第二話 予兆
「おい。てめぇ、何ニヤついてるんだよ」
その日の昼休み。私をイジメている数人の同じクラスメイトの男子生徒によって廊下の隅に追い込まれていた。
私の目の前にいるのは背が低い金色の短髪をした男だ。
周囲の生徒から“ショウ”と呼ばれているが、彼の本名は知らない。知ろうとする気もない。
「国語サボって、帰ってきたらヘラヘラしてるもんな。保険の先生とエッチなことでもしたのか? ええ」
私の髪の毛を掴み上げて、腹部を殴る。しかし、なぜだかいつもよりも痛みを感じなかった。
「なぜ、そう思った?」
すると、今度は私の胴体を何度も何度も蹴り続ける。
「てめぇ見たいな。二次元にしか興味なさそうな根暗はそれくらいしか生きがいがないだろうが」
更に蹴り続けるが、なぜか全く痛みを感じない。
それほどまでに私の気持ちは高揚してしまっているのだろうか。
私は、近くにある窓をふと眺めると、空は雲一つ無く、満月が綺麗に存在していた。
「どこ見てるんだよ」
男は私の顔面に向かって殴ってくるが、なぜかその動きがスローモーションになっていたため、私は彼の拳を受け止めると、男は信じられないと言わんばかりの表情で私を見る。
「ま、マグレだ……」
男の手は震えながら私の手から放すと、すぐに殴打するが、私はまた彼の攻撃を受け止める。
「バ、馬鹿な……」
すると、彼の周りにいた一番体格の良いスキンヘッドの男が、短髪の男の肩を持ち、軽々がると後ろに放り投げた。
「み、みっさんが行くのかよ」
取り巻きの一人である色黒な男が呟く。
彼の名前は知らないが、確か柔道か何かの賞を貰っているのを全校集会かなにかで見たことがある。
「ああ。コイツは動体視力を鍛えたらしいが、オレの攻撃はショウよりも速くて強いから覚悟しろよ」
彼は両手の小骨を折りながら答える。
この集団のリーダーは取り巻きにいる髪を逆立てた男か、先程呟いた色黒の男。このどちらかが気に食わなかったり、暴力をしたければ彼等は男女問わず弱者をイジメる。
噂だと肉つきのよいブスをイジメて精神を壊れるまで彼女の身体を使い捨てたらしい。
警察沙汰にはなったが、彼等の誰かの身内が警察の上層部にいるためか、それらはもみ消されたらしい。
そのためか、先生達も手に負えずにそのまま放置しているらしい。
警察も先生も人間。ただ年齢が私よりも大きく職業を付加しただけの人間。自分達の都合が悪いことは金や権力で片付けるなり、逃亡するだけの生物。実に不愉快。これが人間の大人の姿なのなら、私は化物になる。
すると、私の顔面に何かを強く叩きつけられたが、痛みや痒みが感じられない。
それはそれで、おかしい。私は彼女に会った時点でもう人間を辞めたのかもしれない。
彼等は笑いながら何かを喋っているが、何も聞き取れてはいなかった。
ただ、スキンヘッドの男の顎を蹴り上げると、彼は気絶して取り巻きは逃げるように去っていった。
ふと、窓ガラスに視界が入るとそこに、私の姿が映しだされていたのだが、私のもみ上げ付近に銀色の体毛みたいなのが生えていたため、人間を辞めたのだと確信した。
彼等はそれを見て、次の日には私を化物だの何だのといってイジメるのだろう。
私は化物になったらこんなクソみたいな学校を通う気なんてハナから無かったし、何よりも人間を辞めて嬉しい気持ちでいっぱいであった。