第三十七話
適正な長さに纏められた
実際には、この3倍ありました
「こんな風になってるんだねー」
そう、暢気な感想を口にしたのは、私の相棒の百合だ
私達は今、王都に在る迷宮の入り口前に立っている
目的は当然、迷宮に進入する為
そして、今まさに!というところで、さっきの百合の言葉である
「気の抜けること言わないで……」
今迄の緊張感が一気に雲散霧消して、急激な脱力感に見舞われる私を、誰が責められるだろうか?いいや、責められまい
横目に軽く睨みつける私に、一切動じた様子を見せない百合は
「些細なことよ。気にしないの!」
快活に、そう言い放った
確かにそうなのだが、事の張本人に言われると釈然としないのも無理からぬ事だろう
「はぁ……そうね。そんな事を言ってる場合じゃないものね」
確かに、今はそれどころではない
これから、迷宮に入る訳だが、目的は単純にレベル上げ、という訳では無いのだ
事の子細は、2日前に遡って思い出す必要がある
前日にアイギナ、レイリアと知り合い、友人になった翌日の話だ
「美樹、ちょうどよかったわ」
休暇の暇つぶしにと、城内を歩いていた私に、そう声を掛けてきたのは、前日より少し質素な格好をしたアイギナだった
質素というか、活動的な、と言った方が正しいだろうか
引き連れている護衛と思しき人物と比較しても、やはり地味さが目立つ服装だと感じた
もっとも、家が貧しい私は、服装の良し悪しなど分からないのだが
お金の掛かる趣味を持てない環境だったからだろう、とは思うが、どうしても、着飾る事に興味が湧かないのだ
そんな、煌びやかなイメージとは少し違った様相のアイギナは、何やら焦りを感じさせる様子で
「マイシマさんが迷宮入りする日時が判明したわ」
言い放った言葉は、緩んでいた心を引き締めるには十分な重さを持っていた
舞島 理
私の親友、舞島 百合のいとこで、私自身とも浅からぬ関係のある男子
浅からぬ、と言っても、別に男女の関係がある訳では無い
親友のいとこ、いとこの親友、という遠い関係では無く、私と彼も親しい友人同士だ、という意味だ
さて、この舞島くんだが、この世界 オースベルに連れて来られてから大きな問題を抱える事になってしまった
―弱体化―
舞島くんに降りかかったこの事態を認識しているのは、当人を除けば私と百合だけだ
他のクラスメイト達は、残らず舞島くんに対して、実は大したこと無かったんだ、きっと元の世界での実力が限界だったんだ、何かインチキでもしていたんじゃないか、等と散々な物言いをしている
それを聞く度に、憤激する百合を宥めるのに苦労しているのだ
かく言う私も、心穏やかでは居られないのだが……
その話は今は置いておこう
今、考えなければならないのは、舞島くんの今後の動向についてだ
彼は、こんな事で止まる人では無い
そもそも、そんな簡単に立ち止まる様な人間が、超人的とも言える存在に至れる訳も無いのだから
だが、その過程でどれほどの無理無茶無謀をするのか、それを傍から見ている方としては堪ったものではない
私は高校からの彼しか知らないが、彼が以前にも無茶をした時は、百合や百合の妹の牡丹も、相当に気を揉んだらしい
故に、私達…百合と私に加えて、こちらで彼と繋がりを得た二人の女性、アイギナとレイリアは、常に彼の一挙手一投足に気を配っている、という次第なのだ
とは言っても、私と百合には、彼に対して負い目というか、後ろめたさが先に立ってしまうので、直接彼に接触するのは、アイギナとレイリアの二人に任せっきりなのだが
話を戻そう
彼が近日中に、(彼にとっての)危険域である迷宮に入る、という話は、以前に聞いていた
迷宮の存在とその有用性を知った時に、その可能性については思い至っていたので驚きこそ無かったものの、その分強い危機感を抱いた
理なら何とかするだろう
百合はそう言う
勿論、百合が舞島くんを軽く扱っている訳では無い
だが、それでもどこか楽観視している
今回、舞島くんが危険な場所に行くと聞いて、心配はしていても、究極的な事態には思考が至っていない様に思えた
私は、そんな楽観視はとてもじゃないが出来ない
人は、死ぬ時は実にあっさりと死んでしまうものだ
劇的に間に合って、最期を看取れるなんて事は無い
奇跡的に生還する等という事も無い
どれほど優れていようとも、生き物は死から逃れられない
私はそれを痛い程知っている
だから、舞島くんが危険を冒すというなら、影ながら支援しなければならない
いや、支援したいのだ、私は
大恩ある彼だからこそ、その助けになりたいと、切に願う
不謹慎な事を言えば、彼の弱体化は好機とも言えた、少なくとも私にとっては
彼は強い
今の、明らかに元の世界に居た頃より強化された私でも、以前の彼には到底敵わないだろう
魔法という超自然の力を得ても、その考えは変わらない
彼は、その超越した力で私の大事なものを救ってくれたのだ
ならばと、恩を返そうとしても、彼にはそもそも隙が無い
身体の強さも然る事ながら、明晰な頭脳、大財閥の御曹司という地位と溢れる財貨
凡そ、人の助けが入れる事柄に於いて、彼に隙など無かった
おつむが弱いなら勉強を教えられた
お金に困っているならアルバイト先くらい紹介出来た
だが、彼にはそうした、普通の人が当たり前に困りそうな事が無かった
彼の容姿は普通だったが、それに困っている様子は無かったし、それで助けを求められてもどうすればいいのか、私には分からないので、ある意味では助かった
人間関係の悩みも、彼には全くなかった
というのも、彼にとっては人間関係はひどく狭い範囲で完結しているものだったので、それ以外には頭を悩ませる余地も無かったのだ
周囲に対しては、鬱陶しい、くらいは思っていたのかもしれないが、基本、彼は他人に無関心だった
故に、人間関係で私が助けになれる事も無かった
その彼に、遂に隙が生まれた
それも、確実に私が助けに入れる事柄で
だから、今回の迷宮入りに関しては、全霊を以て臨んでいる
その、決行日時が決定したのだ
それは、弥が上にも気が引き締まるというものだ
「何時!?」
その為、グイグイとかぶりついても、それは仕方ないと言えるだろう
例え相手が大国の王女殿下でも、つい先日友人になったばかりだとしても
大義名分の為なら……うん、致し方無い
「あ、あの…少し落ち着いて……!!」
宥めに掛かるアイギナにぐいぐいと押し迫る私を、流石によろしくないと判断したのか、護衛の腕がヌッと伸びてきて、アイギナと私の間を遮った
そこで初めて、護衛の人物に意識が向いた
服装から見るに男性と思われるが、非常に線が細く、見目も整っている為か、女性と言われても信じてしまいそうだ
というか、本当に男性なのか?疑問は尽きないか、今は好奇心の出番では無いので、脇に除けておく事にする
その護衛だが、敵対心とは少し違う印象を受ける感情を載せた視線で、こちらをじっと見つめている
睨まれていると思われても仕方ないくらいの強い視線だった
護衛対象に不埒を働いたと思われているのだから、それくらいは当然かと受け流すが、唯一、その視線に載る感情だけは気に掛かった
ともあれ、冷静さを取り戻せた私は、アイギナから少し距離を取り、冷静に質問する
「それで?舞島くんの迷宮入りは何時なの?」
そう尋ねたところで、自分が如何に性急な事を言っているかに気付いたが、正に後の祭りだった
「焦る気持ちは解るけど、百合にも話さなければいけないのよ?一緒の方が手間が無くていいでしょう?」
自身の醜態に若干の自己嫌悪を覚えながら、平静さを取り戻せた私は
「……そうね。少し気が逸っていたわ、ごめんなさいね、アイギナ」
素直に謝罪し、アイギナを伴って百合の下へ向かった
百合と一緒にアイギナの報告を聴いた後、私と百合はそれぞれに、この世界で初めての正念場に備えて準備に取り掛かった
そして、今日
重き荷を背負い、遠き道を……という程ではないけど、迷宮へと向かった
そこから、さっきの百合の言葉に繋がる訳である
道中に、話題になりそうな事なんて無かったので、本当にそれだけなのが、少し物悲しさを感じるが
強いて言えば、迷宮入り口の建物が変だった事くらいだけど、事前に説明されて知っていたから、どうとも思わなかった
「とにかく、早く入りましょう?ぐずぐずしている暇は、私達には無いはずよ?」
そう、急かすでもなく、淡々と告げて我先にと進む私に
「あ、待って。私も行くって~」
焦ってついてくる百合に、少し情けない気持ちになったのは内緒だ
歩を進めると、ごつごつした岩肌の隘路を抜ける
その先には、広大な空間が広がっていた
見渡す景色は、一面の砂地
光源はどこにあるのか判らない、異常な空間だった
凡そ、真っ当な精神をしていたら、混乱をきたす事間違いなしだろう
だが、幸か不幸か、私達は既に、異世界に呼び出されるという異常事態を経験している
この程度では、最早ささやかな関心程度しか抱けない
実際に百合も
「これってどうなってるのかな~」
等と、能天気なセリフを吐いていた
いい加減、ガツンと叱った方がいいだろうか
でも、時間に余裕がある訳では無いから
「……戦った跡があるわ……」
そう、この空間に入り込んですぐに、砂地が荒れた痕跡を発見したのだ
多数の足跡、深く抉れたものから、浅く踏み均されたもの
何かを叩きつけた跡もある
恐らくは、相手を投げて叩き付けたのだろう
「この足跡って………」
私の推量に、百合が答えを出す
「ゴブリンじゃない?ちっちゃい奴」
「ちっちゃい奴じゃなくて、幼生体ね」
答えが合っていても、容赦なく間違いは指摘する
誰かがやらなければいけないのなら、私がするしかないじゃない
「あれが妖精って見た目?」
また、解り難い事を……
「その妖精じゃないわよ。幼生、幼い頃って事」
「なんで普通に言わないのかなぁ?」
指摘すると、意外とグサッとくる愚痴が返ってきた
確かにその通りなんだけど
ちっちゃいゴブリンって、なんだか締まらないじゃない
「そんな事はどうでもいいでしょ?今は先に進みましょう」
大人な対応で、グレーに躱す
所謂、問題先送りだ
あまり褒められたことではないけど、そこまでムキになって訂正しなければならない事柄でもない
そう、先を促す私の考えは、別に間違いでは無い
と、誰に対する言い訳か判らない言い訳を済ませ、連れ立って先へ進む
道中、魔物が出現するが、流石に初心者向けの迷宮だけあって、とても容易く殲滅出来た
「まあ、冷静に考えれば当然よね」
一人呟く私に、百合が反応する
「何が?」
「ここの敵から、妙に手応えを感じられない事よ」
そもそも、ここに挑むのは子供なのだと、その事を失念していた
同じ身体能力値でも、青年期の私達と幼年期の子供たちでは、それを扱う技術や精神面が、明らかに違うという事
少し考えれば解った筈なのに
不必要に気負っていた自分を少し恥じる
「気にしても仕方ないわね、先を急ぎましょう」
私達にとっては、取るに足らない敵でも、舞島くんにとっては違うだろう
それは、ここまで見た戦闘の跡を見れば解る
明らかに苦戦していた
流れた血の痕が残っている場所もあった
大した量では無かったが、魔物のものでは無いのは確かだった
魔物の居た痕跡は、今の段階までで、その一切が消え去ってたからだ
当然、血痕も残らなかった
だから、それでも残留する血痕があれば、それは人が流した血という事になる
外で聞いた話だが、今ここに入っているのは私達の他には、先に入った一人だけ
つまり、残る血痕は、間違いなく舞島くんのもの、という事になる
その事実に、少し百合も焦りを感じた様子で、進む歩に勢いが生まれる
その後も複数の戦闘の痕跡を見つけた
四足歩行の魔物と思われる足跡と、それらを引き倒した痕、吹き飛ばした痕
恐らく、コボルトの幼生体だろう
聞いた話では、ここには出るらしいから
そう考えていた時に、コボルト幼生体が現れたりしたのだが、取るに足らない相手だった
元の世界なら、小さな野犬だって相当な脅威に感じるだろうに
「それだけ、この世界に染まってきたって事ね……」
何だか、自分がとても遠いところに来てしまった様に感じられて、不意に虚脱感に襲われる
実際、遠いじゃ済まないところまで来ているのだが、どうにも心情は追い付いていなかった様だ
「ダメね。しっかりしないと」
今は、そんな感傷に浸ってはいられない
先に見える戦闘跡
遠目に見るだけで解る
あれは、かなり新しい痕跡だと
今しがたまでそこで戦闘があったのは間違いない
「百合」
「うん、近いね」
こういうところは、阿吽の呼吸で意思疎通出来る
お互いに目指すは一つ
舞島くんの救援
「……?あれは何?」
意気を高めていると、百合が上げた疑問の声で冷静さを取り戻す
何事かと、百合が見ている方向を見る
戦闘跡の方向性から、そちらは舞島くんが向かった方向と推測された
「あれは……」
その方向を注視すると、不思議な点が目に入る
見渡す景色は、砂の黄土色、そして岩壁の灰色、その二色だけ
謎の光源から降り注ぐ光も、強い光なのか真っ白だ
宙に描かれる輻射光の光条の白以外は、完全に黄土色と灰色の二色しか存在しない
にも関わらず、視線の先には橙色の明かりが煌々と周囲に広がっている
そう、丁度篝火の明かりの様に
「…!百合!!あそこに居る!!」
あそこに、舞島くんが居る
それも、魔法を用いる敵に遭遇している
アイギナ達に聞いた話では、舞島くんには魔法の適性もなかったらしい
あそこでは、舞島くんが一方的に嬲られている可能性があるという事だ
「急ごう!!」
百合の力強い号令に従い、全力で駆け出す
死なせはしない、必ず助け出す
(私が救われた様に!貴方を助けて見せる!!)
お待たせした方、お待たせしまして申し訳ない
初めての方、ここから入ったなら今すぐ第一話へGO!
さて、何とか未更新表示出る前に更新出来ました
前書きにも書いた様に、この3倍の文字数がありましたが、不必要、くどいと感じた部分は、言い換えや削除する事で、1/3まで減らす事に成功しました
本当なら、この後に救援に入るのですが、今回、理視点だったのを訂正して美樹視点に変更した為、救援は次回に持ち越しです
はい、その変更があったから、これだけ更新が延びました
本当なら、ドラクエ11の発売日には上げられたのに……
でも、我ながらいい感じに仕上げられたと思います
理視点の状態だと、百合ちゃん達がどうしてたのか分かりませんからね
さて、次回は投稿が早く出来るといいな(願望)
頑張ります




