第三十五話
2017/07/05 三十四話を分割し、三十五話にしました
ついでに、忘れてた伏線も今話に入れてます
席に戻った俺達を、周囲が凝視しているのが感じ取れる
だが、敢えて気付かないふりを決め込む
目の前の職員さんは本当に気づいていないみたいだが……それも、今はどうでもいい
「では、こちらの銀板に手を置いてください」
そう言って職員さんが示したのは、丁度手を置けるくらいの大きさの銀色の板だった
但し、その大きさは子供向け、という注釈が付くが
「これに……ですか?」
戸惑いを口に出してしまうのも、これは無理からぬ事だろう
手を置ける…子供の手を
残念ながら、俺は子供ではなく大人でもないという微妙なお年頃
そんな俺の手は、家族から大きな手と評されるくらいには大きな手をしている
はっきり言って、眼前の銀板には、良くて第一関節までが乗るくらいだろう
それでちゃんと機能するのだろうか、と不安に思うのも当然ではないか
「申し訳ありません……ここに来るのは子供とその付き添いだけでしたので」
だから、大人が使う物は基本的に置いていないのだと、職員さんは言外に告げる
確かに辺りを見回してみれば、明らかに大人が座るには無理がありますよと言わんばかりに、その小ささを主張する椅子が在る
机も、地べたに座らないと使えないんじゃと思える様な、低くて丸っこい机が、強く存在感を放っていた
この銀板もそうだ
よくよく観察すれば、端が丸くなっており、子供が誤って怪我をしてしまわない様な工夫が凝らされている
更には、小さな手形が表面に刻み込まれているのが分かる……もっと早く気付けよ、と自分にツッコミを入れてしまうくらい目立っていたが、そういうものだと受け流してしまっていたのだ
「これでも問題なく機能しますので、ご心配なく」
こちらの懸念もしっかりと解消してくれたので、最後の疑問を解消するべく質問を重ねる
「これは、一体何のための道具なのですか?」
ここまで結構丁寧に対応してくれていたので、そんな根本的な質問をしなければならない事に違和感すら覚えるが、もしかしたらこの世界の人間には常識的な道具なのかもしれない
だから、つい説明を省いてしまったのだとしても、それは責められないのだが、こちらとしてはそんな常識は知る筈もない事なので、非常識と誹られようが訊くしかないのだ
聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥とも言うしな
ここは、偉大な先人の格言に従うのが良策だろう
「……そんな事も知らないのか……」
周囲でそう呟く声が聞こえてくる
やはり、この銀板は常識的な道具の様だ
とは言っても知らないものは知らないのだから、気にしても仕方ないだろう
「……では、ご説明します」
若干の間があったのは、予想外の反応が返ってきたからだろう
気にしていない事を態度で示し、先を促す
「こちらはマイシマ サトルさんの魔力を採取し、記録するための道具です」
成程、よく分からないが指紋採取みたいな感じかな?
個人識別に使うのかもな、さっきも管理がどうとか言っていたし
続きを聞けば解るか…
「何の為にするのかというと、先程説明しました収集魔法道具の使用、管理に大きく関わってくる為です」
これについては、事前に調べて知っている
収集魔法道具とは、魔物を倒した際にドロップする素材を、文字通り収集し溜めこむ魔法の道具だ
腕輪の形をしていて、見たまんま、手首にはめて使用する
これの便利な所は、一定範囲のドロップ品を自動で吸引収集してくれるという点だ
容量も膨大で、丸一年迷宮に潜り続けてもその容量が埋まる事は無いらしい
もっとも、そんなに潜り続けるのは不可能なので、事実上は無限の容量だという事だ
(ロッ〇マンD〇SHのバキューム〇ームみたいだな……)
何を隠そう、俺はこういう補助ツールの類がとても好きだ
わざわざ取りに動かなくても、ボタン一つで全回収出来るなんて、なんて素敵なんだろうと思う
繰り返し同じゲームをする際には、そうした横着が意外と精神に優しかったりするのだ
話が逸れたな、職員さんの話に集中しよう
「収集魔法道具は、不正使用を防ぐために個人毎に認証した専用の物を使用していただく規則となっています」
これも調べたのだが、遥かな昔に、他人の収集魔法道具(中身入り)を取り上げて、その成果を自分の懐に入れるという不正が行われた事案があったらしい
らしいというのは、それこそ組合成立以前、数千年は前の出来事だから、最早事態を正確に知る術が無い為だ
(そんなに前から迷宮入って稼いでいた事に驚くべきか、それだけ時間が経っても変わらない生活様式に驚くべきか……普通、自分たちで作り出そうっていう発想が出てきてもおかしくないだろうに)
収集魔法道具だが、これは神から授かった道具を複製したものらしい
石板と同じ様な経緯だな
そこで一つ疑問なんだが、何故かこの世界では、迷宮からの産品に経済の重きが置かれている
それ自体は別にいいのだが、例えばこんな事例がある
建材を用意するとしよう
俺達の常識では、まず森に入り木を伐り出すところから始めるだろう
或いは、土壁なら石灰や粘土を採取するところからか
これは一般的には原始的な手段と考えられる
時代が進み、文明が発達するにつれて、個人的な採取から集団的生産に移るのが普通なのだ
木であれば林業を営む者から買い付けるのが、文明的だろう
石灰なんかも、専門の業者から買い付けるのが当たり前だ
そうした分業制が文明の本筋とも言えよう
だが、この世界では初めから迷宮一本で済ませている
確かにその機構は、分業体制が構築されてはいるが、基準はあくまで迷宮にあるのだ
例として、ある迷宮では皮革の類がよく産出される
すると、その周囲では皮革産業が発達する
これも別におかしな事ではないが、それを何千年も変わることなく続けているという事が異常だと思うのだ
皮革製品を例に出したが、これが先に言った建材だったらどうだろうか
木であったり石であったりと、建材は様々あるが、それらは迷宮という特殊環境に頼らなくても、自然に産出される代物だ
なのにどうしてか、そうした文明の発展は一切見られないのが、この世界の異常性だ
もっとも、材料は産出されるので、技術自体は相応に発達している様だが……細かくは流石に調べ切れていないし、その必要も暇も無かった
また話が逸れてしまった
兎に角、不正使用を防ぐ為に個人認証をする
その為に魔力を採取して記録する、と
「魔力は個人で性質が異なります。それを利用した認証により、これよりお渡しする魔法道具は貴方以外では収集できなくなります。また、魔力性質をこちらで記録、管理して、当該魔法道具から取り出した品の所有者を明確にし、買い取り金の受け渡しを円滑にします」
つまり、銀行口座みたいなものだろう
給料が口座に振り込まれるので、それを引き出すためのキャッシュカードを今から作りますよって事だ
さっき言ったが、指紋認証みたいなものだ
今は静脈認証なんだったか
俺は暗証番号だけだけどな
「では、ご理解いただけましたら、こちらの銀板に手を置いてください、左右どちらでも構いませんよ」
話は理解したし、納得もした
したのだが、どうしても気になる事があるのだ……
(真面目に分かりやすく説明してくれてるところ、大変申し訳ないけど、そのコミカルな格好がどうしても気になって仕方ない…)
話は変わるが、俺は基本的に話をする時は相手の目をしっかりと見て話をする
そういうふうに教育されてきたからだ
だが、話をしていると、相手や自分が何かしらのものを指し示して説明したりと、話題に人や物が上ってくる事がある
その時は、そちらに目線を向ける事になるのだが、先の、相手の目を見て、を心がけている俺は、ちゃんと目線を相手の目に戻す訳だ
さて、ではこの場合に当てはめてみよう
目の前にはコミカルな、遊園地なんかで見るようなコスチュームを纏った青年が居て、真面目に分かりやすい説明をしてくれている
青年は銀色の板を取り出し、使用する様にと指示してきた
ここで一度、銀板に目線が向く事になり、青年から目線が逸れる
何に使うのか、その説明を求め、青年が説明を始める
ここで目線は再び青年に向く事になるのだが、目に映るのは真面目な話にそぐわないコミカルな格好の青年だ
解るだろうか?
このギャップが生み出す謎の雰囲気が
そして、一度視線を逸らしてから、戻した時に再びそのギャップを味わうこの感覚
(控えめに言っても、かなり笑えてくる)
正に、笑う可しと書いて可笑しい、という状況だ
だが、流石に笑っていい場面とは思っていない
可笑しいとは言っても、その衝動を必死に押し殺す、等と言う程では無いのだ
という訳で、一頻り説明に没頭する事で、自身の内の衝動を解消し満足したので、職員さんの勧めに従い銀板に手を置く
どうでもいい事だが、銀板は俺の正面、やや左に逸れた位置に置かれたので、置いた手は左手だ
俺は右利きだし、非常時に右手が自由に使えるのだ丁度いいとも言える
(まあ、何も起きないだろうけどな……)
実際に何事も起きる事無く、魔力の記録とやらは恙無く終えた様である
(ステータス確認の時みたいに、ピカッと光ったりするかと思ったけど、ホント何にも起きなかったな)
下らない事に思考を飛ばしつつも、状況の推移に心を配るのを忘れない
本当ならここまで気を張る必要などないのだろうが、軽く大立ち回りしてからこっち、ずっと周囲はざわざわと騒めきが収まる気配を見せない
今も、俺の正体を探ったり、単に推測したりするだけの雑談だったりが、先程からずっと飽きる事無く続けられている
やや鬱陶しくもあるが、こればかりは仕方ないだろうと、軽い警戒状態を維持するだけで留まる
俺が同じ立場だったら、やはり気にするだろうと思うからだ
「魔力の採取と記録が完了しました。こちらがマイシマ サトル様専用の収集魔法道具です」
そう言って職員さんが机の上に置いたのは、特に変わり映えしない鉄色のシンプルな腕輪だ
装飾も何もない、何か意味深な宝石とかも取り付けられていない
正直、拍子抜けな感は否めないが、気にしても仕方ないとスルーして腕にはめ
「お待ちください」
……ようとして、職員さんに止められた
何か間違えたかと職員さんに向き直るが、どうやらそうでは無いらしく
「腕輪ですが、こちらは利き腕に着けていただくのが一般的です」
とだけ言われた
一般的って、ただの慣習か?という疑念が顔に出ていたのか、こう言葉を続けられた
「収集魔法道具の起動方法は、本人の魔力を少量通す事です。そして、この魔力を通すのは利き腕の方がやり易いのです」
流石にこの道のプロは、話が簡潔で分かりやすく説得力に満ちている
俺の利き腕は右だが、今俺は、正しく左に腕輪を装着しようとしていた
これは単純な理由で、腕時計を着ける感覚で腕輪を着けようとしただけだ
だが、これが使いやすい方法に逆行していたので、注意したと
(何か、少し違和感があるが、まあすぐに慣れるだろう)
腕輪なんかしたこと無いけど、これもまた避けられない事と受け入れる
実際すぐに慣れたので、問題は無かった
「国王陛下の印章をお持ちである以上、マイシマ サトル様の進入を拒む事は我々には出来ません」
どうやら手続きは終了の様で、何やら話が終わりそうな感じになってきた
最後に注意があるみたいなので、粛々と傾聴する
「ですが、マイシマ サトル様は、先程確認した様にレベルが基準を満たしていません。それに伴ってステータスも迷宮進入の安全基準に達していない状態です」
それは言うまでもないのでしょうが、と続く言葉を重く受け止める
国王の認可を受けてここに居る以上は、そんな説明は既にされているのだろう、という意味と、でも結局往くのだろう?という二つの意味が込められている言葉だ
何故か、この職員さんは俺に対して妙に理解力を発揮している気がする
(……単に俺が分かりやすいって事だったり……)
等と、自身を見つめ直す必要を感じながら、話の続きを拝聴する
「僭越ながら申し上げますが、これほどの異例を積み重ねる以上、相応の事情があるのでしょう。ですので、私から言える事は一つです」
「生きて帰ってきてください。恥ずかしいお話ですが、私は組合に勤め始めてから、探索者の死に直面した事がありません。それは、この第三公園事務局に勤める者の殆どに共通する事です」
だから、死んでくれるなと
随分と身勝手な論法に聞こえるが、不思議と嫌な感じはしない
(やはり、心配が根底にあるからだろうなぁ……)
そう、ここでも俺は大いに心配されている
多少の利害関係が有った国王達とは違う
今日初めて会い、事務的な会話をしただけの俺を、心配してくれているのだ
(有り難い話だ…)
不思議と、この世界の人に不快な思いをさせられた経験は少ない
せいぜいが、下世話な噂話と不躾な視線に晒されたくらいだ
あとは、おっさん共に揶揄われたのも、不快と言えば不快だが……
(それに関しては、何時か痛い目見せてやろう)
受けた恩義を棚に上げ、報復を誓うのもそこそこに
目の前の青年の厚意に、誠意で以て応えよう
「全て承知の上です。これを乗り越えられなければ、どの道俺は生き方を変えなければいけなくなる。それは、これまでの自分を殺す事と同じだ」
そう、変節するという事は、そういう事なのだ
それまでに時間や労力を費やしていればいるほど、その変節の衝撃は大きく、過去のみならず未来の自分すら殺してしまう事もあるだろう
それと、単純に自分自身でこの境遇に納得出来ない
俺の半生、と言っても小学6年生からだから正味1/4生か…
それだけの期間絶える事無く抱き続けた信念だ
それをいきなり現れた訳の解らない存在に弄くられた結果失うなんて、納得出来る訳が無いだろう?
だから、抗うと決めた
迷宮に入るのはその一環だ
(危険なんて恐れていたら、誰も守る事なんて出来やしないしな)
だから、この先がどれほどの死地でも恐れずに立ち向かえる
そういう訓練を積んできたのだ
(………師匠の訓練………意外な所で役立ってますよ……)
まさかこんな馬鹿げた事態になるとは、あの突拍子もない変人超人師匠でも、想像できない事だろう
さて、決意表明を改めて行った事で、意気も軒昂、今なら最善の限りを尽くせる事だろう
「では、こちらをお受け取り下さい」
俺の言葉を受けて、職員さんが銀板の中から取り出したのは、一枚の薄く小さい長方形の金属板だ
というか、そんな機能があったのか……先に言ってくれよ
「これは?」
何となく重要な品だというのは理解できる
が、全く無垢の金属板をハイと渡されても、正直反応に困ってしまう
結構真面目な雰囲気だったよね?今
「これが組合員証です。既にマイシマ サトル様の魔力情報を登録してありますので、こちらを迷宮入り口の扉に挿し込むと扉が開錠され、内部に進入する事が出来ます」
あ、これがそうなのね
というか、結局組合員証作らないといけなかったんじゃないか
無いと入れないんだから
「そうなります」
そうなります、じゃなくて………って今俺、声に出してなかったよね
そんなに分かりやすいかなぁ……要改善か?
まあ、今は脇に置いておこう
「入り口はこちらです。ご案内します」
職員さん、もう話す事なんか無いよと言わんばかりに、そそくさと建物の奥へ歩き出してしまった
呆気に取られていた俺は、慌てて荷を背負いその背を追いかける
入り口は本当にすぐの場所に在った
時間にして、30秒も経っていないだろう
「これが……迷宮の入り口」
表のコミカルさとは打って変わって、何だか厳正な空気が漂っている気さえしてくる
よく周囲を見ると、色鮮やかで彩りに溢れた空間は、無骨な岩肌を晒した自然空間に変貌していた
端的に言えば、ここは洞窟だった
とは言ってもその奥行きは浅く、洞窟と言うよりは窪みと表現するのが妥当だろう
そして、その窪みの中、足元には明らかに異質な人工物と思しき扉が埋め込まれていた
更によく観察してみると、何やら複数のスリットの様な穴が空いているのが分かる
「その挿入口に、組合員証を挿入してください」
職員さんがそう言うので、素直に従って金属板をスリットに挿し込んだ
そうして少し待つが、特に何も起こらない
(一杯食わされたか?それとも、挿入方向を間違えたか?)
もし後者なら、組合員証に何か目印付けとかないと、ややこしくて仕方ない
「しばし、そのままでお待ちください」
そう、職員さんが言わなければ、一度抜いて挿し込み直してたかもしれない
記憶媒体みたいに、読み込み途中で抜いて情報が破損とかなったら大変かもしれないから、しなくて良かった
そんな風に、適当に思考を走らせていたら、突然扉の淵が光り出した
「開きます」
どうやら、扉が開くらしい
やけに間が空いたのが気になるが、一先ずその疑問は先送りにしよう
重厚な扉らしく、開くのも勿体付ける
だが、それも束の間、扉は完全に開き切り、その奥に隠されていた地下階へ続く階段が露わになった
「………」
俺は、万感の思いが胸中を一瞬で過ぎ去るのを感じながら、暗く深い闇の中へと歩を進めた
「行きましたね……」
「行ったな……」
案内を務めた青年が、見送る背中が閉じる扉に遮られて見えなくなると同時に、そう言葉を溢した
それに呼応したのは、顔に深い皺を無数に刻んだ老年の男性だった
「所長…彼は一体何者なのでしょうか……?」
「ふむ……」
所長と呼んだ男性に疑問を、疑問ともつかない様な事を尋ねる
答えは期待していなかったのか、思案気味に言葉を濁らせた老人に対して、突っ込んで尋ねることはしなかった
「気になるか?」
「え?」
問いの答えとは違う、別の問いを投げ掛けられて戸惑う青年
老人はそんな彼の戸惑いに構う事無く話を続ける
「大人嫌いのお前が、妙に優しかったのでな?つい気になってしまったのよ」
許せ、と言わんばかりに笑い飛ばす老人に、青年は端正な顔を露骨に歪めて不快感を露わにする
どうやら、大人嫌いというのは事実の様だ
「妙な他意を感じましたが……まあいいでしょう。彼を気にしているか?ですか。ええ、気になりますよ」
不機嫌さを隠そうともしないで、青年は乱暴に答えを返す
老人は、伊達に歳は取っていないとばかりに、軽く受け流して独自に話を進めてしまう
「ところで、お主。こんな話を知っているかな?」
どうせ勝てないと分かっている青年は、諦めた様に話の続きに耳を傾ける
相槌を打たないのは、彼なりのささやかな抵抗だ
……こういうところが老人から見たら付け入りやすいの見えるのだろうが………
「最近、騎士に連れられた若者のパーティが、王都周辺の迷宮に進入しているそうじゃ。彼らは皆一様に、本来は持っていて然るべき組合員証を持っておらず、騎士の仲介で作成しているとか」
それは今まさに起こった出来事とよく似ているではないか
そう続いた老人の言葉に、青年は思わず聞き入ってしまっていた
「彼らは黒髪に黒い瞳、或いは茶色い瞳をしていたらしい」
それも今し方迷宮に入っていった彼と同じではないか
どんな符合だと、思考するも答えは出ない
「でじゃ、儂は王城内に知り合いも居ってな?」
唐突に話が飛ぶのは、この老人の得意技だ
彼なりの話術なのだろうと、青年や同僚たちも是正は最早諦めている
「その知り合いに聞いたのじゃがな?女神の使徒が城中に降臨なされたらしい」
出てきた言葉は余りに突拍子もなくて、遂にボケたかこの爺さん、等と失礼な事を考えてしまったが、そんな青年を老人も責めはすまい
老人も半信半疑といった風情だったからだ
「疑うのも解るぞ?だがの、今の話を聞いてもしかしたら、と思わずにはおれんわの」
「……」
それは理解できるが、何故今それを言い出したのか
そこに思い至らない青年を、微笑まし気に見つめ、老人は話を続ける
「あの青年。マイシマ サトルと言ったか……どう感じた?」
またも飛んだ話に、内心辟易としながらも答えを探す
「只者では無いでしょうね。状況に付いていけていなかった、咄嗟の事だったとはいえ、完全に不覚を取りましたから」
青年は自分の実力に、多大な自信を抱いていた
相応の経歴を辿ってきたつもりだし、エリート揃いの組合に勤務している事からも、自信を裏付ける実力があるのは、周知の事実だ
その自分が、ああもあっさりと抑え込まれてしまった事に、少なからぬ衝撃を覚えていたのも確かだ
そして、国王の印章を掲げた後対面した少年から感じる風格に、それも無理からぬ事かと納得した事も
その後に歪なステータス表示を見て、更なる衝撃を受けた事も
それでもなお、彼を嘲る様な感情が湧いてこなかった事も
その全てが彼の非凡さ、いや超越性と言えばいいのか
それを感じて、ついつい口幅ったい事も言ってしまった
惜しいと思ってしまったから
そこまで考えて、ああ、と理解に至る
老人は、彼がその女神の使徒だと思っているのだ
では、あれはどういうことなのか
「あの妙なステータス、どう思います?」
石板のステータス表示は今もまだ消えていない
操作しなければ消えないのだから当然だろう
今は周囲を同僚たちが取り囲んで、やいのやいのしているが、後でしっかりと消しておかないと
そう思い、表示に目を遣る
「……初めて見るのぉ…あの様なおかしなステータスは……」
色々省略されていたが、言いたいことは伝わってきた
あり得ない低成長率、馬鹿げた必要経験値量、そして平均を下回る低ステータス……一部を除いて
遠目に見える石板には、こう表示されていた
舞島 理 男 16歳
Lv1/100
次レベルまで 4999994
成長率 1.05
生命力 2625
魔力 1312
攻撃力 100
魔法力 100
対物力 100
抗魔力 100
機動力 100
感覚力 100
思考力 1400
運勢力 100
アビリティ ―
これほどに異様なステータスは見たことが無い
他のステータスを見れば劣等と言って差し支えない
これを親が見れば、辺境なんかだったら口減らしされる可能性すら出てくるだろう
だが一点、思考力に関しては異常と言う他無い
そもそもが、低い値の多いステータスなのだが、高い奴は生まれた時から高いステータスでもある
だからって、こんな異常な数字は有り得ないだろうし、聞いたためしもない
「本当に…どうなっているのか……」
自分に圧倒的に劣る低ステータスでありながら競り勝つ能力
年下とは思えない偉大な存在感
大人が嫌いな自分が、ついつい気に掛けてしまう不思議な人柄
自嘲気味に呟いた青年を、老人は微笑まし気に見つめていた
理くんの強化フラグが立ちました
何故に強化されているのか
ちゃんとした理由付けをしてあります
皆さま、良ければご想像ください
今回はこの辺で
次話を同時投稿していますので




