最近、『妹』の様子がなんかおかしい件について。
この作品では、登場人物の「見た目」などの描写はしていません。
ぜひ、自由に想像を膨らませながら読んでみてください。
最近、『妹』の様子がなんかおかしい。
俺が話しかけようとすると逃げてしまうし、近頃は一緒に飯も食ってくれない。
「これが、思春期ってやつかな〜」
俺たち兄妹は、近所のおばさん達からは『おしどり兄妹』といわれたほど仲が良かったのだ。
それが『あの日』から、何もかも変わってしまった。
それは8月1日。
両親が共働きのこの家では、兄である俺が夕食を作ることになっている。
「仕方ない……よな。おーい柚〜、晩飯作り手伝ってくれないか〜」
いつもは、こうやって呼ぶと「はーい♪」って返事をしてくれる。のだが。
「…………」
あれ?お風呂にでも入ってるのか?
とりあえず浴室に向かうが、誰も入浴などしていない。
念のため一階の部屋は全て探したが、そこに妹の姿はなかった。
「後、考えられるのは……あいつの部屋ぐらいしかねえよな」
二階にある妹の部屋へ向かった俺は、さらに不自然なことに気づく。
「鍵がかかってる?」
いつもは鍵なんてかけないあいつが、今日に限ってどうして?
「おーい、柚。どうしたんだ〜。何かあったのか〜」
ドアに向かって話しかけてみるが、やはり応答がない。
「なにか悩みがあったら、お兄ちゃんが聞いてやるぞ」
その時、ドアの鍵が開き、中から妹が出てきた。
「もう私に構わないで!お兄ちゃんは本当の兄じゃないんだから!」
ドカンッ!と再び閉まったドアを見つめていた俺は、状況が全く理解できていなかった。
部屋の前で結構な時間突っ立ていた俺は、いくらか冷静になった頭でようやく1つの答えへとたどり着く。
「柚が反抗期だぁぁぁぁぁっっ!!!」
そして翌日。
俺は関係修復を図ろうと、『兄妹円満の秘訣30』という本を買ってきた。
そこそこ分厚く5000円はしたが、妹のためなら金も惜しまない。こういうのをシスコンというのだろうか。
「えーっとなになに?1、まずは話すことから始めましょう」
まあ、確かにそうだよな。でも俺の場合、その話す方法が知りたいんだが……
「2、そして悩みを聞いてあげましょう」
それを聞く方法を教えてくれよ。
どれもこれもハードル高え。全部、会話できる環境が前提になってるんだよなあ。
「3、一緒にお風呂に入りましょう♪」
「…………」
5000円は、燃えるゴミとなった。
そのまた次の日。
いきなり解決なんていう高望みはせず、まずは『きっかけ』作りが必要だと思った俺は、兵糧攻めを決行した。
あたかも戦国時代の戦法のようだが、やり方は簡単。
ご飯を作らない。それだけだ。
そのうち、空腹に耐えかねた柚が、俺にご飯作りを催促してくるだろう。
そこで、俺は柚に言ってやるんだ。
「ご飯を作って欲しかったら、何を悩んでいるのか、お兄ちゃんに教えなさい!」
ただの鬼畜兄にしか見えないかもしれないが、これが最善策だ。
「さあて!柚と俺。どちらが空腹に耐えられるか勝負だ」
なかなか熱い戦いになりそうだった、が……
深夜の12時が過ぎた頃。
俺は空腹で死にそうだった。
「柚は一体……どうしてるんだ?朝から……何も……食べずに耐えて……いるのか……?」
とりあえず柚の安否を確認するため、あいつの部屋を見に行った俺が見たのは、
「何……だと。カップ…ヌードル……?」
カップヌードルを美味しそうにほうばる柚の姿。
「俺は……何のために……バタッ」
この日、俺は死にかけた。
あれから何時間経ったのだろう。
柚の部屋の前でぶっ倒れたはずの俺は、リビングのソファで寝ていた。
とりあえず何かを食わなくては。
そう思い、目を開けた。その時!
「お兄ちゃん?お兄ちゃんが起きた!ウワァ〜んお兄ちゃんが生きてたよぉ〜〜!」
目の前には、柚が座っていた。
しかも、泣いている。
「俺を…心配してくれたのか?」
「当たり前だよ…グスン…部屋の前で倒れてたから死んでたらどうしようって、心配だったんだよ!」
ありえない光景を目の当たりにして、俺の思考回路は冷静さを失っていた。
「だって、最近は一緒に飯も食ってくれないし……。何か俺を避けてる見たいだったじゃないか」
俺の言葉に、柚は言いにくそうに、「それは……」と口ごもった。
それから少し沈黙が続き、お互い目をそらしていたが、柚が何かを吹っ切れたかのように、俺と目を合わせてきた。
「えーっとね……実は……」
俺は緊張に、喉を「ゴクン」と鳴らす。
「実は……私たち、本当の兄妹じゃないの」
「えっ?」
今なんて言ったこの娘?本当の兄妹じゃないだと?
「だから……私たちは義理の兄妹なの!」
「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!?!?!?」
始めて知ったぞ、おい!
誰得?っていうかどこで知った!?
「実はね、お母さん達がリビングでそんな話をしてて……こっそり聞いちゃったの。
話によると、私はお兄ちゃんの遠い親戚で、私がまだ幼い頃、この家で引き取ってもらったらしいの」
だから柚は、元々この家の家族ではなかったのだと言う。
あまりに衝撃的な事実を告げられたのだが、それよりも気になることがあった。
「じゃあ、俺のことを避けてたのも、このことと関係があるのか?」
ぶっちゃけ、それが知りたかった。
義理の妹。そんなものはどうでもいい。義理でも何でも、俺の妹であることに変わりは無いのだから。
でも、このまま不仲でいることだけは、嫌なんだ。
そこの所を問い詰めると、なぜか妹は、顔を真っ赤にして俯いた。
「そ……それは……。………だから」
「何だって?もうちょっとハッキリ話してくれないか」
「う〜」
顔をこんな風 >_< に歪め、「言わなきゃダメ?」と聞いてくるが、俺は「ダメだ」と即答した。
柚の方も決意できたのか、胸に手を当て、深呼吸をしてから、
こう言った。
「お兄ちゃんが、好きになっちゃたのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「!?」
とんでも無いことをカミングアウトした、俺の妹(義理)は恥辱で真っ赤な顔を手で隠している。
「どういうことだ!?だって、俺たちは兄妹なんだぞ、義理だけど。恋愛なんてできるはず……」
「義理だからこそなの!今まで我慢してた思いが、義理ってわかってから抑えきれなくなって……
本当の兄妹じゃなければ、好きになっても良いのかな?って思っちゃったの!わかった?」
だから、思いを抑えるために、兄を避けていたのだという。
啖呵を切って、息切れで「ハアハア」言っている妹を見て、俺はなぜだかホッとしてしまった。
「なんだ、そんな事か。てっきり柚が反抗期にでもなったのかと思ったぜ」
俺の反応に、予想外という様子の柚は、冷静さを取り戻し、
「え?驚かないの?」
「ああ、もちろん。せっかくだし結婚しちまうか」
俺としては、軽い冗談を言ったつもりだったのだが、柚は再び顔を真っ赤にして、
「ま、またそんなこと言って!お兄ちゃんのバカ!」
勢いよく捲くしたてた柚のヤツは、「もう知らない!」とどっかへ行ってしまった。
再び静かになったリビング。
しかし、俺の心は全く落ち着いていなかった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
時間差でやってきた衝撃に、俺は頭を抱える。
「夢じゃ無いよな?妹が俺のことを好き?うわぁぁぁぁ」
さっきは冷静を装っていたが、よくよく考えてみると結構ヤバいことに気づいた。
「だって下手したらこれ、『おしどり兄妹』どころじゃねえ!妹に詰め寄られたら、俺、理性保つ自信ねえぞ!」
下手したら近親相姦までありえるこの事態に、俺は色々大パニックすぎて、
ばたん!
本日2回目の気絶をした。
一方そのころ彼の妹・柚の部屋では、
「おっにいちゃん♪ふーんフッフーン♪」
結構イかれた妹が、鼻歌を歌いながら、
「式場はどこが良いかな〜♪」
結婚の準備を進めていた。
それから2年後。彼らは『おしどり夫婦』となるのであった。
短編2作目となります。
あえて、描写を少なめにすることで、想像の自由度を高めました。(効果が出ているかわかりませんが)
ぜひ、アドバイス等ありましたら、コメントをいただけると嬉しいです。