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ゲーマーが往く、異世界チート発見!  作者: ヤタガミ
第二部 喪失と挫折
34/130

第三十三話

長いです

どれ位かというと、15000字近くあります


そこは極めて平凡な部屋だった

城は石造りだ

遵って、屋内の壁も当然のこと、石壁になっている

貴人の部屋などは、その無骨な石壁を隠す様に飾り布等で覆われているものなのですが、この部屋にはそういった飾り立ては一切ありません

もしかしたら、冷遇されているのか

そんな風に思い、尋ねてみると


「ゴテゴテして鬱陶しくって。お世話してくれる人にお願いして、取ってもらっちゃった」


などと、照れくさそうに答えたのは、さっきお友達になったユリ様……ユリだった

私などからすれば、生まれた時から在る物なので、全く気にならないのだけど、そうでないユリは気になる様で、使用人に命じて取り外させたらしい

聞くところによると、大抵の異世界人方は、部屋の飾り付けを好まず、慎ましやかに生活しているそうな

ミキの部屋も、石壁が剥き出しで、家具なども最低限の物しか置いていないとか


「それでは不便では無いの?もし遠慮しているのなら、そんなのは無用よ?」


第一に考えたのが、彼女らが遠慮しているのだ、という事だった

だが、どうやら的外れだった様で、彼女達はこう答えた


「不便なんてとんでもない!何かにつけてお世話してくれるから、逆に戸惑ってるくらいだよ」


「そうね。流石に、下着を見ず知らずの人に洗ってもらうのは、抵抗あるわ」


そういうものだろうか

先程も言ったが、それが当たり前の環境で育つと、全く疑念を抱くことも、抵抗を感じることも無い

やはり、彼らは私達とは違う人なのだと、実感する

教養も有って、立ち居振る舞いも洗練されているのに、まるで一般庶民の様な価値観を持っている

その事がどこか面白く、彼女らに対する好感情はより強くなっていった


「ねぇ、この部屋に、サトルを連れ込んだりしたの?」


いい気分に浸っていたところに、レイリアからとんでもない質問が投げ掛けられた

私は勿論だが、ユリもその質問に、顔を真っ赤に染め上げて絶句してしまっていた

余裕そうなミキが少し恨めしい


「そそそそ、そんな訳無いじゃない!何をををををいて言ってるのかな!?レイリアは!!!?」


「そ、そそそ、そうよ!そんな、とととのとの殿方を部屋につ、つ、連れ込むだなんて!!!皇族にあるまじき、ふしだらな発言!恥を知りなさい!!」


我ながら、凄まじい狼狽えっぷり

これは、後で思い返して身悶えすること間違いなしです、ああ、恥ずかしい


そんな私達の狼狽ぶりを、何やら微笑ましいものでも見るような表情で見るミキ

そして、何がそんなに楽しいのか、口角を大きく上げて、ニヤニヤしているレイリア

取りあえず、元凶のレイリアは、後でキツく反省を促そうと固く誓う


「でもねぇ。実際、それくらい出来ない様で、あの男は落とせないんじゃないかしら。わらわから見て、相当に直情的というか、自分が決めた事を曲げないというか。人の話を聞かないところがあるわよ」


「そうね。百合も、結構分かり易い態度なのに、全く気付いた様子がないものね」


どうやら、ユリもマイシマさんの事が……いやいやいや!私はそんな事ないから!気のせいだから!


「………気のせい気のせい気のせい気のせい気のせい気のせい気のせい気のせい気のせい気のせい気のせい気のせい気のせい気のせい気のせい気のせい………」


「どうしたの?急に、何だかブツブツ言い出したけど……」


「ミキ、これは気にしないに限るわよ。この娘、たまにこうしてブツブツと、何やら呟いてる事があるから。特に害も無いから、放っときましょ」


「こら!戻ってきなさい!」


突然、頭を叩かれて、没入していた意識を引き戻される

たまに、こうして自分に色々と言い聞かせているんだけど、ついつい周囲が見えなくなってしまう

私の悪い癖、治さないと


「百合、アンタねぇ…いくら友人でも、相手は王女様よ?いきなり頭を叩くなんて、流石にどうかと思うわね」


どうやら、私の頭を叩いたのはユリの様だ

結構痛かったが、それと同時に、その気安さが心地良かった


「えへへ……」


顔がついついニヤケてしまうが、それも仕方ないことと諦めよう

幸いにも、ここはユリの私室、気兼ねする必要は無い


「……レイリア。アイギナが急に笑い出したのだけど……この娘、いつもこうなの?」


「……そんな訳無いでしょう?こう見えても、大国の第一王女なのよ、普段はもっとしっかりシャキッとしてるわよ」


「変なところ叩いちゃったかな〜?おーい、戻ってこーい」


気付かぬうちに、ユリが目の前に居て、肩を掴んで私を揺さぶっている

流石に、ちょっと気持ち悪いから、止めてくれないかなぁ?

最早定かでない景色を眺めながら、そんな事を悠長に考えていた



「ふぅ……ユリ、もう少し考えて行動して?流石に気持ち悪くなっちゃったわ……」


あれから少しの間、若干現実逃避していたのが災いしたのか、ユリに揺さぶられ続け、視界はグラグラ、意識は朦朧としていた

若干だが、顔色も悪くなっているのではなかろうか、胸やけもする

有り体に言って、吐きそう、吐かないけど


「……うぅ………ご、ごめんなさい……」


でも、こんなに落ち込んで、謝る様を見せられると、流石にこれ以上責めることは出来ない

空気が悪くなってしまったので、話題転換を図ろう

……レイリアとミキは何だかニヤニヤしてるけど、あの二人は放置しよう

ミキは、何だかレイリアと似た雰囲気を感じるし、少なくとも私的な話題に於いては、彼女に勝つことは出来ないと思う


「と、ところで!二人は、元の世界でどんな暮らしをしていたのかしら!?良ければ、話して聴かせてくれると嬉しいわ!」


明らかな話題の転換に、レイリアが一層ニヤついて、ちょっとイラッとしたけど、目論み自体は成功したみたい

ユリは顔を上げて、何から話そうか考えているようだ


「そんな大した出来事はないわよ?ご期待には添えないと思うけど、それでもいい?」


ミキに至っては、私の企みを理解して、敢えて乗ってくれた様にさえ思える

そんな気遣いに乗っからないで、この大国の王女は務まりませんってものだ


「ええ、勿論よ。それに、違う世界の出来事なんて、ただそれだけで刺激的だと思わない?」


レイリアに、何も知らない人が見れば女神の様に感じる笑みだ、と評された会心の笑みでミキに続きを促す

友人同士で、こういう作り笑いの類は使いたくないが、今はある種の駆け引きをしているのだ

こちらの本気度合いを見せねば、相手にも失礼というものだろう……その内容は、友人が落ち込んでいるから、取りあえず話を逸らそう、という、なんとも微笑ましいものだが


「ハイハイハイ!!私!私が話す!」


だが、そんな思惑は知らないとばかりに、何やら考えていたユリが、ビシッと音が聞こえてきそうなくらい、元気よく手を挙げて、話の流れに乗ってきた

これには、少し面食らってしまったが、真面目に考えていたのが馬鹿らしくなって、レイリアとミキと目を合わせて、ついつい笑ってしまった


「?何?何笑ってるの?」


一人、水面下の事情を理解していない様子のユリが、私達が何故急に笑い出したか理解出来ず呆けている様が、とても可笑しかった

そんな遣り取りが、とても楽しかった


「?まあいいわ。でね、私の日常の話と言うと、理との話が殆どになるんだけど……」


……マイシマさんとのお話に、少し面白くない気持ちになったのは内緒にしておこうと思う



「ユリの話がサトル一色だったのは、何だか違和感が無かったのだけど、ミキの話にも、随分とサトルは出てくるのね?わらわ、それが何だか意外だったわ」


一通り、ユリとミキの昔語りを聞き終えたあと、突然にレイリアがその様な事を溢した

確かに、言われてみればそうだ

ユリの、半ば惚気話と化した昔語りに圧倒されて気付かなかったが、ミキが話にも、妙にマイシマさんが登場していた

ただ、それはユリの添え物的な感じで、如何にユリとマイシマさんが一緒に居たかを感じさせるだけだったが、確かに妙なのだ

そもそも、ユリに話の比重を置いていれば、マイシマさんの事がこれほど印象に残る筈もない

つまり、少なくともミキの中では、ユリとマイシマさんが同じ重さで存在しているという事になるのではないか

そう、少なくとも、だ

私の直感はそれを否定している、私にとっては悪い意味で

いや、悪くはない、悪くはないのだが……

これ以上は、一人ではどうにも答えが出せそうにない


(ちょっと、こっち来て…)


私は、小声でレイリアを呼び付ける

寄ってきたレイリアに顔を寄せて、内緒話をする体勢になった


(ねえ、ミキの話、レイリアはどう思った?)


流石に、直截に尋ねるのは気が引けたので、少し迂遠に問うてみる


(そうね……やっぱり、貴女のライバルなんじゃないかしら?わらわは、そう感じたわね)


だが、レイリアから返ってきたのは、そんな私の意思など何のそのと言わんばかりの、直截な返答だった


(誰もそんな事訊いてないでしょ!?真面目に答えてよ!?)


ここで大声を上げなかった事を、私は称賛したい

それほどに、この時の私はひどく動揺していた


(結局はそういう事が訊きたかったんでしょ?なら、面倒な遠回りしないで、もっとはっきり尋ねなさいよ)


湿った半目で睨みつけてくるレイリアに、図星を突かれた私は反論できない

というか、その余地すらないだろう


(で、でも、私は別にマイシマさんの事)(ああ、ハイハイ。そういうの、もういいから)


私の言い訳をスパッと切って捨てるレイリア

切って捨てられた私は涙目だ


「ねえ、ユリ。貴女って、やっぱりサトルの事が好きなの?」


そんな涙目の私を捨て置いて、レイリアはユリにそんな事を尋ねる

急に何を言い出すのかと、呆気に取られる私の耳に、直後、衝撃的な言葉が飛び込んできた


「勿論!私にとって理は無くてはならない存在だよ。この感情を何と呼ぶのかと訊かれれば、私は恋だと答えるわ!」


そう、自信満々に答えたユリに、少なくない衝撃を受けた

それは、自分の感情を見ないようにしていた私への対比だったから、ではない

恐らく、レイリアはそういう意図で、この様に尋ねたのだろうが、私の胸の内で芽吹いたのは、全く別の感情だった


確かに驚きはしたし、自身の感情を強く自覚させられもした

だが、それよりも衝撃的だったのは、以前マイシマさんが私に向けていた眼差しだった

彼は私に縋っていた、様に思う

それが恋心でないのは、彼を知れば知るほどに理解出来た

マイシマさんは、自身を大事に思ってくれている女性が居るのに、軽々しく一目ぼれなどする様な、軽佻浮薄な人ではない

彼に関わって、強く感じたことがある

彼の行動には常に一貫性が在り、その芯には強固な信念が存在している、という事だ

それが何かは判らない

だが、それは目の前の彼女、マイシマ ユリと無関係ではないだろう、という事だけは理解出来た


そう言えば、彼はこんな事を言っていた



「俺は守られる事を望んでいない」「守るべき者を守る」



彼が守りたい者とは?

そう考えた時、真っ先に浮かぶのは、やはりユリだろう

彼はユリを守る為に、文字通り命懸けの死地へ赴こうとしているのだ

それはいい

彼が誰を思おうと、私が思い悩む理由にはならないのだから

問題はそこではない

そんなユリを差し置いて、私に縋るような目を向けたのだ、という事が問題なのだ


そこまで考えて、これ以上考えても答えが得られない事を悟る

あの眼差しが、文字通り縋りついたのだとしても、そこに込められた感情の質までは推し量る事は出来ない

要は、彼が誰を想っているのかが、手持ちの情報からは全く判断できないのだ


あの時の眼差しが、恋心で無いのは判っている

だが、それが後々にそうならないとは言い切れないではないか

ただの願望かもしれないが、否定できる材料が、私には無かった


自身に走った衝撃が、全く無意味だと悟れた私は、何とか精神の均衡を取り戻し


「ねえ、ユリ」


折角出来た友人に、とても辛い告白をする事を決心した


「私もね、マイシマさんの事、好きなの」


その時のユリの表情を、私は一生忘れないだろう

……思っていたのとは、大分違ったが……


「え?ああ、やっぱりそうなんだね」


その表情を、何と言い表せばいいのか

呆ける、とは違う

衝撃を受けた、とも違う

驚愕した、でもない

敢えて、言い表すなら、呆れた、が一番近いだろうか


そう、呆れた、だ

言葉にすると、何を言い出すのか、とか、知ってましたが?、と言った感じだ

因みに、レイリアは、やっと自覚したか、って顔をしていた

ミキは、何やら無表情だった


「あのね、もう、正直白状するけど、私がアイギナ達に、ここまでの道案内を頼んだのって、あの場所、もっと言えば、理から引き離す為だったんだよ」


続く言葉、というか告白には、流石に驚きが隠せなかった

それってつまり、あの段階で、あの初対面の段階で、私の気持ちを見抜かれていたって事?

顔が熱くなるのが分かった、きっと真っ赤になっているのだろう


「あはっ、その様子だと、自分の気持ちには気付いてなかったって感じだね。気付かせたのは、レイリアかな?」


そんな私の様子を、微笑まし気に見つめたユリは、その言葉の先をレイリアに向けた

怒っている訳では無さそうだが、やはり気に食わないのだろう、ライバルに自覚を促されたのだ、それも自分を出しに使って

私なら、ちょっとお話するレベルだと思う


「そうよ。だって、アイギナったら、こんなに分かりやすいのに、頑なに認めようとしないのだもの」


イライラしちゃって、と続く言葉に、流石に申し訳なさが溢れてきた

とても居た堪れないです、はい

こんな経験は初めてなので、どうかお目こぼし頂けませんでしょうか?


と、ふざけるのはここまでにして

話を元に戻そう


「いや、あのね。ユリみたいに、純粋な感情とはまた違うのよ?こう…少し不純と言うか、純粋に彼の人柄に惹かれた訳じゃない、と思うの」


私の感情は、少し質を異にしていると思う

恋愛経験なんて無いから、はっきりとは言えないけど、私が彼の人柄に惹き付けられた訳では無いのは確かだ

皆がどうなのかも、私には分からない

でも、親戚として、相応に濃い関係であろうユリなら、彼の為人もよく知っている事だろう

それでも、彼が好きだと言うのなら、それは彼の人柄も含めて、と考えるのが普通ではないか


それに比べれば、私の想いなんて、とも思うが、それでも、という感情もまた、確かに私の胸の内に存在した

だからこそ、私は宣言しなければならない

それだけが、遥か先を往くユリに並び立つ、唯一の手段だと信じて


「それでも、私はマイシマさんの傍に立ちたい。彼の力になりたい。彼の事を、何時だって無茶ばかりの彼を守りたいの」


自分でも分かる

今、私の顔は真っ赤っかだろう、だって顔が凄く熱いもの

久しぶりに出来た友達に、初めて出来た好きな人の事を話す

それだけでも、心には多大な負荷を掛けているのに、その友達はまさかの恋敵

よくぞ、ここまで気絶しなかった、と自分を褒めてあげたいくらいだ


と、目的完遂の為、半ば自動人形と化していた私は、こちらを微笑ましそうに見るユリとミキの姿に、我に返った

初めに感じたのは、どうしてそんな顔をしているのか?という疑問だった


「ねぇ、アイギナ?私達、きっと仲良くやれると思う」


そんな私を笑う事無く、手を取り、穏やかな表情でその様に言うのは、当たり前だがユリだ

だが、当の私は、その言葉が意味するところが理解出来なかった

普通なら、恋敵なんて、仲良くとは正反対に位置する存在だろう

男女の機微に疎い私でも、流石にそのくらいは理解できる


「それは……どういう……?」


返す言葉が、途切れ途切れになってしまったのは、そうした事情があったからだ

それも無理からぬ事だろうと、自分に言い訳をする


「だって、アイギナは、本当の理に気付いてくれたもの」


「本当の、マイシマさん……?」


「そう、今言ってたでしょ?理は無茶ばかりするって。ホントにそうなのよ。理ってば、何時も何時でも無茶ばかり。少しは周りで心配している人達の事も考えて欲しいわよ」


それを聞いて、私の胸中に去来したのは、やはりそうなのか、という納得だった


私が、彼に抱いている印象は、対照的な二つだ

慎重で、それでいて大胆

必要なら死地にも平気で足を踏み入れる

しかし、準備は怠らないし、何よりそうすると決めるまでに、神経質なほど慎重に判断している

この世界に来たばかりの頃、私に進んで話し掛けてきたのも、その慎重さと大胆さの表れだろう

謁見時の振る舞いも、その性質から発露していると思う


彼が、何故そこまで慎重なのか、そしてあれほど大胆なのか

それはまだ判らない

目の前の女性は知っているのかと、そう思うと、僅かな嫉妬を感じるが、それはすぐに掻き消える

浅ましい、という思いもあったが、何より、目の前の女性と対等で在りたいという思いが、強く私を突き動かしたからだ


「……あの方は、一体何を考えておられるのでしょうか……」


それでも口を突いて出た言葉は、それほどに彼の事を考えているのだと、知りたいのだと、そう思えて、恥ずかしくも誇らしさが感じられた


「理が考えている事は、今も昔も変わらないよ」


そんな私の疑問に、ユリは、明確な答えを返してはくれなかった

それは、突き放している、というよりも、もう知っているんじゃないか、と暗に再考を促されている様に思えた


(今も変わらない……)


という事は、ユリが知る彼と私が知る彼は、同じだと

ユリは、そう言っているのだ

つまり、ユリと同程度に彼を知る材料は十分揃っているという事だろう

そう言われて、ふと閃くものがあった



「……何がアンタにそこまでさせるんだ?」



以前、彼はそう訊いてきた

私はその時、何も答えなかった

何故なら、自身の決意など、他人様にわざわざ話して聞かせる様なものではないと思うから

それを寂しいと思った事は無い

使命感が満ち満ちていた、というのもあるが、何より私は独りではなかったから

私には掛け替えの無い家族がいた

出来損ないの私を受け入れてくれた家族が


彼が私に何かを求めているのは解る

それが何であるかまでは解らないが、確かに何かを求められている

そうして考えている内に、一つの答えを辿り着いた

彼と私の望み、或いは目指すべき到達点は同じである、と


彼も私も、守りたいのだ

私は家族を、そして彼はユリを

そう単純ではないかもしれない、と考えるのは浅ましい願望だろうか

もし彼の想いがそうであるなら、私は……


「アイギナ?どうしたの?」


思考の空隙に滑り込んできた声にハッとして、俯かせていた顔を上げる

暗い淵に沈みそうになっていた私の視界に、ユリの心配そうな表情が映り込んできた


「何やら物憂げな表情ね。何か心配事でも思い出したのかしら?」


そう問うミキの声に、思い至ったという方が正しいわ、と口には出さずに答える

当然、聞こえる訳が無いので、誤魔化しておくことにする

まさか、恋心を自覚した途端に失恋か、なんて考えていたとは言えまい

確証も無い事だし、誤魔化す事に罪悪感は無い


「ええ、マイシマさんが迷宮に向かうと言って聞かないの。あまり考えない様にしていたのだけど、ユリの言葉を聞いたら思い出しちゃって…」


ダシに使って申し訳ない、とは思わなかった

なにせ、正に彼の事で思い悩んでいたのだから

さっきまで、思い悩む必要は無い、とか考えていた筈なのだが、早々にひっくり返ってしまった

どういうことなのだ、まったく…


「え!?迷宮に、理が?」


ユリが驚きに声を上げる


「迷宮って、実入りが良い代わりに、かなり危険だって聞いたんだけど…大丈夫なの?」


ミキも、らしからぬ様子で、焦りからか声が上擦っている


「大丈夫な訳無いわ。入る度に難易度が上がっていくのよ?命が幾つ有っても足りないわ」


レイリアが、冷静に答えを返す……若干的外れではあったが


何だが、思っていた以上の反響があったが、話は上手く逸らせた様でほっとした

深刻な話をしている周りを余所に、内心で密かな達成感に浸る


「そんな無謀、誰も止められなかったの!……って、止められないよね………」


今までの朗らかな印象とは全く真逆の、凄まじい剣幕で怒鳴ったかと思えば、急に虚ろな眼になって自嘲気味にため息を吐くユリ

少し情緒不安定な、その様子に面食らったが、辛うじて面には出さずに済んだはず


「それは一先ず置いておきましょう」


ミキがそんなユリに慮ってか、話題の転換を図る

レイリアもそれに便乗する事にした様で


「迷宮の事を知っているという事は、二人はそろそろ迷宮に挑む予定なのかしら?」


その様な質問を投げ掛けて、見事に話題を移した

個人的には、相手が受け取り易い内容で、且つ返し易いのが高評価だ

胸中で、レイリアへ、よくやった、と賞賛の声を浴びせかける


「え、ええ。レベルも上がり難くなってきたし、もう適正レベルだから」


ユリが、らしくなくたどたどしい口調で質問に答える

すると、ミキが言葉を付け加えて、内容を補った


「イングリットが言ってたわね。今の私達なら、十分に迷宮に挑むだけの実力があるって」


イングリットとは、彼女らに付けられた騎士の事だろうか

近衛なら全員把握しているのだけど、流石にそれ以外の軍団員となると、幹部くらいしか顔と名前が一致しない

それで十分だ、とはお父様の言葉だけど、そう言うお父様は全員を把握しているのだから、私も頑張らないと


と、考えが飛んでしまったわね

いけないいけない、戻しましょう


「二人は迷宮に挑むのね。それで?もう、どこの迷宮に往くのか、決まっているのかしら?」


そう問う私の胸の内に、仄暗い嫉妬が湧き上がるのを感じた

どう足掻いても、私には辿り着けない場所

力の無い、出来損ないの私には……

無意識にその様に思い、ふと視線を感じて振り向くと、レイリアがこちらをじっと見つめていた

責められている様な、慰められている様な、そんな複雑な心中が伝わってきて、申し訳なさで少し萎縮してしまったのは、ユリとミキには内緒だ


そんな私の微妙な感情は、付き合いの短い二人には伝わらなかった様で、何の疑問も差し挟まずに私の問いに答えてくれた


「知ってるかな?王都の中にある迷宮で、何とかって公園の中に在る……」


「王都第三公園迷宮ね」


「そうそう、それそれ!その迷宮に挑むのよ」


そう言って、こちらを見るユリの顔は、何だか誇らしげというか…

本当だったら、見せつけている様なその表情に苛つくところなのだけど、ユリの人柄だろうか、不思議とすんなり受け入れられた


「そもそも、王都内にはその迷宮と、もう一つの迷宮の二箇所しかないのよ」


これでも、世界で類を見ない事例ではあるのだが

具体的に言うと、街中に迷宮が在るのは我が国の王都だけ

他は、迷宮の周囲に後から街を造った例しかない

前者が街中に迷宮が存在する、後者が迷宮の周囲に街が在る、という違いと言えば伝わるだろうか


「じゃあ、聞かなくても解るじゃないの」


と、少し呆れ口調で返したのはミキだ

確かに、その通りではあるのだが……


「確かに街中に迷宮が在るけど、街を出て少しの所にも何箇所も迷宮は在るのよ。もしかしたらそちらに向かうかもと思ったの」


そう答えて、言外に、気を悪くしたならごめんなさい、と示す

ちゃんと理由があるのよ、と言えば、そういうことだと理解してくれるだろう


「そういえば、他のクラスメイト達は迷宮に挑む為に街を出るって言ってたわね」


ユリが、何だか急に真剣な表情になる

視線は右を向き、どこを見ているのか解らない……そっちには壁だけよね?

右手が軽く握られ、口の下に添えられている……机に肘を着くのは行儀は悪いわよ?

眉も顰められている……可愛らしい眉なのに、勿体無い


と、そこまで考えて閃いた

ああ、これは考えている時の癖だ、と

恐らく、彼女は、意図的にか無意識にかは判然としないが、何やら考える時にこの仕草をするのだろう

急に何?と思っていたので、疑問が解消してスッキリした


「王都第三公園迷宮は初心者向けと言われているけど、一概にそうとは言えないのよ」


どうやら、彼女達は必要な情報を与えられていない様だ

多分、付き添いの騎士が、彼女達の戦闘を見て、こちらが向いていると考えて奨めたのだろう

こう言っては申し訳ないが、彼女達がマイシマさん程熱心に調べものをするとは思えないし、その必要性も感じなかったのだろうと思う

そう考えると、マイシマさんが如何に慎重か、そして彼女達に比べ不遇かが知れようというものだが、今はそれは置いておこう、関係のない事だから


「だから、個人の適性に合わせて、他の迷宮を奨められているんじゃないかしら?」


当たり障りのない様に説明したが、それでは納得しきれなかった様で、質問が返ってくる事になった


「適性って、迷宮はそんなに個々の違いがあるの?単に進入して、探索して、魔物と戦うだけと思っていたのだけど」


ミキがそう質問する

その認識は、ある意味で間違いではない

が、それだけで済まないのが、迷宮という場所なのだ


「それ「それで合ってるわ。でも、そこからもう一歩進んで考えてみて?」


答えようとした私を遮って、レイリアが返答する

少し面食らったものの、冷静に考えれば、迷宮未経験の私より、経験者のレイリアの方が上手く語れるだろうと考えて、引き下がる事にする


「もう一歩?」


「そう。例えば、単純に戦闘が連続する場合、狭い通路なんかは邪魔よね?勿論、襲われる側の探索者もそうだけど、襲う側の魔物にとっても、方向が限定されてしまう隘路なんかは不利なのよ」


今一つ要領を得ない説明を続けるレイリア

どうやら、自発的に答えを出させようとしているらしい

だが、レイリアは気付いているのだろうか

さっきから、ユリが何だか無表情になっている事に


(あれは多分、話に付いていけてないわね…)


考えてみて?から少しして、話が進んでいった段階で彼女は思考を放棄した様で、黙って話を聞くことに徹すると決めた様だ


(マイシマさんとは、まるで正反対ね)


かく言う私も、説明をレイリアに丸投げして、聴衆に徹しているのだから、彼女の事は強く言えないが


「つまり、魔物は通路を抜けた広い空間で出現するって事?」


「いいえ、それは違うわ。通路でも勿論出現するわよ」


「?……どういうことなのかしらね?全く理解出来ないわ……」


知らなければ、レイリアの説明では答えには辿り着けないと思う

それくらい、要領を得な説明だった


「んー?じゃあ、更にヒントを与えましょうか。ミキ、貴女はさっき、迷宮について何て話したかしら?」


「さっき?進入して、探索して、魔物と戦う?」


「そう。そして、わらわはその後に、もう一歩進んで、と言ったでしょ?」


「もう一歩…探索して、戦う……」


何気に誘導が上手い

流石に、皇族として教育を受けているだけはある、という事か

私にも、レイリアが描く道筋が見えた


「探索と戦闘、どちらかに特化したのが迷宮、という事……なのかしら?」


その通り!


「そう。迷宮は四種類に分類されるわ。純粋な探索型の迷宮」


これは、一番迷宮の印象に合致しているだろう

張り巡らされた通路を探索し、道中接敵した魔物を倒す

これが探索型迷宮


「そして二つ目。これが貴女達が挑む迷宮ね。探索行は少ないか殆どない、戦闘中心の迷宮」


この型の迷宮は、仕切りの少ない広間が階層の大半を占めるらしい

その中で、次から次に襲い掛かる魔物を狩るのだそうな

勿論、短いながらも通路が在り、そこに魔物が出現する事もある


前者では、主に罠に注意する

少ないながらも魔物が出現するので、それも倒しつつ、迷宮を進む

魔物がそれほど出ないなら、旨味が少ないのでは?と思うだろう

レベルアップを目指すなら、確かにその通りなのだが、探索型迷宮では魔物が貴金属を落とし易いという特徴がある

当然、貴金属は貨幣の素なので、そのまま金銭に替えられる

あとは、迷宮によっては周辺からの採取採掘なんかも可能だ

要は、レベルよりもお金を稼げるのが、探索型迷宮だという事


後者は、当然大量に湧く魔物との戦いが主体になる

求められるのは純粋な戦闘力

攻撃力は当然の事、判断力なども含めた、総合的な戦闘力が問われる

当たり前だが、それだけ大量の魔物に襲われる以上、経験値も膨大になる

また、魔物から採取出来る素材なども、豊富に入手可能だ


「で、三つ目。これは、探索型と戦闘型の複合型の迷宮。この手の迷宮は、一つの階層が非常に広いのが特徴よ」


とにかく広いらしい

考えれば当たり前なのだが、探索もこなし、広場での戦闘もこなし、となると必然的に先の二つより広くなるのは避けられないだろう

勿論、両方の旨味を兼ね備えているのは、言うまでもない

……その分、難易度は跳ね上がるらしいけど


「最後、四つ目。どの型にも属さない、特異型の迷宮。この型の迷宮は一箇所しか存在しないわ」


特異型迷宮

レイリアは、どの型にも属さない、と言ったけど、形式的には戦闘型迷宮と言っても差し障りは無いと思う

ただ、あまりにも度外れた難易度で、且つ、現在一階層しか確認されていない為、特異型と分類しているだけ

その確認されている階層も、大きな広間が入ってすぐに在るだけで、通路の類は一切無いというのだから、それってそもそも迷宮なのか?等と人々の口に上る事もあるくらい、そこは異質な場所なのだ


「それで、貴方達の適性や諸々の事情なんかを考慮した結果、奨められたのが件の公園迷宮って訳」


適性とは、何もレベルだけではない

戦闘スタイルやその癖から、出現する魔物との相性なども考慮される

具体的には経験が無いから解らないけど、例えば魔法が得意なら、魔法が効果的でない相手が出現する迷宮とは相性が悪いと言えるだろう

感覚が鋭く、罠の知識が豊富なのに、罠の無い迷宮に入っても活躍の場は限られる


彼女達は、公園迷宮に適性があった、という事で、彼女達以外の異世界人達が初心者向けの迷宮ではない、難易度の高い迷宮に向かわされた訳ではない


そう説明すると、ミキが、軽く安堵を感じさせる口調で理解を示した


「なるほどね。そういえば、初心者向けの迷宮が一箇所しかない筈が無いものね」


やはり、その心配をしていたか

自分達は初心者向けの迷宮に向かうのに、他の人達は、と心配したのだろう

疑り深いと感心すべきか、まだ信用を得られていないと落胆すべきか、反応に困る


「理もそこに行くのよね?」


「ええ、私はそう聞いたわ」


何時の間に、という目でレイリアが見てくるが、結構積極的に会いに行っていたのだから、それくらい知っていて当然だと思う

彼の事を心配しているのだから、尚更だろう


「何時行くのかは聞いた?」


ユリはやはりそこが気になるのだろう

もしかしたら、時期を合わせて、いざという時は助けに入る気かもしれない

確かに、そうして欲しいと思うが…


「残念だけど、そこまでは知らないのよ」


そう、何処へ行くかは聞き出したのだが、日時に関しては、一度実戦を済ませてから決める、と言っていたので、まだ聞き出せていないのだ

本当は、今日聞き出すつもりだったのだけど、途中でユリとミキに遭った事で予定が狂ってしまった


「そう……」


残念そうに眉尻が下がるユリを見ると、こちらまで何だか気持ちが落ち込んでしまう


「ねえ。話も一段落ついた事だし、ここらで切り上げない?」


「そうね。何だかんだと結構長い時間話し込んでしまったし……」


そんな落ち込んだ空気を無視して、レイリアとミキがお開きを薦めてくる

咄嗟に反対しそうになるが、確かに時間も結構経過している

これでも、一応は王女として色々と仕事がある身なので、正直予定が押している

はっきり言って忙しい

ここで話し込んでしまった分、後にくるしわ寄せを思うと、思わず顔が蒼褪めてしまいそうになる、実際にはしないけど


「確かに、話も丁度いい区切りだったし、今日はお開きにしましょうか」


今日は、ね

これ大事

また明日、が出来るかは分からないけど、折角出来た新しい友達

もっと話したい事がたくさんある、これっきりなんて絶対に嫌


「そうね。丁度お昼時でお腹も空いてきたし。ここまでにしようか」


少し意外だった

ユリは、こう言ってはなんだけど、子供っぽいところがある

短い、本当に短い付き合いだけど、その中でそう感じた

だから、お開きにしょうと言っても、聞き入れてくれるかな?と考えていたのだが

現実は、割とあっさりと受け入れてくれました

少し拍子抜けかも


「ねえ、良かったら、お昼ご飯一緒に食べない?」


ん?どっちだ?

お昼に誘うつもりだったから、あっさりと受け入れたのか?

それとも…

どちらにせよ、答えは決まっている


「ごめんなさい…この後予定が詰まってて」


多分、ご飯は執務室で摂る事になるだろう

冷静に考えたら、本当に予定がギリギリだった

軽食片手に仕事しないと間に合わないかも……

まさか、そんな忙しい食事に付き合わせるわけにもいかないだろう

だから、大変…たいっへん!心苦しくも、後ろ髪を引かれつつも、ここはお断りしよう

ああ……みんなでワイワイ昼食……


「そう……ごめんね、長々と話し込んじゃって」


そう言って、申し訳なさそうにするユリを見て、ブワっと心に沸き立つ感情があった

その感情に突き動かされて、私は声を上げる


「そんな事無い!!」


普段の私なら、絶対に上げない様な大声

それだけ、沸騰した感情が重さを持っていたのだろう

突然の大声に、面食らったユリを気遣う余裕も置き去り、言葉が続く


「私ね、今までずっと、レイリア以外の友達って居なかったの」


その感情は友情という

今まで、ただ一人にしか向けられてこなかったものだった

それが今日、とても強引に引き寄せられたのだ

いきなり抱き付かれて、友達になりたい、と


「ほら、私って王女なんて立場だから。まともに付き合ってくれる同年代の子って居なくて」


私の場合、それに拍車を掛けて、政務に早い時期から務めていたから、尚更同年代の子と関わる機会が無かった

だから、レイリアが私の友達になってくれた時まで、私が話した事のある子供は弟妹だけだ


「だからね。ユリが、友達になりたいって、言ってくれて、私嬉しかった」


そんな彼女は、私の恋敵で

そんな事すら、私は、いや私達は楽しめている

だから


「またお話しましょう?ね?」


今の気持ちそのままに、胸一杯の友情を込めて


これから、私達がどうなるか、それは分からないけど

今この時に感じている友情は本物だから

待っていてくれた方

長らくお持たせしました

最早言い訳は致しません

自らの不得手に挑んだ結果がこれだよ!

如何でしたでしょうか?

女同士の友情、とても難しいです

そこに、迷宮に関しての説明も盛り込んだので、話がしっちゃかめっちゃかになって、執筆が中々思う様に進みませんでした、っとこれは言い訳ですね

アイギナさんが百合ちゃんへの確かな友情を抱いて、今回は切り、としました

次回は、理くんに視点が戻り、いよいよ迷宮へ進入します

さて、どんな挫折が彼を待っているのか

乞うご期待!


あ、色々考えた結果、次回投稿の予告は止めにします

以降、投稿は不定期となります事を、ここで断っておきます

悪しからず、御承知下さい





これくらいの長さで、ひと月に2.3話とかの方が良いかなぁ……

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