第十七話 光通局
“光通局”の中はとても広く、室内には役所や銀行のような受付がある。その中心には受付に必要な用紙が置かれており、利用する人達はそれらを記入していたり、受付から呼ばれるのを待っていたり多種多様である。
私達も利用するため、中心まで行ってリアさんが用紙を記入する。
彼女が必要事項を記入している青色の用紙には、移動先、そこまで運搬する生物の数や種類、往復か片道かどうかなどの記入項目があった。
それを書き終えたリアさんは、自動窓口受付機から番号札を発券する。受付番号は二〇五。窓口に表示されている四つの数字は一八九。一九七。一九四。一九六。である。というより、ここまでのやり取りまんま人の世界の銀行そのものではないか。
順番はまだなので、私とリアさんは近くの椅子に腰掛ける。
窓越しからみたあの大男はどこにいるのかは分からないが、あまり周囲を見回さずにジッとしておこうと思う。
「ん? テメェは?」
何ということだろう。彼は、まるでこの場所に私が座ることを分かっていたかのように、私の目の前を通って、私の目を合わせるのである。
「は、始めまして」
私は立ち上がって会釈をする。
「始めましてだと?」
私の全視界を使って強面の顔がズームアップされる。
「舐めやがって。次会ったらぶっ潰す」
彼もこの場所で騒ぎを起こしたくないらしく、イラついた顔をしながら去っていった。
「何かしたの?」
「ん? ただの勘違いだよ。まあ、潔白を証明をするのは難しいだろうから、気が済むまで根に持っていると思うよ」
私の発言が耳に入っていたらしく、大男は振り返って私を睨みつける。
「彼の左腕に黄色い腕章があるでしょ?」
リアさんが囁くように問いかけたので、指示した箇所を見るとそれが確かにあるが、黄色というよりかは、淡黄色と言うほうが適切であろう。
「基本的に、腕章つけている奴は使い捨ての雑兵だから気にしなくても結構。名前も無いに等しい存在だからね。ちなみに白、黒、黄という順番で階級が上がっていき、試験を達成したら、腕章が外れて名前が貰えるの」
リアさんが説明が終わる頃にはその大男は視界から見えなくなっていた。
彼女の話が本当なら、私は名を持っているため、階級的に彼等よりかは上であろう。なぜ、使い捨ての雑兵から始めなかったのだろうか。レアなワーウルフだからか?
いや、"光通局”に入る前に、猫又は組織に入ったとしても使い捨て要員になるとリアさんは言っていた。もしかすると、人から化物になったものは、彼等よりも上の階級になるのは必然ということだろうか?
「名前を持っているアナタからすれば関係がないだろうけど、彼等からすれば、たまたまエマ様が拾われた人間がすぐに自分達の上の階級になっていると思うと、嫉妬心が大きいのでしょ。気にするだけ時間の無駄よ」
リアさんは溜息混じりに呟く。
彼等が使い捨て要員ですぐに命が亡くなれば、それこそ気にするだけ無駄だが、もし、そのまま昇進して私に根を持ったまま嫌がらせをされたらと思うと少々気が滅入るが、その分私も強くなればいいだけのことだ。
ふと受付の番号を見ると、二〇〇。一九七。一九九。二〇二。に変わっていた。
私達は二〇五なので、前に控えているのは二組だけだ。
どのような感じでテレポートをするのか、分からないので、目の前にいる二〇〇の番号を持ったお客を見ることにした。
お客は一名だけであり、日本刀を背負っているやせ型の若い青年であった。頭髪が白髪なのが少々気にはなる。腕章はつけていない為、名前があるのだろう。
彼は受付員と接客をした後、受付員の案内で、奥にある部屋に誘導されていく。どうやら、この場所ではテレポーテーションが出来ないらしい。そして、彼が奥に行っても、番号は進まない。お客をテレポーテーションをしてから、次の番号に行くのだろう。
『二〇五番。二〇五番の、番号札をお持ちの方、三番の窓口まで、起こしください』
機械音声は聞き逃し防止のためか、ゆっくりとした声で案内をする。
私達は音声の言うとおりに、三番の窓口まで移動する。受付人はげっそりと痩せこけた中年の男性であり、見るからに体調が悪そうだ。
リアさんが用紙を提出すると、それを用いて彼は横にあるパソコンで何かを打つ。
「往復の屠留町で無期限を二名様ですね……」
受付人の呟きにリアさんは頷くと、彼は仕切りを開けて、我々を招き入る。そして、彼は先頭を切って案内する。奥にある部屋は大広間であり、中央に頭に機械の帽子を被っている痩せた中年男性が座禅をしているかのように静かに座っていた。
「右側にある緑色のサークルに入ってください。そうすれば、いずれ彼が送ってくれるでしょう」
そう言い残して、彼は大広間を後にした。
テレポーテーションを行うのは中央にいる彼らしく、受付人はそれをただ機械的に案内しているだけであるらしく、私は受付人が言っていた場所に移動する。
「リアs―――」
いきなり、彼女から足が踏まれる。痛みはさほど感じなかったが、ことが済むまで、一切口を開けるなということだろう。
テレポーテーションは便利なものだが、この施設内はとても殺伐としている。
ここにいる役員は全員人間の臭いをする。多分彼等は何かの代償を支払うために、ここで勤めているのだろう。中央にいる男性が痩せていて、私達を接客した男性の体調が悪そうなのは、彼等から何かを搾取していると考えれば辻褄が合う。
そんな事を思っている最中いつの間にか、私の視界はどこかの雑木林のど真ん中に移動していたのであった。