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第七十七話

続きです

既出の話の別視点を書く以上避けては通れない事ですが、時間や場面が飛びまくります

今回は五十一話でアイギナが絡まれていた時からの開始です


「本当に王家の人間なのか?」


この髪色が見えないのだろうか

毎度の事ながら、おつむの程度が知れる罵倒に呆れを覚える


「カリド様の足手まといになっているのが解らないのかしら?」


これもいつも通り

どうも、これを言っている少女はカリドに気がある様で、いつもいつも同じ事で責め立ててくる

だが、これに関しては明らかに的外れだと断言出来る

私は既に実務を任されているけれど、カリドはまだ関わっていないのだから

足を引こうにも、引っ張る足が無ければどうしようもない


「無能がいくらしがみついたって、最後には追い越されて見限られる」


これは反論出来ない

事実だから

結局、私のしている事は、その時を少しでも遅らせる程度の足掻きに過ぎないのだと、自分が一番理解している


(……尤も、彼らにそれを指摘されても、何とも思わないけど)


今日も、ある意味恒例と化した罵倒大会が、ここ、城の中庭の一つで開催中だ

ここはとてもいい立地で、人はあまり寄り付かないのに、人目にはそれなりに付くという

つまり、馬鹿が悪だくみするにはうってつけ……の様に見えて、実は悪だくみする馬鹿達を監視する事に長けた場所なのだ

勿論、私がここで彼らに取り囲まれているのは、意図したもの

今こうしている間にも、この光景を目撃した者が近衛隊に報告に走っているだろう


つまり


「おい、聞いてるのか?」


「いや、僕たちの言葉が耳に痛くて、黙っているしか出来ないんだよ」


「ホント、こんな無能がカリド様の実姉だなんて、世の中間違ってますわ」


この罵倒は長くは続かない

こういった事は、半端に中断させられると、とても不満に感じるのが常だ

そして、私は頻繁にこういう機会を、彼らに与えている

とはいっても、やはりその程度では彼らの後ろにいる存在は動かない


(どうしようか……)


いい加減彼らに動いてもらわないと、私としてもこの鬱陶しい時間が続くのは苦痛なのだが


(以前はカリドが駆け付けて、一部には相当に不満を与えられたのだけど)


それはあくまで、ごく一部のみ

そもそも、彼らもそれほど自由には動けないのだから、強く不満を蓄積させても無意味なのかもしれない


(方法を考え直す必要があるかな……?)


「おい、その女性が誰かを、知っていてやっているのか?」


鬱陶しい雑言を聞き流していた私の耳が、しかしその声は細大漏らさず、一言一句欠かさず聞き取った

女性、とその声で自身の事を言い表されるだけで、心の中に暖かで清々しい風が吹く


(また、貴方が来てくれたの?)


あの人が忙しなく、自分の為に動いていた時

彼の姿を見かけたのは、何時も決まった時、決まった場所だった

それは仕方ない

あの人は苦しみの中で足掻いていたのだ


だが、それに一つの区切りをつけた時から、今に至るまで二度

この機会は二度在った

その二度とも、彼が見つけ、彼が駆け付けてくれた

正直前回、カリドが駆け付けていなければ、彼が助けてくれていたのだと思うと、少しだけ弟を恨めしく思ったものだ……これは内緒だが


(感傷的……だと思うけど)


不思議と、それを嫌だとは思わなかった


「誰だお前?」


先程までは、ただ鬱陶しいと思うだけだったその汚らしい声も、今はこの場面を彩る一つの色と感じられた

そして、同時にその愚かしさに同情にも似た思いを抱く

彼らは、そんな当たり前の事も知れない立場なのだ


彼が誰であるのか


概要だけを知っているなら、この様な不遜な振る舞いは出来ない

仔細に知っているなら……恐らく、私に対するそれと大差無い対応をするのだろう


そんな事を考えていた

そのせいだろうか


気付けば、一人が地に転がり空を仰いでいた


「……え?」


何が?

何が起きたの?


つい今しがた起こった事を整理してみる

彼らの汚らしい物言いに我慢が出来なかったのか、苛立ちも露わに一喝

うん、ここまではいい

その後、にこやかに名を呼ばれたので、その場にそぐわない朗らかさに驚きながらも、何とかマイシマさんを逃がそうと考えた

うん、ここまでもいい

そして、制止の言葉を掛けたら、マイシマさんの姿を見失って、私を取り囲んでいた者の一人が倒れていた

うん、ここがおかしい

多分、ここで何かを見落とした……それか、考え事に耽って見逃したか


そうこうと手を拱いているうちに、事態は次から次へと進展していく

何やら薄ら寒い気配を感じたけど、それよりなにより、目の前で何故か倒されていく姿が強烈に目を心を惹き付けて止まず、私は何もすることが出来なかった

息をする事すら忘れていたくらいだ


酸っぱい臭いが鼻を突く

事態の変遷は留まるところを知らず、マイシマさんは何もしていないのに急に嘔吐した彼らは、その行為がマイシマさんの癪に障ったのか、自らの吐瀉物の上に引き倒され、悉くがその汚物に塗れて地に伏す結果となった

既に倒れていた者達も、改めて転がして顔面を自らの吐瀉物に押し付けるという念の入れ様だ


そこでマイシマさんの動きが止まる

本当に急に、唐突にその動きを止めた


(どうしたのかしら……?)


今までが明らかに異常だっただけに、何か不都合でも起こったのか?と心配するも、具体的に何が出来る訳では無い

それどころか、今私の胸中に去来するのは、この尋常ならざる事態がどのようにして引き起こされたのか、という事に対する尽きせぬ興味だった


(もし……もし叶うのなら……その力が欲しい……欲しい!)


思えば産まれてこの方、何かを強く欲した事なんて無かった様に思う

凡そ全ての事は、必要だから、そうすべきだから

取り巻く環境に迫られた結果だった、そう思う


そんな私のただ一つの願いは、家族の役に立つ事

こんなどうしようもない娘を、しかし切り捨てず愛してくれた両親

何処に出しても恥ずかしい姉を、それでも尊び重んじ、慕ってくれた弟妹

どうすればいいのかも分からない愚かな小娘を、だけれど見捨てず教えを授けてくれたおじさま達


彼らに報いる事こそが、私という人生の目標であり、私という人間の価値である


(その為なら、この人であっても利用して……)


その時点で、既に彼に対して重きを置いているのだが、私はそれには気付かない

連れ立つ道中、どうすればいいか、どうすれば彼から話を引き出せるかを考える


(……バルコニー)


既に何度か通り過ぎたバルコニー

状況としては、なかなかいいのではないかと考えるに至る


(疑似的に二人きりの環境で、面と向かって……)


この時、実にいい考えが思い浮かぶ

私の過去話を、涙ながらに語って見せれば、彼の心を動かせるのではないか


失った彼なら、私が得たいと願う心に共感してくれるのではないか


そう考え、決心した私は、出来るだけ自然な態を装って彼をバルコニーに誘い込む

彼は何かしらの用事を押しても、私に付き合ってくれる様だ

その小さな献身に、彼を利用しようと考えている私の心が、僅かに痛みを覚える


(いけない……余計な事を考えるな……冷静に冷静に……)


ただ冷静に……


(彼を利用する……)


その事が、何故か重く心に圧し掛かり、大きく影を差す

裡で強く煩悶しながら、しかし口は滑らかに言葉を吐き出す


そこに嘘は無い

確かに私は、夢にまで見る程に、その声に悩まされている

だが、同時にそれを当然のこととして受け止めてもいる


確かに私は出来損ないだ


そんな事は、誰に言われるまでもなく理解している

それでも私を受け入れてくれた人達へ、私は報いたいのだ

その為に生きてきた

今更、それを否定できる訳も無い


(だから、その為なら、彼を利用する事も……)


その時

全く意図せず、涙が溢れてくるのを感じた

涙は武器だ

交渉を有利に進める為に、不利な状況を覆す為に

様々な状況で、涙を流して見せた

他者に劣る私は、使える物は何でも使ってきた

使っていないのはこの身体くらいのものだ


その私が、全く意図せずに涙を流した

咄嗟に顔を伏せる

自分でもその意図するところは解らない

ただ、反射的にそれを、彼には見られたくないと思ったのかもしれない


不思議と涙は止まらず、それどころか症状は悪化の一途を辿る

しゃくり上げそうになる身体を力づくで抑え込もうとして、体が小刻みに震える

それは徐々に、しかし確実に強く大きくなっていき、それに相応して体の震えも強くなる


今の私は、それを抑える事に必死になって、マイシマさんの様子まで気が回らなかった

尤も、気を回せても、結果は変わらなかっただろうけど


そこから何とか立て直した私は、湿っぽくなった空気を変えようと、真面目に話したり、かと思えば調子を変えたマイシマさんに合わせて、少しふざけてみたり

割とすぐに気分も変えられた私は、今こそ本題を切り出すとき

そう決意して、彼の名前を呼ぶ

女性はその胸の内で考えている事と、その表に現れている態度を男性が見て解釈した事と、大きくかけ離れている場合が、往々にしてあるように思います

いえ、外面と内面が違うと言うのは、男女問わずあるのですが、男性から見て女性のそれは特に乖離している様に思える、という話です


今回、それを特に顕著にしてみました

アイギナを、弱々しく嫋やかな女性と思っているサトルくんですが、その現実は計算高く、他人を利用することを躊躇わない女傑です

彼女の抱える事情を顧みれば、これはある意味当然の事と言えるでしょう

自身に一般的な能力が無いなら、それ以外で埋め合わせをしなければなりません

それが、他者を利用することを躊躇わない心として、今回は表れた訳ですね


次回投稿は4月10日です

そろそろ、第3部も半分終わる頃かな

まだ半分かとお嘆きの貴兄

まだ半分なんです

字数的にはどうか解りませんが、物語的には半分です

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