは?」

 リペも分からないらしく、ウズメに質問する。

 「……ついていけば分かるよ」

 そう言って彼女は歩き始めたらしく砂利や小石を踏む音がしたため、音と臭いを頼りについて行く。

 「そういえば、あのクラックは何をするつもりだ? 成功すれば協力してくれるらしいけど」

 「三竜の正規契約。能力剥奪。吸収のどれか。まあ、呼び出すには三色の鎖を所定の場所に設置しておかないといけないみたいだけどね」

 時間、空間、平行世界を司る竜と言っていたが、彼が三つ能力を全て得られたら最強の生物になるのではないだろうか。彼のその後の目的は分からないが、敵にならない事を祈るばかりである。

 「まあ、彼が三種類も携えられるとは思ってないけどね。精々一種類が限度でしょうけど」

 そうだとしても、あの三種類から一つでも能力を得られるのならば充分だと思う。

 「それはそうと、何でクラックが元“蜻蛉ベッル”だと分かったんだ?」

 「私が染巖山の神話を知ったのは寺にあった古書。“蜻蛉ベッル”は“竜の管理者”と揶揄されているの。神話は彼等しか知り得ない機密情報だからそうかなと思っただけよ」

 多分、彼女の趣味は読書だろう。様々な書物を読んでほとんどの内容を脳内に叩き込んでいるに違いない。もしかしたら、この場所も何らかの書物に記された場所なのかもしれないのである。

 それにしても、ここに来て五分は経過しているのだろうが、目が一向に慣れないのである。ワーウルフになって暗闇が苦手になったのだろうか?

 いや、彼等は夜行性であり、むしろ人の頃よりも少量の光で暗順応出来るはず。ということは、この場所は光が一切入り込んでいない闇の中だというのだろうか?

 「ウズメ様。この場所は……」

 彼も嗅覚が優れているのか、進行方向から果物のように甘い臭いがしてくるのだが、私は彼と違って知識が乏しいため、それが分かったところでどこなのかはさっぱりである。

 「クックク。珍しい来客だな。何用だ?」

 大人の女性が私達に問いかける。

 この甘い臭いは彼女の体臭なのだろうか?

 「ルチェル。私達と手組まない?」

 彼女の名前はルチェルと言うらしい。

 「あ? 何だ、いきなりよ。知ってんだろ? 私の妹達を牢屋にぶち込んだ野郎がウザくてウザくてぶっ殺したくてたまらないってな。それ以外のことなんか何にもする気がおきねぇんだよ」

 何かが潰れた音とともに血の臭いが発生する。近くにいた小動物でも殺したのだろうか?

 「幽閉されたのは知っているけど誰がやったの?」

 「エマだよ。あのアマ今度会ったら一滴残らず吸血してやる」

 彼女はエマをとてつもなく怨んでいるらしい。そして、言動から自身が吸血鬼であることをほのめかしている。この場所が暗闇なのは、日光が苦手だからであろう。

 「エマか……。だったら頼んであげようか?」

 その場は一瞬にして沈黙に包まれる。

 そういえば、初対面の時に元気がいいかどうかを聞いてきたな。友好関係があるからこそ知りたかったのであろうか?

 「確かにお前はあのアマとは対等だっただろうが、今はどうだかな。頭いかれた奴に幽閉されたお姫様はもう見放されてるんじゃないのか?」

 そう言って何かをかじる音がかすかに聞こえる。仕留めた小動物を食べているのだろうか?

 「そうかもしれないね。でも、ここにいる被験者一九〇五を提供すれば成功するかも」

 一九〇五。

 それはヴァナルがかすかに残っている記憶で、私のことを指しているのである。

 どうやら、どいつもこいつも私のことを道具としてしか見ていないらしい。

 (怒りを抑えな)

 体内にいるヴァナルから瞬時に警告されるとは思ってもないので、少しだけ我に返る。

 どうしてだ。ここにいる奴等全員皆殺しにすれb――――。

 (こんな暗闇で出口も分からないのにか? 殲滅してもきちんと出られるとは限らないんだぜ)

 確かに、こんな真っ暗闇な場所は常人からの思考だと深海くらいしか思い浮かばないだろう。空間を越えない限り出入口がない場所であってもおかしくはない。

 彼の言ったとおり、突出した怒りを少しずつ抑える。

 「あの実験で生存していたのは彼だけだったらしいからな。最初から私だけに任せれば良かったものの馬鹿な妹達は……。哀れなものよ」

 どうやら、彼女は私の過去を知っているらしい。しかし、コチラが彼女の姿を見たくても真っ暗なため、全然分からないのである。それに、私と同じような経験をした人間が他にもいるらしいが、ヴァナルの記憶にはないため、おそらく、別種の生物で試された者達だろう。

 「で、こんなところに隠居しているのは、妹達の解放を待っているから?」

 「どうなのだろうな。まあ、馬鹿な妹達がいなくなって寂しすぎて、やる気が出ないだけさ。どうせ手配されてんだろ?」

 「ええ。S級のお尋ね者だよ」

 甲高い女性の笑い声が反響する。

 「逃亡だけでS級かよ。何盛ったんだろうなぁ? あーなんかムカついてる気が起きてきた」

 前方から小骨を折る音が聞こえる。

 「そういえば、何に対して手を組むのか聞いてなかったな。私に出来てお前に出来ないのは吸血とその血の提供くらいしかないのだが、それをしてやっても良いが私にとって有益か?」

 それを聞いたウズメは溜息を付く。

 「その程度で依頼すると思う? “蜘蛛ネア”の首領ネフィルの討伐だよ」

 “蜘蛛ネア”に反抗するとは聞いてはいたが、矛先が首領だとは思わなかった。

 「……本気で言っているのか?」

 「ええ」

 ウズメの承諾を聞き女性は高らかに笑う。

 「あ、り、が、と、う」

 その瞬間。突然現れた複数の気配を察知すると、何者かに背後から身体を拘束させられるのだが、背後の触感が羊毛のようにフワフワなせいか、そんなに嫌な気分はしなかった。

 「良い身体。一度やってみたいけど。今回は縁がなかったということで。クッスス」

 少女が私の耳元で囁く。

 「ルチェル。貴様ぁぁぁぁ」

 ウズメはこれまで聞いたことのない低い声で怒号を上げる。

 「そう怒るな。首領がお前がくると読んでいたようで取引を持ちかけられたんだ。お前達が来て離反しようとしているのなら、妹達を解放してくれるってなぁぁぁぁぁ。ヒャハハァァァァァ。最高だぁぁ。今日は記念日にするぞ。バカ共」

 『はい。お姉様』

 複数の返事と共に私の首は縄状のもので絞めつけられる。

 「クッスス。大人しくしててね~。君をらないとまたイ~ヤ~なとこに捕まっちゃうからさ。クッスス」

 あー、モフモフで気持ち良いのに、首絞めと独特なクスクス笑いで台無しだっての。

 私の背中から槍鼠のような氷柱を一斉に発生させると、絞めていた縄状のものの力が緩んだめ、それを掴んで引っ張り上げそのまま叩きつける。彼女はなぜか体臭が嗅ぎ取れないため、見失わないようにそのまま縄を放さないように握りしめる。

 「アシューだけでなく私の尻尾も掴んでもいいのよ」

 左側から色っぽい女性の声が聞こえた時には、自身の左腕が捻り取られ激痛が走る。その影響でもう片方の手で掴んでいたはずのアシューという者の尻尾を放してしまう。

 (ケッ。お前に少しでも任せた途端にこれかよ。とっととオレ様に変われ)

 体内から聞こえたので、すぐにヴァナルに任せた。

 今度から戦闘が始まったらヴァナルに任せようと思う。

 「へー。ここが君の精神か~。クッスス。壊していい?」

 この独特な笑いを明らかに私の近くから聞こえたため、背筋が凍りついた。

 今の私はヴァナル視点の映像をテレビなどで見ているような感じではあるが、その状態で視点をずらした事が今までなかった。

 私はゆっくりと声をした方向に振り向くと、周囲は真っ黒だが暗闇というわけではなく、声の主の姿がはっきりと私の目で映っていた。

 それは、中学生程度の少女が羊のような体毛につつまれ、尻尾の先端がサソリのように鋭利にとがっていた。笑みを浮かんでいる少女から特徴的な犬歯が見えているため、彼女も吸血鬼なのだろうが、なぜ私の精神にいる?

 「クッスス。驚いてるね~。何で吸血鬼なのにモフモフしているのか。私は憑依が得意なアスモデウスと契約させられた吸血鬼のアシュー。“大罪七姉妹シン・シスター”の末っ子として、君を殺すから。クッスス」

 その瞬間。私の横腹は、彼女の尻尾によって貫かれていた。

 その時に気が付いたのだが、私の今の姿は人間の姿そのものなのであった。



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