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ゲーマーが往く、異世界チート発見!  作者: ヤタガミ
第一部 家族と日常
5/130

第五話

途中、いきなり回想に入りますが、仕様です

「誰だよ、お前ら!?泥棒か?で、出てけ!出てけ出てけ出てけ――!!」


 これが私の大好きな従兄弟から初めて掛けられた言葉だった




 私は舞島 百合

そこそこ有名な私立高に、スポーツ推薦で通う華の女子高校生


 私の一日は大音量の目覚まし時計を止めることから始まる


「シャッ!!」


掛け声と共に心地良い布団を剥ぎ取り、起き上がってグーッと身体を伸ばす


 …掛け声が可愛くないって?

仕方ないじゃない、空手なんてやってるとこんな感じに成長しちゃうのよ

私だってもう少し可愛げが欲しいとか何とか…………


 とにかく!

身体をほぐして、さっさと寝間着を脱ぎ去り、制服に着替え、洗面所で顔をさっと洗い化粧水云々…

正直、この化粧水だの乳液だの必要かわかんないんだけど、お母さんしそれを言ったら、


「それは女の嗜み、最低でもお肌だけは整えておきなさい…………でないと後悔するわよ…」


と、明るいお母さんらしくない、少し陰りのある顔で注意され(最後はよく聞き取れなかった)

クラスや部活の友達に愚痴ったら、


「あんたは世界中のお肌の曲がり角に悩む女性全てを敵に回したぁ!」


とか叫んで、全身撫で回される羽目になった、寄って集ってなんてズルいよね


 と、まあそんな出来事があったので、朝の洗顔後、夜の入浴後は軽いスキンケアに努めている訳なのです


 洗面所でのあれやこれやを済ませたら、次はキッチンに行く

キッチンではお母さんが朝ご飯の支度をしている、いつも私より早起きなんだよなぁ


「おはよ、百合」


「お母さん、おはよー」


我が家では、挨拶はしっかりとする、と教えられている

朝の挨拶をしっかりと済ませ、冷蔵庫からリンゴジュースを取り出し、コップに注いできゅーっと一気飲みする


「うん!今日も元気だ、リンゴジュースが美味い!」


私はリンゴジュースが好きだ、寧ろ大好きだ、と言い換えても過言ではない

濃縮還元ではない、純粋な果汁100%の濁ったリンゴジュースを冷蔵庫にしまう


「百合、お皿大きいのと小さいの人数分出して」


「はーい」


恒例の軽いお手伝いを請け負い、食器棚からお父さん、お母さん、私、牡丹の四人分の皿を取り出し、キッチンテーブルに並べて置く


「ありがと、準備はちゃんと出来てるの?」


「うん、お弁当のおかずは昨夜作って冷蔵庫に入れてあるから、あとはご飯と詰めるだけだし、勉強道具も昨夜の内に鞄に入れたし、道着も洗濯して干してあるから」


「時間はちゃんと確認したの?」


「もちろん!伯母さんにちゃーんと教えてもらったよ」


「ふふ、理君も、まさか自分の母親が情報を流しているなんて思いもしないでしょうねぇ」


何やら不穏当な会話内容だけど、単に従兄弟の理の目覚まし時計の設定時間を教えてもらっているだけだ


 何故そんな真似をするかと言えば、事の発端は私たちの出会った頃に遡る



 理との付き合いは、私たちの仲の良さと比べて、それほど長くはない

少なくとも、よく友達やクラスメイトに尋ねられる様な、幼馴染というほど古い付き合いはない


 理と出会ったのは、小学5年生の夏、家の隣に新しく建った家に引っ越してきた時だ

その時私は、母さんに手伝いを頼まれ、隣の家の引っ越しの荷解きをお母さんと妹と一緒に手伝う為に、隣の家に向かっているところだった

すぐ隣なので、徒歩数秒で辿り着き、インターホンを鳴らそうとした時だった

中から凄い音が聞こえてきて、その事態に少し硬直していると、中から男の子の泣き喚く声が聞こえ、心配になり、中に駆け込んだ

突入した広いリビングでは、崩れた段ボール箱に埋もれた同い年くらいの男の子が、大声で泣き喚いていた


 その様を見て、半ば以上に呆然としていた私達を、男の子は泥棒と勘違いしたのだろう

開口一番、こう叫んだ


「誰だよ、お前ら!?泥棒か?で、出てけ!出てけ出てけ出てけ――!!」


理はよく憶えていないらしいが、私達はよく憶えている

何故ならそれが、私達の生活を一変させた伯母さん親子との最初の場面だったのだから


 その後も、泣きじゃくりながら支離滅裂な事を喚く男の子を、私達は困惑で硬直することしか出来ず、異変を察知したお母さんが突入して来るまでの数分間、慌てふためくしかなかった

仕方がないじゃないか、小5の女の子にどうしろと言うのか


 お母さんが来てからは、トントン拍子に事態は進んでいった

まず男の子が泣き止み、崩れた段ボールの山からするりと抜け出すと、お母さんに抱き着いて再び泣き出してしまった

お母さんは手慣れた様子で男の子をあやし、泣き疲れて眠ってしまった男の子を部屋の隅に寝かせ、崩れた荷物の中から探り出した毛布を掛けてあげた


 そこからは、お母さんの指示の下、眠る男の子を尻目に、三人で部屋の片づけから荷解きから使用済み段ボールの解体まで、急ピッチで進められた


 今更ながらに思うが、個人的な物も勝手に判断して整理していたが、あれは問題ないのだろうか?私なら、御免被るのだが…まあいい


 荷解きを三人で大体終わらせ、お母さんが他人の家のキッチンを勝手に使って晩御飯を作りだしたので、私達は眠る男の子の傍に行き、その様子を眺めながら雑談していた


 ご飯が出来上がると、玄関の扉が閉じる音が鳴り響く

この家の主である伯母さんが帰ってきたのだ

いいにおーい、などと言いながら居間まで一直線に向かってきた伯母さんを、お母さんがニコニコと満面の笑みで出迎える


 初めは、お母さん機嫌が良いな、久しぶりにお姉さんに会えてうれしいんだろうなー、なんて思っていたが、直ぐに尋常な様子では無い事に気付いた


 やや分かりにくいが、切り揃えられた前髪から覗く額には太い青筋が走り、分かりやすいところでは、手に持った菜箸が握りしめられて圧し折れている


 私はその様子を横から見ていたから気付くのが遅くなったが、真正面から対峙した伯母さんは直ぐに気付いたのだろう、晩御飯の匂いに緩んでいた顔が、居間に入ってお母さんと対面した瞬間に引き攣り、そう時を置かずに蒼褪めていった


「み、美咲ぃ、ただいま〜」


「おかえり、姉さん、お仕事ご苦労様」


「い、いや〜、一家の大黒柱としては、これくらい頑張んないとね!」


「うんうん、とっても素敵な心構えだと思うわ」


「でしょ〜!息子に恥じない様に、頑張ってるのよ〜」


「その息子の事だけど…」


空気が冷えた気がした

お母さんに叱られた事は何度もあるけど、そのどれとも違う

背筋を冷や汗が流れた


「さ、理がどうかしたの?そこで寝てるみたいだけど…」


こちらをチラと見て、伯母さんが問いかける


「理君はいい子よ?たった一人で頑張っていたもの」


「ん…悪いとは思っていたわよ?でも、仕事も頑張らないと、仕事をくれた一樹君の面目も立たないし…理の為にも、頑張りたいのよ」


「そうね、ちゃんと私達に応援も頼んでいたものね。それは問題ないのよ」


「え、え〜と。美咲ちゃん?話が見えないんだけど…」


「解らない?」


「う、うん…解りません……」


「ねえ?姉さん、最近理君と話はしてる?」


「え?」


「だから、話よ、話。何でもいいわ、ちょっとした雑談程度でもいい。会話してる?」


「………してない、かも……」


「理君ね、私達が来た時、崩れた段ボールの山に埋もれて泣いてたのよ」


「!?大丈夫なの!?怪我は!!?」


「私が来た時、直ぐに抜け出して動き回ってたから、大丈夫だと思う。崩れてたのは衣類なんかの軽い荷物だったのも良かったわ」


「そう…」


「問題はそこじゃないわ。理君、私にしがみついて泣きじゃくったのよ。なんでだと思う?」


「怪我してたんじゃないのだとすると……まさか」


「寂しかったって言ってたわ。泣きながらだから、支離滅裂で内容はよく理解出来なかったけど、それだけは解った。姉さん、姉さんが辛かったのも、忙しかったのも仕方ないとは思うよ?でもさ、姉さん言ってたじゃない。子供のためにも頑張らないといけないのは解るけど、その為に子供を蔑ろにしちゃあ、ダメじゃないの」


「………」


それきり、伯母さんは俯いて喋らなくなった


「今は職場に慣れる為にも、特に頑張らないといけない時期なんでしょう。でも、理君を不安にさせることだけはしないで。娘達に聞いた話じゃ、あの子、かなり気を張っていたみたいよ?お母さんに迷惑かけたくなかったんでしょうね」


「………」


伯母さんは、何も言わず、悲しそうな表情でこちらに、正確には私達の側で寝ている理のところにやって来た

そのまま、毛布に包まった理を抱き上げると、抱きしめて泣き出してしまった


「そろそろご飯炊き上がるから、気が済んだら来て」


 それから少しして理が起きたらしく、伯母さんの、


「理、ごめんね、ごめんねぇ」


という声と


「お母さん、よしよし」


と、慰める理の声が聞こえてきた

正直、今思い出すとかなり可愛い、頭を撫でたりしていたのだろうか…


 少しして、炊飯器から炊き上がった事を知らせる音が居間に鳴り渡る


「お母さん、ご飯炊けたよ、一緒にご飯食べよう?」


「ぐじゅっ……うん………」


「お母さん、鼻水出てる、はい、ちーんしてちーん」


食堂で三人で配膳していると、居間から理に連れ添われた伯母さんが、鼻をかみながら入ってきた


「理君、悪いわねぇ、姉さんがしっかりしてないから」


「そんなことないよ、お母さん頑張ってる」


「ざどりゅ〜…」


お母さんが扱き下ろし、理がフォローすると、伯母さんの顔がますますひどいことなる


「姉さん、顔、化粧も流れてひどいことなってるわよ。待っててあげるから、ちゃんと化粧落としてきて。理君、食事の前に手を洗ってきなさいね、あんた達も、行ってきなさい」


「ぐじゅぐじゅ…あい……わがっだ」「はい、叔母さん」「「はーい」」


伯母さんが洗面所へ向かったので、私達三人は連れ立ってキッチンに向かった

さっさと手を洗って、食卓に着くと、お母さんが、


「姉さん、あの調子じゃ長くなりそうだから、先に食べ始めましょ」


先に食べとくわよー!、と洗面所にいる伯母さんに呼びかけ、伯母さんの、はーい!、と明るい返事が返ってくるのを確認したお母さんは、


「じゃあ、理君、百合、牡丹。いただきます」


「「いただきます!」」「…いただきます」


理が少し躊躇っていたが、揃って挨拶をして、夕食を摂った


 その日の晩御飯はいつもより豪華で、好物もいっぱいあった

一緒の食卓を囲み、同じ皿からおかずを取り、同じ釜の飯を食べる

私達姉妹と従兄弟の理が仲良くなるきっかけにもなったその日の晩御飯は、私にとって忘れられない幸福な思い出だ



長くなったので分割しました

回想、あと一話続きます

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